2012年1月28日土曜日

ITをコモディティ化する技術革新、SIerはどうやって生き残るのか

「EMCジャパン、2012年は顧客の新規ビジネス創出を支援 」 
(ZDnet Japan / 2012年01月26日)

こんなタイトルが飛び込んできました。時代は動き始めている・・・そんな想いがこみ上げてきました。

ITの技術革新の歴史を振り返れば、ITをコモディティ化する歴史でもあります

新しい技術が世の中に出現すると、最初はその技術そのものが差別化の源泉となります。そして、それを使いこなす人もまた高度な技術が求められ、そこにビジネスが生まれます。

その後、その技術が普及し始めると、機能や性能の向上を競う技術競争が始まります。その結果、各社の製品はどれもが同様の水準で高止まりし、こんどは価格競争へと移ってゆきます。その結果、価格の低下が進みさらに普及することになります。

また技術競争は、同時に技術を隠蔽化する競争を生み出します。高い技術力がなくても、誰もが使えるものを創り出そうという競争です。見方を変えれば、その技術が実現する機能をどれだけ簡単に使えるかを競うものです。これにより、さらに普及に弾みがつくと共に、プレーヤーが拡大してゆきます。これがコモディティ化の歴史です。

コモディティ化された技術は、技術そのものでは差別化ができなくなってしまいます。そのため、差別化の源泉は、その技術を使ったサービスやビジネス・モデルへと変わってゆくことになります。

EMCジャパンの戦略は、ストレージ製品が、まさにコモディティ化のステージに位置し、もはや技術だけでは競合優位を見いだせなくなったことを示していると言えるでしょう。そして、競争力の源泉を「顧客の新規ビジネスの創出」という、技術とは次元の異なる領域に求めようという動きなのです。

ストレージに限らず、サーバーやネットワーク機器、アプリケーション・パッケージの多くが、コモディティ化のステージにステージに立たされています。これは、標準化、オープン化の流れと合流し、ますますコモディティ化を加速しています。そして、この流れの中で、SIやシステム運用などのITサービスも同様に、技術力や開発力がコモディティ化し、グローバルな価格競争の中で収益を確保できない時代になりつつあります。

新しい技術の創出が廃れることは決して無いでしょう。しかし、創出された技術が、イノベーションをもたらすものであればあるほど、コモディティ化への動きを加速することになります。ITはこのような歴史のサイクルの中に埋め込まれているのです。

このような歴史の必然の中で、ビジネスを拡大するためには、ふたつの戦略が考えられます。

ひとつは、技術の創出に関わるか、あるいは未だ黎明期の技術にいち早く係わり、技術そのものを競合優位の源泉とする戦略です。例えば、HTML5、スマートデバイス、ビッグデータ、Node.js、OpenFlowなどは、今まさにそのステージにあります。しかし、その技術が本当に普及するのか、あるいは普及の見通しはあるにしてもどれほどのスピードで普及するのかを見誤れば、大きな損失となりかねません。

もうひとつは、コモディティ化した技術と新しい技術を組み合わせた新しいビジネスを競合優位の源泉とする戦略です。つまり、技術そのものではなく、技術の応用であり、技術の組み合わせによる新しいビジネス・プロセスやビジネス基盤の創出です。スマート・シティはその代表的なものと言えるでしょう。これには、社会や産業についての広い知見も必要ですが、既存のものにとらわれない発想力や構想力などが必要となります。また、それは世の中に無いものを生み出そうというわけですら、それが普及する保証はありません。

もちろんこれ以外にも様々なビジネス戦略は考えられます。しかし、成長分野の戦略となるとリスクを冒す覚悟と挑戦が必要になることは歴史の必然です。そして、おそらくは多くの成長分野のビジネスは、このふたつの軸の周辺に拡大してゆくのではないかと考えています。

ITの歴史の起点を1964年の汎用機/メインフレームの出現とするならば、すでに50年近い歴史を刻んでいます。そこにはいくつもの法則を見て取ることができます。そこに出現するキーワード、機能や性能はかつてのものは明らかに異なります。しかし、その背後にある歴史のフレームワークが根本的に変質しているとはなかなか思えないのです。

改めて、これからのITビジネス戦略を考えるとき、この歴史の必然は参考になるはずです。今何ができるのか、どうすればお客様の期待に応えることができるのかだけではなく、リスクを覚悟してでも自らが新たなステージのリーダーとなるために何をすべきかが、競合優位を生み出すことになるはずです。


■ 最後のご案内! ITソリューション塾 第9期 ■

今期もおかげさまで、ほぼ定員一杯のお申し込みをいだきました。ほんとうにありがとうございます。

志の高いみなさんが、共に集い切磋琢磨する機会は、このプログラムを運営する私達にとっても大きな刺激であり、また、勉強の機会です。本当に嬉しく思っています。

さて、そろそろ締め切りとさせていただきますが、もしまだご参加を希望される方がいらっしゃいましたら、数名であれば承ることができます。よろしければ、ご連絡ください。

詳しくは「ITソリューション塾の案内」をご覧ください。

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毎週水曜日の 18:30-20:30
全10回開催
初回 2月8日/最終 4月11日
場所 東京・市ヶ谷
参加費 9万円(+消費税)
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毎回、すぐに一杯になりますので、もし参加をご検討の場合には、私のメールアドレスまたはFacebookにメッセージをお送りください。








■ コレ一枚シリーズ いろいろ 

Facebookから、皆様のご意見を頂戴したり、情報を発信しています。

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2012年1月21日土曜日

SIerにとってのイノベーションって、なんだろう?

「SIerにとってのイノベーションって、なんだろう。」

酒を酌み交わしながら友人がそんな疑問を投げかけてきました。

「ジョブスのような新しい技術やライフスタイルのトレンドを生み出すことがイノベーションだというのであれば、日本の多くのSIerは難しいだろうなぁ。しかし、単金の安さや仕事の品質ということだけでは、もはや利益を生み出すことが難しくなりつつある。SIerができるイノベーションって、なんだろう。」

そんな会話をしながら、ふと頭をよぎったのは、そもそもイノベーションとはどういう意味なのだろうかという疑問です。考えてみれば、私自身この言葉をしっかり追求したことがありませんでした。ありきたりの解釈として、革新や改革という程度にしか理解していないとは、情けない話しです。そこで自分なりに、調べてみることにしました。

innovationの語源を調べると15世紀のラテン語innovatioに行き着くようです。inは「中へ」、novaは「新しい」、これらを組み合わせて、自らの内側に新しいものを取り込むという意味になるのだそうです。

ただ、これが今のように、「物事の新機軸を打ち出す」、「新しい切り口で新しい活用法を創造する」というような意味が与えられたのは、20世紀前半に活躍した経済学者シュンペーターに始まります。彼は1912年に著した『経済発展の理論』の中で、イノベーションを「新結合(neue Kombination)」と呼んでいます。また、新結合を生み出す実行者を「アントレプレナー(entrepreneur)」と呼んでいます。

また、シュンペーターはイノベーションを以下の5類型に分類しています。 

  • 新しい財貨の生産 プロダクト・イノベーション
  • 新しい生産方法の導入 プロセス・イノベーション
  • 新しい販売先の開拓 マーケティング・イノベーション
  • 新しい仕入先の獲得 サプライチェーン・イノベーション
  • 新しい組織の実現 組織のイノベーション

少々おこがましいのですが、私としてはこれに加えて、新しい体験の創造 つまり、「感性のイノベーション」も付け加えたいところです。

例えば、iPadやiPhoneのようにユーザー・インターフェイス(UI)からユーザー・エクスペリエンス(UX)が新たな経済的価値を生み出す時代になりました。それは、機能だけではなく、デザインが購買行動に大きな影響を与え、新しいライフスタイルを生み出す現象です。そう考えると感性もまたイノベーションのひとつの類型に入れてもいいように思います。

さて、我が国では、イノベーションのことを、「技術革新」と言い換えられることが多いようです。これは1958年の『経済白書』において、イノベーションを「技術革新」と訳したことに由来しているといわれています。高度成長時代の当時を考えれば、経済発展は技術によってもたらされるという考えが普通でした。しかし、本来の意味は、もっと広範な経済活動全般に適用される言葉として使われています。

またシュンペーターは、「イノベーションは創造的破壊をもたらす」とも語っています。その典型として、イギリスの産業革命期における「鉄道」によるイノベーションを取り上げています。彼はこんなたとえでそれを紹介しています。

「馬車を何台つなげても汽車にはならない」。つまり、「鉄道」がもたらしたイノベーションとは、馬車の馬力をより強力な蒸気機関に置き換え多数の貨車や客車をつなぐという「新結合」がもたらしたものだという解釈です。

これによって、古い駅馬車による交通網は破壊され新しい鉄道網に置き換わってゆきました。それが結果として、産業革命を支えるものになったというのです。ここで使われた技術要素は、ひとつひとつを見てゆけば必ずしも新しいものばかりではありませんでした。例えば、貨車や客車は馬車から受け継がれたものです。また、蒸気機関も鉄道が生まれる40年前には発明されていました。つまり、イノベーションとは新しい要素ではなく、これまでになかった新しい「新結合」がもたらしたものだというのです。

これを、今の私達のビジネスに置き換えて考えてみると、「オンプレミス・システムを何台もつなげ、膨大なサブシステムを組み合わせても、情報システムの問題は解決しない」ということになります。

IT予算の圧縮とTCOの増大に苦悩する情報システム部門にとって、もはや既存の組み合わせでは対処しきれない状況になっています。だからこそ、今までのオンプレミスとスクラッチ・アンド・ビルドの組み合わせではなく、その一部をクラウドに置き換え、あるいはその他の新しいテクノロジーと既存の仕組みとを組み合わせた「新結合」を実現すること。それが、情報システムにおけるイノベーションということになるのでしょう。

このイノベーションは、これまでの情報システム部門の役割を大きく変えることになるでしょう。システム技術や運用管理はクラウドに置きかわり、より上流のシステム企画や業務ロジックへの期待が高まります。そこに役割を果たせない人は、淘汰されてゆくことになります。そして、従来の役割に固執するSIerもまた、同じ運命をたどることになるでしょう。ここにも創造的破壊が待ち受けています。

これに対して、お客様の課題を業務や経営の視点で見直し、様々な新しいITテクノロジーを組あせてお客様にとって最適な解決策を作り上げることがSIerにとっての価値と言うことになります。

これはまさに「ソリューション」そのものです。SIビジネスにおけるソリューションとは、シュンペーターのいう「新結合」なのです。

換言すれば、ソリューションとはお客様にとってイノベーションそのものだと言えるでしょう。

当然、そこにはこれまでの常識を破壊し、新しい仕組みを受け入れさせる「創造的破壊」が伴います。ただ、それがなければイノベーションがもたらされないのであれば、受け入れざるを得ないことなのです。

また、シュンペーターは、新結合を生み出す実行者をアントレプレナーと呼んでいるわけですが、これは今で言う「起業家」と言う範疇に留まらず、より広い関与者を意味しているようです。とすると、SIerもまた、ソリューション、すなわちお客様にイノベーションをもたらすアントレプレナーと言うことになるのかもしれません。

少々強引な解釈ではないかというご批判は、甘んじて受けさせていただきます。ただ、SIerにとって、このような解釈は、改めて自分たちの役割を考え直すきっかけになるのではないでしょうか。


■ あと少し! ITソリューション塾 第9期 ■

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2012年1月14日土曜日

SIerに見る "失敗の本質"


『日本軍のエリート学習は、現場体験による積み上げ以外になかったし、指揮官、参謀、兵ともに既存の戦略の枠組みの中では発揮するが、その前提が崩れるとコンティンジェンシープラン(うまくいかなかったときの代替となる計画)がないばかりか、全く異なる戦略を策定する能力がなかったのである。』
失敗の本質」という本をご存知でしょうか。第二次世界大戦中の日本軍の軍事作戦の失敗を組織論的に分析したものです。1984年の出版ではありますが未だに再販を重ねる名著で、私も思い出しては何度も読み返しています。

この本の一節に冒頭の記述がありました。これを次のように読み替えてみると、まったく違和感がないことに気付かれるでしょう。

『日本企業の管理者の学習は、現場体験による積み上げ以外になかったし、部長、課長、社員ともに既存の戦略の枠組みの中では発揮するが、その前提が崩れるとコンティンジェンシープランがないばかりか、全く異なる戦略を策定する能力がなかったのである。』

これまで、お客様がシステム機器を購入し、これを前提としてスクラッチ・アンド・ビルドでシステムを構築する。この枠組みの中で、ビジネスの戦略を組み立て収益を上げてきた企業は少なくありません。しかし、このブログで何度も取り上げましたが、情報システム部門の予算の圧縮、予算に占める維持・運用に関わる費用の占める割合が7割りを越える現実。これに対処するには、もはや従来の枠組みでは難しくなってきました。前提が崩れてしまったのです。ITビジネスに関わる企業が、今おかれている現実です

これまでの成功体験から導き出された体験的ドグマに固執し、その枠組みから外れるものについてはそれを遠ざけ、自分の経験則に合うように作り替えてしまう。世の中の変化やお客様の意識の変化から、学習しようとはせず、新しい枠組みを作り直そうとはしない。これでは、時代の変化に対処することできません。

先日、あるSI事業者の営業責任者の方と話しをする機会がありました。かれは、次のようなことを話してくれました。

「現場の意識を変えなければ、何も変わらない。それが、なかなかうまくいかないんです。それが営業改革の最大の障害なんです。」

私は、彼にこう話をしました。

「意識を変えることは、そう簡単なことではありません。たぶん、「意識を変える」こと自体が最大の問題であり、むしろそれが目的ではないのでしょうか。いまやるべきは意識を変えることではありません。行動を変えることです。行動を変えれば、その結果を通して、行動の意味するところに気付き、結果として意識が変わるのではないでしょうか。」

目的はパリ、目標はフランス軍」なのです。何が目的で、何が手段なのかをはっきりとしなくてはなりません。フランス軍はパリという目的地に到達するための避けて通ることのできない障害です。これを殲滅しない限りパリには到達できないのです。

この会社の目的は、大手SI事業者の下請け体質から脱却し、直接顧客の比率を高めることです。これまでの「下請けが常識」の精神から脱却し、「直接お客様を持つことが常識」の精神を根付かせていく。まさにこの意識の改革こそが目的であり、けっしてそれは手段ではないのです。

以前のブログで、こんな記事を書いたことがあります。
守破離という言葉があります。千利休が残した茶道の心得です。
規矩作法  守り尽くして 破るとも  離るるとても 本ぞ忘るな

「守」とは先人の築き上げた「型」を守ることです。そこには、先人が苦労して成し遂げた経験が、織り込まれています。まずは、これを徹底してまねることで、先人の知恵を自分のものとして会得するのです。
この「型」を徹底的に守り通した上で、これをあえて破ってみる。自分ならではの工夫で、試してみる段階、それを「破」といいます。本来を知りつつ、自分なりにそのやり方をあえて破ることで、自分ならではの「型」を求める段階と言えるでしょう。
そして、それを他にも伝えられるほどに洗練させることができたならば、そこには、今までにはない「型」が生まれてくるのです。この段階を「離」といいます。
前提が崩れた以上、新しい前提で新しい「型」を作る。これを徹底することから始めるべきです。ビジネス上の即効性という点においてもこの方法は有効です。

営業活動でいう「型」とは、自社の営業活動を行うための標準的な手順を洗い出し、体系的に整理整頓したものです。これを営業活動プロセスと言う場合もあります。これを作り、徹底させてみることが意識を変える以前に必要な手段です。意識はそれを実行することで変わるという考え方です。

「目的は“直接お客様を持つことが常識の精神を根付かせる”こと、目標は“営業プロセスの徹底”」ということになるのでしょう。

この本には次のような記述もありました。
『日本軍の戦闘上の巧緻さは、それを徹底することによって、それ自体戦略的な強みに転化することがあった。いわゆるオペレーション(戦術・戦法)の戦略化である。しかし、近代戦においては、つねに通用するわけではなかった。一定の枠組みの中で、敵の行動が可視的に捉えられ、自軍の行動に高度の統合性を要求されないような場合においてのみ有効であった。』
製品やサービス単体ではなかなか差別化ができない時代となってしまいました。もはや競合優位を築くためには、お客様個別の課題に対処する個別最適な組み合わせを作り上げて行くしかない時代です。これまでのように、ひとりの営業の頑張りや自分力に頼る現場オペレーションだけでは限界があるのです。会社として、あるいは会社を越える大きな枠組みを統合し、強みに変えてゆく戦略が求められています。

この本に描かれている60年以上も前の精神構造は、今も健在のようです。これは驚くべきことと言うよりも、それが日本人なのだという自覚を持つことが大切なのかもしれません。その自覚の上に、自らを省みることができれば、正しい戦略の道筋が見えてくるように思います。


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2012年1月7日土曜日

今年は何を売ればいいのか? 注目すべきITビジネスのキーワード


みなさん、明けましておめでとうございます。

昨年は、毎週一回の投稿を目標としてきました。結果、54記事を投稿でき、目標達成です。
今年も、昨年同様に、毎週一回、ITを切り口に、ビジネスやトレンド、営業活動や組織のあり方、事業戦略に関わるテーマで投稿させていただこうと思っています。よろしくお付き合いのほどお願い申し上げます。

さて、今年の第一弾は、今年の「注目すべきITビジネスのキーワード」です。まずは下のチャートをご覧ください。



これまでも、Facebook上で「コレ一枚シリーズ」として、ITビジネスに関わるキーワードを一枚のチャートでお伝えすることにチャレンジしてきました。今回は、そこでも取り上げたキーワードや昨今のITビジネスの動向から、今年のビジネスを考える上で、押さえておきたいキーワードを整理してみました。

ビジネスがどういうモチベーションで動くのか、そして、どのようなキーワードが注目されるのかを考えてみたのが、このチャートです。

まず、ビジネスを動かす大きなモチベーションとして、「サービス化」と「コモディティ化」のふたつの軸が、あるのではないかと考えてみました。
そして、「サービス化」のモチベーションはクラウドへ向かうものと考えられます。一方、「コモディティ化」は、アプライアンスの普及を促すのではないでしょうか。

「クラウド」については、以前、このブログでも紹介いたしましたが、自らシステム資源を保有し、その能力や機能をサービスとして提供する「クラウド・プロバイダー」、クラウドプロバイダーの提供するサービスに付帯する課題、例えばデータの互換性やセキュリティなどを補完するサービスやプロダクトを提供する「クラウド・アダプター」、そして、プロバイダーやアダプターの製品やサービスを組み合わせ、お客様個別に最適化されたシステムを構築する「クラウド・インテグレーター」の3つのビジネス・タイプで展開されるものと考えられます。

もう一つのコモティティ化の軸は、様々なアプライアンス製品が使われることを示しています。

このふたつの軸を考えた背景には、情報システム部門の予算が、ここ十年で対売上比で半減しているということ、また、運用・管理などのTCOに関わるコストが7割りを越え、情報システムの戦略的、弾力的な活用に大きな制約がかかっていることがあるからです。つまり、従来のように、システムを所有し、インフラやアプリケーションを一から作り上げるというやり方では、もはや経営の要請に応えられなくなったためです。

確かに、スクラッチ・アンド・ビルドでシステムを作り上げる方が、自由度も高く自分好みには仕上がります。しかし、その余裕がもはやなくなりつつあるなか、このふたつのモチベーションの軸は、ビジネスを動かす大きなトレンドを作り出してゆくのではないでしょうか。

左下の「インフラ」から右上の「ユーザー」を結ぶ対角線上に、いくつかのキーワードを配置してみました。赤のキーワードは、今年特に注目すべきキーワードです。

OpenFlowとSDN(Software-defined Network)は、これからのネットワーク・ビジネスの考え方を大きく変える可能性があります。CiscoやJuniperが不動の地位を築くこの業界にあって、ネットワーク機器のコモディティ化を加速し、業界の構造を大きく変えるかもしれません。また、運用管理の簡素化・効率化が進むとともに、システム機器類の仮想化(サーバーの仮想化等)と相まって、システム・リソースは、「最適な場所を求めてネットワーク上を浮遊する」なんていう考え方も生まれてくるのではないでしょうか。今年直ちにビジネスになるとは思いませんが、3~5年のスパンでは、間違えなく大きな動きになってくるはずです。

ビッグ・データはすでに注目されていますが、私はこれを単に「膨大なデータを取り扱う枠組み」ととらえるのではなく、「新しいデータ処理の枠組み」と考えるのが妥当ではないかと考えています。
例えば、エクサバイトやゼッタバイトといった途方もない膨大なデータばかりでなく、ギガバイトやテラバイト程度の従来サイズのデータに適用すれば超高速なデータ処理の仕組みになります。例えば、バッチ処理の効率化からメインフレームが今でも不可欠となっていますが、これを安価なPCサーバーに置き換える手段になるかもしれません。もちろん、無条件に全て使えるなどとは思いませんが、適用範囲や要求水準を限定すれば十分に適用できるかもしれません。

また、Hadoopはその基本機能として、3レプリケーション機能を有しています。これを使えば、安価なPCサーバーをスケールアウトして、高速で安全なファイルサーバーを実現することも可能です。

もちろん、ビッグデータを処理すること自体のイノベーションにも期待が高まります。CEP、ストーリーミング処理などのリアルタイム解析、膨大なサンプルからの精緻な規則や関係の抽出は、これまでにはできなかったことです。ただ、このような「インテリジェンス」を取り出すツールとしてのビッグデータだけではない新しい可能性の方が、むしろ私達の日常のビジネスには影響が大きいのではないかと考えています。

Webアプリケーション/HTML5については、もはや言うまでも無いでしょう。Flashが今後第一線を退くことが既定事実となった今、Webアプリケーションはこの方向に動くはずです。先日、米国でIE6の終息宣言がリリースされました。このような動きを考えれば、もはや流れはこちらに向かうでしょう。確かに、HTML5の正式勧告が2014年であり、まだまだ流動的な要素はあるにしても、「トレンド」を考えるならば、この流れもまた既定事実として取り組むべきテーマです。

紫色のキーワードはその周辺に広がるサービスやテクノロジーです。ひとつひとつの詳説は省かせていだきますが、「マネージド・サービス」と「クラウド・セキュリティ」については、少し補足させていただきます。

まず、「マネージド・サービス」ですが、クラウドやアプライアンスの普及により、情報システム部門は、より上流に業務やスキルをシフトする方向に動きます。クラウドはシステムを持たないわけですから、運用業務は必要なくなります。また、オンプレミス・システムの運用は自動化やRBA(Run Book Automation)により、効率化進みます。すると、運用管理業務量は減ることになります。また、業務そのものがモチベーションを維持しにくいものでもあり、これをアウトソーシングするという考え方は自然なものでしょう。

この流れの中で考えておくべきは、「アプリケーションまで含めた運用管理」と24時間365日です。

システムの死活やネットワークの負荷、バックアップ・リカバリーだけではもはや差別化は難しく、アプリケーションに手を出せるかどうかは、大きな差別化の要因になるはずです。また、グローバル化の拡大、モバイル端末の普及に伴う常時接続は、これまでの業務時間内という考え方では対応できなくなるでしょう。このふたつは、マネージド・サービスの競合優位を決定するキーワードになるはずです。

クラウド・セキュリティとは、これまでのセキュリティの考え方を変えなくてはならないと言うことを意味しています。

これまで、オンプレミスを前提としたセキュリティは、企業の内と外の間にファイヤーウォールをもうけ、外部からの侵入や攻撃を防ぐ「境界防衛モデル」が基本でした。しかし、クラウドの普及は、「内と外」という概念が使えなくなることを意味しています。つまり、外部のサービスに対する信頼を担保する「認証」と信頼できる方法でデータの受け渡しを行う「暗号化」を基本とする「信頼連鎖モデル」を考える必要があります。「境界防衛モデル」が不要であるというのではなく、それだけでは守れなくなるわけで、新たに「信頼連鎖モデル」を組み込んだセキュリティの考え方を取り入れてゆくべきだと考えられます。

このチャートを作るに当り、他にも多くのキーワードを書き出してみました。そんななから絞り込んだものであり、偏りもあるかとは思います。しかし、私なりに、今年のビジネスの方向性は、整理できたように感じています。

年末にも書きましたが、「変化」を漠然と捉えても、戦略や施策は具体化させることはできません。もちろん具体化と言うには、このチャートだけでは不十分ではありますが、このチャートをご覧になったみなさんなりに、さらに深化させていただければと願っています。

2月から始める「ITソリューション塾」では、こういうキーワードのひとつひとつを深掘りし、より具体的なビジネス戦略や可能性についても整理してみようと思っています。

ことしも、どうぞよろしくお付き合いください。


■ 開催決定 * ITソリューション塾 第9期 ■

過去8期に渡り、多くの皆さんにご参加いただきました「ITソリューション塾」、その第9期を下記の日程で行うことが決定いたしました。

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ITの最新トレンドとビジネス戦略、ソリューション・ビジネスに関わる人が是非身につけたい顧客満足度の管理方法やドキュメンテーションなどの顧客応対スキルなどを体系的に整理します。


ITの最新トレンドとビジネス戦略については、社内やお客様の説明にそのまま使っていただけるように、パワーポイントのソフトコピーで差し上げます。ちなみに第8期では500ページほどになりました。








詳細のカリキュラムはこれからですが、例えば・・・
・クラウドとITトレンド
・ソーシャル・メディア
・クラウド・クライアント/モバイル端末とHTML5
・ITプラットフォーム・ソリューション
などの最新トレンドとこれらに関わる業界の動向、そしてビジネス戦略などをできるだけわかりやすいビジュアルを駆使して体系的に解説します。


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