2010年3月27日土曜日

これ一枚で分るマーケティングとセールスの違い

 「こ れ一枚で分る」シリーズの第二弾。マーケティングとセールスの役割分担について、考えてみました。

 ITビジネスに携わる営業に とって、「マーケティング」と「セールス(営業)」というふたつの言葉は、はっきりと切り分けられることなく曖昧に使われていることも多いのではないで しょうか。

 だから良い悪いのはなしではありませんが、夫々の違いや機能を定義しておけば、自分の役割をはっきりと認識できます。そうす れば、何を目標とすべきかも明らかになります。ということで、「この一枚」にまとめてみました。

 
  さて、今回は、いかがでしょうか?

 この資料は、前回も紹介させていただいた「ソリューション営業モデル研究会」のメンバーであるキヤノ ンITソリューションズ・事業企画本部の永田さんが、まとめてくれた資料を基に、一枚のチャートに整理したものです。

 永田さんは、長年 ITソリューション・ビジネスの第一線で、マーケターとして活躍されてきたエキスパートです。マーケターの視点から、ソリューション営業のあるべき姿を考 えようということで、この研究会にて、ご見識を賜っております。

 さて、このチャート眺め、改めて「マーケティング」と「セールス」の違 いをひと言で語るとすれば、次のようになるでしょう。

 まず、目的については、

 ● マーケティン グ:お客様に買いたいという気持ちを起こさせること。
 ● セールス:お客様に買う決心をさせること。


 となるでしょう か。

 マーケティングは、お客様に商品や課題の存在を知らせ、自分に必要なことである事を気付かせ、それを手に入れたい、課題を解決した いという気持ちを起こさせることです。

 セールスは、そんなお客様の気持ちを引き継ぎ、この商品を買う、この課題を解決するという決心を 与えることです。

 次に、達成目標については、

 ● マーケティング:個人を特定し、その個人情報 を獲得すること。
 ● セールス:獲得した個人情報を使って、その個人から成約、受注すること。


 となります。ただし、 セールスに代金回収までの責任を負わせる会社もあのます。

 また、「法人ビジネスでは、個人ではなく、会社だろう」というご意見もあるか もしれませんが、これは、私の個人的な意見ですが、法人ビジネスであっても、決心をさせる相手は、個人であると考えています。

 ただし、 法人の場合は、その個人は一人ではありません。夫々に役割や決裁範囲の異なるステークホルダー(意思決定に関与する人)に、夫々の立場で満足と信頼を与え る必要があります。

 手続きとして、稟議という会社の決定は引き出すことになりますが、結局は、その手続きを起案し、承認・捺印をしてく れるのは、個人です。その個人が動いてくれなければ、成約に至らないのです。

 さて、話を元に戻しますが、マーケティングは、お客様を 「買っていいかも」という気持ちにさせ、その気持ちを持っているお客様の名前や連絡先を特定することまでが、仕事となります。

 しかし、 「買っていいかも」という気持ちは、必ずしも確固たる決心ではありません。「よし買うぞ」という決心に変える必要があります。また、「よし買うぞ」という 決心をしても、あなたから、あるいはあなたの会社の商品を買ってくれる保証はどこにもありません。

 そこで、セールスは、マーケティング から渡された個人情報を使って、お客様と個別に連絡を取り、面会の約束を取り付けます。
 そして、お客様が、買いたいと思っている商品、あるい は、解決したいと思っている課題について、お客様と話しをします。それを手に入れたとき、あるいは、解決したとき、どのような満足があるのかを具体的なイ メージとして思い描かせるのです。
 そして、提供しようとしている商品や解決策が、間違えなく、その通りの結果をもたらしてくれるという、確信、 信頼感、安心感を、お客様に抱かせる活動を行います。これが、「提案」でする。その結果として、商品の購入や成約に結びつけるのです。

  このチャートでもお分かりのように、左から右へ、つまりより成約へ向かうほど、対象となるお客様の数は、絞り込まれ、少なくなります。この左から右への一 連の顧客絞込みの過程を、段階を区切り、夫々の成果を管理しなくてはなりません。これを「パイプライン・マネージメント」といいます。

  さて、最後に、マーケティングとセールスの違いを理解するうえで、参考になるP.F.ドラッカーの有名な言葉をご紹介しましょう。

  「マーケティングの究極の目的は、セリングを不要にすることである」

 マーケティングを突き詰めてゆけば、お客様は、ほしくてほしくてた まらなくなる。個別にお客様を訪問し、こちら売り込まなくても、お客様から売ってくださいと来るようになります。つまり、それがマーケティングの目指す究 極の目的であると、彼は言っています。

 ただ、ITソリューション・ビジネスの現場では、必ずしもこの理想は、成立しません。なぜなら ば、お客様が解決したい課題は、ひとつひとつ違うものです。また、課題そのものが、単純なものではなく、お客様も気付いていない、整理できていない場合も 少なくないからです。

 従って、このチャートにもあるように、「課題を解決したいという意欲」を起こさせるところで、セールスは、マーケ ティングと協力することが必要です。これが、「課題の発掘」という仕事になります。

 いかがでしょうか、「マーケティングとセールスの役 割分担」については、整理していただけましたか。

 しかし、きっとこんなフラストレーションを感じられるかもしれませんね。

  「でも、どうやって実行するの・・・?」。

 これを体系的に整理し、実践マニュアルを作ろうという取り組みが、「ソリューション営業モデ ル研究会」です。よろしければ、どうぞ、メールにてお問い合わせください。
 

■ 「ドラッガー」を「ドラッカー」に訂正いたしました。

ブログをご覧いただいた方から、以下のご指摘を頂きました。
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「ドラッガー」というのでは、アマゾンなどで本を探す方が困ってしまうと思いますので、
やはり「ドラッカー」が良いかと僭越ながらお伝えしたく、メールを差し上げた次第です。
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ご指摘を感謝申し上げます。改めて確認いたしましたところ、ご指摘どおりです。本文の記述を訂正させていただきました。大変失礼致しました。

正しくは、「ピーター・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)」です。
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  余談ですが、私の友人が、特許翻訳や海外出願の仕事をしています。彼女が言うには、

「こ れらは、法律文書です。「英語が分る」程度では、確実な権利の確保や将来の訴訟に対応することはできません。夫々の専門分野とともに特許の実務経験と専門 知識がなければ、安心できる翻訳は出来ないんです。」

とのこと。だから、徹底してその条件にかなう翻訳者を独自の基準で選抜して、仕事を 請けているのだそうです。

 「だから、ご依頼をいただいても、直ぐにお応えできない場合もあります。お客様に申し訳なく、ビジネス的にも 苦しいところなんです。」とのこと。

 前回、「顧客との同盟」という話しをしました。「お客様の目線」を持ち、お客様の必要とする最高の 結果をお届けする。この「当たり前」は、どの業界にもいえることだと改めて感じました。

 この会社は、株式会社 ヴァンビー(VanBee)といいます。技術論文の翻訳など、専門性の高い翻訳を得意としています。彼女のブログもなかな「痛く」感動させてくれ ます。良かったら、併せてご覧ください。

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2010年3月25日木曜日

私事で恐縮ですが

 斎藤家の家系図に新しい名前が、加わりました。名前は、Adelineといいます。アメリカに住む娘夫婦の初めての子供です。母子共に健康とのことで、安心しました。


 Skypeで彼女に日本語で話しかけました。しかし、やはり外人です。会話が成立しません。ギャーと泣かれ、残念ながら、初めての日米会談は、不調に・・・

 このままでは、「おじぃちゃんは、話が通じないから嫌い!」なんていわれかねません。英語の勉強をしておかなくてはなりませんね。励みになります(笑)。

2010年3月20日土曜日

これ一枚で理解できる営業の役割

 営業の役割を問われて、短時間で簡潔明瞭に答えられる人は、決して多くはありません。そんな稀有なおひとりが、アシストの新本さんです。

 彼は、私が主宰する「ソリューション営業モデル研究会」にもご参加頂き、営業活動のベスト・プラクティスの体系化と営業能力のガイドライン作りに、一緒になって取り組んでいます。

 下図は、そんな、新本さんのまとめられた「営業の仕事・商品・サービスに左右されない普遍的な営業の役割り」というものです。

 営業の仕事とは何かを解説したものは、よく見かけますが、このように簡潔にまとめられたものは、なかなかありません。

 解説を加えるまでもなく、一目瞭然です。

 僭越ながら補足させていただくとすれば、「スキル(マインド)」のところでしょうか。

 ここでは、「営業のスキル(マインド)」を「コンダクター」、「コンサルタント」 「顧客との同盟」の3つに分けられています。

 「コンダクター」とは、お客様のご意向を受けて、最適な人やものを割り当てる窓口として役割です。営業として、まず最低限できていなければならないスキルとして位置づけられています。

 「コンサルタント」は、お客様のよき相談相手として、課題解決を図るためのアドハイスや提案活動を行うことです。業種、業務についてのお客様レベルの知識とお客様についての深い理解が必要となります。

 「顧客との同盟」とは、お客様の目線に立って、お客様のためになる事を行うことだそうです。その結果、他社の製品やサービスを勧めることが適当であるならば、そうすべきであるという考え方です。

 「それじゃあ仕事にならないのでは」と質問したところ、「確かにそうですが、長い目で見れば、またお客様は、私たちの元にもどってきていただけますから」とのこと。なかなかできることではありません。

 「お客様を熟知すること」、「課題を解決すること」、「お客様目線のマインドを持ち続けること」。営業の仕事とは、それだけのことと言い切っています。しかし、それがなかなかできないのが現実です。

 アシストさんでは、これを単に精神論として、掲げているのではありません。現場の実践として定着させ、その成果を評価し、ノウハウをフィード・バックする仕組みを実現しているそうです。しかも、これを支えるシステムを実現し、活用されているのですから、凄いとしかいいようがありません。

 SFAと称する商品やサービスが巷にあふれています。また、SFAを導入すれば、営業力が強化されるという勘違いも、決して少なくはありません。

 しかし、現実には、導入してもほとんど使われていないという話しもよく聞きます。また、日報などの「活動報告清書システム」として、あるいは、見積りや受注処理に伴う承認・捺印処理の代わり、つまり「営業事務手続きシステム」として、使われている例が実に多い。

 そんな中で、一方的な報告ツールではなく、また、事務処理のための仕組みでもなく、営業の現場、管理者、サポートの人たちが、知識を共有し、お互いに支援するための双方向型のナレッジ活用システムとして使い込んでいる。営業現場が、「これがなくては仕事にならない」というところまで、活用度高められているそうです。

 実は、その具体的な仕組みや取り組みについては、この一枚のチャートの後に続いているのですが、そちらをお知りになりたければ、ぜひアシストさんに直接お聞きいただくか、私どもの「ソリューション営業モデル研究会」にご参加ください(笑)。

 ところで、この「ソリューション営業モデル研究会」について、簡単な紹介をさせてください。

 この研究会は、いまだ定まらない「ソリューション・ビジネス」の正体をまずは、きちんと定義しようとしています。そして、お客様に認められ成果を上げている優秀な営業たちのベスト・プラクティスを体系化して、モデル化しようという取り組みです。ソリューション営業版ITIL、あるいは、PMBOKといったものでしょうか。

 また、今年秋を目指して、営業現場の実践に使える「ソリューション営業実践マニュアル」も作ろうと思っています。

 既に20社を超える大小のソリューション・ベンダーの皆さん、およそ30名ほどが、ボランティアとして、名前連ねています。

 「営業の仕事とは、お客様の価値を最大化できる「あるべき姿」を最大のコストパフォーマンスで実現すること」と、私たちは考えています。

 そんな営業の仕事の「あるべき姿」とそれを実践するための具体的な方法を体系的に整理することが、この研究会の取り組みです。

 日本のビジネス環境は、いまだ厳しいものがあります。その中で、勝ち残ってゆかなければならないお客様は、多くの課題を抱えています。しかし、その選択肢は、かつてなく多様化・複雑化し、何が最適解なのかを見出すことは、容易ではありません。

 営業の仕事は、そんなお客様の課題解決をお手伝いをすることです。もちろん、ITですべてが解決することはありません。しかし、新本さんの資料にあった「顧客の同盟」として、お客様と一緒になって、ITの立場から、お客様個別の最適な解決策を創造する。そのプロデューサーとして役割を期待されているのだろうと思います。

 いかがでしょうか、あなたも参加されませんか。ご興味があれば、どうぞメールにて、お問い合わせください。

2010年3月17日水曜日

気がつけば、クラウド・・・おじさんは生き残れるか?

 数ヶ月前にTwitterの ID登録はしてみたものの、いまだに「勘どころ」がわかりません。話題ということで使っては見たものの、何が楽しいのやら、どのように役立つのやら、どう もまだ納得できずにいます。

 メディアを見ると、「デルは、Twitterで3億円の売り上げ」や「もはやバナー広告は不要」などとセンセーショナルな記事が踊ってい ます。しかし、正直なところ「なぜ?」といった感じです。

 そんな話を友人にしたところ、cotweetというサービスを紹介されました。なるほど、オリジナルのtwitter よりも使い勝手がいいようにも思うのですが・・・やはり、どうにも、まだむずむずしている・・・そんな試行錯誤を苦しくも楽しんでいるところです。

 さて、Twitterもそうですが、インターネット、クラウド、SaaSをキーワードに、さまざまなパーソナル・ツール・サービスが話題 になり、その勢いを増しているようです。その背景には、AmazonのEC2、Google App EngineなどのPaaS、IaaSサービスの普及があります。

 たとえば、件のTwitterも、AmazonやGoogleのサービスを土台に提供されているそうです。

 iPhone用に開発されたiアプリも10万本を超え、その多くが、Amazon EC2などのクラウド・サービスを利用しているとのこと。クラウドの普及が、クラウドの普及をさらに加速している。そんな、エコシステムが、機能し始めて いるようです。

 「とにかく使ってみる」の方針で、いろいろとインストールはしてみるものの、日常に定着するものは少ないものです。そん な中でも、使い続けているのが、DropboxEvernote。 使い切っているというほどでもないのですが、もはや手放せない道具となっています。

 まず、Dropboxですが、ネットワーク・ディスクといわれるサービスのひとつ。何が便利かといえば、複数のPCを使いこなしている私 にとって、いちいちファイルの同期やUSBで持ち歩く必要がなく、どのPCからでも、最新のオリジナイル・ファイルで仕事ができること。

 WindowsのExprolerに組み込まれたDropboxフォルダー。ここにExprolerのお作法通りにフォルダーやファイル を作れば、他のPCでも同じ内容のフォルダーやファイルが同期され、同じように利用できます。

 ファイルをセーブすれば、その時点で同 期。PCにソフトをインストールする必要はありますが、それができないPCでも、ブラウザーを使ってサインインすれば、最新のファイルをどこでも使うこと ができます。iPhoneでも使えるので、移動中に内容を見なおすこともできるので大変便利です。

 以前は、Gmailの下書きにファイ ルを添付して、アップロードしていました。そんなウルトラCも、もはや必要はありません。

 また、指定のフォルダーを特定の相手にだけに公開することができます。これによって、仕事でのファイルのやり取りも、常に最新版を共有で きるので、勘違いやファイルの送り忘れなどといったトラブルもなくなりました。

 もうひとつのお気に入りは、Evernote。最近日本 語版が公開され、ますます使いやすくなりました。これは、一言で言えば、オンラインのメモ帳。

 資料作りやブログのネタを書き留めておくことができます。写真や音声もメモとして残すことができます。何よりも便利なのが、iPhone でつかえること。どこでも、気がついたキーワードや雑誌の切り抜きならぬ「切り撮り」も簡単なコメントとともにメモとして残しています。これをPCで参照 しながら、資料作りに使っています。

 最近、新しい使い方を発見しました。PCを使ってWebで見かけた記事を、Evernoteのテキ スト・メモにコピペ。それをiPhoneを使って移動中に読んでいます。同期さえしておけば、電波の届かない地下鉄でも読むことができます。

 どちらも「フリー(無料)」。しかし、使い込んでゆくうちに、もっと容量がほしい、こんな機能が使えればいいなぁとなる。そんな痒いとこ ろを掻いてほしければ、有料でおつかいいただけますよ、しかも、たったの数百円・・・となります。最近、フリーミアムという言葉が話題になっていますが、 まさに「やられたー!」といった感じです。

 私がIBMをやめた1995年頃、普及し始めていたとはいえ、携帯電話は、特別なものでし た。しかし、いまでは子供や老人も当たり前に使っている。というよりも、身体の一部のようになっていて、なければ生きてゆけないという人もいる世の中にな りました。

 このふたつの道具が、そうなるかどうかは、分りません。ただ、少なくとも、クラウドが、そんな形で生活の中に浸透しはじめたという実感 は、肌で感じています。

 この二つの道具は、クラウドとフリー/フリーミアムという二つのキーワードーを巧みに組み合わせたビジネス・モ デルです。言うまでもなく、プラットフォームは、グローバル。そこに載せれば、一瞬にして世界中のユーザーを顧客に出来ます。

 AmazonやGoogleと同じビジネスを考えても、極めてハードルは高い。しかし、DropboxとEvernoteのレベルであれ ば、中小企業でも、個人でも何とかなります。しかも、相手は、世界中のお客様。

 残念ながら、自分にそんなプログラムを生み出す才覚はありません。しかし、できるひとは、いくらでもいるのではないでしょうか。

 難しい事を考えず、思いつきでやってみる。それは、世界へとつながっています。もはやクラウドは、そんな人たちも受け入れてくれるほどに、懐の広いもの になってきたようです。

2010年3月14日日曜日

商談に行き詰まりを感じている方へ

 「お客様は、1000万円程度の予算を考えているのですが、こちらの提案は、3000万円。あまりにも開きがありすぎて、話しになりません。どうすればいいのでしょうか?」

 あるソリューション・ベンダーの営業から、こんな相談を受けた。

 金額だけ見ると、国産コンパクト・カーを買いたいというお客様に、高級外車を提案しているようなもので、そもそも、そんな案件が成り立つとも思えない。しかし、話しを聞いてみると、そうともいえないようだ。

 「お客様は、うちの製品の機能が、これからやろうとしていることに必須と考えていらっしゃるようです。他社製品や自分たちの開発では、できないとおっしゃってるんです。」

 私は、彼に次のような質問をした。

 「ところで、お客様は、その機能をつかって、何をしたいんだろう。」

 さらに続けた。

 「確かに、その機能が優れていること、他社の製品にはないこと、自分達で作ることも容易ではないこと。それは良く分るけど、所詮その機能は、何かを実現するための手段に過ぎない。それを使って、お客様は、何を実現したいのだろうか?コストを下げたいのか、売上を伸ばしたいのか、どちらなんですか?」

 かれは、よく分らないという。窓口となっているシステム担当の方もはっきりしていないようだという。そこで次のような話しをした。

 「もし、コスト削減を考えているとすれば、いくらをいくらに削減したいのですか?それが明確でなければ、1000万円が妥当なのか、3000万円が妥当なのか、お客様にもあなたも判断できないじゃないですか。」

 彼は、なるほどと納得し、顔がパッと明るくなった。「確認してみます!」と力強い返事。そんな彼に、次のような質問をした。

 「どうやって確認するんですか?あなたが売り込んでいる相手であるシステム担当者も知らないのなら、聞いても答えは期待できないですよ。」

 再び暗い顔になった。

 「そもそも、このシステムを必要としている事業部門の責任者は、効果目標を明確に設定しているのだろうか。もし、はっまりさせていないとすれば、「どれほどの効果を期待されているのか」と聞いたところで、答えてはもらえないでしょう。」

 では、どうすれば、いいのでしょうかという話しになった。

 「お客様の業務の流れは分っている。今のシステムの使われ方も分っている。ならば、あなたが提案している製品を使ったら、業務の流れがどのように変わり、どの程度の効果が期待できるかをこちらで考えて、相手に確認してもらったらどうだろう。」

 彼は、正確な情報をつかめていないから、無理だという。それに対して、

「完全な正解を出す必要なんかありません。大切なことは、お客様とあなたとの間で、この製品を利用することの価値をどのように確認するか、そのための基準や考えの枠組みを共通にすること。そうすれば、お客様は、何に答えればいいのか分るし、わかっていなければ、そのことに気付かれるはずです。彼もまた、何をすべきか、理解できる。お客様にとっても、価値のある話ですよ。」

 「もし、あなたの窓口となっている人が分らなければ、分る人を紹介してもらったらどうですか。そして、彼に何を求めているかを確認する。この金額の差が、埋められないものなのかどうかは、それが明らかにならない限り、なんともいえないと思いますよ。」

 再び、納得した顔で、「やってみます」という返事が返ってきた。さあ、結果が楽しみである。

 私たち営業の役割は、「結果としてこうなっていたい」という「あるべき姿」へ、お客様を導く仕事である。どのような手段を使うのか、それにいくらの費用がかかるのかは、その「あるべき姿」次第である。

 お客様が、「あるべき姿」を明確に描けていないとすれば、それを描く事を手伝うのも営業の仕事だろう。そこがはっきりしなければ、何が適正な手段であり、費用なのかが分からない。ましてや提案などできるはずがない。

 営業活動は、「あるべき姿」を明らかにし、それをお客様と合意することが起点である。

 たとえ費用や手段が、お客様の想定の範囲内であったとしても、それが「あるべき姿」の実現にとって、本当に最適な手段と言えるのだろうか。

 「あるべき姿」がわからないのだから、自分の知識と経験の範囲で、なんとなくの答えを無理やり出したに過ぎない。そのような結論は、のちのち、「そんなはずではなかった」、「なんで、こんなことができないの」・・・といった、不満や混乱を引きずることになる。

 営業の仕事とは、お客様の期待する「あるべき姿」を最大のコストパフォーマンスで実現することである。その起点は、お客様の「あるべき姿」を確認し、合意すること。

 お客様との交渉に行き詰まりを感じたときは、この原点に立ち返ってみてはどうだろう。さらに進むか、やり方を変えるか、ここで撤退するか。その判断も、はっきりとしてくるはずだ。

2010年3月6日土曜日

「思い」はあっても「戦略」のない「営業力強化」

 このブログでも度々書いていることでもあるが、不況になってますます「営業力強化」が叫ばれている。

 しかし、その実態は、掛け声であり、あるべき論であり、精神論が多い。営業力を強化して、どうしたいのか。いや、それ以前の問題として、大きな時代の節目の中で、ビジネスをどうしようとしているのか。そのために、どのような営業としての役割や能力を期待しているのか。その戦略がないままに、営業力強化という思いだけが先走りしてる議論も少なくないように思う。

 先日、あるソリューション・ベンダーの人材育成担当者と会話したときのこと。彼は、営業に必要なスキルの一覧を示しながら、「わが社に欠けているのは、このような能力なんですよ」と説明してくれた。

 そこで、こんな質問を投げかけてみた。

「御社では、クラウド・ビジネスの強化を進めようと、新しい事業戦略を発表されたようですね。また、いろいろなサービス事業拡大を柱とした事業改革も進められていると聞いています。モノをビジネスの中核に据えられてきた御社にとっては、大きな変革だと思うのですが、これから営業にどのような役割や行動を期待されているのでしょうか?」

 そこが描ききれていないというのが、彼の答えであった。

 営業の能力というとプレゼンテーション能力や交渉能力などの「スキル」の側面に重きをおかれるようだが、けっしてそれだけではない。ITの最新動向や自社製品、業界業種の業務内容やプロセスといった「知識」の側面。そして、どのように案件を発掘し、受注につなげてゆくかという仕事の手順である「プロセス」の側面。この3つの能力の育成を考えなくてはならないだろう。しかし、それをバランスよく(?)研修したところで、営業力が強化されるわけではない。

 研修を生業とするものが、自分で自分の首を絞めるようなことを言うようだが、研修だけでは、営業力の強化など出来るはずがない。

 確かに、研修に出れば、知識やスキルを高めることが出来るだろう。また、気づきもある。しかし、何よりも大切なのは、そこで学んだことを使って、成果が上がったという実践での実感である。

 手に入れた武器が、見事に目的にかなった成果を上げてくれる。成果があがるという実感は、成長の喜びである。成長の喜びがあればこそ、ますます人はその能力を高めようと、自発的に努力する。

 この成長のサイクルを作ることが、真の営業力強化である。

 研修とは、この営業力強化のひとつのプロセスであり、手段である。しかし、手段をいくら積み上げても、その先にある目的や営業としてのあるべき姿が見えなければ、それを学ぶ者にとっては、張り合いがない。いったい、おれは何のためにこんなことをやっているのだろうかと。

 理想のあるべき姿と現実との間にギャップがあるのは仕方がない。ただ、向かうべき目標があるからこそ、人は、学ぶことに意味を見いだすことができる。そして、学んだひとつひとつが、成果として実感できれば、ますます意欲は高まる。

 私は、研修の冒頭で、営業のあるべき姿を定義し、参加される方と共有するように心がけている。つまり、これから学ぶことが、営業という“あなた”の仕事にとって、どのような意味を持っているかを自覚してもらうためである。

 しかし、研修が終わり、高いモチベーションを携えて自分の会社に戻ると、そのあるべき姿への期待は、脆くも崩れ去ってしまうことも多いようだ。再び今まで通りの日常に引き戻され、研修という「楽しいひとときの思い出」だけが残る。

 「思い」がなければ、何事も始まらない。しかし、それを本当の力にかえてゆくためには、「戦略」が必要である。それを会社に期待できないのなら、自分でその「戦略」を描けばいい。特に、中堅中小の企業にとっては、そのような現場の「戦略」こそ、ビジネスの背骨となる。

 自分たちのビジネスは、いまこの方向に向かおうとしている。したがって、このような力が必要だ。営業は、その中でこんな仕事をしてもらわなければならない。だから、こんな能力を身につけさせたい。

 件の研修担当者は、「今、模索しています」と私に話していた。

 しかし、「戦略」を模索しているのならいいのだが、手段としての能力だけを何とかすればいいという考えをそのままに「戦略を考えるべきかどうか」を模索しているとすれば、残念な話である。

*タイトルに誤字がありましたので訂正いたしました。ご教示いただきました方、有難うございました*