2008年12月2日火曜日

数字が出ない、だから仕事をしている振りでごまかす

 あるシステム・インテグレーターの営業会議での話し。この会社も例に漏れず、お客様のプロジェクトの延期や予算見直しのあおりを受けて、年末の予算達成が難しい状況になってきました。

 営業本部長は、今年の春、営業力を強化したいと社長に嘱望され、この地位についた人です。

 この会社には、それまでも営業部はありました。しかし、新規顧客開拓や売り込みというよりも、既存顧客の対応や営業業務が主な役割でした。これでは、この先事業の発展は望めないと考えた社長は、大手システム・ベンダーで法人営業のマネージメントとして、新規顧客開拓に辣腕をふるった彼を雇い入れました。

 彼も社長の期待に応えようと、自ら先陣を切ってお客様をまわり、今年9月までは、なんとか予算を達成することができました。しかし、ここ数ヶ月の急激な需要の減退に、予定を30%も下回る受注見通し。これでは赤字を覚悟しなければなりません。
 社長からも、この状況に対処するための施策を打ち出し、実施して欲しいと求められています。

 そこで、彼が打ち出した施策は、今まで訪問したお客様や展示会などで名刺交換したお客様に、メールや電話で連絡を取り、とにかく訪問して、ビジネス・チャンスを掴もうという作戦です。

 その進め方についての相談を受けたのですが、とにかく「やるだけのことはやる」というのはいいのですが、何を売り込むのか、どうやって受注に持ち込むのか、何のシナリオもない状態です。「下手な鉄砲も・・・」ではないですが、とにかく営業全員で訪問しようというこの作戦に、彼の真意を質しました。

 かれの本音は、「どうせ数字は出せない。しかし、なにもやらないわけにはゆかない。ちゃんとやっているというところを社長に説明できるようにしておきたい。」というものでした。要するに、「仕事をしているふりをしておけばいい」ということなのです。

 目標とする数値も示さず、何を達成すればいいのか曖昧。しかも、メールを送り、電話をするという手段が目的となってしまい、その結果どうなって欲しいかという意向は、何も示されていない。お客様に魅力を感じて頂くための武器もシナリオもない。ただ「売りまくれ」という指示。その一方で、「やった証拠」のために誰に連絡したか、どこを訪問したかは、きちんと報告するようにと営業には伝えられています。

 営業担当者にもそんな彼の腹の内はよく分かっています。当然、モチベーションは上がりません。

 「斎藤さん、ほんとうにこんなことでいいのでしょうか?」と営業担当者に相談を受けました。彼は、自分なりの施策を考え、この営業本部長に提案したのですが、今はそこまでしなくてもいいと受け入れてもらえなかったそうです。

 私は、この営業本部長に、会社が如何に危機的状況に置かれているのか、そして、社長にも部下にもあなたの考えは見透かされていることをわかりやすく説明しました。
 かれも、わかってはいるのですが、期待に応えなければという思いと、どうしようもない状況の狭間で、自分で何とかしなければと思い込み、社長にも部下にも本音でぶつかれなかったようです。

 私は、社長にも進言し、とにかくもう一度なにができるかを関係者を集めてきちんと話し合おうということにしました。

 追い込まれると、自分で抱え込んでしまうか、自分の見栄のために形だけを整えようとする。人には誰もそんな弱さがあります。こういう時だからこそ、あえて開き直り、自分だけではなく、部下や上司を信頼して、英知を出し合うことが必要です。

 これもまた、リーダーシップのひとつのあり方だと思います。

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