2008年12月31日水曜日

営業力の科学:第二章 営業力を強化するための3つの対象 (3)

 前回までにご紹介した「プロセス」と「スキル」を活かし、組織力としての営業力を発揮するためには、マネージメントの仕組みが、このふたつとうまく連携していなければなりません。ソリューション営業活動にとって、ふさわしいマネージメントの方法とは何か、考えてゆくことにしましょう。

3.マネージメント
 ソリューション営業の仕事は、「お客様の課題を見極め、それぞれに最適化された個別の解決策(組み合わせ)を作り、それを商品として販売する活動」です。このような活動は、関わる人や組織も多く、組み合わせを構成する製品やサービスも多様です。従って、それをひとりの営業担当者に任せきってしまうことには限界があります。

 本人の能力以上の負担は、単に仕事への不満を募らせると言うことではありません。処理しきれない情報量。どこまで自分で判断し、行動すればいいのかと言った迷い。期待に応えたいが、こなしきれないという焦り。そのような様々な思いが、不安となって心を蝕むことさえあります。

 横道にそれますが、忙しさへの不満、待遇への不満など、営業には様々な不満があります。しかし、不満で人が死ぬことはありません。
 どうすればいいのか分からない不安、誰も相談できず、助けを求められない不安。不安は、さらに不安を膨らませ、仕事や人との関わりを恐怖へと変えてゆく。そして、いつしか電話を取ろうとすると言葉が出なくなる、会議にでると脂汗をかき何も話せなくなる、通勤の満員電車で人に接すると恐怖で吐き気を催す・・・といった身体症状に発展し、引きこもり、自分の存在感を喪失する・・・最悪の場合、死を選ぶ人もいるようです。死には至らなくても、その一歩手前で苦しんでいる人には、何人出会いました。

 「たかが仕事ではないか」と、私などの楽観的な性格のものは考えてしまうのですが、まじめな性格の人ほど、こような不安を募らせる人は多いようです。程度の差こそあれ、このような人が増えているような気がします。

 このような事態を、営業担当者の性格や適性の問題として割り切ってしまうべきではないと、私は考えています。不安を拡大させる原因が、実は営業マネージメントの仕組みの中にあるというのが、私の考えです。

 逆の見方をすれば、不安がなく、モチベーションの高い営業組織は、結果として高いパフォーマンスを発揮できるはずです。

 不満は、どこの組織にもあります。その不満を少なくすることは、管理者や経営者の仕事であることは、そのとおりですが、限界はあります。むしろ、その不満を乗り越えるだけの意欲をどのように生み出してゆくのか。それが、営業マネージメントの役割ではないかと思います

 叱咤激励、相談に乗るなどの管理者としての個人的な努力も必要です。しかし、それでは、組織の仕組みとしての問題解決にはなりません。
 組織の仕組みとして、不安を排除し、組織力としての営業力を生みだし、維持してゆくマネージメント・システムが必要ではないかと考えています。私は、これを「スポンサー型マネージメント」と呼んでいます。

 ソリューション・ビジネスでは、営業個人の能力に頼るには、限界があることは、前述の通りです。また、案件発掘からクローズに至るプロセスに時間がかかるため、営業活動の進捗や状況を数字だけで評価し、判断することもできません。
 しかし、現実には、製品販売の営業活動と同じように、売上や利益など結果としての数字で評価し、判断し、そのプロセスを評価や判断の視点とはしていない。今月の予算が達成できたかどうかであり、なぜできないのかの追求はそこそこに、営業個人努力の問題として叱咤激励する。担当営業は、「なんとか、がんばってみます!」としか応えない。そんな営業現場をいくつも目にしてきました。

 このようなマネージメント・スタイルを「チェック・アンド・レビュー型マネージメント」と呼ぶことにしています。

 このような「チェック・アンド・レビュー型」に対して、「スポンサー型」は、結果ではなく、プロセスに着目し、それを評価し支援するマネージメント・スタイルと言うことができます。

 既にご紹介した「営業活動プロセス」を基準に、どこまでプロセスをこなし、次はどのプロセスに対応するのか。もし、プロセスが進捗しないのであれば、どこに課題があり、どのように対処すればいいのか・・・このようなことをマネージメントが営業と一緒になって、評価し考えてゆく。そして、「何故できないのですか?」「いつやるのですか?」ではなく、「どうすれば対処できるでしょうか?」「どのような助けが必要ですか?」を問いかける。これが、「スポンサー型マネージメント」のスタイルです。

 そして、それを単に営業管理者の自助努力として行うのではなく、既にご紹介した「3つの会議体」を使い、組織の仕組みとしてこのような機会を継続的に提供してゆくのです。
 
 「アカウント・プランニング・セッション(APS)」は、営業をリーダーとして、SEやSEマネージャー、サポート部門の関係者、経営マネージメントなどが、参加し、プロジェクトやお客様の状況を共有する会議です。四半期毎に開催され、プロジェクトをうまく進めるために関係者がどのような役割分担や支援をしなければならないかを相談する公式な場です。この会議で、担当営業は、プロジェクトの責任を自分ひとりではなく、会社として背負うことを確認できるのです。

 「週次営業会議」は、営業課やグループ単位で毎週行われるものです。APS後の経過の変更や状況の変化に対応するための具体策を相談します。ここでも、役割や計画の見直しが行われ、組織として対応することが明確に意識づけされます。

 「プロジェクト・アシュアランス・レビュー」とは、受注前、あるいは、提案書や見積書を提示する前に行われる会議です。ソリューションという商品は、お客様個別に作られたカスタム・メイドの商品であることは、既に申し上げたとおりですが、それでは、その商品を一体誰が品質保証するのでしょうか。確かに個々の商材は、メーカー保証があるかもしれませんが、オリジナルな組み合わせに対しての保証は、どこにもありません。
 それでは、一担当営業がその責任を全て負うと言うことになるのでしょうか?それは無理です。案件の規模が大きければ大きいほど、リスクは拡大し、個人の負担では追い切れません。また、経営的にも大きなリスクとなることを一担当者に背負わせること自体、危険なことはありません。
 プロジェクトを関係者一同で評価し、課題を洗い出し、お客様から受注する前に対処しておくための取り組みが、この会議です。これにより、営業個人の負担は軽減されます。

 このような、組織としての取り組みがあればこそ、営業は、不安を乗り越え、高い意欲を保ちながら仕事に取り組むことができるようになります。

 「スポンサー型」が、決して「チェック・アンド・レビュー型」に勝っていると言うことを申し上げるつもりはありません。ただ、ソリューション営業活動の特質を考えるならば、よりふさわしいマネージメント・スタイルではないかと思っています。
 大切なことは、自分の会社や組織が、どちらに主眼を置いた営業活動を行っているかと言うことです。ソリューションを売ることを進めながら、「チェック・アンド・レビュー型」のマネージメントにこだわれば、そこには必ずひずみが生まれます

 何を売ろうとしているのか。この違いを理解した上で、ふさわしいマネージメント・スタイルを適用してゆくべきではないかと思っています。

2008年12月30日火曜日

営業力の科学:第二章 営業力を強化するための3つの対象 (2)

 前回のプロセスに続き、組織としての営業力を強化するための「スキル」について、考えてみよう。

2.スキル

 営業活動プロセスで、どのような手順を踏んで仕事を進めればいいのか分かりました。次に必要なのは、その手順を確実にこなしてゆくための「スキル」です。

 スキルとは、仕事を行うための技能です。例えば、コミュニケーション・スキル、プレゼンテーション・スキル、ドキュメンテーション・スキルなどがこれに当たります。

 「意志決定者に提案内容を説明する」というプロセスをこなすためには、単に説明しておわりではなく、結果として意志決定していだかなくてはなりません。そのためには、お客様にわかりやすい説明資料を作る「ドキュメンテーション・スキル」が求められます。また、その内容にお客様が共感し、心を動かしてくれるように説明するための「プレゼンテーション・スキル」も必要です。

 ITソリューション営業に必要とされるスキルは、次の5つに分類されます。
  1. 営業活動プロセスを管理し遂行するスキル
  2. お客様の課題を把握し、提案をまとめるスキル
  3. コミュニケーションを効果的に行うためのスキル
  4. 部下を育成するスキル
  5. 組織を運営するスキル
(1)営業活動プロセスを管理し遂行するスキル
 自分の担当する案件について、現状や課題を客観的に把握し、それを関係者に報告できる能力です。営業は、お客様という人間を相手にする仕事です。そのため、現状への対処が優先され、なかなか計画どおりにことが進まないこともしばしばです。しかし、組織の一員として、営業目標を達成するためには、そのような現状に甘んじているわけには行きません。そこで、役に立つのが「営業活動プロセス」です。
 自分のおかれている状況を客観的に評価し、今どのステップにいるのか、次に行動すべきことはなにか、どこに課題やリスクがあるのかを評価し、次の行動を決めなければなりません。研修では、そのための道具として、「オポチュニティ分析」、「プロジェクト分析」、「危険度分析」のためのツールを提供させて頂きましたが、このような道具を使いこなし、自分の行動を自分の意志や計画の管理下に置くスキルが必要です。

(2)お客様の課題を把握するスキル
 営業活動は、お客様の課題を把握することが全ての起点です。お客様に「これが我が社の課題です。是非、その解決策を提供してください。」と言っていただくためにも、お客様の課題を整理し、お客様とその課題について合意する必要があります。この点については、「第一章 営業力を定義する3要素」で詳しく書きましたので、そちらをご覧ください。
 お客様の課題を把握する手段は、以下のふたつに大別できます。

■ 客観的アプローチ
SWOT分析、環境分析なとの公開されている情報やお客様への質問を通じて、お客様の 置かれている状況や課題を整理する方法です。
■積極的アプローチ
 お客様自分の抱えている課題に気付いていない場合もあれば、それを説明できるレベルに整理できていない場合もあります。それを「課題発掘のアプローチ」を駆使して、お客様に気付かせ整理する方法です。

(3)コミュニケーションを効果的に行うためのスキル
 営業活動におけるコミュニケーションとは、「共感-理解-納得」のサイクルを回すことです。
 「共感」とは、お客様が営業であるあなたに信頼感や安心感をいだき、心を開いて話を聞こう、あるいは、相談しようと言う気持ちを持っていただくようにすることです。
 「理解」とは、お客様にとって、重要なことはなにか、必要なことはなにかなど、知っておくべきこと、知りたいことをわかりやすく、確実に伝えることです。お客様の分からない、理解できないは、伝える側に責任があります。
 「納得」とは、知識として理解したことに基づき、それを自分の判断として受け入れ、行動の意志決定をしてもらうことです。

 コミュニケーションは、話し方のテクニックだけでは、不十分です。前述の「お客様の課題を把握するスキル」で、お客様自身やお客様の課題を理解していればこそ、コミュニケーションは円滑にすすみます。また、伝えたいことをわかりやすい図表や文書にするドキュメントーション能力も求められます。これらを組み合わせた総合力が、コミュニケーションのスキルです。

(4)部下を育成するスキル
 営業マネージャー、リーダーに求められるスキルです。具体的には、「セールス・コーチング」と「権限委譲」の2つの柱が部下の育成を促します。
 「セールス・コーチング」とは、部下に気付きを与えやる気にさせるための取り組みです。一般に言われるコーチングと異なるのは、営業活動プロセスを管理し、目標を達成させるという目的を持っていることです。
権限委譲」とは、うまく行けば部下の成果とし、失敗すれば自分が責任を取ることを明確にした上で、自分の業務の一部を部下に任せることです。

(5)組織を運営するスキル
 一般的な組織運営や経営論ではなく、営業活動に絞って考えるならば、「評価報酬制度」、「フォーキャスティング」、「会議体」の3本柱を運営するスキルです。

 ソリューション営業活動における「評価報酬制度」は、数字だけではなくプロセスの進捗と評価を連動させることがポイントです。これは、極めて重要なことで、営業活動プロセスを有効に機能させるためにも、それが成績評価や報酬に連動していることが、営業にとっては、モチベーションとなります。
 SFA(Sales Force Automation)を導入したが、単なる報告のためにしか使われることが無く、案件管理のツールとしてうまく機能していないという御相談を受けることがありますが、「評価報酬制度」と連携していないことが、一因として考えられるケースも少なくありません。

 「フォーキャスティング」は、目標管理にとって不可欠ですが、いつも問題になるのは、その精度です。精度を高めるためには、「歩留まりを意識した評価」、「営業活動プロセスとの一致」が必要です。こちらも、「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座[管理者コース]」で詳しく紹介していますので、ここでは、省略させて頂きます。

 「会議体」は、組織の機能を維持するための基本の仕組みです。「会議体」がうまく機能していない営業組織は、営業パフォーマンスを上げることもできなければ、営業個々人のスキル底上げも困難です。ソリューション営業活動で必要とされる会議は、「アカウント・プランニング・セッション」、「週次営業会議」、「プロジェクト・アシュアランス・レビュー」の3つが柱となります。それを支えるものとして、新規案件開拓を計画的に行うための「オポチュニティ開発セッション」や営業個々人の目標管理やコーチングを支援する「ワン・ツー・ワン ミーティング」などがあります。
 ここでは、ひとつひとつを詳しくご紹介は致しませんが、これらが有機的に連携することが大切です。

 以上の5つのスキルを育成することで、組織としてのITソリューション営業力を強化することができます。

 次回は、「マネージメント」について、解説します。 

営業力の科学:第二章 営業力を強化するための3つの対象 (1)

 以前、「営業力とは、スキルであり、生まれ持った才能やセンスではありません。」と書きました。これは、「営業力」を個人の能力として捉えたときの説明です。今回は、組織の能力としての「営業力」について、考えてみようと思います。

第二章 営業力を強化するための3つの対象 (1)

 ソリューション営業とは、
  • 個々のお客様の課題に応じて
  • そのお客様にとって最適な組み合わせを作り
  • 提案活動を通して販売する
活動と定義できます。

 このような営業活動は、規模の大きなものを狙うことになりますから、手間もかかり、受注するまでの期間も長く、関わる人や組織も増え複雑になります。見方を変えれば、規模が大きく、利益率の高いビジネスにしなければ、割の合わない営業活動です。

 このような営業活動を、ひとりの営業担当者に任せてしまうには、負担も大きく、「こなしきれない」というリスクがあります。その結果、効率も上がらず、ビジネス・クオリティの低下を招きます。従って、チームとして、組織力を活かした営業活動が求められます。

 組織力を活かした営業活動を行うためには、「プロセス」、「スキル」、「マネージメント」の3点に着目し、その能力を高め、仕組みを整備してゆくことが必要です。

 それでは、まず「プロセス」について考えてみましょう。

1.プロセス

 仕事には手順があります。これは、営業という仕事においても同様で、案件の発掘から受注を経てデリバリーに至るまでに、行うべき作業項目や確認事項、これらを遂行するための順序があります。この手順を整理したものが、「営業活動プロセス」と言われるものです。
 
 営業活動プロセスは、大きく4つのフェーズに分けることができます。

発見フェーズ:数ある「ありそうなはなし」の中から、これは攻め取るに値すると思われる案件を見つけ出し、絞り込むフェーズです。

定義フェーズ:既にこのブログで何度も申し上げていることですが、ソリューション・ビジネスは、はじめに商品はありません。お客様ごとにことなる課題を起点に、その課題を解決するためのオーダーメイドの組み合わせ商品を作り上げてゆく。それを提案活動を通じて売り込んでゆく活動です。この組み合わせを作り上げ、お客様との合意を築き上げてゆく過程が、このフェーズです。

確定フェーズ:「定義フェーズ」で作り上げた商品であっても、それが会社の合意として決済されるという保証はありません。財務担当者から予算的な成約を課せられるかもしれません。あるいは、頼りにしている部長のライバルから横槍が入るかもしれません。もしかしたら、競合他社が、トップと話を進めていて、参入障壁を築いているかもしれません。そういう壁を乗り越えて、確実に成約に結びつけてゆく過程です。

デリバリー・フェーズ:最後は、契約を頂いた内容を確実に仕上げ、売上に結びつけるフェーズです。デリバリーは、常にトラブルの火種を抱えています。これらをうまく処理して、納期、コスト、品質を守って納品する。その過程を適切にこなすこと、つまり「プロセス品質」を高めることで、お客様との信頼関係を一層強固なものとすることができます。また、新たな課題を整理し、次の仕事のきっかけを掴む絶好の機会です。

 この4つのフェーズを確実にこなしてゆくことが、営業の仕事です。各フェーズの詳細な活動内容や実践ノウハウについては、研修でご紹介していることでもありますので、ここでは割愛させて頂きます。

 この営業活動プロセスには、3つの役割があります。
  1. 要領よく営業活動を行う
  2. 営業活動の進捗を客観的に評価する
  3. 結果ではなくプロセスを管理する
(1)要領よく営業活動を行う
 予め仕事の手順が明らかであれば、次に何をすべきかが分かります。もちろん、全ての営業活動で状況が同じなわけはありませんから、その手順か完全に一致するとは言えません。しかし、当たりを付ける、あるいは、何をすべきかを考える上でのきっかけにはなります。つまり、やるべきことを先読みし、先手を打つことです。お客様の行動や反応を予測することにも役立ちます。

 このように、営業活動プロセスを予め明らかにしておけば、仕事は計画的に行えます。行き当たりばったりで、何か起きたら対処する「後始末」型の仕事の進め方ではなく、次にやるべきことを先読みし、先回りしてこなしてゆく「前始末」型の営業活動が行えるようになるのです。
 その結果、行動の無駄がなくなり、時間的余裕も生まれます。何よりも、心の余裕が生まれ、冷静で合理的な判断や行動ができるようになりますので、仕事の質を高めることができます。

(2)営業活動の進捗を客観的に評価する
 営業活動プロセスとして、仕事の手順が予め明示的に示されていますので、今どこまでその作業を完了しているのかを、具体的に示すことができます。つまり、営業活動プロセスは、進捗を把握する客観的な指標としも使えます
 特に営業活動の期間が長期化するソリューション営業活動においては、成約までに多くの作業をこなしてゆかなければなりません。その間、売上を計上することかできませんから、数字を進捗の指標にすることはできません。現実には、担当営業の「表現力豊かな説明」をマネージメントが聞いて、これならば、確度60%だとか、80%というように、経験と勘に基づいて進捗を評価しいる場合が多いのではないでしょうか。

 営業活動プロセスが具体的に示されていれば、このような主観的な評価ではなく、「この作業項目を完了したから、確度70%」と客観的に進捗を評価することができます。このような進捗評価基準を持つことにより、対象となる案件に関わるチームメンバー全員が、共通かつ客観的な進捗把握の手段を持つことができるようになります。

(3)結果ではなく、プロセスを評価する
 売上が上がったか否かではなく、どの作業項目を完了したかを客観的に捉えることができます。また、どの作業項目に取りかかろうとしているのか、どの作業項目が進捗していないのか、その理由は?対処法は?・・・というように、営業活動のプロセスこどに状況を把握、評価することができます。
 営業マネージメントは、部下の担当営業と共に評価し、その対応方法や支援について、話し合うことができるようになります。

 「とにかく、精一杯がんばりなさい!(営業の本音:何をどうやって、どうやってがんばればいいのか、教えてください!)」、「いまは、やるべきことをひとつひとつこなしてゆきなさい。(営業の本音:ひとつひとつの作業項目を具体的に教えてください!)」などと言った精神論的指導ではなく、営業活動の具体的な活動内容に即した評価や指導を行うことができるようになります。

 次回は、「スキル」について、考えてみようと思います。

2008年12月27日土曜日

「営業力」の科学: 第一章 営業力を定義する3要素

 「営業力」という言葉、書店のビジネス書コーナーに行くと、よく目にします。仕事柄、この手の本をいろいろと買い集めたこともありますが、精神論やハウツーものが多く、「営業力とはなに?」を理論的に突き詰めているものには、未だに巡り会えないでいます。

 先日もアマゾンで、「営業はサイエンスという言葉に共感・・・」という書評を見て、「これはいいかも」と取り寄せたところ、「営業現場での苦労やお悩みにお応えする」といった人生相談的な内容で、がっかりしました。前書きには確かに「営業はサイエンスである」とはありましたが、どこにも論理的な整理がありません。なぜこれがサイエンスなのかと不思議に思いました。

 それならばと言うわけではありませんが、私なりに、この「営業力」を何回かに分けて整理してみようかと思います。

第一章 営業力を定義する3要素

 企画力、指導力、提案力・・・“力”という漢字が使われている言葉はいろいろあります。三省堂提供の「大辞林 第二版」によると、“力”には次のような意味があるようです。

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◎そのものに本来備わっていて、発揮されることが期待できる働き。また、その程度。効力。
◎ほかに働きかけて影響を与えるもの。
 (ア)ほかの人を支配し、自分の思うとおりに動かすことのできる勢い。権力。勢力。
 (イ)ほかの人が目的を達成しようとするのを助ける働き。骨折り。尽力。
 (ウ)人の心を動かす力強い勢い。迫力。
◎何かをしようとする時に役に立つもの。
 (ア)行動のもとになる心身の勢い。気力・体力。精気。
 (イ)修得・取得した、物事をなしとげるのに役立つ働きをするもの。能力。
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 目的を達成しようととする働き、人の心を動かす力、気力や精気・・・なるほど、営業という仕事に欠かせないもののようです。「ほかの人を支配し、自分の思うとおりに動かすことのできる勢い」に至っては、力=営業力?と思わずにはいられません。

 以上を踏まえ、ITソリューション営業の視点から、改めて「営業力」を定義してみると、以下のとおりとなります。
  1. 理解:お客様の期待や課題解決の要請を正しく理解し、お客様と合意すること。
  2. 企画:お客様の要請に最適な商品やサービスの組み合わせを企画すること。
  3. 説得:お客様にわかりやすく提案、説明でき、お客様の納得と合意を得ること。
以上の3つを行うことができる能力と言うことができます。

1.理解

 「理解」の能力を使うためには、まず、お客様が抱える課題を引き出し、整理しなければなりません。

 お客様は、必ずしも自分の課題に気付いているとは限りません。また、課題の存在に気付いていたとしても、課題を誰にでも分かる形に整理できていない場合があります。
 課題が整理できていなければ、課題の重要性や解決の必要性を関係者に説明し納得させることもできなければ、合理的な解決策を組み立てることもできません。従って、この課題をお客様に代わって、引き出し整理する能力が必要となります。

 次に必要なことは、整理された課題について、お客様と合意することです。本来、課題とは、お客様のものです。いくら担当営業であるあなたが、お客様の課題を正しく理解できても、お客様が、「そのとおり!それこそが自分たちの抱える課題です。」と認めてくれなければ意味がありません。「あなたの課題は、これです。だからこのように解決しましょう/この商品を使いましょう。」と言っても、お客様が自分の課題であると認めていなければ、それを解決したいとは思いません。

 では、どのようにして、この課題を見つけ、整理し、合意を取り付ければいいのか。それについては、「課題発掘のアプローチ」を使います。こちらについて、「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」にて、ご紹介していますので、ここでは長くなりますので、省略させて頂きます。

2.企画

 「企画」の能力を使うためには、次の3つのステップを踏むことが必要です。
  1. お客様のウォンツからニーズを見極める。
  2. ニーズを起点として、複数の解決策を組み立てる。
  3. お客様のベネフィットが最大化できる解決策をお客様と合意の上で選択する。
ステップ1:お客様のウォンツからニーズを見極める
 ウォンツとは、お客様が「ほしい」ものであり、多くの場合、お客様の視点で発想した「解決のための手段=To Do」です。
 例えば、「ノートパソコンを100台ほしい」との依頼をあなたが受けたとしましょう。しかし、それに対応することが、お客様にとって、本当に最善の解決策といえるでしょうか?
 お客様の「ノートパソコンを100台ほしい」理由があるはずです。それを見極めることです。例えば、「社員を100人増やす」ためかもしれません。では、なぜ100人増やす必要があるのでしょうか。それは、「新しい商品を販売するに当たり、その受注窓口を新設して対応しなければならないため」だったとしましょう。これがお客様のニーズです。「ノートパソコン100台」は、このニーズを満たすための手段に過ぎません。この違いを理解し、お客様のニーズを見極めることが最初のステップです。


ステップ2:ニーズを起点として、複数の解決策を組み立てる
 もし、このニーズつまり、お客様が何らかの手段を使って、最終的に「どうなっていたいのか=To Be」を明らかにし、これを起点に考えるならば、「ノートパソコンを100台」ではなく、「Webでのオンライン受注の仕組みを作る」という手段もあるはずです。むしろこちらのほうが、社員100人の固定費を削減できるわけですから、中長期的に見れば大幅なコスト削減が期待できるかもしれません。

 「お客様が本当に必要としているもの=ニーズ=あるべきすがた=To Be」を起点に考えるならば、解決策の選択肢が広がります。お客様から求められた「解決のための手段=To Do」に応えるのではなく、このニーズを起点にすることで、お客様のベネフィットを最大にできる手段を見つけることができます。

 このとき注意すべきは、お客様のベネフィットを最大化する最適な商品やサービスの組み合わせをつくることです。お客様は、決してみなさんの会社の「ありもの」の商品を買いたいわけではありません。お客様は、自分の課題を解決し、ニーズを満たしてくれる手段を求めているのです。その組み合わせを考える能力が求められます。
 
ステップ3:お客様のベネフィットが最大化できる解決策をお客様と合意の上で選択する
 複数の選択肢の中から、お客様が、最大のベネフィットを享受できるものを、お客様と合意の上で選択する。それが、次のステップです。

 お客様が合意しているとなれば、それは既にお客様自身の解決策です。みなさんの押しつけではなく、お客様が必要とする解決策です。お客様が、「これが私の解決策です。」となれば、それに応えればいいわけです。そうなれば、余計な駆け引きも必要なくなり、あなたはそんなお客様の期待に確実に応えればいいと言うことになります。

 以上のステップを営業であるみなさんがリードできれば、お客様のあなたへの信頼も揺るぎないものとなるはずです。お客様は、あなたに「是非とも売ってください」と言いたくなるはずです。このようなことができる能力が、「企画」の能力です。

3.説得

 「説得」とは、「是非とも売ってくださいと言いたくなる商品」の価値をわかりやすく伝え、窓口になってくれている担当者や特定部門の合意から、会社としての意志決定に昇華させる能力です。

 企業という組織は、必ずしも一枚岩ではありません。部門やそれぞれの役割に応じて、利害はことなり、意志決定の判断基準も違ってきます。また、個人的なライバル意識や人脈、性格と言った潜在的な影響力は、意志決定に影響を与えます。
 少額のものであれば、一担当者や部門長の決定で済むかもしれませんが、大きなビジネスを成立させようとすれば、このような違いを乗り越えて、会社としての合意を取り付ける必要があります。
  • 意志決定に関わるひとりひとのビジネス・バリューを見極める。
  • パワーストラクチャーを駆使して、キーパソンを説得する。
  • 組織の特性個人の欲求を理解した上で、効果的なアプローチを行う。
などの行動を行う必要があります。詳しくは、研修でご紹介していますので、ここでは省略させて頂きます。

 以上のような、3つことを行える能力が、ITソリューション営における「営業力」です。

 次回は、「第二章 営業力を強化するための3つの対象」について、解説します。

2008年12月26日金曜日

突然ですが、ついに芸能界にデビューです!

 表紙に写っているのが、私です。・・・ 嘘です!

 実は、私のランニンク体験が、「ランナーズ」という雑誌の記事になりました。嬉し恥ずかしです。

 タイトルは・・・「成功する脱メタボ」 堂々の8ページに渡っての掲載です!同じ雑誌には、あの熱血テニスコーチ 松岡修三も出ていますが、彼は1ページのみ。私の勝ちです!

 元メタボの皆様(もちろん私もそのひとりですが)3人との脱メタボ体験対談記事が、4ページ。さらに「やせる、走れる、充実の3ヶ月プラン」にランナー・モデルとして、4ページ。着せ替え人形のように衣装を着せられ、いろいろな恥ずかしいポーズをさせられました。その写真の枚数は、なんと17カット、しかも、目次にも写真が掲載されています!

 読んでみたいでしょ?そういう方は、書店でお買い求めください。立ち読み禁止です!

 「成功する脱メタボ」というタイトル、確かにその資格は十分にありますね。走り始めて一年間で、77Kgの体重を65Kgまで減量できたわけですからね。

 編集の方に伺ったところ、「メダボを特集すると売れ行きが伸びるんですよ!」とのこと。なるほど、だからこんな特集組んだわけですね。とすると、私は、どこにでもいる身近なおじさんの代表としてのご指命だったわけ?容姿端麗、イケメンというわけではなかったんですね。まあ、一応納得できます。

 さて、これがきっかけでタレント業、いやモデル業へ転身という話になるでしょうか。いや、次は表紙を狙います!その時には、また報告致します。

 ・・・・・・ それは、ないですね(笑)!

2008年12月25日木曜日

マーケティングとは、お客様へのコーチング

日本PGP株式会社の社長をしている北原さんから、マーケティングのためのプレゼンテーションとホワイトペーパー作成のご依頼を頂いた。

 北原さんも私と同様、日本IBMで営業としての修羅場を経験した戦友(?)であり、その後、外資系セキュリティ関連企業のトップを歴任した後、今年から今の会社の社長に就任した。

 彼は、「現実に起きている情報漏えいに関わる事件や事故、法律的な要請などの観点から、暗号化の大切さを訴求したい」という。「暗号について、製品や技術についての説明ではなく、利用者や個人情報を預かり管理を任されている企業の経営者や業務を任されているご担当の方を対象に、その必要性をわかっていただけるような内容にしてほしい」との依頼である。

 私は、改めてマーケティングの仕事とは、こういうことを言うのだろうと思った。

 彼もまた経営者であり、売り上げに責任を持っている。外資系でもあり、数字についてのプレッシャーは、日本企業の比ではないだろう。そのような状況にありながらも、先を見据えて、製品ではなく暗号化そのものの大切さを理解してもらおうという考え方には、大いに共感する。しかも、お客様の目線を意識し、その視点から資料を作ってほしいとの彼の要請は、私としても大いに興味をそそられるものだった。

 この資料を作りながら、私も多くのことを学ばせていただいている。


 お客様の情報をお預かりする企業としての責任、新会社法法で求められる内部統制とIT統制、COSOやCOBITに代表されるIT統制とIT資源との関係。IT資源の根幹をなすデータという資源の意味。これらを保護し、組織としての対応を規定した法律の条文やガイドライン。それらが、企業の暗号化対策とどのように結びついているのか。

 こんな視点から、暗号化の必要性や役割を訴えてゆこうと考えている。
 
この依頼を受けて、いろいろな資料や法律文書などに当たり、技術的視点とは異なる暗号化の大切を知る機会となった。
 
 また、公表される事件や事故の多さを見ていると、改めて情報漏えいに対する日本企業の意識の低さにも気付かされる。「またか?」を通り越して「日本はこれで本当に大丈夫なのだろうか?」と思わずにはいられない。そして、それら事件は、どれもどこでもありそうな話であり、決して他人事では、済まされないことに気付かされる。にもかかわらず、対策が遅々として進んでいない現実。危機感を持たざるを得ない。

 「マーケティングとは、ニーズを創造すること」である。セールスと対立する概念であり、「セールスをいらなくすること」と言い換えることができる。セールス(売り込み)をしなくても、お客様から「ぜひ売ってください」と言わしめるための取り組みと言ってもいいだろう。

 このような仕事は、すぐに数字には結びつかないことでもあり、なかなか予算をつけにくいものである。しかし、新たな市場でリーダーシップを取ろうとするのならば、率先して行うべきことだろう。
 IBMは、かつてこのような取り組みに時間とお金をかけてきた。だからこそ、お客様は、商品についても真剣に話を聞いてくれたのである。

 マーケティングとは、売れない商品を売れるようにするこではない。お客様が「現実を認識し、その対策の必要性に自ら気付く」、それを手助けすることがマーケティングの役割である。お客様へのコーチングと言い換えてもいいだろう。

 このような機会や情報の提供は、お客様にとっても大変ありがたいことに違いない。お客様が、あなたの会社を自分たちにとって役に立つ相手であると分かれば、お客様はあなたの話に真剣に耳を傾けてくれるだろう。

 今回の仕事で、あらためてその原点を省みることができた。

 PGPについてのプレゼンテーションは、いずれ詳しく紹介させていただこうと思う。

2008年12月22日月曜日

お客様に騙されてはいけない!

 今あなたが手がけている案件は、今月末、間違えなく成約できますか?

 年末のこの時期だからこそ、無駄な動きは避けたいものです。できれば、確実に数字に結びつく仕事に集中したいですよね。

 そんな時に注意すべきは、お客様の甘言です。
  • 「斎藤さん、大丈夫だから。僕のほうで、書類は回しておくから。」
  • 「常務の了解もとれているので、あとは事務処理だけですよ。」
 若い頃、こんな言葉に、何度も騙された。特に月末や期末は、数字については、誰もが敏感になっている。そんな時にこの言葉を信じ、「大丈夫です」と自信を持って数字を約束しているにもかかわらす・・・
  • 「斎藤さん、ごめん!優先することがいろいろあって、今月の経営会議に出せなかった。」
  • 「経理部長が、もう一度数字を見直せと言っているので、改めて見積を検討させてもらえないだろうか」
 「えっ、そんな・・・どうしてくれるんですか?」と言ってみたところで、後の祭りである。上司からはどやされ、なんとか他でリカバリーしろと言われても、もう期日までに時間がない。自分の詰めの甘さにほとほと嫌気がさす。

 こんなこともあった。

 「いい提案だよね。もう少し詳しい資料をもってきてくれない。」というありがたいお客様の言葉。一生懸命資料を作り、時間をかけてお客様を訪問し説明する。
 「XXX社は、こんな提案を持ってきているんだけど、IBMさんは、どう違うの?その当たり、詳しい人に話を聞きたいんだけど・・・」と質問。「では、改めて詳しいSEと伺います。」という会話が繰り返される。

 ご年配の担当部長である。権限はないが、時間だけはたっぷりある。とにかく、社内のこと、製品のこと、何でもよく知っている。そういう意味では、情報通であり、良き教師ではあるが、数字には結びつかない。しかし、積極的に質問され、提案をもとめられ、こちらの話もきちんと聞いてくれるこのようなお客様には、ついつい何かを期待し、時間を費やしてしまう。しかし、その何かは、永遠に訪れることはない。

 こんなお客様もいた。
  • 「わかった!任せておけば大丈夫だから」
  • 「だいじょうぶ、大丈夫・・・あとは、こちらでやっておくよ」
 一見とても信頼できそうだ。しかし、進捗は如何でしょうかと伺うと、「うまくいっているよ」と詳しくは語ってくれない。それを信じて、待てど暮らせど、いつまで経っても連絡がない。
 安心もしていたし、他の仕事も忙しかったので、上司から、「おい、あの件、どうなっているんだ?」と聞かれるまでは、こちらからアクションを起こさなかった。確かに、連絡が遅い。そこで、どうなったかを聞いてみると、「今回は導入しないことになった。」とのそっけない回答。今更どういうことですか・・・と言ってみたところで、ことは解決しない。
 
 見積書を提出した。提案書を出した、契約書を渡した・・・やることはやったから、後は、お客様にお任せする。こんな営業としての大罪をあなたは犯していないだろうか

 お客様の優先順位とあなたの優先順位は、同じではない。そんな当たり前の感覚を先ず持たなくてはならない。

 また、あなたの交渉相手は、意志決定にどの程度関与し、影響力を行使しうるのか。そのことについて、あなたは客観的に評価できているだろうか。

 社内の力関係は、表向きの肩書きだけでは分からない

 例えば、定年を間近に控えている経理本部長は、創業社長の長男であるシステム課長より、実質的な決定権を持っていない場合もある。
 ライン職から外れ、担当部長の肩書きを持つ年配の方は、セミナーには必ず出席し、営業の話にも熱心に耳を傾けてくれるが、意志決定にはまったく結びつかないことが多い。

 自分は、リーダーであり、意志決定の一切は私が握っているという。要求はするが、情報は提供してくれない。何か問題が起こると、あなたや社内の第三者のせいにして、自分は被害者だという顔をする。
  • 進捗しないには、必ず訳がある。
  • お客様の言葉を鵜呑みにしてはいけない。
  • あなたが思っているようにお客様は動いてはくれない。
 しつこさは、営業の武器である。特定の情報に頼るのではなく、いろいろな角度から裏付けを取り、客観的に、冷静に現実を評価する。

 数字を追いかけていると、どうしても期待が先行し、「自分がやらなければ」の責任感も相まって、希望的な数字が口をついて出てきてしまう。しかし、その結果はミスフォーキャストであり、落胆であり、自責の念である。
 
 こんな時こそ、研修でお渡した「オポチュニティ分析」や「プロジェクト分析」、「パワーストラクチャー分析」が、役立つだろう。自分の期待や推測ではなく、事実を事実として受け取る冷静さを持つには、こんな道具に頼るのもひとつの方法かもしれない。

 そうやって、改めて自分の抱える案件を見直し、優先順位を付け直す。不安があれば、それを確かめる。そうやって、無駄のない、省エネ営業を心掛けては如何だろう。

 こんな時期だからこそ、冷静さが求められる。

2008年12月21日日曜日

自分を鍛える道場

 現役で営業をしていた頃の年末は、尋常ではなかった。

 IBMは、12月決算なのだが、担当するお客様のほとんどは、3月決算。この時間差がほんとうに忌々しかった。

 当時は、大型汎用機の売り上げがノルマ達成の絶対条件だった。SIのような請負は少なく、年末の数字を達成させるためには、何としてでも大型汎用機の契約を受領し、年末までに導入作業を完了しなければならない。

 当時の営業にとって、最大のモチベーションは、与えられたノルマを達成し、HPC(Hundred Percent Club)の資格を得ることだった。もちろんコミッションも入るわけだが、HPCは、普通の営業であることの証明であり、誰もがHPCの資格を得ることを目標に、必死で働いていた。年末は、その達成期日であり、何としてでも結果を出さなければならない。そんな思いで、徹夜や休日出勤など厭わず、お客様と会社を往復する毎日を過ごしていた。

 お客様にしてみれば、「また、恒例の年度末の押し売りか・・・」と渋い顔だが、そこは心得たもので、この時期だからこそ好条件を引き出せるという打算もあり、お互い分かった上での交渉が繰り返される。
 
 仕事は、普段の倍以上のスピードで動いていたように思う。午前中の打ち合わせ、午後にはお客様との交渉、それを社内に持ち帰って関連部門と再び相談、提出資料を作り直したり、社内手続きのための書類を作成したりしていると、深夜になるのは当たり前で、早朝までかかってしまうこともしばしばだった。

 箱崎のオフィース近くにカプセルホテルがあった。そこで数時間仮眠して、シャワーを浴びる。再び出社して、また仕事である。

 年末は、そんな毎日が当たり前のように繰り返されていた。

 今思うと、なんと非効率で要領の悪いことをしていたのかと苦笑いせざるを得ない。ただ、何としてでもノルマは達成するという決意だけはしっかりと持っていた。それが当たり前という雰囲気を、営業だけではなく、SEも、カスタマーエンジニアも、業務部門の人間も、社内のすべてが共有していた。その旗振りは、担当営業である自分自身であるという自覚。モチベーションは、極めて高かったと思う。

 会社のためではなく、しぶしぶであろうが何であろうが、ノルマを受け入れた以上は、それはもう自分自身への約束である。それが達成できないとなると、自分で自分の負けを認めることになる、そんなことは、絶対にしたくない。そんな思いが、気持ちを突き動かしていた。

 こんな雰囲気の中で、コミットメント(必達目標)の意味、そして何としてでも目的を達成してやるぞという気力の大切さを学んだことは確かだろう。

 無事数字を達成し、正月を迎えると必ずと言っていいほど、高熱で寝込んでしまう。年末までは、風邪もひかず、徹夜にも耐えてきた身体が悲鳴を上げて、「休息せよ」の強制命令を発する。自己調整機能が働くのだろうか、高熱に苦しみながら一日二日寝込んだ後は、実にすっきりする。人間の身体とは、うまくできている。

 こんな話は、過去の栄光であり、自己満足に過ぎない。同じようなことをする必要など無いだろうし、もうそんなことが許される時代ではないだろう。

 事実、私が「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」を始めたのも、こんな非科学的で非効率な仕事のやり方ではなく、「営業をエンジニアリング」ととらえ、論理的に、かつ効果的に行う方法を伝えたかったからに他ならない。がむしゃらに突き進むのではなく、効果的に仕事をこなしてゆくこと。そのことの大切さを伝えると共に、それが出来るという自信を持ってもらいたい。そんな思いが、この研修には込められている。

 今振り返れば、現役の自分には、そんな知恵などみじんもなかった。講師として偉そうなことを言っているが、こんな恥ずかしい過去もあったことを告白しなければならない。その罪滅ぼしというわけではないが、皆さんには、この二の舞を踏んでいただきたくないと思っている。

 ただ、必達の決意、それは会社のためではなく、自分のためであるということ。それに向かう気力や情熱。この両者は、たとえ知恵があったとしても必要なことである。そのことまで、否定するつもりはない。

 営業として成長すると言うことは、売り上げを上げられる優秀な営業になることやマネージメントとして出世することではない。
 営業という仕事を通して、ひとりの人間として、自分に課したチャレンジを達成できる知恵を身につけ気力を養うことだろうと思う。研修でお伝えする内容は、自分で知恵を育むきっかけであり、仕事をするための道具であり、スキルである。それを自分自身の成長に供するためには、意志の力も併せて学ばなければ、自分の人間力を育てることは出来ない。営業としての数字や昇進は、そんな人間力の結果であり、ひとつの表現の方法に過ぎない。

 私にとって、年末とは、自分を鍛える道場だったのかも知れない。

2008年12月19日金曜日

新商品を売り出す その3:商品を売り込む道具

 「商品の価値」とは、この商品によってもたらされるお客様のベネフィットであるという話をした。性能や機能も価値を生み出す要素ではあっても全てではない。むしろ、その商品の目的、つまり、この商品によって何を解決し、どのようなベネフィットをお客様に提供できるかを正しく理解しなければ、その商品の良さは伝わらない。

 また「商品の魅力」は、お客様の満足に比例するという話もした。お客様の満足は、商品単体でもたらされるものではない。導入前の検討から始まり、導入後の開発や運用に至る一連の作業が、お客様にとって楽に、確実にこなせる組み合わせを提供する。商品をその組み合わせのひとつの要素として、あなたの会社だけのオリジナルな組み合わせを作ることが出来れば、結果として商品の魅力も増し、他社との差別化も可能となる。ソリューションという商品は、このようにお客様の目線に立った組み合わせである。

 では、この「商品」をどうやって売るのかと言うことだが、これについては、売るもの、お客様も様々であり、ここで一律に申し上げるのも難しい。そこで、共通する要素としてのどのような営業ツールを用意すればいいのかを考えてみることにしよう。
  1. マーケティング・プレゼンテーション 提供しようという商品の必要性を訴求する内容。社会情勢、法律、公的ガイドラインなど、必要性を説き、危機感をあおり、商品導入の必然性を訴え、ニーズを喚起する。
  2. アセスメント・シート 導入の必要性に気付いて頂くためのツール。お客様の状況について確認する質問を列挙。インタビューや自己回答式で答えて頂くことで、どこに課題があり、提供しようとするサービスを利用することによるコストとメリットを概算することが出来る。
  3. パンフレット きっかけを作る、お客様に興味を持っていただくための道具。性能や機能ではなく、どのようなベネフィットがもたらされるかを中心に、数ページの資料を作る。
  4. 製品仕様書 パンフレットの最終ページあたりに組み込むことも可能だろう。製品の性能や機能、特徴をまとめた資料を作る。
  5. 提案書のひな形 製品やサービスについての価値、詳細な説明、費用、作業の手順などをまとめる。稟議書の素材となるもの。
  6. セールス・ガイド 自社あるいは販売代理店のセールスが誰に、どのように販売すればいいかを説明したマニュアル。必要とするお客様の見分け方、プレゼンテーションの方法や台詞などを含める場合がある。一連の資料を作った人だけが、それら資料を使えるようでは、効率が悪い。
 ざっと、こんなところだろうか。

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 詳しくは、いずれ研修としてご提供しようと考えています。是非そのときは、ご参加下さい。
 また、このような商品作りの企画、資料作成も承っております。お気軽にご相談下さい!
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 ということで、ご相談をお待ちしております!

追伸:よろしければ、このブログをお知り合いにもご紹介下さい。よろしくお願いいたします。

2008年12月18日木曜日

新商品を売り出す その2:商品を魅力的に見せる

 「商品の魅力とは、購入者の満足に比例する

 商品の機能や性能は、お客様の満足を高める大切な要素ではある。しかし、それがすべてではない

 今の世の中、「唯一無二」のIT製品などなかなかお目にかかれない。それぞれに特徴があり、優位性はあっても、絶対的なものではなく、一長一短がある。そのような商品同士の比較の中で、商品だけに着目して、その良さを訴求しようとしても、自ずと限界がある。

 「ソリューション・ビジネスは、“商品がない”からスタートする」という話を以前にもしたが、お客様の求めているものは、ハードウェアやソフトウェアではない。お客様は、課題を解決したいのであって、商品を購入したいわけではない。ハードウェアやソフトウェアは、課題解決の手段を構成するひとつの要素に過ぎない。それら要素の組合せが、自分にとって最もふさわしいものであることを見極め、購入を意思決定する。

 お客様が求めているものは、[楽]X[確実]X[安価]である。

 これは、足し算ではなく、かけ算であることに意味がある。お客様にとって、楽にしかも確実にできるという確信があるならば、価格については、多少他社より高くても仕方がないだろうと思って頂ける。

 商品を含む、あなたが提供しようとする課題解決の手段=ソリューション=「個々のお客様に最適化された組み合わせ」を提供できれば、お客様の満足は高まり、結果として、商品も魅力的に見えるはずだ。

 ただ、これをすべてのお客さまごとに個別に作るということになると、担当する営業の力量に左右され、会社全体の効率は期待できない。

 そこで、お勧めしたいのが「ソリューション・パッケージ」という考え方。その商品をお使いいただくお客様が、楽して、確実に、効率よく利用できるサービスや仕組みを組み合わせのひな形を作り、必要に応じて、その組合せをカスタマイズして提供するという考え方。

 たとえば、VMを売ろうとする場合、
  • VM適用による効果や概算費用を算定するアセスメント
  • 導入計画策定セッション
  • 商品(VM+ハードウェア)
  • 運用最適化支援サービス
  • リモート監視サービス
  • ポイント制 保守・サービス・パッケージ(基本+サービスやインシデント対応)
  • ・・・
というような組み合わせが考えられる。

 このような組み合わせを「VM最適活用ソリューション・パッケージ」という自社のオリジナル商品として提供できれば、お客様の満足度は高まるだろう。同時に、無償の「サービス」は減り、利益のかさ上げにも貢献する。

 これは競合他社への差別化にもなる。自分たちならではのオジナルな組み合わせを提供できれば、同じ商品を販売している他社との競合に対し、優位を築くことができるだろう。

 「商品の魅力とは、購入者の満足に比例する

 購入者の満足を高めるためにどうすればいいのか。そのための手段を考え、最適な組合せを創り出す。ハードやソフトは、お客様の満足を高めるための手段のひとつであることを忘れてはならない。

 手段が一人歩きしてしまい、「この商品は、こんなにすばらしいものなんです!」と力説するだけでは、お客様は、自分がどれほど満足できるかを思い描くことなどできないだろう。それでは、商品の魅力は伝わらない。

2008年12月17日水曜日

新商品を売り出す その1:「商品の価値」とは?

 ものを売ることは、決して簡単なことではない。営業を経験した人であれば、身にしみていることだろう。ましてや、新しい商品やサービスを販売するとなると、その難しさは何倍にもなる。幾重にも立ちはだかる壁を崩し、やっとその向こうにあるお客様にたどり着く。一足飛びに、向こう側へ飛び越えたいところだが、そんな都合のいい方法は、そうあるものではない。

 まず最初に突き当たる壁は、その商品の価値を明確にすることだろう。そんなことは当たり前だと言われるかもしれないが、意外とこの肝心なことができていない場合が多い。

 例えば、海外の製品を販売する場合。マニュアルや製品紹介の資料を和訳し、それをそのままWebに掲載したり、お客様への説明資料として使っているケースをよく目にする。このような資料は、やたら文字が多く、専門的な用語が多用されており、わかりにくい。何が違うのか、どこが画期的なのか、じっくり読まなければ分からない。

 また、使い方や事例などが書かれていても、海外のものばかりで、それが日本の事情とかけ離れているものも多く、折角読んでもピントこないものも少なからずある。

 そもそも、そんなものを平気で製品説明資料として使っている感性が疑われる。本当に売る気があるのなら、お客様がその資料を見ただけで、「ぜひ売って下さい!」と言わせるぐらいのものを用意しようと考えるべきだろう。

 このような資料を作るときに、まずとり組むべきことは、製品の機能や性能について深く理解することではない。この製品が解決しようとしていること、つまり、製品の目的とでも言うか、どのような価値をお客様にどどけようとしているのか。それを理解することだ。

 その上で、自分の思いこみではなく、日本の実情に合わせ、お客様の現場で使われるシーンをイメージし、このような使い方なら、これだけの価値を生み出すことができる。そのひとつひとつを明らかにし、お客様が、「なるほど、このような使い方ならわが社でもありそうだ。それで、これだけの価値があるならば検討してみよう。」と思わせることだろう。

 製品紹介資料とは、そのようなことを伝えるもののことを言う。製品スペックや価格資料も必要ではある。しかし、それだけでは、お客様にほしいと思っていただくまでの道のりは遠い。

 もちろん、既に同様の商品が出回っていて、その商品のもたらす価値が広く理解されているものであれば、「価格が1/3」や「スピードが10倍」と言うだけでも、十分に価値は伝わる。しかし、新しい考え方や分野の商品となると、利用シーンや必要性の背景にある法律や制度、世の中のトレンドなどの変化と絡めて、必要性を喚起することから始めなくてはならない。知恵の使いどころだ。

 新商品の開発でも同じことだが、この商品がもたらすお客様の価値は何かを考え、仕様を絞り、作り込んでゆく。よくある「技術者の趣味」でつくられた商品は、「お客様が欲しいもの」というものが乏しく、「こんなにすごいんです」という自己満足と自慢に満ちていて、売るに売れない。機能は豊富だが、「そんなに必要ないのでもっと安くしてください」という大半のお客様の期待に沿うことができない。

 「商品の価値」とは、「お客様がほしいと思う気持ち」である。これをどうやったら生み出すことができるのか。新しい商品を新たに作るにせよ、海外から優れた商品を持ってくるにせよ、お客様の目線、お客様がまさに利用しようとしている状況に即して、お客様の「ほしい」を徹底的に考える。それが、新しい商品を売り込む上で、最初のステップとなる。

 次回は、「商品を魅力的に見せる」方法について、考えてみよう。

2008年12月16日火曜日

壁の向こうの声を聞く その2 【完結編】

前回の続き】

年末キャンペーン(?)のお知らせ-------------
いつもご覧いただき、有り難うございます。
ちょっとあつかましいお願いではあるのですがあるのですが・・・

現在、50に届かない程度のアクセスを日々頂戴しているのですが、
年末の数値目標達成(笑)は、営業の心得です。そこで、なんとか
3桁の大台をクリアしてみたいと密かな野望をいだいております。

もしご迷惑にならなければ、お知り合いに、このブログをご紹介頂け
ないでしょうか?何もお礼はできませんが、結果は、ご報告します。
どうぞ、ご協力の程お願い申し上げます。
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それでは、前回の続きです・・・

 株主総会の翌日のことである。社長は社員を集め「これからは自分たちで売り込みをする。とにかくいままで付き合いのあったところにメールや電話で製品を紹介しようと思う。」。

 私にも相談があった。そこで、「まず、目標を決めましょう。いつまでにどれだけ売るのか。そして、役割分担も決めて、販促資料やプロモーションのためのWebも作らなくては。トライアル版の無償ダウンロードもどうか。プレスリリースをして集客もしましょう。新規購入割引キャンペーンなども企画して、きっかけを作るというのはどうでしょうか?」。

 すると社長は、「いやいや、そこまでしなくてもいいです。とにかくメールを出して、電話して、説明が必要とあれば、ベンダーにつないで、訪問してもらいましょう。自分たちも売り込みをやっているんだという前向きなところを見せれば、出資者も納得してくれるでしょう。我々がちょっとやったところで、そう簡単には売れません。どっちにしても、資金がショートするのは避けられないので、彼らに追加出資をしてもらうためにも、ちゃんとやっているんだというところを示すことが大切ですよ。」

 私は、彼の話を聞いて唖然とした。私は、「そんなことでは、出資者も納得してくれませんよ。まずは目標を決めて、必ず達成するという意気込みで手段を考えなければ、売れません。やるべき作業項目を洗い出して、役割分担して効率よく行う。最終的に目標をクリアできなかったとしても、それは結果の話。必達の気持ちで真摯に取り組んでこそ、説明できるというものではありませんか。」

 正論は強い。本人も理解せざるを得ないが、腑に落ちたという感じではなかった。とにかく、私は陣頭指揮を取ることになったのだが、まあ、うまくやってくれという社長の雰囲気は社員に伝わる。どこまで社長は本気なのだろうかと、現場の意気はなかなか上がらなかった。

 さすがにこれでは、売れない。ついに年末も近づき、改めて経営会議で出資者から報告を求められた社長だが、とにかくがんばってやっています。ほらこの通りと、コンタクトリストや販売状況を説明したものの、当然納得は得られない。とにかく一層の努力を求められ、一旦は閉会となった。

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 さて、やっと最初に戻ってきた。

 そんなことで「もっと売ってくれ」というお願いにITベンダーに伺うことになったのだが、社長にしてみれば、このベンダーがまともに売る努力をしていない、そもそも営業力がないからこんなことになっているのだという不満がある。

 「私は株主からいろいろと言われている。この会社を存続させるためにも、もっと売上を上げを上げなければならない。私には責任があるんです。自分たちもこれからいろいろと売り込みの努力もするつもりです。だから、あなたのところも、もっと努力をしてほしい。」と感情を込めた“お願い(?)”となった。

 話を聞いた本部長も“まいったなぁ”という顔である。いままで、あれだけ自らの売り込みに消極的だったのに、いまさらなんだという気持ちだろう。

 この訪問に先立ち、私は社長に「お願いをする以上は、こちらも手ぶらではいけません。無償トライアルや機能制限版などの提案を持参するのが筋です。」と話をしていた。

 しかし、社長は「それは、相手がそれを求めてきたなら言えばいい。こちらから切り出す話ではない。」という。そんなことをあなたからも言わないでほしいと釘を刺された。

 結局、実りのない訪問になってしまった。社長としては、言うことを言ったという満足感。あれだけ言ったのだから、何か動いてくれるに違いないという気持ちはあったのだろう。

 結局、このベンチャー企業は、十分な成果も上げられず、後にこのITベンチャーに格安で吸収されることになった。当時は、まだ景気のいい時代だったので、格安でも買ってもらえたからいいものの、今ならそれも無理な話だっただろう。

 このベンチャー企業の技術者は、そのまま引き受けてもらったが、社長も含めた役員や営業責任者は、受け入れてもらえなかった。

 幸いこの製品は、翌年、やっと日の目を見ることになった。機能限定版の無償ダウンロード、セミナーや新規顧客向けの割引キャンペーン。製品機能を分割して、エントリー版、プロフェッショナル版、エンタープライズ版などを品揃え。メディアへの積極的なプロモーション活動も功を奏し、展示会などのイベントでも優秀製品賞を受賞するなど評判も高まり、引き合いも増えていった。

 こんな、極端な例は私も初めての経験だったが、似たようなベンチャー企業の話はよく耳にする。いいものを作れば売れないはずはない。売れないのは、お客様が悪いのか、売り方が悪い。自分たちは、とにかくいいものを作っているのだから、責任は果たしている。なぜ売れないのか、よく分からない・・・

 いいものは、いずれ受け入れられる。その信念は、間違ってはいないと思う。とにかく、開発する側として、理想を追い求め、完成度を高める。そして、世の中に貢献したい。

 その理想無くしてベンチャー企業など創れない。しかし、それと同時に、世の中の専門家の声、そして、なによりもお客様の声に素直に耳を傾ける。そして、「分からないのはおまえが悪い」ではなく、「分からせることができない自分が悪い」という気持ちを持って、難しいことでも工夫をして分からせる努力を惜しまない。その態度がなくては、たとえどんなにいいものであっても、お客様の耳には届かない。

 この話は、ソリューション営業の現場にいるみなさんにも関係があるものだ。いくらいいものであっても、あなたが伝えたいことと、お客様の思いが同じであるとは限らない
 自分たちの製品やサービに自信を持つことは当然としても、お客様の視点から、その価値の伝え方を工夫しなければ、聞いてはくれても受け入れてはくれない

 特に新しい製品やサービスを売り込もうとするときは壁は限りなく高い。どうやってこの壁を低くするのか。その答えは、壁の向こう側にいるお客様や向こう側で働く営業の第一線の人たちの声に耳を傾けることが一番だろう。

 あなたが伝えたいことを伝えるのではなく、お客様が知りたいことを伝える

 そんな態度でお客様に接することができなければ、せっかくの良さもお客様には伝わらない。このベンチャー企業のケースは、そんな現実を私たちに教えてくれる。

2008年12月14日日曜日

壁の向こうの声を聞く その1

 もう何年も前の話だが、年末も近づき、クライアントであるベンチャー企業の社長とともに、その会社の製品を取り扱ってくれているITベンダーの営業本部長を訪ねたことがあった。目的は、もっと売ってくれとのお願いである。

 お願いの結果がどうなったか・・・

 その話をする前に、このお願いに至る経緯について話をしよう。

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 このベンチャー企業は、ある有名私立大学の研究者が発明した技術を使って、3年の歳月をかけて開発したソフトウェア・パッケージだ。その年の春にやっとの思いで製品化に漕ぎ着けたもものであった。

 販売を引き受けてくれたITベンダーは、早くからこの技術に着目し、製品として販売するためのアドバイスや仕様作り、研究委託や出資などの金銭的なことも含めて支援を行ってくれていた。

 この社長は、自らも博士号を持つ大手製造メーカーの技術部門長だったのだが、大手企業での管理者としての経験を買われ、このベンチャーに出資するファンドが社長として招聘した方だった。

 当初は、2年以内に製品化を予定していたが、「もっと技術としての完成度を上げたい」との社長の意向もあり、具体的な仕様がなかなか定まらず、製品化が大幅にずれ込んでしまった。

 売る側のITベンダーとしては、機能を増やすよりも、基本的な機能が確実に動き、バグのない製品としての完成度を求めていたのだが、技術者魂の社長としては、納得がいかない。ITベンダーの声に耳を貸さず、とにかく機能を追求した。

 そんなこともあって、1年遅れのリリースとなったが、社長としては満足な製品ができたと至って満足だった。

 出資者であるファウンドからは、「製品ができた以上は、ITベンダーに任せっきりにするのではなく、販売チャネルの開拓やマーケティング活動を自分で行うように」と求められていたが、「自分たちは開発会社であり、売るのは自分たちの役割ではない。ITベンダーがやるべきであって、技術的な支援はするが、売ることは任せる」との考えを崩すことはなかった。

 私は、そんな状況を見かねたあるファンドの関係者から相談を受け、この会社を手伝うことになった。

 まずは、自分たちの製品を紹介するわかりやすい資料を作ろうと、私は提案した。技術や機能、仕様などを紹介する説明資料はあるのだが、「こんなにすごいんです!」「すばらしい機能が盛りだくさん!」という自慢話のような内容である。一体お客様のベネフィットは、どこにあるのかよく分からない。

 「こんなにいいものをつくりました。どう使えるかは、自分で考えてください。」と言わんばかりの内容である。これでは、売るに売れない。

 「まずは、私がまとめますから、内容についてアドバイスしてください。」とお願いし作り始めた。販売してくれるITベンダーとも相談し、この製品のセールス・ポイントを絞り込み、「こんなに効果が出ます。」という製品説明のためのプレゼンテーションを完成させた。

 これを見た社長曰く、「これじゃあ、うちの製品がどれほど豊富な機能があるのか、よく分からない。これでは、使えない。」とのことである。

 「お客様は、機能の豊富さなど求めていませんよ。自分たちにどのように役立つか、どれだけコストが削減できるかを知りたいのです。それを先ず伝えなければ、興味も示してもらえませんよ。」

 社長は、それでも納得できない様子。それではと言うことで、「お客様に興味を持って頂くためのこの資料とは別に、“製品機能編”ということで、製品の機能を詳細に説明した資料を作りましょう」と提案した。

 社長は渋々納得したが、「それは、売るところのベンダーが作ればいいのであって、何でうちが作らなきゃならないのか・・・」とまだ不満のようであった。

 こんなこともあった。

 「新しい考え方の製品です。その価値を分かってくれている人は限られています。まずは、トライアルとしてしばらく無償で使っていだくか、機能を制限して安く購入していだくようにして、価値を認めて頂く人たちの裾野を広げましょう。そうやってきっかけつくり、ニーズを喚起しないと、大きな需要は期待できません。」

 社長曰く、「これだけ機能があるわけだから安く売るなどとんでもない。価値を分かってくれるところが買ってくれればいい。興味がないところに売る必要などない。開発費も相当投じているんだから、安売りして、製品の価値を貶めたくない」とのこと。これには参った。

 結局のところ、そのITベンダーも及び腰になり、営業現場の販促もなかなかはかどらない。そんな様子を見て、この社長は、「いったい彼らはどういうつもりなんだ。ちゃんと仕事をしているのだろうか。」と言い出す始末である。

 じゃあと言うことで、この社長はかつてのつてで、別のシステム・ベンダーに「うちの製品を扱ってくれているITベンダーが全然ダメなんで、あなたのところで扱ってはもらえないだろうか。」と話を持ちかけた。
 話を持ちかけられた会社も義理は欠けない。協力しましょうと言うことにはなったが、「まずは製品の理解と評価を行わなければ、責任は持てない、時間がほしい」とのこと。彼にしてみれば、直ぐに売ってくれるものと信じていたようだが、その目論見もかなわなかった。

 製品を出荷してからの最初の株主総会では、どうなっているのかと出資者から突き上げられ、いろいろと説明はしたものの、「自分たちでも積極的に売り込み活動をしてください。」と言うことになり、さすがの社長も策を講じなければならなくなった。

 そこで社長は・・・ 【次回へ続く】

2008年12月12日金曜日

商材=ソリューションではありません

 これからは、ソリューション・ビジネスの時代。そう言われるようになって久しいが、その実践に経営者は、どこまで真剣にとり組んでいるのたろうか。

 このブログでも、よく話題にすることだが、“それらしい”パッケージ・ソフトウェアの品揃えを充実させることをソリューション・ビジネスと勘違いしてはいないだろうか

 ソリューション・ビジネスとは、「商品がない」からスタートする。つまり、商品提供を目的とするのではなく、お客様の持つ課題を解決する。その手段を提供することが、ソリューション・ビジネスである。商品提供は、課題を解決する手段であって、目的ではない。

 昨日のブログでも紹介したが、お客様が自分の課題の存在に気付き、その整理を助けることができれば、お客様は自ずと、その解決手段を必要と考えるようになる。お客様へのそういう手助けを行うことが、ソリューション営業の最初の仕事となる。

 お客様が求めているものは、決して商品ではない。どうすれば、自分の課題が解決できるかであり、その答えを提供してほしいと望んでいる。

 「お客様の気付きを促し、何を行うべきか自分で自覚する」。実は、このプロセスは、コーチングの手法そのものであり、ソリューション営業とは、コーチング営業と言い換えることもできる

 現実の問題として、業種や分野を絞り、商品やサービスの品揃えを充実させ、それを持って「ソリューション・ビジネス」を展開している企業は多い。そして、自社の商品や実績などをお客様に紹介する。そして、それがお客様の期待にかなうものかどうか・・・後は、お客様自身に判断を委ねるしかない。

 これでは、「どうすれば解決できるかは、お客様が自分で考えて、結論を出してください」といっているようなもの。ソリューションを提供したことにはならない。

 分野に特化した商材の品揃えや実績は、お客様が課題に気付き、整理するための枠組みを提供する「きっかけ」にすぎない。お客様の課題は、共通するものはあっても、同じものは二つとない。それぞれに固有の課題を抱えている。
 ソリューション営業の仕事は、このきっかけを利用して課題を掘り下げて、お客様の固有の課題や対策についてとことん話し合い、お客様に最適な解決手段について、双方の合意を引き出すことにある。

 ソリューション・ビジネスとは、「商品がない」からスタートする。お客様の個別の課題に対処するためのオーダーメイドの商品を作り、提供するビジネスである。商材は、その商品を構成する素材であって、すべてではない。お客様にとって最適な組み合わせを創造し、それを提供するビジネスである。

 ソリューション・ビジネスを行うということは、業種に特化し商材をそろえることで終わりではない。それをきっかけとして、お客様の課題をさらに深く掘り下げ、お客様に最適な商材やサービスなどの組み合わせを作り上げることである。それができなければ、ソリューション・ビジネスではない。

 景気が後退するなか、ますますお客様の選別眼は厳しくなっている。商材の品揃えの多少だけで、他社との競合を制することはできない。

 だからこそ、このような仕事ができる人材を育て、うまく活かしてゆくためのマネージメント・システムをつくること。それが、ソリューションビジネスを行うということではないだろうか。

2008年12月11日木曜日

誰のためのソリューションですか?

 「我が社のソリューションは・・・」と、お客様に説明している方も少なからずいらっしゃると思うのですが、そんなあなたは、次の質問になんと答えますか?

 「誰のためのソリューションですか?

 あなたは、「もちろん、お客様のためのソリューションです!」とお答えになるでしょう。

 さて、それは、本当に「お客様」のためのソリューションなのでしょうか?

 もう一度、考えて頂きたい。「ソリューション」とは、「課題を解決するための手段」であることは皆さんもご存じの所です。では、いったい誰の課題を解決するための手段なのでしょうか?

 営業としてのノルマや予算を達成しなければならないという、「あなた自身の課題」を解決するための手段とはなっていないでしょうか。

 あなたは、お客様の課題をしっかりと掘り下げ、自信を持って「お客様の課題」を解決する手段として「ソリューション」という言葉を使っていますか?

 「そんなことはない。お客様の課題を解決するためのソリューションを提供しています。」

 ならば、もう一つ伺いたいのですが、「我が社のソリューション」とは、一体何のことでしょうか?ハードウェア、パッケージ・ソフトウエア、ASP・・・などのあなたの会社がとり扱う商品のことではないのですか?

 だとすれば、それはあなたが売り込みたいものであって、まさにあなたの課題を解決するための手段ではないのですか?

 お客様の課題を明らかにせず、それを分かった顔をして「お客様のためのソリューション」というのであれば、それは、お客様に対するソリューションの押しつけでしかありません。

 そもそも「課題」は、お客様がそう思うものであって、営業であるあなたが「御社の課題は・・・」と押し付けるものではありません。お客様が、「これがわが社の課題です。」と自覚し、それを解決したいと思わなければ、あなたがどんなにすばらしい「わが社のソリューション」を提供しても、所詮、的外れなものになってしまいます。

 しかし、お客様が必ずしも自分の課題を正しく認識しているとは限りません。研修でも話をしていますが、「課題発掘のアプローチ」をうまく使い、お客様の課題を整理し、お客様自身に課題の存在とそれを解決する必要性に気づいていただくこと。その「気付き」を引き出すお手伝いをすることが、ソリューションを売るという仕事のスタート・ポイントです。

 お客様は、あなたの会社の商品を手に入れたいと思っているわけではありません。自分たちが抱えている課題を解決したいと思っているのです。それをきちんと確認したうえで、それならば、「わが社は、こんな解決策=ソリューションを提供できます。」というのなら、きっとお客様も話を聞いてくれるに違いありません。

 「我が社のソリューションは・・・」と言う前に、「あなたの課題」ではなく、「お客様の課題」に向き合うこと。それが、ソリューション営業の基本です。

2008年12月10日水曜日

商品=プロデュースX(機器+サービス)

 「SIerやITベンダーは、サービスの時代になって、中抜きになる」と書いた。となると、一体、その両端は、誰が来るのだろうか?

 その答えについて話をする前に、前回の補足として、PaaSとクラウドコンピューティングについて、まずは考えてみようと思う。

 PaaSとは、SalesFoces.comが、昨年発表したコンセプトで、Platform as a Service つまり、サービスとして提供されるプラットフォームの略である。SaaS(Software as a Service)つまり、サービスとして提供される(アプリケーション)ソフトウェアほど、業務システムに関わるところまで、事業者に委ねてしまうのではなく、システムを運用するプラットフォームと開発環境だけをサービスとしして提供するというものだ。
 SalesFoces.comがいうまでもなく、このようなサービス形態は、すでにいくつもあるが、ますます広がってゆくことは十分に考えられる。

 SaaSに比べて、こちらのほうが個々の企業の業務実態に即してシステムを柔軟に開発することができるという考え方もある。そうすると、SIや開発の受託は残るわけで、Sierも中抜きにならずにすむという見方もある。

 しかし、前回も申し上げたとおりSIとは、結局のところハードウェア・ビジネスに結びついてこそ成り立っている側面があるだけに、開発だけとなるとどれだけビジネスとしての旨みがあるかは、なはだ疑問といわざるを得ない。ましてや、SIと称しながらも、システム販売、導入、ネットワーク構築などに依存してきた事業者にとっては、大変厳しい時代となるだろう。

 お客様にしてみれば、ハードウェアをサービス事業者に任せてしまうわけだから、システム開発にだけ着目して、その品質、納期、コストをさらに厳しく追求するようになるだろう。しっかりとした、開発標準や管理体制を提供できない事業者は淘汰されてゆく。お客様が、サービスにもとめる要求水準がますます高くなってゆくのである。

 視点を変えれば、ハードウェアの販売を手がける大手事業者にとっては、根本的な事業転換を求められることになるのだろう。

 その一方で、彼ら大手が一時請負事業者となり、そこからシステム開発のみを受託されていた企業にとっては、ビジネス・チャンスと見ることもできる。プロジェクトマネージメント、プロセス品質の管理などを徹底し、それを「サービス商品」として持つことができれば、売り込む上での強力な武器となるだろう。

 PaaS以外にも、SaaS、ASP、WebAppなど、自社にシステム開発や運用の環境を持たず、ネットの向こう側、つまりインターネットを介してシステム資源利用するコンピューター環境のことをクラウド・コンピューティングと言う。

 PaaSにしろクラウド・コンピューティングにしろ、アメリカ人は、言葉を作るのがうまい。切れのいい、そうかと思わせるような言葉を作り、わが社の事業コンセプトであり、業界のトレンド・リーダーという顔をする。こちらもなにか新しい考え方が生まれてきたような錯覚にとらわれる。
 しかし、従来からの流れを整理し、それをこのような言葉に表現しただけのことであり、珍しいものではないとさめたみかたもできるが、たしかに自分で考えをまとめたりお客様に説明するには、これはこれで役に立つ。

 横道にそれてしまったが、クラウドにしろPaaSにしろ、インターネット越しの向こう側にシステム資源を置くという考え方。この不況の中で、ますます企業は、真剣にその可能性を追求するようになるだろう。

 その一方で、それらサービスを提供してくれる企業に対する依存も高まるわけで、ビジネス・コンティニュイティの観点から、リスクが高まることは避けられない。

 もし、サービスを提供してくれる事業者が潰れてしまい、サービスを提供できなくなってしまったらどうなるか。あるいは、そこまで行かなくても、事業の拡大にあわせてシステム資源を大きくするときやより高いサービス・レベルの要求に対して迅速に対応してもらえるのかといった課題も残る。

 となると、このようなサービスを提供できる事業者は、安定した経営基盤を持つ大手企業ということになるのだろうか。
 このような、大手企業のPaaSを利用し、SaaSやASP、あるいは、BPOを提供する事業者も現れるだろう。このような分業が、今後ますます進むことは想像に難くない。

 「中抜きの両端は、誰が来るのだろうか?」という最初の問いかけに戻るが、片方はお客様。それも、システム部門ではなくエンドユーザーに近い部門である。システム部門は、彼らに対するアドバイザーであり、システム・サービスを購入する購買部門的な役割となるかもしれない。
 
 もう片方は、ネットワーク事業者、プラットフォーム・サービス提供事業者、アプリケーション・サービス事業者というように、役割分担がますます進んでくるだろう

 このようにパラダイムが大きく変わろうとしている時期に、みなさんは、どのようなポジションで仕事をされようとしているのか。

 まじめにこつこつしっかりと仕事をし、信頼関係を築き、きちんとリピートをもらえているから安心・・・という時代ではなくなろうとしている。景気動向とあいまって、お客様の購入基準も大きく変わろうとしている。

 ソリューション営業とは、このような顧客の変化を捕らえ、お客様個別の課題解決のための「商品=プロデュースX(機器+サービス)」を作り、提案を通して提供して、販売活動を行う仕事である。

 営業個人が「ソリューション営業力」を持つだけではなく、時代の変化を見据えた、企業としての「ソリューション営業戦略」が今求められている。
 

2008年12月8日月曜日

えっ!?まだ御社ではITの運用や開発に人を抱えているんですか?

 「えっ!?まだ御社では、ITの運用や開発に人を抱えているんですか?

 そんな会話が当たり前になる時代が目前に迫っている。

 日本IBMが、1000人のリストラを行っているとのニュースを聞いて、一体どういうことになっているのだろうかとちょっと考えてみた。世界中のIBMで唯一日本IBMだけが大幅な減収減益となっているのだが、その結果としてのリストラである。たぶん、ふたつの事情が重なっているのではないかと思う。

 まず第一は、ハードウェア・ビジネスからサービス・ビジネスへうまく展開できなかったことが考えられる。

 ご存じのように日本IBMは、90年代前半、ハードウエア・ビジネスからサービス・ビジネスへと大きく舵を切り替えた。その目玉となったのがSI(システム・インテグレーション)ビジネスである。
 SIは、お客様自身のシステムの開発を請け負うことであり、それを運用するシステムは、お客様が購入する。つまり、ハード付きのシステム開発請負業務であり、完全なサービス・ビジネスへの転換とは言い難い側面がある。契約上は、ハードと開発請負を分ける場合もあるが、両者は不可分な関係にあった。これは、そこそこうまくいった。

 その後IBMは、全世界的にSO(ストラテジック・アウトソーシング)やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)など、ハードウエア・ビジネスには依存しない本来のサービス・ビジネスへ軸足を移しはじめる。日本は、その動きにうまく乗ることができなかった。たぶんその背景には、日本の雇用の形態や「システムが自分の手元になければ安心できない」という、米国流のビジネス合理性とは相矛盾する社会文化的側面があるように思う。

 もうひとつは、SMB(小規模、中規模の顧客向けビジネス)の伸び悩み。

 ご存じのように、日本IBMは、昔から大手のお客様に強かった。一方で、中小の企業は、国産各社が圧倒的なシェアを持っていた。そんな棲み分けができていた。
 その後、システムの世界は、ダウンサイジングとデファクトスタンダードの時代となり、メーカー間の垣根は取り払われ、大手企業も中小企業も同じ製品を使う。つまり、製品の違いはなくなり、それを拠(よりどころ)とした差別化が難しくなった。

 また、ソフトウェアもパッケージ・ベースが常識となる。IBMは独自のアプリケーション・パッケージから手を引き、プラットフォーム・メーカーへと転換を図る。IBMもそれ以外のITベンダーも同じ商品を扱うようになったのである。

 つまり、「大手企業には圧倒的に強いIBM」という根拠が無くなり、その構図が崩れたと言える。見方を変えれば、大手もSMBも、同じ商品でビジネス展開が可能となった。もともと中小型でもシェアを持っていたアメリカやその他の地域のIBMは、このような市場構造の変化にも柔軟に対応し、SMB市場でも確実に地歩を築くことがてぎた。

 しかし、日本では事情が違っていた。SMB分野は、国産各社が強力な地盤を持っている。むしろ国産各社にとっては、敷居の高かった大手企業への参入のチャンスが広がったのである。
 オフコンからPCサーバーの時代になり、HPやデルの台頭と相まって、SMB市場での競合は、ますます厳しさを増している。そんな、読み違えもあったのではないかと思う。

 「日本マーケットの特殊事情など関係ない。そんなものは、売れないことに対する逃げ口上」。米国系IT企業のマーケティング担当者が、日本に参入するときにそんなことをよく言っている。米国のスタンダードが世界のスタンダード、日本も同じはずという思いこみが強い。それで失敗し、日本から撤退する企業も少なくない。

 ハードウェアの時代であれば、製品の機能、性能が重要であり、その製品に対するサポート力で競合優位を築くことができた。ハードウェアは、システムの基盤であり、お客様が求める価値の内外格差も少ない。

 しかし、時代はサービスを求めている。サービスは、お客様ごとの個別の事情に対応できてこそ、価値を認めていだくことができる。そこには、機能や性能だけではない、習慣や社会文化と言った各国個別の事情が大きな影響を持つようになる。
 つまり、日本ならではのサービス商品とは何か。それを提供できる自由な発想と、組織としての柔軟性が必要になる。

 今の日本IBMは、その点で苦労しているようだ。

 ITビジネスの当面のトレンドは、SOやBPO、そして、ASPやSaaSなどの本来のサービス・ビジネスとなるだろう。これは、見方を変えれば、SIerやIT機器ベンダー「中抜き」時代の到来を意味する。

  「えっ!?まだ御社では、ITの運用や開発の受託や請負をやっているんですか?

 この現実に目を背けていると、いずれは取り残されてしまう。その時まで、もうあまり時間はない。

仕事の両輪

 先週の木曜日と金曜日に今年最後の研修講師を務めた。普段よりは、少ない人数での開催だったが、営業にとっては、年末の忙しいこの時期によく集まって頂いたと思う。本当に有り難うございました。

 ところで、私が現役で働いていた頃の年末は、毎日終電、週に1~2日は徹夜、休日返上という日々。クリスマス・イブを家族と過ごしたという記憶はない。

 なんとしてでも、年末までに契約書をもらい、納品して売上を計上しなくてはならい。約束した以上予算は達成する。それが営業というものだ。

 売上と言っても、当時は大型コンピューターである。カスタマー・エンジニア(CE)が、据え付け作業を完了するまで、売上計上はされないというルールがある。お客様にはもちろんのこと、CEにも拝み倒して、31日までに作業を完了させてほしいとお願いする。当然徹夜作業も覚悟の上。12月31日の深夜に作業が終わったこともある。
 そして年明け5日からお客様の業務がスタートするとなると、今度はSEが1月2日からシステム導入やチェック作業を行う。営業が休みをとれるのは、元旦だけということもしばしば。

 CE作業もSE作業も営業である私に何ができるわけではない。それでも、作業をする人たちの食事の世話やお茶の手配、時々様子を見に来るお客様の応対など、やるべきことは多い。こんなことに会社のお金は出ない。自腹は覚悟の上。

 二番目の娘が5歳の時、こんな作業の最中に肺炎で入院することになったという連絡が入った。その時は、福島県のいわき市にいた。CE作業が続く中、終電で東京へ戻り病院へ直行。その日は、病院に泊まり込んで、翌日始発で再びいわき市のお客様のところへ戻る。そんなこともあった。

 今思えば、よくそんな生活をしていたものだと思う。

 研修では、「営業の仕事はエンジニアリングだ」という話をする。仕事は、論理的かつ合理的に、しかも効率よく進めるべきだと説いている。その舌の根も乾かないうちにこんなことを言うのもいかがなものかと思うが、これだけは確信を持って申し上げることができる。

 「理屈だけで人の心を突き動かすことはできない。やはり最後に人を動かすのは、プロとしての気迫であり、熱い思いだろうと思う。

 科学的なアプローチは、仕事の定石。それを活かすのは、プロとしてのプライドであり、仕事への情熱なのだと思う。このふたつは、切り離すことのできない車の両輪。

 そのころ、もっと要領よく仕事をするすべを知っていたならどうだっただろうか。それは、所詮イフの話であり、今更そんなことを考えても意味がない。ただ、家族を犠牲にしてまで働きづめで働いた。そのことについては、今でも申し訳ない気持ちがある。 

 昨日、アメリカに住んでいる一番上の娘夫婦からクリスマス・プレゼントが届いた。開けずに、リビングに飾った。本当にありがとう。

2008年12月4日木曜日

営業力とは、生まれ持った才能やセンスではありません

 今年最後の「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」が、今日明日の2日間行われる。この研修の中で、いつも最初に申し上げるメッセージがある。

 「営業力とは、生まれ持った才能やセンスではありません。技能であり、スキルです。

 研修に参加される方の経歴を拝見すると、実に様々だ。入社以来、IT営業職の方もいらっしゃるが、SE、プログラマー、保守技術員。同じ営業でも、不動産、保険、家電製品などを扱っていたという人もいる。ユニークなところでは、「生協でおばちゃん相手に野菜を売っていました。」という方もいた。様々なキャリアの持ち主だ。

 人は誰も自分の国籍を持っている。言い換えるなら、その人がもっともやりやすい、そして、居心地のいいスタイルというものがある。それこそが、生まれ持ったセンスであり、いままで培ってきた経験なのだろうと思う。その人なりの持ち味が生かせないようであれば、仕事など楽しくないし、決してうまくは行かない。それが個性というものであろう。

 このような個性とスキルは、別ものだ。これを区別せず、ごちゃ混ぜにしてしまうと、人の成長が見えてこない。

 私は、この研修でソリューション営業の定石、つまり仕事を効率よく、効果的にこなしてゆくための手順や具体的な実践の技術をお伝えしている。つまり、スキルの部分である。

 誰でも練習すれば自転車には乗れる。ちょっと頑張れば、ロードレースやトレイルレースに出場することも夢ではない。努力はいるが、一定の水準までは、誰でも自分のスキルをのばすことができる。このスキル、つまりハンドルの操作、ペダルの踏み方、重心のとり方には、誰がやっても大きな違いはない。
 しかし、自分が好む自転車のタイプ、乗り方にはいろいろなスタイルがある。それが個性というものだろう。自分のスタイルがあるからこそ、楽しむことができる。
 あなたのセンスや経験は、あなたの営業スタイルとなる。SEや保守技術者であれば、その経験を生かして技術の本質をわかりやすく伝え、お客様の信頼を得ることができるだろう。生協の店員であれば、人の心の機微を捕まえ、お客様に好かれることができるかもしれない。
 
 しかし、センスや個性だけでは、案件を確実にクローズに持ち込むことはできない。だから、仕事の手順を正しく理解し、そのプロセスを着実に進めてゆくことができれば、仕事の効率は上がり、効果を出すことができる。

 この違いを自覚して頂くこと。そして、営業力=スキルを学んで頂くこと。それが、この研修の狙いだ。

 この定石の上に、それぞれの個性を重ね合わせ、自らの営業スタイルを育ててゆく。それは、ここに参加する皆さんの責任となる。

 さあ、今日も張り切って、講師を務めますか・・・!

2008年12月2日火曜日

数字が出ない、だから仕事をしている振りでごまかす

 あるシステム・インテグレーターの営業会議での話し。この会社も例に漏れず、お客様のプロジェクトの延期や予算見直しのあおりを受けて、年末の予算達成が難しい状況になってきました。

 営業本部長は、今年の春、営業力を強化したいと社長に嘱望され、この地位についた人です。

 この会社には、それまでも営業部はありました。しかし、新規顧客開拓や売り込みというよりも、既存顧客の対応や営業業務が主な役割でした。これでは、この先事業の発展は望めないと考えた社長は、大手システム・ベンダーで法人営業のマネージメントとして、新規顧客開拓に辣腕をふるった彼を雇い入れました。

 彼も社長の期待に応えようと、自ら先陣を切ってお客様をまわり、今年9月までは、なんとか予算を達成することができました。しかし、ここ数ヶ月の急激な需要の減退に、予定を30%も下回る受注見通し。これでは赤字を覚悟しなければなりません。
 社長からも、この状況に対処するための施策を打ち出し、実施して欲しいと求められています。

 そこで、彼が打ち出した施策は、今まで訪問したお客様や展示会などで名刺交換したお客様に、メールや電話で連絡を取り、とにかく訪問して、ビジネス・チャンスを掴もうという作戦です。

 その進め方についての相談を受けたのですが、とにかく「やるだけのことはやる」というのはいいのですが、何を売り込むのか、どうやって受注に持ち込むのか、何のシナリオもない状態です。「下手な鉄砲も・・・」ではないですが、とにかく営業全員で訪問しようというこの作戦に、彼の真意を質しました。

 かれの本音は、「どうせ数字は出せない。しかし、なにもやらないわけにはゆかない。ちゃんとやっているというところを社長に説明できるようにしておきたい。」というものでした。要するに、「仕事をしているふりをしておけばいい」ということなのです。

 目標とする数値も示さず、何を達成すればいいのか曖昧。しかも、メールを送り、電話をするという手段が目的となってしまい、その結果どうなって欲しいかという意向は、何も示されていない。お客様に魅力を感じて頂くための武器もシナリオもない。ただ「売りまくれ」という指示。その一方で、「やった証拠」のために誰に連絡したか、どこを訪問したかは、きちんと報告するようにと営業には伝えられています。

 営業担当者にもそんな彼の腹の内はよく分かっています。当然、モチベーションは上がりません。

 「斎藤さん、ほんとうにこんなことでいいのでしょうか?」と営業担当者に相談を受けました。彼は、自分なりの施策を考え、この営業本部長に提案したのですが、今はそこまでしなくてもいいと受け入れてもらえなかったそうです。

 私は、この営業本部長に、会社が如何に危機的状況に置かれているのか、そして、社長にも部下にもあなたの考えは見透かされていることをわかりやすく説明しました。
 かれも、わかってはいるのですが、期待に応えなければという思いと、どうしようもない状況の狭間で、自分で何とかしなければと思い込み、社長にも部下にも本音でぶつかれなかったようです。

 私は、社長にも進言し、とにかくもう一度なにができるかを関係者を集めてきちんと話し合おうということにしました。

 追い込まれると、自分で抱え込んでしまうか、自分の見栄のために形だけを整えようとする。人には誰もそんな弱さがあります。こういう時だからこそ、あえて開き直り、自分だけではなく、部下や上司を信頼して、英知を出し合うことが必要です。

 これもまた、リーダーシップのひとつのあり方だと思います。

2008年11月30日日曜日

目標を決めてチャレンジする だから続けられる

 昨晩、雑誌「ランナーズ」の取材で、座談会に出席した。タイトルは、「メタボ解消には、ランニング」。私も含め元メタボの4人のランナーが同席した。それぞれにつらくて重い過去を持つ人達。走歴3ヶ月から最長の1年8ヶ月の駆け出しランナーが、何故走り始めたのか、そして何故走り続けているのかを語り合った。詳細は、12月発売の雑誌をごらん頂きたい。

 ある44歳の男性は、タバコをやめて数ヶ月で17キロ太り、中性脂肪、コレステロール、血糖値ともに異常な値となり、入院した方がいいと進められたそうだ。その日に思い立って走り出したという。それまで全く走った経験がなかったそうである。走り始めて一年、今では検査の値にまったく異常は見られず、次のレース(本日開催のつくばマラソン)では、フルマラソン 3時間30分を目指しているという。

 ほかの誰もが、血液検査で異常を抱え「要精密検査」だったそうだが、走歴3ヶ月の人でさえ、最近の検査で異常はまったくなかったという。

 私も一年で12kgの減量と体脂肪率15%減を経験している。普通こんな事を話すと、「すごい」ということになるのだが、ここに同席した人たちの反応は、きわめて平静で、「そんなもんですよ」といった感じ。改めて、ランニングの効用を実感した。

 ランニングを続けることに何の苦痛もないという。むしろやめて再びリバウンドするのが怖い、だから走り続けている。もちろんそれだけではない。走り始めると欲が出る。少しでも速く、少しでも長距離を・・・自分なりの目標をその都度定めレースへ臨む。そんなチャレンジを誰もが楽しんでいる。だから続くんですという言葉に誰もが納得した。

 さて、今日もそろそろ走ってきましょうか・・・

2008年11月29日土曜日

省エネ営業の時代

 ランニングをしていると季節の移ろいを肌で感じることができる。

 今日は、抜けるような青空に誘われて久し振りに自宅周辺で走ることにした。自宅から北上し、玉川上水にぶつかる。この上水に沿って小金井公園までの10km。そこを折り返し同じコース戻ってくる20kmが休日の定番コースだ。

 クヌギやナラなどの武蔵野の広葉樹がトンネルのように囲む玉川上水。鬱金や山吹に色づいた木々の合間から漏れる日差しは、とても透き通っている。時々吹き抜ける冷たい風に舞い落ちる枯れ葉が秋の終わりを伝えているようだ。

 こんな季節のランニングは、ついついオーバーペースになりがちだ。勢い余って駆けだしてしまうと後半はスタミナ切れで失速してしまう。わかっているのだが、今日もまた同じ失敗をしてしまった。まだまだ修行が足りない。

 最近、自分のランニングフォームにちょっとした異変が・・・実は、相当「うるさい」走りになってきたのだ。靴の裏を地面にパタパタと叩きつけるように走る。かかとやつま先からではなく、足の裏を水平に地面に叩きつける走り方。フラット走法というのだが、それがうまくできるようになるとこんな音が出る。

 以前からそれを意識して走ってはいたのだがなかなかいい音が出ずに試行錯誤していたのだが、最近やっといい音が出るようになった。

 フラット走法のメリットは、無駄のない効率的な走りが出来ることにある。かかとから入る走りでは前へ進もうとする力をかかとで止めてしまう。つま先からでは、ふくらはぎに負担がかかり、より大きな筋肉で余裕のあるももやおしりの筋肉がうまく使えない。フラット走法は、ランナーにとっては、無理、無駄のない、もっとも効率的な走り方といわれている。
 
 もう若くはないのだから、いかに省エネで走るか。筋肉よりも技で勝負しなければ、これからの向上はない。この異変のおかげだろうか、今までよりペースを上げても疲労感が少ない。今日の20kmもそれほどの消耗感もなくいつもより5分ほど早い1時間31分で戻ってくることが出来た。涼しくなったこともあるのだろうが、こんなささやかな成長が何ともうれしい。

 営業という仕事もそうである。若気の至りですまされるうちは、がむしゃらに走りまわる事も勉強であろう。しかし、後輩もでき、リーダー的な役割を担うようになれば、そうもゆかない。如何に効率よく、かつ効果的に仕事をこなしてゆくことが必要となる。

 「営業という仕事は本当に忙しい」という言い訳は、20代までなら許されるが、いい年をして未だに同じ事を言っているようでは、「自分は能力がありません」と宣言していることと同じである。

 「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」で、「営業の仕事は、エンジニアリングである」という話をする。決して個人の経験と勘、そして度胸に頼るのではなく、正しい手順をこなしてゆけば自ずと結果が得られるという考え方だ。ただ、闇雲に走り回るのではなく、セオリーに基づく手順を踏めば、無駄はない。省エネ営業である。

 営業活動プロセス、それをベースとしたオポチュニティ分析やプロジェクト分析。仕事の無理、無駄を排除する手だてはある。

 プロジェクトの延期、予算執行の先延ばし・・・営業にとっては、厳しい話が増えてきた。こんな時こそ、気合いと根性だけでがむしゃらに走り回るだけではなく、冷静に案件を分析し、営業活動の手順を見直してみるべきではないかと思う。

2008年11月24日月曜日

言葉は営業の武器 ファミレス言葉を考える

 「お名前様は、斎藤様のほうで、よろしかったでしょうか?」、「ご注文のコーヒーになります。こちらのほうで、よろしかったでしょうか?」・・・とても気持ちが悪い。

 なんとか丁寧な言葉を使わなければいけないと思っているのだろうが、とても違和感を感じる。「ファミレス言葉」、「バイト敬語」、「マニュアル語」などと言うそうだが、これだけ世間で話題になり、おかしいぞ!と騒がれているにもかかわらず、いっこうに無くなる気配がない。

 こんな話を、たまたま東北出身の人にしたら、そんなにおかしくはないよという反応が返ってきた。というのも、東北や北海道の人に電話をすると「はい、斎藤でした」という返事が返ってくる。「こんばんは」も「おばんでした」となる。現在のことなのに表現は過去形。昔からごく普通に交わされている表現だ。なるほど、「ファミレス言葉」に似ているような気もする。もしかしたら、ファミレス言葉の起源は東北にあるのかもしれない。

 しかし、起源がどうあれ、言葉は適材適所である。東北で使うならそれは方言として普通であっても、東京ではおかしいという自覚をもってほしい。
 自分では、丁寧に話せた思って勝手に満足しているのかもしれないが、その一方で相手を不快にさせているという事実に気付いてほしい。

 こんなケースもある。

 「イラッシャイマ~セェ」、「ア~リガトウ、ゴザイマシタ~」・・・人の顔も見ないで、節(ふし)を付けて声を出すコンビニ店員。パブロフの犬である。その言葉の意味も考えず、感情すらない。ドアの開け閉めに対する単なる条件反射に過ぎない。こんな声を聞くぐらいなら、チャイムやブザーをならしてくれた方が、よほど心地いい。

 このように相手のことを慮(おもんぱか)る態度の欠如は、今の若者達の間に広がっているようで、とても気になっている。

 営業という仕事は言葉を武器として使う。正しい言葉遣いは、相手の心を動かす力がある。相手の気持ちや求めに応えようとすると、人は相手に伝わるように、そして、心に響くように言葉を選ぶ。そんな経験の積み重ねが、正しい言葉遣いを育ててゆく。

 私は大学時代、「特殊教育学科言語障害児教育課程」を専攻していた。その授業の中で、こんな話を聞いた。
 
 聾唖者の母親が子供に言葉を覚えさせようと、毎日テレビを見せていたそうである。しかし、結局その子供は言葉を話せなかった。その理由について教官は、「言葉は、相手に何かを伝えたいという気持ちが無くては習得できない」からだという。

 普通母親は、その意味が通じているかどうかはともかくとして、子供に盛んに話しかける。子供もまた、話しかけられたことに何とか応えようと言葉にならない声を母親に返す。母親もまた、その声に反応して、「そうなの・・・、そうなのよねぇ~」などと言葉を返す。子供は、その母親の反応が嬉しい。そうやって子供は、また何かを伝えようという気持ちを持つようになる。このような関係が先ずできなければ、言葉は習得できないというのである。

 人は、言葉を学ぶ以前に、相手への思いやりや愛情を育てる。言い換えれば、相手への思いやりや愛情無くして、言葉は学べない。

 「ファミレス言葉」やコンビニの「条件反射言葉」には、相手の目線、相手への思いやりや愛情がまさしく欠如している。

 自分さえ良ければいいという風潮。これは、言葉だけの問題ではない。日本の良き伝統が崩壊する兆しなのか・・・私の考えすぎならばいいのだが。

2008年11月21日金曜日

部下への信頼 社長の大切な仕事

 今朝5時のNHKニュースで、渋谷の気温は7.5度。一方自宅のある国分寺の気温は、1.0度。あらためて、田舎なんだなぁと思う。
 5時30分、快晴の空、オフィースについたら仕事を始める前に皇居を走るつもりで準備をして家を出たが、あまりの寒さ!少し暖かくなってから走ることに・・・何ともふがいない。

 さて、先日、あるネットワーク・インテグレーターの社長にお会いする機会があった。100人ほどの会社だが、優秀なエンジニアがそろっているという。

 そのお人柄とともに、言葉の端々に自信がみなぎっていた。自社の技術についての自信、部下への信頼、新たな仕事への意欲、この厳しい景気情勢の中でも売上増を予定とのこと。こんな社長の下で働く社員たちのモチベーションは、きっと高いに違いない。

 社長に社員への期待を伺った。

 「お客様を病人だと思いなさいといつも言っています。医者にとって、ひとりの患者さんは、大勢のうちの一人かもしれない。しかし、その患者さんにとっては、唯一の医者。生きるか死ぬかを託する相手。その期待に応えてこそ、本物の医者。そんな医者こそがプロフェッショナル。社員には、そんなプロフェッショナルになってほしいと思っています」。

 お客様の信頼に応えるということは、こういうことを言うのだろう。

 「うちの社員は、この会社がつぶれても困りませんよ。彼らの力ならば、高給で雇ってくれるところはいくらでもある。優秀な人間が集まっているんです。」

 なかなかこんなことを言える社長はいない。可能性を信じてくれる上司の下で働く部下は、その期待に応えようと、ますます優秀になる。そんな職場を作ることもまた、社長の大切なしごとなのだと思った。

2008年11月20日木曜日

ケーススタディ:部下の転職相談 さあ!どうします?

 久し振りにケース・スタディを掲載させて頂きます。対象は、営業マネージャーのあなたです。ちょっとヘビーな内容ですが、営業現場では良くある話です。

 さて、あなたならどう対処されますか。是非コメントにて、皆さんなりの考えをお聞かせ頂けませんか?グループ・ディスカッションみたいに、みなさんのお考えをコメントのやり取りで共有できればいいですね

 長文ですが、是非トライしてみて下さい。!

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1.ケース分析の目的
 営業マネージャーの役割は、自身の組織目標を、組織メンバーを使って達成することにあります。ここが、個人目標達成だけを考えればいい担当営業と大きく異なるところです。

 ここに設定されたケースは、そのようなマネージャーの役割を改めて考える機会を提供することを目的としています。

 組織の長であるあなたは、この事態をご自身の組織で起こっていることとして受け止めて下さい。そして、どう対処すべきかを自分の問題として、考えて下さい。

 ご自身がこのケースをどのように受け止め、どう対応するかについては、下記の設問に従い、考えて下さい。

 絶対的な正解はありません。是非コメントにてお考えをお聞かせ下さい。

 自分の考えを他人に伝えること。他者の意見を読むこと。その意見に自分の意見をぶつけてみること。その過程を通じて、自らの考えを整理し、新たな視点に気付いて頂くことが、このケース分析の目的です。

 コメント投稿で、そんなディスカッションができればと願っています

2.ケースの概要
 あなたは、営業マネージャー(あなたが、SEマネージャーや営業リーダーなら、置き換えて考えてみて下さい。)です。あなたが期待している有能な部下であるA氏が、転職について相談に来ました。彼は、まだ結論を出しているわけではありません。かれは、自分の現状や会社の状況を冷静に整理し、どのような結論を出すべきか、真剣に悩んでいます。

3.ケース分析の進め方
(1)「4.ケースの詳細」をよく読んで下さい。あなたは、A氏の上司になりきり、感情移入してください。この状況が現実であり、自分の問題であるかのように、イメージをふくらまして下さい。

(2)設問に回答するカタチでコメントして下さい。文章でも箇条書きでも、かまいません。とにかく、自分の考えを何らかの方法で、そこに書き出して下さい。完全な文章になっている必要はありません。論理的に矛盾していても、思いついたことのメモ書きでもかまいません。とにかく、考えたことを書き出してみることが大切です。真剣に考えることが大切です。

(3)この設問について、自分だけではなく、他人の意見を読むこと、自分の考えたことをどんどん発言して下さい。正解はありません。自分中の矛盾や葛藤も意見として述べて下さい。その過程を通じて、自分の考えを整理し、新たな気づきを見つけて下さい。

4.ケースの詳細
 お客様を担当する現場の営業やSEからは、「今までのお客様に加えて、担当するお客様が増え、ますます忙しくなった」とか、「お客様の状況が十分に引き継がれないまま担当が変更となることで、お客様への信頼関係を損ない、ビジネス継続を難しくしている」などのネガティブな話を聞くことが多いようです。同じ業界と比べて、どうかという議論も気になるところではあるのですが、明らかに営業活動に支障をきたしていることは事実です。

 このような状況の中、営業A氏が、個人的に相談したいことがあるとのことで、あなたの所に来ました。
 彼は、転職3年目の31才、まだライン職ではありませんが、若手の中では、リーダー的な役割を担っています。
 仕事の緻密さには欠けますが、何事にも積極的で、人当たりも良く、社内外を問わず、人間関係をうまくこなしてゆく才能があります。また、他人の考えと自分の意見を切り分けることもでき、他人の意見に迎合することなく自分の考えをはっきりと主張できます。ただ、思いこみが強く、容易に自分の意見を曲げない頑固なところもあります。ただ、頑迷で融通が利かないというほどではありません。

 彼の相談とは、転職のことでした。まだ決心をしたわけではないが、以前働いていた会社の元上司から、「別の会社に移ったのだが、新しい会社で営業として一緒に働いてくれないか」と相談を受けているとのことです。

 A氏が働いていた以前の会社は、外資系ネットワーク機器の日本子会社。販売する商品は限られ、お客様もSIerやNIerなどのシステム・ベンダーに限られていました。また、設定された数字目標も相当高く、現実的ではないと感じていました。また、目標達成に対するプレッシャーもきつく、ストレスを強く感じ、仕事への意欲を失っていたそうです。

 仕事の範囲は狭く、面白味に欠ける、ノルマも厳しく、いくら忙しく働いても目標達成は困難。このような状況では、自分の才能をのばすことはできないと感じるようになっていたそうです。そこで、転職を決意したとのことです。このときは、まだ20代ということもあり、あまり後先を考えていなかったそうです。とにかくこの現状から脱したいという気持ちが優先していたそうです。早速、人材会社に登録をしたところ、この会社を紹介され、面接を受けて入社することになりました。

 それから3年がたち、営業として、ビジネスを自らマネージできるまでになっています。また、昨年結婚し、今年夏には、最初の子供が生まれる予定です。

 そんなA氏に話を聞きました。

 「今までの会社と違い、ネットワーク全般にわたるビジネスに関われること、ブランド力もあり、今までのネットワーク・ビジネスについての経験を生かしながら、より広い範囲での仕事に携われること、そして、中間の販売会社ではなく、実際にシステムを使うお客様と直接関われる職場であることなどが、入社の決め手となりました。

 入社間もない頃は、何事も新しいことが多く、新鮮な驚きと勉強しなければならないことも多く、忙しくも楽しく仕事をしていました。ユーザーであるお客様に直接接することができることも、今までにない楽しみとなっていました。

 しかし、ここ最近、そういう驚きや楽しみも時間とともに薄れ、日常のルーチン・ワークに埋没する忙しい毎日を送っています。会社を辞めたいという決定的な理由があるわけではありません。ただ、ほんとうにこのままでいいのだろうかと、漫然とした不安を感じています。忙しいことそのものは、そんなに気にはなりません。しかし、不安があります。

 自分の今やっている仕事の価値への疑問、不完全燃焼とでもいうような、もやもやとした不満があります。自分の仕事についての責任は自覚しているつもりです。職責を全うすべく、必死で働いていることには自信があります。目標達成についても、厳しいながら、周りに比べれば、それ以上はやっています。でも、一方では、忙しさで、自分をごまかしていることも事実です。よけいなことを考えずに済ませるために、忙しさを装っている面があるということです。自分に対して、「そんなこと考えても意味ないだろう」と言い聞かせているのかもしれません。また、他人に自分の不安を悟らせることは、周りの士気にも関わります。忙しく見せることで、自分には迷いなど無く、必死で働いていることをアピールしているのかもしれません。

 最近、営業本部長が、「新しい提案を仕掛けなさい!」と言われる機会が増えました。APSでもそのようなことが求められます。しかし、日常の仕事をこなすことに精一杯で、なかなか、そんな心の余裕が生まれません。決して、時間がないわけではありません。その必要性も十分に承知しています。しかし、現実には、なかなかそれもできず、少し焦りもあります。また、仮に新しい提案を仕掛けても、それを受けられる体力がこの会社にあるのかどうかという不安もあります。

 今の体制では、新しい提案をしても、結局は実現できず、お客様の信頼を裏切ることになるのではないか?そのことに、会社はどう対応しようとしてくれるのか不安です。自分がやらないことへの言い訳のようにもなってしまうのですが、上司の求めていることと会社の向かう方向のちぐはぐさを感じています。

 そうかといって、会社を辞めれば、このような不安を解消し、自分の実力を発揮できるかというと、その確信もありません。転職は、確かに状況を変え、気分を変え、新たなチャンスを与えてくれることも事実です。しかし、この会社に転職した経験から、限られた期間の中で、転職先の会社のすべてが分かるわけではなく、自分の才能や経験が、本当に新しい職場で発揮できるという保証はどこにもありません。それよりも、状況がよく分かっているこの会社で、仕事をしているほうが、とりあえずは確実です。自ら「会社を変革する」というほどの意気込みも、力もありませんが、会社がそのような方向に向かおうというのであれば、自分もその中で頑張りたいという思いもあります。

 ただ、自分の今後のキャリアについては不安です。自分が将来この会社にとって、どういう役割を果たし、処遇されるのか、まだ先のことですが、不安です。言い換えるなら、会社自身の将来の姿が、はっきり見えてこないのです。漠然とした言い方ですが、この会社の将来に不安を感じています。

 このような状況の中で、残るべきか、それとも、思い切って転職すべきか、判断できずにいます。」

 A氏は、決して会社を感情的に批判しているわけではありません。むしろ、自分が迷っている状況をなんとか冷静に伝えようと整理し、その中で、今の会社の現状に言及しています。もし会社を辞める気であれば、もっと感情的な表現や批判があってもいいものですが、そのようなことはなく、本当に、今の状況に迷っているようです。

 A氏は、転職の期限を決めているわけではありません。ただ、元上司の手前もあり、結論を先延ばしすることはできないとも考えています。また、今自分が辞めてしまったならば、他の営業や上司に相当の負担を強いることになることも承知しています。また、このような曖昧な気持ちのままで辞めてしまえば、現実から逃避するための手段にも思え、自分で自分を納得させられないようにも感じています。
 
5.設問(コメントに答えて下さい)

(1)あなたは、A氏に期待しています。100点満点とは言えませんが、部下としては優秀であり、若手のリーダー的存在として、組織の中核で仲間を引っ張って欲しいと考えています。彼との間には、個人的な信頼関係もあると感じています。かれは、今回の転職を考えるきっかけについて、あなた個人に、なんら責任や理由はないとはっきり言っています。あなたは、彼になんとか残ってもらいたいと考えています。あなたは、このようなA氏にどのようなアドバイスや提案ができるでしょうか?また、マネージャーとして、なにができるでしょうか?
 
(2) A氏のような会社への不安や不満は、彼だけではないようです。もし、あなたが、経営者ならば、あなたは、どのような施策を打ち出し、どのような行動を行うでしょうか?

2008年11月17日月曜日

情報=インフォメーションとインテリジェンス

 先日、釧路の小学校の給食に出された「鹿肉丼」に猟銃の弾が入っていたとのニュースがあった。給食に「鹿肉丼」とは、豪勢なことと驚いたが、何と片手落ちで見識のない報道だろうかとも驚いた。

 フランス料理にジビエという料理がある。本来はハンターが捕獲した野生のものを料理したものを指す用語だが、供給が安定しないことや入手困難で高価になってしまうといったこともある。そこで、飼育してから一定期間野に放したり、また生きたまま捕獲して餌付けしたものも、ジビエとして流通している。今回給食に出たものも、野生のものを飼育した後、食肉加工したものだという。

 そもそも、ジビエに鉄砲の弾が入っているなど、何も珍しいことはない。レストランでジビエを注文すると「気をつけてください」と一言添えられる。そんなものである。

 最近、食の安全が問われている。そんな話題と絡めたかったのであろうが、どうもとんちんかんな気がする。記者の良識のなさもさることながら、そういった知識背景を語らず、まるで給食を提供した学校や食肉業者の不手際を攻めるような内容となっている。

 鹿肉を給食に出すアイデア。過剰な保護で増えすぎた鹿の頭数抑制と地産地消への取り組みと言う。こんなマスコミの不見識な報道で、この取り組みに水が差されないことを願うが、早速「豚の焼き肉」に変更というニュースが飛び込んできた。それ見たことかと思う。

  • こんにゃくゼリー(8件)よりも餅でのどを詰まらせる人(77件)がはるかに多いという事実を伝えていない。
  • マンナライフのみがマスコミに取り上げられ、しかも大臣までがこの会社の社長を呼びつけ写真や映像入りで報道、対策していないことへの対応を求めた。しかし、容器も変え注意書きなどが改善されていたことについての報道はほとんどない。
  • 事故が起きた8件の内、6件は他社製品であったという事実も伝えていない。
まさに意図された情報操作としか言いようがない。

 「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」でも紹介していることだが、日本語の「情報」という言葉を英語にすれば、インフォメーション(information)とインテリジェンス(intelligence)という単語になる。

 素材である“データ(data)”を規則に従って整理したものを“インフォメーション”という。そのインフォメーションを蓄積し、分析した結果に基づき価値評価を加えたものが“インテリジェンス”となる。両者は、まったく異なる意味を持っている。

 アメリカ陸軍の参謀マニュアルによると、「指揮官はインフォメーションをインテリジェンスへと転換させ、必要とされる適正なインテリジェンスを配下の部隊に伝え、それを活用させる責務を負っている。その際、恣意的なものを排除し、論理的かつ適切に行われていることを確認しなければならない」とされている。

 この「指揮官」を「部門長」に、「配下の部隊」を「部下」に読み替えてみれば、営業の現場でも通用する話だ。

 お客様の情報、部下の情報、それは、インフォメーションなのかインテリジェスなのか。それを見極めることができなければ、現場の指揮官である部門長としては、失格である。
 
 研修では、こんな話もする。「『事実と推測と期待』を分けて話してください。」と。自分の思いこみや願望は、ことの真実を曇らせることがある。人それぞれに求めているところが違う。その結果、インフォメーションとインテリジェンスの違いを斟酌することのないまま、「情報」として意志決定をしてしまうと、大きな失敗を犯しかねない。

 また、インテリジェンスを駆使することで、お客様の考えを変えさせ、自社に有利な意志決定を引き出すことは、営業の仕事でもある。

 先日、伊達公子が、12年のブランクを乗り越え、全日本選手権で16年ぶりの優勝を果たした。本当にすばらしいことだと思う。しかし、もうひとつの事実が報道されていない。破れた瀬間友里加のことである。若干21歳の彼女であるが、全日本選手権の決勝に勝ち残った日本のトップ・テニスプレーヤーだ。その彼女が負けたと言うことは、見方を変えれば、若手が育っていないと言うこと。そのことに触れた報道を未だ見ていない。

感動には、素人もプロもない/東京国際女子マラソン

 昨日[2009年11月16日(日)]は、東京国際女子マラソンの応援に出かけた。30回目を迎えるこの大会も今年が最後。来年からは、横浜に会場を移して新たなスタートを切る。

 この大会は、誰でも出られるわけではない。もちろん「女性」であることは当然として、過去2年の間でフルマラソンの公式大会で、3時間30分以内でゴールしていることが条件となる。そのため、参加者は1000名足らずの少数精鋭揃い。

 12時10分のスタートを見ようと国立競技場へ向かう。気温15度、小雨、湿度90%。ランナーには決して悪くないコンディションだが、応援にはちよっとつらい天気となった。

 高橋尚子、野口みずきが、過去好記録で優勝している大会である。今年は、渋井陽子に期待が集まっていたが、その期待通りの好調なスタートだった。
 友人達は、市民ランナーと言えども決して遅い連中ではない。中には、サブ3(3時間切り)を狙っている者もいる。しかし、オリンピックを狙うトップランナーと比べると、申し訳ないが「なんとゆっくりなんだろう」と思ってしまう。

 まあ、トップアスリートたちの戦いについては、私が言及するまでもないだろうから、友人達の話をする。

 マラソンの楽しみは、何かとよく聞かれるが、我々市民ランナーにとっては、やはり自己ベスト更新の醍醐味だろうと思う。
 誰と戦うわけではない。自分との戦いだ。そのために日々練習して身体をつくる。週末の山練習もこなし、気持ちも追い込んでゆく。しかし、その成果が本番に出せるという保証はない。その日の天候や体調、コースの状況など、レースの度に違ってくる。そんな厳しさのなかで、レース当日のコンディションをベストの状態にすることは、容易なことではない。「レース展開をどうするか」といった知力の戦いも死命を制す。彼女たちは、そんな準備を重ねて、この大会に臨んでいる。

 国立競技場を快調に周回する彼女たち、その勢いを保ちながら千駄ヶ谷門をどびだしていった。きっとやってくれるよな!と熱い思いがこみ上げてくる。
 
 私たちも早速会場を出て、北品川に向かう。ここは、往路16kmと復路26Kmの通過点となっている。

 往路16Km。完全独走で先頭を行く渋井を見送り、はるか遅れて友人達が通過する。精一杯の大声で「ガンバレー!」と声をかける。みんなまだ余裕の笑顔で応えてくれた。
 しかし、26Kmの戻りでは、そろそろ明暗が分かれてきた。快調に飛ばす者、汗を一杯かき、苦しさをこらえながら走る者。足を引きづりながらスピードが出せず苦しんでいる者。言葉では「ガンバレー!」としかか言えない。歯がゆい思いが残る。

 走り続ける彼女たちを見送り、再び国立競技場へ。既にトップグループはゴールした後だった。なんと独走を維持していた渋井が4位。あんなに遅れて走っていた尾崎が優勝とは、本当にレースは分からないものだと思った。それがまた楽しくもある。

 続々、ランナーが還ってくる。しかし、サブ3を狙う彼女がついに時間には現れなかった。残念。しかし、その悔しさを感じさせない笑顔のゴールに感動した。厳しい練習を重ねてきた彼女を知っているだけに嬉しかった。

 多くのランナーに混じり、友人達が周回コースに入ってくる。最後の一秒を縮めたい。その必至の思いでスパートする彼女は、ゴールした瞬間に倒れ込んでしまった。担架に乗せられるものの起きあがり、なんとか歩き出した。声をかけると涙を滲ませ、自己ベストを更新できなかった悔しさを語ってくれた。よく頑張ったと手が痛くなるまで拍手で応えた。熱い思いがこみ上げてくる。

 26Kmまでは快調に飛ばしていた別の彼女。競技場に入ってきた時には、まったく勢いが無くなっていた。しかし、ゴール直前に背筋を伸ばし、気力でゴールを切る。「お疲れ様」という声がのどに詰まる。

 悲喜こもごもである。自分が走るのとはまた違う感動があった。

 所詮素人の趣味に過ぎない。その通りかもしれない。しかし、感動には、素人もプロもない。人間の一生懸命は、本当にすばらしいと思う。

 改めて、自分もレースに出たいという思いを強くした。

2008年10月30日木曜日

お客様の側に立つ それがビジネスの起点

 10月も終わりとなり、気がつけば誕生日も過ぎ50才の大台を迎えてしまった。もう、この年齢になると誕生日のお祝いなどということもなく、いつも通りに朝を迎え、いつも通りに仕事をこなし、帰宅する。特に感慨はない。ささやかに一杯のワインを口元に運ぶ。目を閉じて少しの時間、自分と向き合う。走っいている自分がそこにいる。まだまだ未熟である。まだまだやりたいことも多い。もっと早くすすまなくてはという焦りもある。改めて、気合いを入れ直し、さらに加速しなければとささやかな決意をした。

 本日、ひとつの会社を友人とともに立ち上げた。株式会社ユーサイド。ユーとは“U=YOU/YOUR”を意味する。あなたの立場、お客様の立場で、最高のものをお届けしたいという思いから名付けた。

 自分たちの利潤を追求することを第一とせず、お客様が喜び、幸せになることの対価として、利益を上げ会社も成長する。そして、そこに働く一人ひとりがその喜びを共有する。そんな、理想をこの会社の名前に込めた。

 “U”には、もうふたつの意味がある。ユニーク(unique)であること。人のまねをするのではなく、自分たちのオリジナリティを発揮する。平凡なこととユニークなことのどちらかを選ばなければならないとすれば、迷わずUSIDE=ユニークな側を選びたい。
 ユ-スフル(useful)であることも大切だ。世の中にとって有益であり、お客様にとって役に立つものでなければ、意味がない。、

 さて、どんな仕事をここで始めるかについては、追々ご紹介してゆこうと思う。

2008年10月28日火曜日

「一歩下がる」スキル 

 上司が2週間ほど海外出張に出かけて帰ってきた。「そういえば、XXの件、やった?」と聞かれたので、「まだやっていません」と答えた。「言ったことしかやらないんだから、気が利かないよなぁ。」とお叱り言葉。

  ああよかった・・・と胸をなで下ろす。

 事実はやっている。正確に言えば、お客様の予定が変わり、プロジェクト存続の危機に直面したが、なんとか臨機応変に対応し、最悪の事態を免れた。少し予算を下回るが、ぎりぎりいけそうな状況にまでは、リカバリーした。とにかく、予算は達成できそうな状況である。

 しかし、彼の「やったこと」の基準がよく分からない。中途半端な答えをしたら、それこそ、どんな質問が帰ってくるか分からない。「じゃあどうやったの?あの人は、押さえたの?XXXには対処している。・・・」などといろいろ聞かれる。そこを見極めなくてはならない。
 「そこももちろんやっています」などと答えようものなら、「気が利くじゃないか。」とちょっと小馬鹿にした言葉が返ってくることは、想像に難くない。ますます、気が滅入る。そうでなくても、今日は虫の居所がちょっと悪いようだ。

 こんな時は、誰がなんと言おうと、文句を言いたい心境なのだろう。だから、こちらが正当性主張しても、それを聞き入れる心の受け皿がない。そんなときは、相手の不平不満のはけ口になることが、彼の心の平衡を保つための最善策といえる。これ以上、感情を高ぶらせないことだ。

 こんなとき、いろいろと説明すれば、間違えなく話題が広がる。性格や人生観などに話題が及び、「だからおまえはダメなんだよ」と徹底的にへこませてくれる。これ以上不愉快な思いはしたくない。

 そんなとっさの判断で、「やっていない」と答えてしまった。

 彼は、私は気が利かない、思慮の浅い人間というように感じているようだ。まあ、評価の基準というものは、人それぞれであるし、彼の目線で見ればそうなのだろうと思う。それを否定したところで、その目線が変わるわけでもない。それどころか、ヘタなことを言えば、ますます言葉に刺が帯びることは間違えない。とすれば、「そうなんだですよ。わたしは、バカなんです。」と認めてしまった方が、こちらへの被害も少ない。

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 あなたは、部下にこんな思いをさせてはいないだろうか。こんなことでは、部下の意欲を高め成長を促すことなどとうてい期待できない。むしろ、がんばろうという気持ちさえ、萎えさせてしまう。当然、組織力の強化など、まったく期待できないだろう。自分で自分の首を絞めているようなものだ。

 あなたの心のどこかに以下のような思いこみはないだろうか?

  • 自分がやらなければ、誰もやるはずがない。
  • 指示しなければ、何もやらない。結局は自分でやった方が早い。
  • 部下は自分より能力や判断力に劣る。たいした成果を期待しても無駄だ。

 自分が思うように人は動かないものである。自分が重要だと思っていても、相手にとっては、それほど優先順位は高くないかもしれない。自分の状況では、何も問題なく進められることでも、相手が同じ状況にあるという保証はない。
 約束を果たすか果たさないかが全てだと言い切ることもできる。しかし、その約束が数字の達成未達だけならば、わかりやすい。しかし、やり方や状況にどう対応したかなどのプロセスまで問われるならば、それぞれの価値観に大きく左右されてしまう。それぞれに自分は約束を果たしたと主張し、それぞれに相手は約束を果たしていないという。水掛け論になってしまう。

 あなたの判断や基準を押しつけ、その通りやりなさいと言うことは、ビジネス目標を達成するという点で言えば、必要なことでもある。しかし、そればかりでは、その人が自らの意志で、改善し成長しようとする意欲や機会を奪うことになる。

 感情というものをコントロールすることは、容易なことではない。しかし、部下を持つ以上、あなたにはそれを行う責任がある。コーチングやいろいろなマネージメント手法が、巷にはある。それを生かすも殺すも、自らの感情を御するスキルが前提となる。

 思いこみをぬぐい、一歩下がって全体を見渡すと、大きな流れや人の心のひだが見えて来るという。そうありたいと思う。

2008年10月27日月曜日

年甲斐もなく「一日二山」に挑戦

 10月26日(日)、パートナー女史と娘は、久米島マラソンに!19歳になる娘にとっては、初のフルマラソンへの挑戦。

 「負けてはいられない」と言うことで、私もこの日は「一日二山」に挑戦した。

 早朝6:00に我が家を出発。川崎インターから大井松田を出て、神奈川県山北町の「さくらの湯」に到着したのは7:30。今日は、ランニングの練習会で9:45集合となっていたが、みんなが来る前に一山走っておこうと早々に到着した。来てみると、中山さんが既に走り出す準備を整えていた。彼もまた、みんなが来る前に一山走っておこうとのこと・・・お馬鹿である。

 彼は万葉公園へ、私は大野山牧場を目指して出発した。この後の練習会でもう一山走ることを考えて抑え気味のスタート。しかし、走り出して温まってくると身体が軽くなる。いつの間にか、自己ベスト!なんて言葉がよぎる。そんなはやる気持ちを抑えながらも、気が付けば結構いいタイムで登り切った。標高200mから750mの山頂へ、およそ9Kmの一本調子の登り。50分はまあまあと言ったところ。
 
 山頂からから再び「さくらの湯」駐車場まで一気に駆け下りる。下りは恐怖心との戦い。重力に逆らわず全体重を足に預ける。どんどん加速がつく。平地では絶対に出せないスピードに、自分が自分ではないような快感を楽しむことができる。そんな快感に浸っているうちに駐車場に到着した。下り9Kmを30分。平均すれば、1kmを3分20秒で走ったことになる。フルマラソンに換算すれば2時間20分。レースが下りだけならなんといいだろうと思うのだが、世の中は、そんなに甘くはない。

 駐車場に到着すると、練習会参加者が集まりはじめていた。それぞれにレースに備えて目標を持ち、自分を鍛えること、チャレンジすることを楽しんでいる。

 この集団の半分以上は女性たち。みんなおしゃれにも抜かりがない。ばっちり決めている。
 高い向上心を持ち活き活きとしている彼女たち。独身女性も多い。このかっこよさに引いてしまう男達も少ないはないだろう。そんなすてきなオーラを感じるとともに、彼女たちに「ほどほどにね!」と云いたくなるのは、おじさんの余計なお節介であろうか。

 そんな集団と再び走り出す。次なる目標は、標高750mの万葉公園への13km。最初、緩やかな登りが続くが、ゴール手前4kmあたりから斜度10~15%の急勾配。そこを駆け上がるのだが、いつものように足が前に出ない。歩くほどのペースで何とか万葉公園に着くが、もう限界だ!しかし、再び13Kmを駆け下りなければならない。考えただけでもうんざりする。いつもとはまったく違う消耗感に、無謀なことをしてしまったと心から反省した。

 いつものような下りの軽快さはない。加速感がない。途中勾配が緩やかになると、地獄である。歩きたくなる。いつもなら、2時間10分ほどで往復できるコースも、この日は2時間30分を切ることができなかった。情けない。
 くたくたになった足を引きづりながら温泉でMy塩でざらざらした身体を洗い流す。後は、冷たいビール・・・と行きたいところだが、車なのでそういうわけにはゆかない。ランナーらしく豆乳でのどを潤し、楽しみはお預けとした。

 本日の走行距離、44Km。そこそこ走った。しかし、まだまだ修行が足りないようだ。秋の深まりを楽しみつつ、そんな課題を再確認する休日だった。

 そうそう、パートナー女史と娘は、久米島マラソン、無事完走。最高気温30度の中を最後まで走り抜いたようだ。おめでとう!

2008年10月23日木曜日

営業という仕事を楽しむためのノウハウ

 今日から、「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座[管理者コース]」が始まる。

 この研修は、既に実施している標準コースを営業課長やリーダー向けに手直ししたもの。ソリューション営業とは何か、その営業活動プロセスとはどのようなもので、如何に実践すればいいのかという標準コースの内容に加え、ソリューション営業を組織として根付かせるためにはどうすればいいのか、また、組織として最大のパフォーマンスを引き出すためにはどのような取り組みを行うべきかといった管理者の立場で行うべき実践ノウハウも充実させている。
 加えて、部下を育てるための考え方や実践方法についても触れた。

 実は、この管理者コースは本日がはじめての開催。既にその内容については、標準コースや別の管理者むけセミナーで分割しては行っているので心配はしていない。心配なのは、時間配分である。伝えたいことが山ほど有る。標準コースでも唯一評価の低い「時間配分」。いままでのコメントを見ると内容が盛りだくさんで、もっと時間をかけてやってくださいとのご意見をよくいただく。
 しかし、営業は忙しい。ゆっくりと研修に時間を使う暇がない。そんな中、決心しておいでいただいたみなさんには、一期一会の想いで、全てをお伝えしたいと張り切ってしまう。今回の管理者コースもそんな気持ちで作った。また、「時間配分」で厳しいご評価を頂くかもしれないが、できるだけ要領よくお伝えするように心掛けるつもりだ。

 私が、この研修をはじめたきっかけは、IT営業のパラダイムが大きく変わりつつある中、その対応に苦しんでいる多くの営業達の姿を目の当たりにしてきたからだ。

 過去の栄光から抜けきれず「俺の若い頃はこうだった・・・」といいながら、精神論を振りかざす上司。「こんなところにいて何しているんだ!とにかくお客様のところを回ってこい!」と根性論だけで、部下を駆り立てる上司。そこには、知性の片鱗もない。

 経験から培われた知恵、人間としての成熟を否定するつもりはない。しかし、それだけでは、部下を活かし、組織としての営業力を高めることはできない。
 こんなことしか言えない上司は、この変化した今の営業環境に対して「どう対処していいか分からない」から、具体的なアドバイスや状況への適切な対応ができず、精神論や根性論でごまかすしか、自分のプライド守れないのではないかと疑ってしまう。

 IT営業にとって「商品ありきの営業スタイル」は、もう時代遅れだ。どの会社もCiscoを売り、サーバーは、IntelとWindowsServerかLinux。なにをもって、競合他社と差別化し、自らの優位をアピールすればいいのだろうか。

 今の時代は、「商品なしの営業スタイル」である。商品は、お客様が知っている。お客様の課題、そしてそこから導かれるお客様の真のニーズこそ、営業が提案すべき商品がある。お客様の課題を見つけ、ニーズを明らかにし、お客様と合意する。
 お客様個別のオーダーメイドの商品を仕立て上げるテーラーであり、組織を使って作り上げ、運営していくプロデューサーが、今の時代に求められる営業だ。私は、このような営業を「ソリューション営業」と云っている。

 決して精神論ではない。実務実践のノウハウであり、それを支えるエンジニアリングがある。それを伝えたいと思っていた。それがこの研修をはじめたきっかけだ。

 果たして、どこまでその理想に近づいたかは分からない。まだまだ未完成だ。それでも、少しでもその片鱗を伝えることができれば、営業は自分でどうすればいいのかわかり、もっと活き活きとし、営業を楽しめると思っている。

 楽しんでいる営業は、お客様からも信頼されるし、大きな仕事も任せられる。そのための実践ノウハウ、営業という仕事の定石を学んで頂きたい。そんな思いを込めて、これから出発します。

2008年10月15日水曜日

怒りには理由がある

 「あたまにくる」「冗談じゃないよ」「ゆるせない」「なにやってんだよ」「いいかげんにしろ」・・・私が、このような言葉を口にすることはまずない。そう思うこともあまりない。自分は感性が欠如しているのだろうかと考えてしまうこともあるが・・・しかし、できないものはできない。

 このような表現を感情豊かに平気で言える人を時にうらやましいと思うことがある。これもまたひとつの才能なのかなあとうらやましく思うこともある。

 怒りには、その人なりの理由がある。受け取る側が相手に合わせて、感情的に捉えてしまうと、相手の思いの本質が見えてこない。

 怒りの言葉には「絶対にその考えを変えるつもりはないぞ!」というような確信とでもいうか、信念とでも云うか、ものすごいエネルギーが、渦巻いている。このエネルギーの一部が「口」という小さな窓を通して、ちらりと見えただけである。氷山の頂上が見えているだけであって、その下には大きなエネルギーの塊が隠れていることを覚悟しなければならない。

 怒りに「論理的」に対抗しようとしても所詮勝ち目はない。論理とは言葉を整理するための手段であり、そのエネルギーに対抗できるものではない。多少なりとも、力のかけどころを分散する効果はあっても、「エネルギー不変の法則」を変えることはできない。

 では、こちらも「感情的な表現」を使って対抗すればいいのかというと、それも簡単なことではない。どうも怒りのエネルギーというのは、ぶつかり合うことで相殺されることはないようだ。原子核に中性子を打ち込むようなモノで、怒りに怒りのエネルギーをぶつけると核反応でもするかのように、さらにエネルギーの量が拡大し、世界の終末まで戦うぞと云うことになりかねない。

 私も怒りを感じないわけでもないのだが、それを言葉にすることにとても抵抗を感じる。そんな気持ちがあるので、ますます怒りを自分の中に封じ込めているのかもしれない。だから、相手が怒りを顕わにしているときも、努めて冷静に相手の言葉の裏側にある論理を読み取ろうとするのだが、相手にしてみれば、自分の気持ちが通じていないと見えるのだろう、「君はどう考えているんだ」などと突然振られることがよくある。

 怒りの言葉は、時にして論理的一貫性を欠く。というよりも、基本的なところの論理は一貫しているのだが、表現がワープするというか、煮詰まった表現の断片が、時間軸を無視して打ち出されることが多く、簡単には相手の論理をこちらで再構成できない。「何怒っているのだろう?」と直ぐには分からないこともしばしばだ。

 しかし、問われた以上は、自分の考えを伝えなくてはならない。だが相手の論理がまだ読み切れていない。自ずと的はずれなことも多く、結果として相手の怒りに油を注ぐことになる。

 営業という仕事をしていると、お客様の「怒り」に遭遇することはしばしばだ。さて、どう対処すればいいのだろうか。簡単なことではないが、次の3つの手順に従ってみるというのは如何だろう。

1.相手の気が済むまで、徹底的に話を聞く
 まずは、これしかないだろう。怒りの感情を持続させるには、相当のエネルギーを消費する。永遠に燃え続けることなどできない。時に耐え難い屈辱的な言葉を浴びせられることもある。それでも、なるほどと耳を傾ける。

 決して聞き流すのではなく、打ち出される言葉の断片の裏側にある、論理や法則を再構成すべく、脳みそを全開にする。
 「また、なんか怒ってるよ」と馬耳東風で聞き流していると時間はものすごくゆっくりと流れる。そんな応対をしていると自分が「無駄な時間を過ごしている」ことに怒りを感じてしまう。それを相手にぶつようものなら核爆発を起こしかねない。

 一方、相手の論理を理解しようとすると、知的好奇心が刺激されて、推理小説の謎を解くような興奮がわき上がってくる。そうこうしているうちに、「ユーレカ!」である。相手の怒りが大きければ大きいほど、こちらの喜びも大きい。気がつけば、あっという間に時間が過ぎている。

 相手に対する感謝の気持ちさえわき上がってくる。仲間になれたとでも云うか、相手の側に立てたことは営業として何よりの成果だ。

 「分かりました!こういうことだったんですね。あなたを理解することができました。ありがとうございます。」そんな言葉が自然と口をついて出てくれば、なんと幸せなことだろう。

2.相手と一緒に怒る
 相手の論理が読めたなら、それを受け入れることができる。なるほど頭にくる。おっしゃるとおりですと思えるのなら、その感性に素直に従い、相手に伝えることだ。怒っている相手が例え自分であったとしても、悪いものは悪いと思えるのなら、そう云えばいい。

 もし、その論理に問題があるとすれば、素直にあなたの考えを伝えてみるといいだろう。但し、冷静に、客観的に言葉を選びながら、通常の1.5倍時間をかけて、ゆっくりと話すことを心掛けよう。

3.時間を味方に付ける
 それでも、相手の怒りが収まらないのなら、あとは時間を仲間に引き入れるしかないだろう。なるほどなるほどとうなずき、相手への理解を示す。
 
 もうこれ以上言葉がない、あるいは、相手が精根尽き果てるまで、相手の怒りの言葉を聞き続ける。それしかない。

 このような状況においては、相手は圧倒的に不利である。なぜなら、単位時間当たりのエネルギー消費量は、相手がはるかに多いはずだ。こちらは余裕を持って、悠然と構えることができる。そして、ひたすら、相手の言葉の裏側にある状況を分析する。
 相手の立場、今置かれている状況、例えば、会社での軋轢、なぜ怒っているのか、その理由はどこにあるのか。もし、彼が何らかの要求をしているのなら、その要求が通らないとき、彼はどのような立場に置かれるのか、家族の目、会社での評価・・・いろいろと想像してみる。これはなかなか興味深い。こういうときこそ、普段見ることのできない心の内面を覗くことができる。お客様の立場に立つ、お客様を深く理解する絶好の機会だ。

 気がつけば、相当な時間が過ぎている。腹もすくし、他の仕事もしなければならない。一時の興奮状態は多少なりとも収まり、冷静さ、論的思考力が蘇る。この時を待って、あなたの考えを静かに、時間をかけて伝える。そして、次のステップを探るのが賢明だろう。

 「怒りには理由がある」。ただ理由もなく怒っているのではない。例えその理由があなたにとって直ぐには理解し得ないモノであっても必ず理由がある。怒りを恐怖や威圧として受け取るのではなく、なぜ?の気持ちで想像を巡らし、相手について考えてみる。

 「なんと、理不尽な!」「なんと自分勝手な!」「こちらのことなど何も考えていない。」などと先入観を持たないことだ。相手をより深く理解するきっかけを逸することになる。

 となればいいのだが・・・こんな冷静でいられるばずはない。

2008年10月9日木曜日

こんにゃくゼリー マスコミのネタ、利用する政治家

 「蒟蒻畑」が製造中止となった。メーカーの経営者、社員の方の心中を察するに、やりきれない思いがする。

 報道によれば、


とある。一見すれば、至極当然なことのようにも思うが、どうもマスコミの話題作りのネタであり、それを政治家が利用したに過ぎないのではないかとも思えてくる。

 こんなデータがある。

 


















 ここに上げた統計は、サンプル調査であって、食品窒息事故の一部を取り上げているに過ぎない。実数については明確ではないが、この報告の中に「食物による気道閉塞が原因で死亡する事例は、近年4000例を超え、年々増加傾向にある。」とある。

 こんにゃくゼリーは、「カップ入りゼリー」に含まれるのではないかと思うが、この統計を見る限り事故の原因として、もちやご飯がはるかに多い。お粥さえも窒息の原因となっている。こんにゃくゼリーが、もちやご飯に比べて消費される量は少ないだろうから、単純に数字を比べてどちらが危険だと判断するわけにはゆかない。しかし、それにしてもなぜ「もち」については、何のおとがめもなく「こんにゃくゼリー」だけをやり玉に挙げるのか。そこには、話題のネタとして取り上げたマスコミ、それを宣伝の材料とした政治家の思惑を勘ぐってしまう。

 「消費者行政」。現内閣の目玉でもある。それに如何に熱心に取り組んでいるかをアピールする絶好の材料が「こんにゃくゼリー」というわけだ。

 安全を喚起すべきことに異論はない。また、事故で尊い命を失われたご遺族に心より哀悼の意を表したいと思います。
 だからこそ、「こんにゃくゼリー」をひとつの例として、「食品による窒息事故には注意しましょう!」というべきであり、行政もそのための取り組みを進めるべきだと思う。しかし、大臣が特定メーカーの幹部を呼び出し改善を求める。しかもその様子をマスコミに報道させる。「自分は大臣としてしっかり仕事をしています。」とのパフォーマンス。まるで呼ばれた企業関係者は悪人扱いではないか。どうも話の本質がすり替わってしまったようだ。

 「警告する外袋のマークの拡大やミニカップ容器にも警告を表示するなどの再発防止策を求めていた。」とあるが、実際現物を手に取ってみたが、十分に大きな警告であり、これ以上大きくしたところで、注意喚起が強まるとも思えない。まさに強い立場を利用した「恫喝」とも受け取れる。

 ましてや、社民党が提出した「こんにゃくゼリーによる窒息死事故に関する緊急申し入れ」を見て開いた口がふさがらない。話題に乗り遅れまいとしたパフォーマンス。国民のためとの大義名分を掲げ、人の死、企業の苦労や経営者の思いを斟酌することなく自分たちの宣伝として利用する。その内容の現実感覚のなさにはあきれてしまう。

 このブログは、本来こんなことを書く場所ではないと心得ている。しかし、仕事柄いろいろな経営者と会う機会もあり、彼らの心中をどうしても考えてしまう。

 この会社もいろいろな苦難を乗り切り「蒟蒻畑」というヒット商品を生み出したのだろう。経営者の苦労が忍ばれる。そして、テレビCMや雑誌広告など人気が出て、ますます目立つようになる。それを叩けば、当然叩いた側の宣伝効果も大きい。利用された側は、たまったものではない。

 企業側にまったくの非がないかどうか。どこまで安全性について議論して、製品作りをしてきたのか。安全性へのリスクがあきらかになった早い段階で、勇気を持って公表し、注意を喚起すべきだったの声もある。お客様の側に立つ姿勢が単なる理念だけではなく、行動の規範として活かされていたのだろうか。これについては、想像の域を出ない。

 今回の事件は、会社の経営に携わるものとして大いに憤りを感じると共に、改めて自身の襟元をただす教訓とすべきではないだろうか。

 

2008年10月8日水曜日

ドイツパンの時間、山崎パンの時間 

 ベルリンの中心部、あのシロクマ「クヌート」のいるベルリン動物園のすぐそばにある"Hotel am Zoo"に宿を取りました。1920年代に立てられた古い建物ですが、現代アートで仕立てられた内装は、とても洒落た雰囲気です。
 堅牢な造りは、90年近い時代を経てもしっかりと仕事をしています。古いものを大切にし、それを新しい時代に合わせて活かし続ける。そんなドイツの国民性を感じさせてくれます。

 滞在期間中の朝食は、毎日ホテルのレストラン。普段は、コンビニのおにぎり程度で軽くすましている朝食もこの期間だけはフルコースでした。

 小さなレストランですが、テーブルには白いクロスがかけられ、落ち着いた雰囲気。食事の会話もみんな静かで、どこやらの温泉宿の朝食ビュッフェのような喧噪もありません。とてもゆったりと落ち着いた時間を過ごすことができました。

 レストランの中央部に置かれたテーブルには、何種類ものハムやパン、チーズが並べられています。どれも化学物質無添加のフレッシュなもので、美味しいものばかりです。レース前だというのについつい食べ過ぎてしまいました。

 パンはどれもずっしりとしたもの。「XXXソフト」というような、ふんわり系は一切ありません。噛むほどに味が出る。しかし、噛んでも噛んでもなかなか飲み込めないほどに密度の濃いものばかりです。パートナー女史は、「マラソンの筋肉痛はないけれど、あごが筋肉痛」と嘆くほどです。
 
 特に酸味のある黒パンは、ずっしりと鉛のように重い(笑)。それにレバーゲーゼ(レバーペースト)を付けて頂く。これはもう絶品でした。

 そんな朝食につい時間を忘れてしまいます。パンを何度もしっかりと噛んで食べる。噛むという時間がどうしても必要です。口に入れてふわっと溶けて直ぐのみ込めるような日本パンとはまったく違います。そんな時間が当たり前のように存在する。子供の頃から、そして、長い歴史の中でそんな時間がずっと流れている。それがドイツの時間のようです。

 レースの翌日、レンタカーを借りてドレスデンへ向かいました。行ってみたかった街のひとつです。第二次世界大戦中、連合軍の無差別爆撃にあい、街の80%が消失したといわれています。サグクセン王国の古都で、日本で云えば、京都や奈良のようなところ。バロック時代の豪華で荘厳な建物が建ち並ぶところでした。軍需施設はほとんどなく、歴史的建造物の建ち並ぶ街。終戦間近、この街だけは空襲にあうことはないだろうと、ドイツ各地から多くの難民がこの街に身を寄せていたそうです。そんな街が爆撃され、何万人もの命が奪われたそうです。

 エルベの川岸に建つ王宮や寺院、その大きさと芸術性の高さ。ひとつひとつの建物だけではなく、辺り一帯の街並みに時空を越えたモノや時間へのこだわりを感じます。

 そして、何よりも感動し、実感したのは、我々日本人とは違う歴史のとらえ方です。

 街の中心部に建つ「聖母教会」。荘厳な聖堂は、黒と淡いクリーム色の石のブロックで斑(まだら)に組み上げられています。黒い石のブロックをよく見ると、それは紛れもなく焼けこげたもの。そこに銃弾でえぐられたと思われるくぼみがいくつも見ることができます。
 聞くところによると、がれきの山となっていた教会からひとつひとつ石のブロックを拾い集め、それをもう一度昔の通りくみ上げ、足りないところを新しいもので埋める。そうして再建された建物だそうです。

 この「聖母教会」だけではなく、周辺にある多くの建造物がそのようにして建て直され、改修されてきたそうです。

 広島の原爆ドーム。破壊された当時の姿をそのまま後世に残し歴史の証人とする。一方、このドレスデンでは、破壊と再生をひとつの建物に封じ込め戦争の悲惨さを今に伝えています。それぞれの伝え方があります。

 ベルリンのホテル、ドレスデンの聖母教会。ドイツの時間は、どうも日本とは違った流れ方をしているようです。

2008年10月2日木曜日

ベルリンマラソン 完走記

 ハイレ・ゲブレシラシエが、2時間3分59秒の世界新記録を樹立したコースを一緒に(笑)走ってきました。

 9月28日、ベルリンマラソン。35回目の記念レース。4万人の人たちが、ベルリンの街の中を走る世界でも最大規模のレースのひとつです。

 スタート地点となったティアガルテン公園。号砲と共に一斉に黄色い風船。歓声が上がり、否が応でも興奮が高まります。4万人の大集団がゆっくりと動き出し、レースがスタートしました。

 気温は、10度を割っています。空気も適度に乾燥し、絶好のコンディションです。紅葉も始まっていて、日本でいうところの晩秋の気候でしょうか。夏の山練習、平日の皇居、自分なりの練習は積んできたつもりですが、それが活かせるかどうかは分かりません。ただベストを尽くすのみです。

 大勢のランナーの塊にのみ込まれながらスタート・ゲートをくぐったのがおよそ五分後、いよいよこれからが私にとってのレース本番。時計のスタート・スイッチを押して、気持ちを引き締めました。

 回りのランナーは、みんな図体がでかい!国内レースとはまったく違います。日本人はほとんどいないようで、ドイツ国内や北欧から沢山参加していました。そんなランナー達の合間をかいくぐって、自分のペースを作ることは容易ではありません。それでもなんとか、最初の5Kmは予定のタイムでこなすことができました。

 歴史的な街並みを走る。なかなか経験できることではありません。教会や宮殿などの建物だけではなく、普通に人が暮らす住宅もまた歴史を感じさせる落ち着いた造りをしています。聞くところによると築後100年以上も経った建物を改修して住み続けているところも多いとのこと。大きく育った木々と共に街にどっしりとした風格が感じられます。

 応援もすごかった。人々の歓声とドラム缶太鼓、和太鼓、ジャスの演奏、クラシック、イケイケ・レディやゲイのおねーさん(?)の踊りと歌・・・とにかくうるさいぐらいで気が散りました(笑)!
 
 30Kmまでは、そんなことを考えながら余裕のレース展開。ほぼ予定のタイムを刻んでいました。しかし、30Kmを過ぎた当たりで、右足ふくらはぎにいやな痛み。35Kmを過ぎる頃には、激痛となっていました。ちょうど歴史的建造物カイザーウイルヘルム教会の当たりでしょうか。同時に消耗も激しくなり足が前に出なくなりました。これはまずいと思いつつも、どうしようもありません。

 なんとか最後までは走り通しましたが、結果は不本意なものとなってしまいました。


距離  時間 ラップ
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5 km 0:23:36 0:23:36
10 km 0:47:05 0:23:29
15 km 1:10:27 0:23:22
20 km 1:33:54 0:23:27
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ハーフ 1:39:02
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25 km 1:57:42 0:23:48
30 km 2:21:48 0:24:06
35 km 2:46:49 0:25:01
40 km 3:18:59 0:32:10
ゴール 3:31:18 0:12:19
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 今回は、3時間20分を狙っていました。ご覧のように30Kmあたりまでは、ほぼ予定通りの走りでした。しかし、30Kmを過ぎた当たりで右足ふくらはぎの痛み。最初は我慢できたのですが、次第に激痛に変わり、同時に激しい消耗感。35Kmを過ぎた当たりからは、もうまったく走れなくなってしまいました。

 レース前の水曜日、最後の練習で皇居一周5Kmを20分52秒。今までのベストタイムを更新し、これはいけるかもしれないとの期待を持っていました。しかし、そのとき今回トラブルを引き起こしたふくらはぎに痛みを感じていました。「やっちゃった!」とは思ったのですが、しかたがありません。

 これだけが原因というわけではありませんが、改めてレースにベストを持ってくることの難しさを実感しました。

 しかし、何はともあれ、完走できたことは、何よりです。ここまで来て、棄権なんてもったいないですからね(笑)!


 そして、歴史の重みを感じる街並み。堪能できました。疲れ切った最後、前方にゴールのブランデンブルグ門が見える。ああ、やっとここまでたどり着いたか!これは、ちょっとした感動です。

 ゴールできた瞬間。よくやったよ!とガッツポーズ。結果はともかく、走り抜いた喜びがこみ上げてきました。

 42.195Km。一年前までは、こんな距離を走れるはずがないと思っていましたが、今では距離に驚くことはなくなりました。しかし、時間を狙うとなるとそう簡単なことではありません。体力だけではなく、知力、気力の総合力がなければ目標は達成できません。改めて、そのことを実感しました。

 楽しくもあり、厳しくもあった今回のレース。今後の課題が見えました。次の目標に向けて、また練習です。その繰り返ししかありません。この単純さが、ランニングの楽しみのひとつなのかもしれませんね。

 筋肉痛はほとんどありません。ただ、右ふくらはぎの痛みが治まりません。この痛みを治すことも考えなくてはなりません。練習と治療。うまく両立してゆくことも課題のひとつです。