2010年12月27日月曜日

ああ・・・またも残念なこの一年

 年の瀬にまず思うことは、今年の残念である。もちろん、あんなコトができたと、数えることもできる。しかし、それよりもまず思い浮かべるのが、残念の数々だ。
 年初に書き出した今年の目標を改めて見返してみると、道半ば、あるいは、まったく手をつけていないことも少なからずある。ああ、なんと自分は残念な一年を送ってしまったのかと、反省しきりだ。
 
 今年の最大の反省は、なんと言っても「マラソン」である。2年前に3時間24分を達成して以来、その更新を悲願と考えていた。しかし、足の故障などあって休みを取っていたが、それがもはや常態と化し、最近はろくに練習もしていない。おかげで、タイムではなく、体重の記録更新を続けている。
 
 こんな残念を繰り返さないためには、きちんと「目標」を設定することだと聞かされてきた。ただ「目標」だけを掲げ、「ことしは、こんな目標を立てた」と自分に言い聞かせ、それでもうなんだか、達成を約束されたかのように安心してしまう。これでは、また残念を繰り返してしまう。それが、自分のよくないところだろう。
 自分をその気にさせるための目標。人に説明するための、その場しのぎをするための目標。どうもそんな目標の建て方に問題があるのかもしれない。
 
 これは、なにも一年の計ばかりではない。営業に関わるものとして、目標のない仕事は、ありえない。目標もなく、とにかく走り回っていれば、それなりの数字がついてくる時代は、これでもよかったが、最近はどうも、これではうまくゆかないようだ。まず目標を立てる。それも実現可能な目標でなくてはならない。説明や自己満足のための目標ではなく、実行可能な目標を立てる。それができなければ、もはや仕事が成り立たない時代となってしまった。
 
 しかし、いくら立派な「目標」を掲げても実行できなければ意味がない。実行し、達成するための方策、つまり「戦略」を立て、これを遂行する。「戦略」無くして、「目標」の達成は、ありえない。今日は、このあたりを考えてみよう。
 
 まず、「戦略」とは何かである。次のように考えてみてはいかがだろうか。

 1.まず、達成できた状態(あるべき姿/To Be)を明らかにする。
 2.次に、現状(As Is)を明らかにする。
 3.続いて、あるべき姿と現状とのギャップを明確にする。このギャップを「課題」ともいう。
 4.「課題」を解決するための方法と手順を考える。
 5.手順に従い方法を実行する。
 
 この一連のプロセスが「戦略」である。
 
 ビジネスにおいて「戦略」というと、情報を収集し、これを整理し、方向を示すまでという考え方もある。しかし、それは、「戦略」の一部にすぎないと私は考えている。本来「戦略」とは行くべき場所と、そこに到達する路の両方を決定することである。従って、行き先を決めただけでは、「戦略」としては不十分である。
 
 「戦略」とは、「あるべき姿」を起点にして、これをどうすれば達成できるかを考えることである。「現状」を起点にして、現状の問題にどう対応するかを考えることを「戦略」とは言わない。
 未来のこと、つまり、未知の状態を作り出そうとするわけである。当然、可能な限り情報を収集し、「あるべき姿」の具体性と精度を高める必要がある。それがなければ、向かうべき場所が曖昧となり、適切な方法と手段を選択することができなくなる。また、「現状」についての正確な理解がなければ、やはり同じことになってしまう。だから、徹底した情報収集は、「戦略」を立てる上で、欠くべからざる活動である。
 
 さて、改めて「戦略」を整理してみると。
 ・「戦略」とは、「課題」を解決するための方法と手順である。
 ・「課題」とは、「あるべき姿」と「現状」とのギャップである。
 ・「戦略」の実行は、「課題解決」に取り組むことである。
 
 もし、「あるべき姿」と「現状」にギャップが無ければ、「課題」は存在しない。例えば、「1千億円の売り上げを達成する」という「あるべき姿」に対して、「現状」が「8百億円の売り上げ」であれば、「2百億円」というギャップが存在する。これが「課題」となる。もし、既に「1千億円の売り上げ」を達成しているのなら、ギャップを埋める必要はない。つまり、「課題」は存在しないことになる。
 
 「戦略」とは、この「ギャップを埋める=課題を解決する」ための計画でもある。表現を変えれば、「課題を解決する=Solution(ソリューション)」ための実行計画ということになるだろう。つまり、私たちが、普段使っている「ソリューション」とは、「有るべき姿」と「現状」のギャップ=課題を解決するための取り組みということになる。
 「戦略」とは、このソリューションを実行可能な方法と手順に分解して、考えることである。
 
 私たちは、「ソリューション」という言葉を、普段何気なく使っている。しかし、その本来の意味を考えると・・・
 1.お客さまの「あるべき姿」と「現状」を明らかにし、そこから「ギャップ=課題」を抽出する。
 2.この「課題」を解決するための具体的な方法と手順を決定する。
 3.これを実行し、お客さまの「あるべき姿」を実現する。
 
 と整理できるだろう。
 
 話が理屈っぽくなってしまったことをご容赦いただきたい。ただ、自分の仕事をこのように突き詰め、分解してこそ、自分自身の過不足を具体的に示すことができる。いわば、自分の仕事の健康診断である。それができて、初めて何を改め、何を伸ばすべきかが見えてくる。ただ漠然と自分の仕事をとらえているだけでは、成長は運任せである。「目標」の立てようもない。
 
 さて、改めて自分の来年の「目標」を考えてみる。まてまて、まずは、その前に徹底した情報収集が必要のようだ。自分の残念にも冷静に向き合う必要がありそうだ。その上で一年の計=来年の「戦略」を組み立てる必要がありそうだ。言うは易く、行なうは、難しである。ただ、また同じ残念を繰り返さないという「目標」だけは、今年もまた掲げておこうかと思う。
 
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2010年12月18日土曜日

お客さまの困ったをメニューにする

 「斎藤さん、うちの連中には、危機感が無くてねぇ。どうしたものかと思っているんですよ。」

 ある中堅SI事業者の社長が、ため息をつきながら、こんな話をしてくれました。

 「確かに、売り上げは上向いている。でも、結局安い見積もりで受注を支えているにすぎないんですよ。利益なんか、ほとんどでていない。このままでは、いずれは、オフショアに飲み込まれて、ぎりぎりでも受注がとれないかもしれない。現場の連中が、そのことを分かってない訳じゃないと思うが・・・」
 
 現場の営業担当者と話してみると、彼らなりに「危機感」は持っている。しかし、方策が見いだせない。とはいうものの何もしないわけにもゆかず、がむしゃらに仕事をこなしている。サボっているわけでもなく、これでいいと思っているわけでもないのです。
 
 経営者も、現場も、共にこのままではいけないと考えています。しかし、どうもその思いが、お互いに通じ合っていないように思います。
 
 経営者は、何もしない現場を危機感がないと嘆いています。現場は、有効な方策を打ち出せない経営者に不満をいだいています。思いは同じであるにもかかわらず、お互いにそれぞれの対応を期待しているにすぎません。そんな閉塞感が、あるようです。
 
 では、この閉塞感をどうすれば、打開できるのでしょうか。私は、自分たちの強みを改めて、棚卸しし、再認識してみることだろうと思っています。つまり、自分たちの強みを整理整頓し、しっかりとこれを自覚し、自信を持つ。そして、それを新たな武器にする方策を考えてゆく。そんな取り組みをしてみるべきではないかと思っています。
 
 いま、いくつかの中堅SI事業者の営業現場で、アカウント・プラン作りのお手伝いをしています。これら企業に共通することは、自分たちには、「これといった強みがない」という思い込みです。
 
 大手システム・ベンダーのような競争力のある独自の製品を持っているわけでもなく、絶対的な技術力を持っているわけでもない。自分たちには、他社に勝てる武器がない。今までは、大手に比べて安いと言うことで仕事がとれていた。しかし、それとて大手のオフショア拡大で金額面での競争も厳しくなってきた。もはや自分たちには、何の強みもない。
 
 といった思い込みです。
 
 確かに、マクロにとらえれば、その通りと言えなくもありませんが、自分たちの担当するお客さまについて、ひとつひとつ見てゆくと、本当にそうだろうかとおもうことがあります。ミクロな目線でとらえてみると、決してそんなことはなのです。そのことに気付くと、「なるほどうちも捨てたものではないなぁ」と自信を持たれることも少なくありません。
 
 大手ベンダーの下請けとして仕事をしている企業の多くは、特定のシステムやサブシステムの開発、維持・メンテナンスに従事している場合も多いようです。このような場合、システムと人が相互依存の関係にあり、両者が一体として存在しています。従って、そのシステムの使用をやめたり、新しいシステムに統合されてしまうと、それに伴って、人もいらなくなり、仕事が無くなります。このジレンマを断ち切らない限り、お客さまの都合で需要は左右され、ビジネスのイニシアティブをとることはできません。
 
 そこで、こんな質問を投げかけてみました。

 「ところで、なぜ、みなさんが、このシステムの保守・運用を任されているんですが。なぜ、お客さまは、他社に変えずにみなさんに仕事をまかせているのでしょうか。」
 
 すると、「開発に関わったので、お客さま以上にシステムや業務をよく知っているから。」、「お客さまの担当者と一緒になって、現場でやっているから。」、「仕事を減らさないためにいろいろと工夫して、改善や効率化の工夫をしているから」・・・様々な答えが返ってきました。現場を支える力になっている自負ががみなぎっています。
 
 「それが強みじゃないですか。それこそが、みなさんの武器になるんじゃないですか。みなさんは、お客さまのシステムの現場を知っている。現場の困ったに誠実に応えようとしている。ならば、次のようなことをしてみてはどうでしょう。」と3つのステップの提案を投げかけてみました。
 
 「まず、自分たちに、どのような能力があり、何ができるかは、考えず。お客さまの「困った」、「こんなコトをしてくれたらほんとうに助かる。」を洗い出し、整理してみませんか。自分たちにできることなんか、お客さまは求めていませんよ。お客さまは、自分たちの困ったを解決してほしい。だから、その「困った」をメニューにしてみる。できるできないは、後で考える。まずは、その目線で考えてみてはどうでしょうか。」
 
 「次に、それをサービスとして整理してみましょう。自分たちができるかできないかは、考える必要はありません。まずは、お客さまの「困った」を解決するサービスはなにかを客観的に考えることです。」
 
 「最後に、それをわかりやすい図表に体系的に整理してみることです。何となく、当たり前にやってきたことです。これを体系的な整理整頓する。それは、そのお客さまがしてほしいことのサービス・メニューだから、必ず真剣に聞いてくれるはず。間違えなく、ビジネス・チャンスを見いだすきっかけになるはずです。」
 
 「こうやって整理してみると、改めて、自分たちのできることできないこと、強み弱みが整理できます。そのできないこと、弱みを補完する方策を考える。新たに人を採用するもよし、外部から調達するのもいい。仕事になるんですから、それが商品になるのですから、心配する必要はありません。大切なことは、お客さまがしてほしいことを整理し、その対応のリーダー・シップを握ることです。そうすれば、お客さまは、みなさんを必要な存在として認めてくれるでしょう。ビジネス・チャンスも広げることができるはずです。」
 
 お客さまの「困った」を整理する。そうすると、特定のシステムに対してだけだと思っていた自分たちの価値が、それから切り離され、他でも使える価値として見えてきます。
 
 このような取り組みをいくつもの担当顧客について行なっていくと、多くのお客さまで共通した「困った」や「してほしい」が見えてくるものです。それを会社全体で改めて整理してみると、立派なサービス・メニューになるようです。
 
 これは、大手ベンダーにはできません。現場に入り、現場を知っているからこそ、できること。その現場力こそが、武器になるのです。
 
 こんな取り組みを続けていると、「そうか、自分たちにもこんな強みがあったんだ!」と気付くことになります。これを武器に、自信を持って、大手にはできない強みを発揮できるのではないかと思っています。
 
 漠然と「危機感」を意識しているだけでは、なんの進歩もありません。かといって、新たなスキルや製品で勝負をすることも容易なことではありません。大手ベンダーと同じものがないからと言って、自分たちに強みがないと考える必要はないように思います。
 
 どうでしょう。改めて、自分たちの足元をしっかり見つめ直してみては。つまり、自分たちの持っているスキルや製品を資産としてとらえるのではなく、長年、お客さまに関わってきた現場力と信頼関係を資産と考えてみるのです。これを改めて、掘り起こし、整理してみる。自分たちができることの目線ではなく、お客さまの「困った」の目線で考えてみる。思わぬ強みが見えてくるかもしれませんよ。

2010年12月10日金曜日

なんで、あいつが、俺の上司なんだよ!

 「課長は、分かってないよなぁ。あれで、課長なんだからねぇ。」
 「社長は、ぜんぜん先が見えてないよ。これじゃあだめだよね。」
 「部長の考えは、もう古いんだよ。できるわけないじゃないか。」
  ・・・

 できないことの言訳として、「ダメ上司」を引き合いに出してみたところで、いったい何の解決になるのでしょうか。
 ダメな人間をダメだと言ってみたところで、いったいどんな進歩が、そこにはあるというのでしょうか。

 このような人達に共通する特徴は、

 ■ 問題の原因が、常に自分以外にあると考える。
 ■ 想像力の欠如、つまり、相手の立場や視点でモノを考えることができない。
 ■ 自分のやり方や考え方、ライフスタイルを変えたがらない。

と言えそうです。

 「私は、自分の得にもならないこと、余計なことはしたくないんですよ。」という考えとも通じるものがあるように思います。謙虚さのない態度ともいえるでしょう。
 
 自分が課長だったら、自分が部長だったら、自分が社長だったら・・・そのとき自分は、どう考えるだろうかと考えてみてはいかがでしょうか。なぜ、彼は、こんなことを言うのだろうかを想像すれば、どこが同じで、何が自分と違っているかを冷静に、分析的にとらえることができるでしょう。
 
 なるほど、そういう前提に立てば、そんな考え方もあるなぁと考えてみる。そういうところに、新たな知恵や知識への気付があるかもしれません。

 相手のことを理解するとは、自分と同じところと違うところを見極めて、その違いの理由を知ることです。自分と対立することがあれば、それこそが、新しい発見です。その違いを克服することができれば、それは成長であり、進歩だと考えてみることはできないでしょうか。
 
 自分との違いを見極めずに、ちよっとした言葉の端を捕まえて、全てを否定し、相手の意見を一切受け付けないようでは、何の進歩もありません。
 
 まあ、これは、決して部下のことばかりではありません。上司もまた、部下の能力や状況について、想像することを放棄し、自分の基準に部下を当てはめて、「何で、あいつは、こんなコトが分からないんだ。」と嘆き、愚痴を言う。そして、理由や論理を説明して納得させようという努力を放棄し、「俺のいうとおりやっておけば間違えない。いずれわかるから、これでやりなさい!」と怒鳴ってみる。
 
 まあ、どっちもどっちという気がします。
 
 営業活動で、お客様との交渉は、大切な仕事のひとつです。交渉とは、次の3つのプロセスで行なわれます。
 
 まず、最初は、相手と自分の考えや要求の違いを明確にすることです。次に、その違いを埋める手段を洗い出すことです。最後に、手段の選択肢の中で、どれを採用するかを合意することです。この手順を踏んで、初めて交渉は成立するわけです。
 
 相手の目線から、自分や周りを見る。相手を否定することから始めるのではなく、違いを見極めるコトから始める。それができなければ、交渉を始めることができません。
 
 お客様の目線に立って考えることをせず、「なんで、あいつが、俺の客なんだよ!」と文句を言っているようでは、営業活動はできませんから・・・
 
 他人は、常に異なる意見や考えを持っています。同じ考えの人など、あり得ません。だからこそ、お互いが相手の状況や立場、考えを理解しようと努力しなければ、進歩も幸せもないように思います。たとえ、あなたの上司が、自分と違う意見を述べたとしても、その背後にある彼の考えや立場を考えずに、頭から否定しては、何の解決策も見いだせません。
 
 たとえ、あなたの上司が、本物の「ダメ上司」であったとしても、まずは、自分について考えてみることです。「自分はダメ部下にはなっていないだろうか」と。そして、相手の立場になって、考えてみることです。
 
 「なんで、あいつが、俺の上司なんだよ!」と声を荒げてみても、「自分は、不遜な人間です。成長はあきらめました。自分の得にならないことは、何もやるつもりはありません。」と相手には伝わるだけではないでしょうか。

 そういう人は、きっと「なんで、あいつが、俺の部下なんだよ!」と、あなたの上司に思われているかもしれませんね。

2010年12月4日土曜日

間違っていますよ。そんなことで営業力の強化はできません。

 「営業力を強化したいんです。提案書の作成や交渉の進め方など、研修して頂けないでしょうか。」
 
 このようなご相談を頂くことがある。そのような方には、次のような意地悪な質問をすることにしている。
 
 「喜んで、お引き受けしたいところですが、ところで、提案書がうまく書けることや交渉の術に長けていることで、売り上げが伸びると本当にお考えでしょうか?」
 
 時々、こんな勘違いをしている人がいる。営業力とは、プレゼンテーションやドキュメンテーション、コミュニケーションなどのスキル(技能)であると。冷静に考えれば、このような能力は、営業力の本質ではない。どんなに、美しい提案書を書き、魅力的な説明ができたとしても、それでお客様は、システム購入の意思決定をしてくれることはない。
 
 露天でものを売る商売であれば、このようなスキルが、お客様の財布のひもを緩めてくれるだろう。しかし、何百万円、何千万円、あるいは、億の単位になるようなものを、このようなスキルで売ることなどできるはずがない。たとえ目の前にいる相手をその気にできたとしても、B2Bビジネスでは、かならず稟議があり、決定権限者の承認を必要とする。このような過程を考えれば、このスキルが、本質ではないことに気づかれるだろう。
 
 では、なにがB2Bビジネスにおける営業力の本質かと云えば、「営業活動プロセス」を遂行する能力である。
 
 営業活動は、お客様を開拓し、課題を探り、案件を明確にし、解決策を描き、意志決定プロセスを攻略し、受注を果たし、デリバリーを成功させ、お客様に満足を与え、感謝と共に代金を頂く一連のプロセスである。
 
 このプロセスを通して、営業はお客様の期待を知り、お客様の価値を高める手段を考える。そして、お客様の価値を高めた対価として、その一部を頂く仕事である。お客様は、決して、モノがほしいわけでもなければ、あなたの会社と仕事がしたいわけではない。自分の課題が解決されることであり、期待が満たされることを求め、その成果に対して対価を払うわけである。
 
 モノやサービスといった商品は、この成果を得るための手段であり、お金を頂くための方便に過ぎない。
 
 「我が社のソリューションは・・・」と自信たっぷりにプレゼンテーションし、美しい資料で機能や性能を説明してくれる営業がいる。なるほど、彼のスキルはたいしたものだと思うが、だからといって買おうとは思わない。よくよく聞いてみると、彼の言うソリューションとは、何もこちらの課題を解決することを目的とはしていないようだ。「自分の営業目標を達成するという課題」を解決するためのソリューションである。つまり、自分の売りたい商材つまりプロダクトをソリューションと言う言葉に置換えているに過ぎない。きっと彼は、「我が社のソリューション」を売ることはできないだろう。
 
 展示会で、すてきな女性が、商品についてすばらしいプレゼンテーションをしてくれた。とても魅力的である。ぜひもう少し詳しく話を聞きたい、相談に乗ってもらいたいと思う。だからといって、そのプレゼンテーションをしてくれた女性がこの期待に応えてくれるだろうか。プレゼンテーションのスキルはあるが、モノを売る能力が、彼女にあるとは限らない。
 
 お客様の課題とは何かを考える。お客様の経営環境、競合他社の動向、システムの運営や構築に関わるお客様の「困った」・・・そんなところにお客様の課題はある。その課題にお客様自身が気づいていないことあるだろう。
 
 お客様に課題に気づかせ、それを具体的なイメージとして整理し、解決したいという意欲を引き出さなくてはならない。これが、「課題を発掘する」と言うことである。営業である自分が、「お客様の課題に気づく」ことが、課題を発掘することではない。なぜなら、お客様が解決したいと思わない限り、検討さえもしてくれない。
 あなたの提案書やプレゼンテーションがどんなにすばらしいものであったとしても、「是非社内で検討させていだきます。後日連絡させていたきますね。」と言われ、やった!と握り拳を心に描いても、お客様からの連絡は、一週間たっても、二週間たってもくることはないだろう。
 
 たとえ、担当者がその気になってくれたとしても、意志決定をするのは、その上司であり、経営者である。彼らの関心や期待は、担当者のそれとは異なっている。

 もしかしたら、競合他社が、既に決定権限者にアプローチしているかもしれない。CFOが、「もう少し安くできないのか」と稟議起案者に要求するかもしれない。
 
 営業活動は、実に様々なプロセスによって組み立てられている。このプロセスをスパゲティ・ナポリタンのごとく、ごちゃまぜにして考えていては、優先順位もつけられないし、改善策を見いだすことも容易なことではないだろう。
 
 営業活動をひとつひとつのプロセスに分解し、整理して理解していること。そのプロセスの中で、自分は何ができていて、何を改善すべきかを知ること。そのひとつひとつを確実にこなすための術を身につけること。このような能力こそ、営業力の本質ではないかと考えている。
 
 もちろんプレゼンテーションやコミュニケーションといったスキルも、このようなプロセスを効率よくこなすためには、是非とも身につけたい能力である。また、クラウドや仮想化が、SOAやAjaxとどういう関係にあるのかと言った、体系的、構造的な知識も、お客様の話を理解し、整理し、戦略を立てる上では、大切な能力である。また、何よりも人に好かれ、向上心を持ち、積極的な気持ちを絶やさない人間力が無くては、お客様との良好な人間関係を築くことはできないだろう。
 
 言うなれば、営業力は、プロセス、スキル、知識とそれを支える人間力の総合力である。
 
 ただ、スキルや知識、人間力は、なにも営業だけに必要なことではない。ITビジネスに関わるプロフェッショナルとして、共通な能力である。従って、営業力の本質は何かと問われれば、このプロセスが、大きな位置を占めることになるだろう。
 
 「営業力を強化したいんです。提案書の作成や交渉の進め方など、研修して頂けないでしょうか。」という考えが、決して間違っているわけではない。しかし、営業力は、そのようなことだけでは強化することはできない。
 
 営業力を強化したいのなら、「営業活動プロセス」を整理し、その遂行能力を高めることである。そんな観点から、営業力強化の取り組みを考えてみるべきではないだろうか。

2010年11月27日土曜日

邪魔な上司にならないための3箇条

 「ああ、めんどくさい。課長に説明すると、また余計なことを言われそうで、めんどうだよなぁ。」

 あなたは、部下に、そんなことをささやかれてはいませんか。

 部下を持ったからと云って、その瞬間にあなたの能力が、一気に向上するわけではありません。「プレーイング・マネージャーとして、頼むよ」を期待され、よぉーしと気合いを入れて、意気込むのは良いのですが、今までの仕事が、大きく変わることはなく、「マネージメント」という仕事が、追加されるに過ぎないのです。

 昇進は、評価されていることの証です。それはそれで、うれしいことですが、「マネージメント」という仕事への期待に応えなくてはなりません。

 プレーヤーとして、優秀であったあなたが、昇進するのはだれの目から見ても、当然です。だから、それを周りも受け入れ、頑張れと励まし、期待を寄せてくれるはずです。では、どうすれば期待に応えられるのでしょうか?

 自分のやってきたことは、自分でわかっています。どうすれば、お客様の課題に迫ることができるのか、どうすれば、お客様と親しく会話できるのか、どうすれば、お客様を説得できるのか・・・あなたは、それを体で知っています。そんなあなたから部下を見ると、なんて要領が悪いんだと思うでしょう。そして、「何でそんなことが、できないんだ!」と自分を基準に部下を評価してしまう。そんなことはありませんか?

 部下の成長は、チームの実績に直結しています。だからこそ、彼らがパワーアップしてほしいと思っています。しかし、ついつい、「こうしなきゃだめじゃないか!」、「とにかく、俺の云うとおりにやっておいてくれ!」、「なんで、何回云っても分からないんだ。」と嘆きや怒りをぶちまけて、部下を萎縮させてはいませんか。

 優秀だからあなたはマネージメントを任されている。未熟だからあなたの部下なのです。そんな当たり前を忘れてしまい、優秀な自分を基準にして、部下を評価しませんか。優秀な自分を基準に、部下の至らなさを減点し、だからだめなんだと評価してはいないでしょうか。部下には部下の精一杯があります。そんな彼が、自分の精一杯を発揮し、新しいことができたとすれば、それを評価する。そんな加点型で部下を見ることはできないでしょうか。

 あなたには、成功体験があります。それは、あなた自身の体が感覚的に知っていることです。しかし、なぜ自分は成功したのかを分析的にとらえ、それを手順として整理し、わかりやすく説明できますか。その努力を怠り、「もういい、こうすればいいんだ。この通りやっておけば、絶対うまくいく。とにかく、俺の云うとおりにやりなさい!」と逃げてはいないでしょうか。

 人は、教えられたら学ばないものです。やれと云われれば、やりたくないものです。それは、あなたもご存じのはずですよね。でも、そうしちゃったほうが、余計なことを考えなくて良いから、楽ちんですよね。あなたは、そんな手抜きの達人なのですか。

 マネージメントの役割は、たった3つだけです。

 まずは、部下のモチベーションを維持すること。いま本人がやっていることの目的や価値を理解させること。それが、本人の成長にどれだけ意味があるかに気づかせることです。そして、進んでやろうとする気持ちを引き出します。そうすると、部下は、その仕事を楽しめるようになります。
 
 箸の上げ下げまで細かく指示することは、「あなたがいうことは正しいとは思います。でも、私には私のやり方があるんですよ。」という反発をいだかせるだけです。
 多少の失敗も本人の勉強です。そう思って、目的と期待する結果を示し、後は任せてみてはどうですか。きっと、本人は意気に感じて、自分で工夫する。思わぬ力を発揮するかもしれません。それを評価してあげましょう。その潜在力を引き出すことこそが、マネージメントの最大の役割ではないかと思うのです。

 次に必要なことは、通訳者としての役割です。経営者の方針、会社の施策をわかりやすく現場に意訳して、説明してあげる仕事です。図解するのもひとつの方法かもしれません。経営者の言葉や会社の施策は、その背景や歴史、社会の動きが分かっていないと、その言葉だけでは、本意をつかみにくいものです。それをわかりやすく解説し、現場の意識や理解に、同じベクトルを与えることは、マネージメントの大切な役割と言えるでしょう。それができなければ、組織はバラバラになり、組織全体のエネルギーを同じ方向に向かわせ、最大の力を発揮することができません。その通訳の役割をマネージャーは担っているのです。

 最後は、今の方向とは反対向きの通訳としての役割です。現場の状況やニーズ、お客様の反応や意向を、あなたの上司や経営者に伝えることです。現場に足繁く通う経営者であっても、日常のオペレーションで、現場に接しているわけではありません。また、財務や経営に関わる様々な重責を担う経営者は、現場へ目を向ける機会をなかなか持てずにいるはずです。だからこそ、彼らに理解できる言葉で、簡潔明瞭に本質を伝えることで、現場に近い感性を与え続けることも、マネージメントの役割と言えるでしょう。結果は、お客様の満足度を高めることになり、自分たちも仕事がしやすくなるはずです。

 「そんなことをおっしゃいますが、日々雑務に追われ、余裕なんてありません。プレーイング・マネージャーとして、お客様も担当しているし、簡単じゃありませんよ。」と本音が聞こえてくるようです。

 そうなんです。「プレーイング・マネージャーという言訳」には、なかなか説得力があります。経営者にしてみても、優秀な営業をお客様から引きはがすには、リスクがあると云うことで、かっこいいカタカナ言葉で、その気にさせているわけですから、そうじゃないとは、云いにくいものです。

 残念ながら、これについての正解はありません。あなたが、今の自分をどう位置づけ、何を重要と考えて優先順位をつけるかは、ご自身で判断してください。

 ただ、これだけは覚えておいてください。本来マネージャーは、部下と対立する関係にあってはいけない存在です。先に述べました3つの役割も、マネージャーは、部下のサポーターであり、スポンサーとして、彼らの自発性と潜在力を引き出す役割を担っています。しかし、プレーイング・マネージャーの不幸は、自分も部下と同じプレーヤーであり、競争し、対立する存在であるという事実です。この相反するふたつの役割をあなたが担っていると云うことです。

 これを整理できないまま、ふたつの立場を混在させたまま、マネージャーの役割を果たすことはできません。部下から見ると、それは「ぶれている」とも見えるでしょう。プレーイング・マネージャーをやめてしまえ!などと云うことは許されないでしょう。だから、今自分は、どちらの立場にいるのかを意識し、その時々の役割に準ずるしかないように思います。

 これができないと、部下は、あなたを邪魔な存在と見なしてしまうでしょう。なんと言っても、自分のライバルですからね。そんな相手が自分の上司なんて、納得できないのは当然のことです。自分の仕事の邪魔をしないでください、成長の邪魔をしないでくださいと・・・

 邪魔な上司にならないためには、今あなたができることは、自分の役割を正しく理解することです。そして、その自覚を持って、ひとつひとつの場面をこなしてゆくことかもしれません。

2010年11月21日日曜日

【図解】営業マネ-ジメント・サイクル

「営業活動は、一人でやるものではない。」
 
 何を当たり前なことをと思われるかもしれないが、改めて現実を見てみると、この当たり前が、意外と実行に移されていないことに気づかれるだろう。
 
 優秀な(?)営業が、一匹狼で、職人技を駆使して、お客様との関係を構築し、仕事をとってくる。組織も、そういう人間を頼りにし、仕事を任せている。
 営業力がないことを個人の能力のなさと考え、営業スキルと称して、プレゼンテーションや交渉術を身につけさせようと考える。
 営業会議は、数字の集計と確認に終始し、何でやらないんだと恫喝され、頑張れと励まされ、「営業というものはなぁ・・・」とありがたい上司のお言葉を拝聴する。
 
 いずれも、営業力は個人力という前提である。結局は、個人の自助努力に期待し、その意欲や能力を高めることが、営業力の強化であるとの暗黙の了解の上で成り立っている。
 
 このブログでもたびたび申し上げているが、営業力は組織力である。
 これまでにもまして、お客様の期待や解決策の選択肢が多様化する時代にあって、これが最適という答えを見いだすことは、容易ではない。お客様も売る側も最適解を予め用意しておくことは難しい。お客様と一緒になって解決策を作り上げる。そんな営業力をお客様は期待しているのではないかと思う。
 
 もちろん個人力の大切さを否定するつもりは毛頭無い。ただ、その力に頼った営業力では、どうしても限界がある。この現実を打ち崩し、組織としての営業力を引き出し、お客様に最大の価値を提供するためには、営業個人と組織を連携させるための仕組が必要だ。そのためには、「個人と組織を連携させるマネージメント・システム」に目を向ける必要があるだろう。
 
 営業のマネージメント・システム・・・これを考える上で、参考になる資料を紹介しよう。
 
 「【図解】営業マネージメント・サイクル」である。

  以前にも紹介したが、「ソリューション営業モデル研究会」なるものを立ち上げて、ちょうど1年になるが、発足当初より、そのメンバーとして一緒に活動しているキヤノンITソリューションズの永田さんが、おもしろい資料をまとめてくれた。
 
 “複雑に見えるものは何かが間違っている”が、彼のモットーだそうだが、まさに一目瞭然のチャートに仕上がっている。余計な、解説は不要だろう。ご覧頂けば、その意味をご理解いただけるものと思う。
 
 彼の言葉を借りれば、「社内の営業プロセスの整備がうまく進まない最大の理由は、営業マネジメント・プロセスがうまく機能していないからではないか」と考え、そのあるべき姿を図表にまとめたそうである。さて、みなさんは、どのようにこの資料を受け取られるだろうか。 

2010年11月13日土曜日

【コメントを追加しました】対策投資と戦略投資:クラウドを武器に企業の意識改革を迫る

 「企業利益が、リーマンショック以前の水準に戻ったとの報道もあるが、どうも実感がわかない。みなさんは、どのようにお感じですか?」

 毎週水曜日の夜に開催している「ITソリューション塾」で、ある大手ソリューション・ベンダーの営業の方から、そんな問いかけがあった。
 
 この塾には、大手中小を問わず20名ほどのIT企業の営業関係者が参加をしているが、一同を同じような感触を持っているようだ。
 
 いろいろと理由は考えられるが、そのひとつに企業が内部留保金の積み上げを拡大していることが考えられる。
 
 資本金10億円以上の大企業を対象とした財務省の「法人企業統計」によると、内部留保金に該当する利益剰余金と資本剰余金は、合計227兆円となり、10年間で74%も増えている。つまり、投資できるはずの資金を投資に使わずため込んでいるわけで、空前の金余り状態と言っても過言ではない状況が生じている。*この内容が誤りであるとのコメントをいただきました。下記、ご参照ください。2010/11/17更新*
 
 これでは、いくら利益が出てもそれが新規投資に向かないわけである。景気動向の先行き不安が未だ払拭されない中で、このような経営心理が働いているのだろう。当然のことながら、このような状況では、ITへの新規投資にも消極的にならざるを得ない。「景気がもどりつつあるという実感がわかない。」という背景には、このような理由があるのかもしれない。
 
 また、「情報システム部門の予算の7割が保守や運用などのコストであり、新規開発投資は3割に過ぎない。」という話を前回のブログで紹介した。この高コスト体質の情報システムの現状を見直そうという動きが多くの企業ですすんでいる。これは、情報システムだけの問題ではないが、企業統合による経営の効率化と合わせ、情報システム統合プロジェクトが、大手金融機関を中心に盛んである。
 
 この動きは、情報システム機器や開発要員と言ったIT企業への需要を拡大するが、一時的なものである。本質的には、標準化の推進、システムの統合、運用の自動化や簡素化といった、IT需要の拡大を抑制する取り組みである。
 
 内部留保金の積み増しによる新規投資の抑制に加え、中長期的な情報システム需要の低減に向けた動きは、たとえ我国の経済指標が改善しても、ITの需要拡大には、ストレートに反映されることはないだろう。
 
 もうひとつ考えておくべきは、我国企業の情報システム投資に関する目的意識が、対策投資を重視する傾向にあることだ。
 
 情報システムに限った話ではないが、我国企業は、意志決定に際して「失敗をしてはいけない」という基準が、大きく影響している。失敗することは、減点であり、出世の妨げになる。これは、ある意味、日本の伝統文化のようなものでもある。この結果、リスクを伴う新たな事業分野への参入、利益拡大にむけた体質の強化や仕組作りなどの戦略投資に対しては、どうしても慎重になる。この傾向は、短期的な収益を優先しなくてはならない資金余力に乏しい中堅中小企業にとっては、なお一層のことである。
 
 このメンタリティは、決してネガティブな側面ばかりでもない。高品質(時には過剰とも言える)を生み出す意識とも同根のものであろう。しかし、その反面、高コスト、機動力の低下などネガティブ側面も否めない。今のような社会的なパラダイムが大きな変革を求めている時代にあっては、これが、競争力の足かせになることもあるだろう。
 
 日本の企業は、伝統的に組織としての団結力が強い。従って、組織内の縦のキャリアパスが正当なものと受け入れられている。米国のように他の企業に移って出世するなどという横のキャリアパスは、心情的に受け入れがたいものがある。従って、社内の縦組織の中で成功することを目指すことになるが、その条件は、「失敗しない」ことである。言い換えれば、「スモール・スタート」、「リスクは犯さない」ことが大切なのである。このようなメンタリティは、徐々には変わりつつあるとは思うが、簡単にはなくなるものではないだろう。
 
 ここにおもしろい調査がある。「クラウドへの投資目的、日本は「コスト削減」、他国は「戦略的投資」」というものだが、なるほどと合点がゆく。クラウドの利用にも、同様の意識が働いているのかもしれない。
 
 この記事にあるような「コスト削減」に加え、「法令・規制への対応」、「業務内容の変更への対応」などという対策投資は、取り組まざるを得ないことである。しかし、新しい事業分野への進出や事業構造の変革などの取り組みにITを積極的に活用するといったと戦略投資については、意志決定に大きなハードルが立ちふさがっているようだ。
 
 ただ、我国企業が、グローバルな市場で競争力を取り戻すためには、この戦略投資が不可欠である。対策投資を重視するあまり、こちらへの投資を怠れば、競争力が相対的に低下することは避けられない。
 
 私は、そんな戦略的投資を促すひとつの手段として「クラウド」は、有効ではないかと考えている。失敗しても、所詮「クラウド」である。初期投資は少なくてすむ。いつでも、手放すことができるし、リスクも限定される。大きな失敗は回避され、減点も少なくてすむだろう。「スモール・スタート」には、うってつけの手段である。ちょっと、へそ曲がりな提案かもしれないが、我国企業のメンタリティを考えれば、現実的なアプローチかもしれない。
 
 クラウドを「コスト削減の手段」ととらえるだけではなく、戦略投資の武器として考える。ITベンダーは、そんな視点を持って、お客様にその価値を訴えてゆくというのはどうだろう。内部留保金という、巨大な金庫をこじ開けるきっけになるかもしれない。

*追加のコメント(2010/11/17更新)*

 本記事に対して、知り合いの会計士の方から次のようなご指摘がありました。
このご指摘には、「内部留保金」についての、私の解釈が誤りであること。また、世間でも同様の解釈があることを指摘されています。

 加えて、今の我国企業の経営努力の実態をこの「内部留保金」に絡めて説明されています。

このコメントは、大変示唆に富むものであり、一連のメールでのやりとりをそのまま転載させていただきます。

ご指摘のメール----------------------------

斎藤さん、

「資本金10億円以上の大企業を対象とした財務省の「法人企業統計」によると、内部留保金に該当する利益剰余金と資本剰余金は、合計227兆円となり、10年間で74%も増えている。つまり、投資できるはずの資金を投資に使わずため込んでいるわけで、空前の金余り状態と言っても過言ではない状況が生じている。」の部分は正しくないのではないでしょうか。

日本共産党も同じ間違いをし続けていて、
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-02-09/2010020901_04_1.html
識者から指摘を受けても一向に主張を曲げないというか、正さない、政治家にあるまじき確信犯なのですが、内部留保は資金調達サイド(貸方)の数値であって、資金運用・資金投入サイド(借方)の数値ではありません。したがって、この数値の大小とIT投資の増減に直接の関係はありません。

原則として、利益剰余金は、これまでの稼ぎからこれまでの配当を差し引いた残余です。また、資本剰余金はこれまでの増資額(=資本取引)のおよそ半額です。(なお、通常、資本剰余金は内部留保に含まれないのじゃなかろうかという気もします。)これらの金額が積み上がっているということは、日本企業がより多く稼ぎ、より配当を増やさず、より増資による資金調達をし、あるいはM&Aで大きくなってきたか、の履歴です。で、その結果できた資金を、現金のままとってあるのか、投資あるいは費用として使ったかは、別問題です。

ちょっと古いデータですが、利益剰余金の積みあがり傾向とは関係なく、むしろ若干反比例的に、日本企業の現金残高は長期安定、微減傾向にありました。
http://bit.ly/94qZlo
あくまで推測ですが、背景として、より強い企業が生き残り、より稼げる環境を先行確保して内部留保を高める過程で、脱落企業が淘汰され、日本における企業数が減少傾向にあることや、個別企業でもメインバンクに無理やり多めに貸し付けられて余計な定期預金を組まされるような取引慣行がほぼなくなったこと、あるいは連結経営が進んで、グループキャッシュマネジメントがより効率的になってきたことなどが背景にあるのではないかと推測しています。

なお、リーマンショック後生き残った会社は現金をより積み上げる傾向にあるため、直近の統計であれば現金残高はやや上向き傾向にあるのではないかと思いますが、いずれにしても内部留保と同額の現金を「貯め込んで」いるようなことは決してありません。

返信のメール ----------------------------

Sさん

斎藤です
ご指摘感謝します

なるほど、勉強不足です お恥ずかしい限りです。
ありがとうございました。

ご指摘いただいたことに関連して、教えていだきたいのですが、IT投資意欲を抑制する何らかの経営的モチベーションが働くとすれば、どのような財務会計上、あるいは、管理会計上の指標が、効いてくると考えられるでしょうか。

もちろんこのような視点からだけで、投資抑制の要因を判断することはできないと承知しておりますが、お客様をデータで理解しようとするとき、何らかの目安になればと思うのですが、いかがでしょう。

回答のメール ----------------------------

斎藤さん、

 財務会計または管理会計の指標でIT投資意思決定を左右するようなものがあるかと問われても、IT以外の投資意思決定と大きく異なる指標はちょっと思いつきません。

 通常IT投資は本業をサポートするものであって、それ自体が売り物になるわけではないので、まずは本業が儲かっていて、その儲かりのスピードを上げる余地、あるいは競合他社に圧倒的な差をつける余地が、IT投資によって生まれるかどうか。または、本業は儲かるかどうかスレスレだが、IT投資を通じて本業のスピードや管理精度が向上することによりキチンと儲かる事業になるかどうかが大切で、これらが是となれば、お金があれば投資できるし、なくても借り入れて投資(またはリースで投資)することになります。お金がない、借入先もないとなれば、VCの扉を叩きます。それでもダメなら投資のしようがないということになりますが・・・。

日本企業の内部留保がたまっているのに、現金があまり増えていないということの一因は、内部留保を重要な資金調達源とし、借入の返済を優先するバランスシートの見直しが続いているためかもしれません。また、国内外の外注先を使いながらファブレス型経営を志向する会社が増えているためかもしれません。しかし、バランスシートを身軽にすることと、必要なIT投資を行って経営スピードの点で他社に負けないことは両立可能と思います(言い換えれば、IT投資は不動産投資や工場建設ほど巨額でない)ので、何らか特定の会計指標をもってIT投資が抑制されるというようなことはないのではないかと思います。

普段、こういった視点で数字を見ていないので、的確な回答になっていないかもしれません。すみません。

返信のメール ----------------------------

Sさん

斎藤です
貴重なご指摘感謝します

> バランスシート
> を身軽にすることと、必要なIT投資を行って経営スピードの点で他社に負けないこと
> は両立可能と思います(言い換えれば、IT投資は不動産投資や工場建設ほど巨額でな
> い)ので、何らか特定の会計指標をもってIT投資が抑制されるというようなことは
> ないのではないかと思います。

この点は、大変示唆に富むご指摘かと思います。

ITの戦略的投資によりバランスシートを改善する。
つまり、IT指標を見て、投資の意欲を判断するという視点ではなく、より積極的にIT投資が、バランスシートに貢献するという目線を持つ必要がありそうですね。

大変勉強になりました。
感謝いたします。

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いかがでしょうか?すこし突っ込んだ議論ですが、ご参考になれば幸いです。

2010年11月6日土曜日

新規開拓ができない営業の無能を嘆き、既存顧客の深耕ができない技術者の営業センスのなさを愚痴る

 「吉田部長とは、長年のつきあいだし、信頼関係もある。今回も、うちに発注いただけるはずだよ。」という営業部長。
 担当営業が、その吉田部長を訪問すると「申し訳ない。今回は、他のところに頼むことにしたんだ。まあ、次もあるので、引き続きよろしくお願いしますよ。」という言葉。
 ここで引き下がるわけにはいかないと考えた彼は、「うちとは長年のおつきあいでもありますし、なんとかお願いできないでしょうか?」と食い下がった。しかし、結果は変わらなかった。

 仕事柄、ソリューション・ベンダーの経営者や営業の責任者と話をさせていただくことも多い。そうすると、最近、商談が増えたという話をされる。景気が戻ってきたようだという意見も聞こえてくる。しかし、成約に結びついているかと質問をすると、どうもそうではないらしい。むしろ、競合案件が増えて、簡単には受注できないという。
 
 いままでは、他社との棲み分けができていて、この部分については、当たり前に自分達への発注があった。そんな、お客様でさえも、競合、相見積もりにされることが増えたという。お客様の担当者にしてみれば、自分のところのシステムをよく知っている業者であれば、余計な説明などしなくていい。「これ、よろしく!」、「分かりました!」ですまされる関係のほうが、手間もなく楽なはずである。それでも・・・である。
 
 冷静にこの事実を考えれば、案件が増えたと考えるべきではないだろう。むしろ、相変わらず少ない案件を複数の会社に競合させているだけのことである。担当者が、あなたの会社を信頼し、自分も楽をしたいと思っても、もはや経営者が、それを許してくれない。そんな状況が、あるようだ。
 
 加えて、クラウドやオフショアは、そんなお客様の意識をあおっている。クラウドやオフショアを使えば、もっと安くできるのではないかという期待感である。
 
 また、「低単金」という新たな常識。リーマン・ショックでユーザー各社がコスト削減に躍起になっているとき、ITソリューション・ベンダーは、業務量を確保するために安い値段で仕事を引き受けてきた。
 今までの仕事量は、変わらないのに一律単金20%カット・・・新人は勉強だから、とりあえずタダ・・・本来は、準委任で行うべき仕事を請負にして、単金の上限を押さえ、多少の工数の変動(ほとんどは、追加)は、そこで吸収させる・・・などの新しい常識が、定着してしまった。そこに、新たな調達の手段であるクラウドやオフショアが加わり、そことも競合しなくてはならない。
 
 景気の先行きへの不安感から、多くの企業が内部留保金の積み増しを行っている。当然、新規投資には、お金が回らない。加えて、情報システム部門の高コスト体質。IT部門の予算の7割が、保守や運用などの経費に回され、新規投資は、わずか3割に過ぎない。もちろん、情報システム部門も、これ以上できないというくらいに、いろいろと工夫をしてきたのだろうが、従来の仕組を踏襲する限り、根本的なコスト構造の変革は、期待できない。
 
 景気がよくて、会社の業績が伸びているときは、そんなことを気にすることもなかっただろう。しかし、今は、この現実が、経営者にとっては、「何とかならないのか」という気持ちをかき立てているように思う。
 
 この閉塞感を打開するためには、もはや目先の改善や単金の引き下げといった取り組みでは、限界がある。低コストで、変更や変化に柔軟なシステムへの構造変革が、必要だ。お客様もその取り組みに関心を持ち始めている。
 
 つまり、お客様が求めているのは、「これ、よろしく!」への対応ではない。「どうすればいいだろうか?」への回答であろう。「これ、よろしく」の時代は、お客様にも頼む仕事がいくらでもあった。だから、お客様との人間的な信頼関係は、強力な武器であり、それが案件獲得の大きな力になっていた。しかし、もはやその威力は、相対的に低下しつつある。
 
 私は、お客様との個人的な信頼関係を否定するつもりはない。それは、従来もこれからも、大切なものだと思う。しかし、それだけでは、稟議を通し、決済を取り付けることが難しい時代になった。人と人のつながりの大切さに加え、経営合理的な観点での「どうすればいいだろうか?」に応える知恵と工夫が、今まで以上に求められているように思う。
 
 この期待に応えるためには、個人力として営業力をとらえていては、無理である。組織として、会社として、お客様の期待に応えてゆくために、何をすべきかを考えるべきである。営業職の役割、エンジニアの役割、経営者の役割・・・もはや従来の常識を前提とした役割分担では、対処しきれない。
 
 未だに、営業は売る人、事業部は作る人。そんな古い常識をかざし、新規顧客の開拓ができないのは、営業が無能であるからだと嘆き、既存顧客の深耕ができないのは、事業部のエンジニアに営業センスがないからだと愚痴っているようでは、お客様の期待に応えることはできないだろう。
 
 組織を越えて、お客様の「どうすればいいだろうか?」に応えるためには、会社として何ができるだろうかを考えてみるべきだろう。その取り組みは、間違えなくお客様に伝わるはずだ。そこにこそ、人間関係を越えた、お客様との本当の信頼関係が築けるのではないだろうか。

2010年10月31日日曜日

売る側から考えたクラウドの定義

 現在、広く受け入れられているクラウド・コンピューティングについての理解は、米国NIST(国立標準技術研究所:National Institute of Standards and Technology)の定義に準じるものが多いようです。しかし、売る側の立場としては、どうもしっくりこないというのが、正直なところです。

 たとえば、NISTの定義にSaaS,PaaS,IaaSのサービス・モデルとプライベートとパブリックを区分する配置モデルがあります。しかし、厳密に考えれば、このサービス・モデルは、パブリック・クラウドのサービス・モデルであり、プライベート・クラウドには、当てはまりません。ちょっと、中途半端な気がします。 

 売る側のスキルや体制の視点から見ると、SaaSは、業務ノウハウを基盤としたビジネス・モデルです。もちろんプラットフォームなくして、サービスの提供はできませんが、現実の問題を考えると、この両方の能力を兼ね備えているIT事業者は、決して多くはありません。ですから、アプリケーションは自分で運営し、プラットフォームは他者に任せると言った仕組作りも可能なはずです。両者は、分離して考えることができます。 

 一方、プラットフォームに目を向けると、不特定多数を対象としたミドルウェアやインフラ環境を構築し、自ら運用するPaaS,IaaSの場合と企業内にシステムを構築し、特定のお客様のためにシステムを構築、運用する場合とでは、必要となる投資やリスク、体制やスキルは、大きく異なります。 

 サービス・モデルと配置モデル。このふたつが、別々の解釈軸で区分されているのは、売る側のスキルや体制、ビジネス・モデルを考える上では、どうも不便な感じがしています。 

 もうひとつ考えるべきは、我が国と米国とのビジネス環境の違いです。

 我が国では、ユーザー企業は、社内ニーズのとりまとめ役であり、システム構築や運用などのインテグレーションは、SI事業者に依存するケースが少なからずあります。しかし、米国では、このインテグレーションの役割、つまり、PM、調達、開発、運用などをユーザー企業が持つ場合が一般的で、不足のリソースを必要なときに外部から調達するという考え方が、一般的なようです。 

 従って、システムに関わるコストや効率は、完全にユーザー視点です。また、きめ細かくエンドユーザーの要望に応える自主開発も、日本ほどには積極的ではありません。コストや効率の観点から、パッケージ・ソフトウェアを導入し、パッケージ・ソフトウェアに業務をあわせることについても、割り切っているようです。  

 NISTの定義を改めて、この視点から眺めてみると、SaaSは、パッケージ・ソフトウェアの置き換えです。また、PaaSは、データベースなどのミドルウェアに関わるスキルを持つ人材調達の代わりであり、IaaSは、ハードウェア・リソースの低コストでの調達手段と見ることができます。米国の事情を考えると、実にわかりやすい利用者視点の区分であり、合理的な解釈と言えるでしょう。 

 SI事業者に大きく依存している我が国のユーザー企業には、この発想は生まれにくいかもしれません。また、SI事業者にとっては、このような考えは、自らの利益と相反する危険思想かもしれません。従って、このような合理的な考え方を採用することには、どうしても消極的になってしまうのかもしれません。 

 また、プライベート・クラウドの昨今の動向を米国のビジネス環境からみると、あることが分かります。それは、プライベート・クラウド構築の負担軽減です。 

 前述の通り、米国では、システム・インテグレーションの実行責任は、ユーザー企業側にあります。従って、プライベート・クラウドを構築するためには、自ら必要なハードウェアやミドルウェアを選定し、その組み合わせを自らの責任において、保証しなくてはなりません。これは、スキル的にも、人材的にもなかなか大変なことです。コストと効率に敏感な企業にとっては、これは大きな負担となっています。 

 このようなユーザーの課題を解決しようという動きが、「Cloud in a box」です。この言葉、オラクルのCEOであるラリー・エリソンが、Exalogic Elastic Cloudの発表の時に使った言葉ですが、シスコのvblock、マイクロソフトのAzure Appliance、IBMのz Enterprise 196など、基本的には同じ動きだと言えるでしょう。 

 言い換えれば、企業内にオープン・システムをプラットフォームとしたメインフレーム=汎用機を簡単に導入、構築するビジネスととらえることができます。 

 しかし、我が国の場合、これは、ベンダーやSI事業に任せるか、大きく依存している部分でもあり、ユーザー企業が、その必要性をそれほど強くは認識していないのではないかと思うのです。 

 このように、我が国と米国のビジネス環境の違いを考えると、NISTの定義をそのまま前提にして、ビジネス・モデルを考えるのはいかがなものかと思うのです。 

 そこで、ちょっと大胆な挑戦ではありますが、我が国の実情を前提に、売る側の視点でクラウドの定義を考えてみました。いかがでしょう。 

 ■ アプリケーション・サービス・クラウド

 ■ プラットフォーム・サービス・クラウド

 ■ エンタープライズ・サービス・クラウド

 

 ■ アプリケーション・サービス・クラウド

 特定の業務に特化したアプリケーションを、インターネットやWANを介して、サービスとして提供するビジネス・モデル。プラットフォームは必要ではあるが、必ずしも自ら運営する必要はない。

 ■ プラットフォーム・サービス・クラウド

 開発や運用に関わるリソースを、仮想化や運用の自動化の技術を前提に、インターネットやWANを介して、サービスとして提供するビジネス・モデル。  

 ■ エンタープライズ・サービス・クラウド

 企業内で利用するシステムを集約し仮想化や運用の自動化の技術を前提に、効率的なシステム利用環境を構築、運営するサービスを提供するビジネス・モデル。 

 まだ、荒削りではありますが、議論のたたき台になればと願っています。 

 この話題については、11月11日(木)に開催されるクラウドコンピューティングEXPOでも、ITソリューション・ベンダーの事業戦略と関連づけて、詳しく話をさせていただこうと思っています。

2010年10月24日日曜日

過剰品質という本物

 長年愛用したファーバーカステルのボールペンを先日なくしてしまいました。もう、10年近くは使っているものでした。使い込んだ濃い焦げ茶色の木製の軸は、いい具合に膏がなじみ照りがでて、新品とはまた趣の違うものとなっていました。持った感じは、ずっしりと重いのですが、それがなかなか手になじんでいて、なめらかな書き味は、極みでした。

 そんなボールペンを、いつもゆく多摩湖の四阿のテーブルに置き忘れてしまったようです。気がついて戻ってはみたのですが、友人にもらったBMWのロゴマークが入ったロディアのメモパッド・ホルダーとともになくなっていました。
 
 自分の粗忽にただただあきれるばかりです。あのときにいろいろと考え、メモしたアイデアも一緒に消えてしまいました。どうぞ、私のボールペンを手に入れた方は、是非大切に命をつないでやってください。
 
 私は、それほどものに愛着がある方ではありません。しかし、あのボールペンのなめらかなペン芯の繰り出し、クリップのしっとりとした弾力、うまく配分された重量のバランスは、作り手の思い入れと丁寧な職人技と愛情を感じさせます。「本当によくやってくれました。ありがとう。」そんな感謝の気持ちさえ感じます。
 
 営業として現役だったころ、三洋電機をお客様として担当していたことがあります。そこで、空調機を作っていたのですが、その製造コスト削減策として、組み立て作業時間をどうすれば、削減できるだろうかという検討を行ったそうです。その中に、配線の取り回しをもっと簡単にすればいいのではという意見があったそうです。
 
 わたしも見せていただいたことがあるのですが、その配線の取り回しはみごとと言うしかありません。実に整然と機器内の構造物と一体化していました。職人技とでも言うべきですが、乱れのない、そして、撚りのない配線は、美しささえも感じるものでした。
 
 しかし、このような美しい配線は、ベテランでも手間のかかる作業だそうです。もっと簡素に作業を行えば、作業時間を短縮できます。配線ですから、機能に違いがあるわけではありません。過剰品質ではないか・・・ということで、そんな検討がされたそうです。
 
 しかし、結局、その作業に手をつけることはなかったそうです。詳しい事情はわかりませんが、それはもう理屈を越えた常識であり、そうでないこと自体を受け入れられない、理屈を越えた空気のようなものがあったのではないかと思っています。

 工場の方が、「そんな日常の当たり前が、私たちのモノ作りの基本にあるんですよ。品質は、そんな現場の当たり前の結果であり、必ずしも厳しく管理されてできるものではないんですよ」とおっしゃっていました。なるほどと感銘を受けたことを記憶しています。
 
 少々手前味噌ではありますが、私もまた、自分の資料作りに、私なりのこだわりがあります。その最大のポイントは、「一瞬のわかりやすさ」です。
 
 細々と理屈を積み重ねて説明しなければ、わかってもらえない内容を、どうすれば、一枚のチャートだけで、瞬時にわかってもらえるようにできるか。パワーポイント上に配置されるボックスの形や色、左右上下の位置関係、それぞれの内容に応じた色分け、空間の均整と間の取り方・・・そんなことを考えながらの資料づくりは、必ずしも生産性の高いものとは言えません。
 
 一度書き上げても、もう一度見直すと、何かしっくりこない・・・改めて、全体のバランスを考えながら、配置や形、色を調整します。
 
 「そんなことに時間を割くなんて馬鹿なことはやめるべきだ。もっと中身を考えることに時間を割くべきだ」と、人に言われることもあります。しかし、中身とは、表現と表裏一体な存在です。表現をわかりやすくしようとすると、中身というか、本質というか、それは何だろうかと考えなくてはなりません。
 
 どうすればわかりやすく、こちらの意図を伝えられるかを追求してゆくと、伝えたい内容の要素を徹底的に因数分解し、ロジカルシンキングで構造を組み立ててゆくことになります。
 
 一見複雑で、漠然としていることを、相手にわかりやすく伝えようとすると、その内容の本質を考え、それをバラバラにして、自分なりにわかりやすいように並べてみる。そして、これをどう並び替えれば、相手は理解できるだろうかと考えます。
  
 何色を使い、画面のどこに配置すれば、思考に無駄な雑音を発生させることなく、すっと相手に伝わるだろうかを考えるわけです。資料の順序も大切です。自分は分かっているからこの順序で大丈夫・・・ではなく、分かっていない人の思考プロセスを想像し、その順序を考えてゆく。そうすると、なるほど!と思える展開が見えてきたりもします。
 
 私は、表現を追求することは、中身を徹底的に理解しようとする取り組みだと思うのです。
 
 あのファーバーカステルのボールペンも、三洋電機のエアコンも、そのものが持つ本質を追究してゆくと、もはやこうせざるを得ないというカタチになってしまったのだと思います。それが一番いいコトかどうかはともかくとして、そうでなければ自分が、納得できないんです。それは、結果として、見た目にも美しいものに仕上がってしまうのです。
 
 効率は悪いかもしれません。自己満足かもしれません、過剰品質かもしれません。しかし、その追求をやめることは、もはや気持ちが悪いのです。
 
 さあ、今日もこれから、二つのプレゼンテーション資料を作らなければなりません。「さあみていろよ。なるほど!と、相手をうならせる資料を作ってやるぞ」と燃えています。しかし、その一方とで、「どれだけ時間がかかるだろうか?今日中に間に合うだろうか?」と不安がよぎります。
 
 仕方がありません。気持ち悪さを残したままのプレゼンテーションは、迫力もなく、後味の悪いものになることは、目に見えていますから。

2010年10月17日日曜日

売れないことのいいわけ:「営業力不足」

 「営業は、新規のお客様を見つけてくればいいんですよ。その後は、私たちデリバリー部門が引き受けますから。うちの問題は、その営業が、お客様を引っ張ってこれないことにあるんですよ。営業力不足。そこに問題があるんです。」

 ある中堅SI事業者のデリバリー部隊を統括する役員のコメントです。私は、彼にこんな質問をしました。
 
 私 :「ところで、既存のお客様の深掘りは、だれの責任なんでしょうか?」
 
 役員:「それは、私たちの責任です。マネージャーやリーダーが、その責任を担っています。」
 
 私 :「なるほど・・・ところで、それはうまくいっていますか?」
 
 役員:「・・・。実は、こちらも必ずしもうまくいっていません。以前は、そんなことはなかったんですが・・・。」
 
 営業が新規顧客開拓に責任を持つ、そして、事業部が、既存顧客の深掘りに責任を持つ。この役割分担は、多くのSI事業者で、昔から採用されています。どうも、この仕組が、最近うまく機能していないように感じています。
 
 お客様の業績が伸び、それに軌を一にしてSI事業者の仕事も増えていった時代。デリバリー部門のマネージャーやリーダーは、デリバリーを確実に仕上げることで、お客様の信頼を得る。するとお客様は、社内の事情も、気心も知れた同じ会社(=人)に任せた方が楽です。頼むべき仕事もたくさんあります。それではと云うことで、リピートする。SI事業者は、そうやって仕事を継続し、拡大することができました。
 
 この時代の案件獲得の手段は、「デリバリー業務において、QCDを確実に達成すること」だったわけです。つまり、デリバリー部門のマネージャーやリーダーの本来の業務と一致しているわけで、余計な仕事(=営業活動?)は、しなくても、自分の仕事をきちんとこなすことで、既存顧客からの案件獲得/拡大は、可能な時代でした。
 
 しかし、今はどうでしょうか?お客様の業績が伸び悩み、ITもそこそこ行き渡りました。そんな中で、SI事業者にお願いする仕事が、かつてのようには増えません。また、景気動向に神経質になっている企業は、内部留保を拡大する経営施策をとり、新規開発案件を押さえています。また、コスト削減は、リーマンショック以来、我が国企業の基本に位置する意志決定基準となり、経営の意志として、競合によるコスト競争を当然と考えるようになりました。情報システム部門の現場にしてみれば、これは面倒な話です。「よろしく!」-「はいわかりました!」以上・・・ですまなくなったのです。
 
 また、お客様は、恒常的に低コストで運用できるシステムを模索しています。これには、「これしかない」という答えが用意されていないです。お客様もどうすればいいのか、答えを探しているのです。
 
 このような現実を考えてみると、既存顧客から案件を継続的に増加させるためには、目の前にあるデリバリーを成功させるだけは、不十分なのです。競合に勝つための方法を考え、提案しなくてはなりません。しかし、単金だけに着目しても、クラウドやオフショアという新たな競合の出現に対抗しなければなりません。
 
 もはや、「デリバリー業務において、QCDを確実に達成すること」だけでは、リピート案件の獲得/拡大は、容易なことではなくなったのです。
 
 「営業が新規顧客開拓に責任を持つ、そして、事業部が、既存顧客の深掘りに責任を持つ。」は、お客様の業績も右肩上がりで、それにうまく対応することで、業績を上げることができた時代は、効果的な体制だったように思います。
 
 しかし、時代は変わりました。今となっては、この方法は、必ずしもうまく機能しないように思います。
 
 このブログでもたびたび取り上げていることですが、営業職と技術職、あるいは、営業部門と技術部門の役割を、この時代の変化に即した仕組に変えることを考えてみてはどうでしょうか?
 
 「営業力強化は、営業職の能力強化」という、単純思考を捨てるべきです。会社の文化や風土、組織の役割分担まで踏み込んで、営業という仕事をとらえ直す時期にきているのではないでしょうか。技術者も技術力やプロジェクト管理能力を高めることだけではなく、広い意味での営業力を身につけさせるべきではないでしょうか。
 
 確かに、今までのやり方のほうが、経験的にわかっていることですから居心地がいいのはよくわかります。しかし、過去の栄光は、遠い昔の輝きであり、そのときの「常識」は、もはや「非常識」となっているということ。そういう時代になったということを謙虚に受け止めるべきでしょう。
 
■ iSUC新潟大会で話をさせていただきます。
 
 以上のような変化の中で、私たちは、どうすればいいのでしょうか。そんなこれからの営業のあるべき姿を考えようと、私たちは、「ソリューション営業モデル研究会」を立ち上げました。
 
 この研究会は、いまだ定まらない「ソリューション・ビジネス」の正体をまずは、きちんと定義しようとしています。そして、お客様に認められ、感謝されるソリューション営業活動とは、どのようなものなのかを体系化して、モデル化しようという取り組みを始めました。また、営業現場の実践に使える「ソリューション営業実践マニュアル」も作ろうと思っています。
 
 既に30社を超える大小のソリューション・ベンダーの皆さんが、ボランティアとして、名前を連ねています。

 「営業の仕事とは、お客様の価値を最大化することを、最大のコストパフォーマンスで実現すること」と、私たちは考えています。

 そんな営業の仕事の「あるべき姿」とそれを実践するための具体的な方法を「個人の能力」、「組織の成熟度」、「営業活動のプロセス」という切り口から体系的に整理しようと考えています。
 
 ご興味があれば、どうぞお問い合わせください。また、10月20日(水)(15:15-16:15)に新潟で開催されるiSUC(IBMユーザーの研修会)にて紹介させていただきます。よろしければ、おいでください。

2010年10月9日土曜日

「危機感」という幻想:期待しても何も変わりません

 「いくら、営業の育成をしても、中堅管理職がこのままでは、営業力強化といっても、無理ですよ。」

 あるSI事業者の役員が、ため息混じりに話してくれた。

 がんばっても、なかなか受注を伸ばせない。だから、営業力を何とか強化しなくてはという思いは、この会社だけではない。営業研修にも熱心だ。しかし、数字に現れてくれない。そんな、焦燥感を募らせている。

 経営者からみれば、彼ら中堅管理者の努力不足を問題と考える。一方、管理者は、経営の無策が原因だと考えている。デリバリーに責任を持つエンジニア部門は、営業が新規顧客や案件をとってこないのが悪いという。営業は、既存のお客様の深掘りに不熱心なプロマネやリーダーたちに原因があるという。
 
 なぜ、こんなことになってしまうのだろうか。
 
 「危機感が足りない。意識改革が必要だ!」というが、本当にそうだろうか?私は必ずしもそうは思わない。危機感が強まれば、意識が変われば、状況は改善されるのだろうか。そんな簡単なものではないだろう。
 
 少なくとも、この会社では、「このままでは、だめだ・・・何とかしなくては!」という思いは、みんなが持っている。
 
 では、どうすればいいのだろう。
 
 私は、「危機感を持つ」ということを否定するつもりはない。しかし、その持ち方が問題だと思う。感情的に、感覚的に危機感というものをとらえても、それだけでは、解決の方策が見いだせない。大切なことは、この危機の本質や業績に及ぼす影響を丁寧に分析し、論理的、数値的に危機の事実を明らかにすることだろうと思う。
 
 前回のブログで紹介のとおり、SI事業は、大きなパラダイム変化の波にさらされている。この変化の行き着く先は、単金の低下、競合の拡大、低コスト・システムへの転換である。
 
 かつては、お客様の景気がよければ、仕事は、お客様の業績の伸びとともに、ついてきた。その頃の営業の役割は、お客様との人間関係の維持と迅速で適正な価格での人や物の調達である。デリバリー部門は、そんな営業のオーダーに応え、QCDを確実にこなし、その実績を武器に次の仕事をとってくることで、仕事を継続的に得ることができた。
 
 製造業の仕事にたとえるなら、デリバりー部門は、工場である。営業は、さしずめ生産管理部長といったところだろうか。
 
 しかし、継続的成長が期待できない今、お客様は、かつてのような「体力強化型」のシステムを求めていない。低コストでも確実にこなせる「体質強化型」のシステムを今まで以上に模索している。クラウドやオフショアは、そんなお客様の期待をかさ上げしているともいえる。
 
 このような「体質強化型」への対応は、単純にモノやヒトといったリソースの調達だけで対応できるものではない。お客様も、何がほしいのかがわからない。営業も最適な答えを持ち合わせていない。言い換えれば、何を売ればいいのかが、わからないのだ。
 
 いや、そんなことはないという人もいるだろう。ERPがある、仮想化がある、低コスト・サーバーもある。しかし、競合が当たり前の時代だ。それぞれに機能や特徴の違いはあるだろうが、お客様からみれば、一長一短。製品とて、同じモノを売っていることもある。そうなると、価格勝負、体力勝負しかない。
 
 お客様が求めているのは、「体質強化のための設計図」だ。お客様と一緒になって、お客様の必要とされているモノの図面を描き、その最適な組み合わせを創造しなければならない。お客様は、営業にその役割を期待している。
 製造業にたとえれば、従来の生産管理部長ではなく、研究開発部門のプロデューサー役を営業に期待している。
 
 このような役割を担う営業に、アメとムチ、叱咤激励、「こんなところで何やってるんだ!机に向かっている時間があったら、さっさとお客様のところに行く!それが営業ってもんだ!」という精神訓話は、役には立たない。「そう言われても、どうすればいいのですか?」の答えが見いだせないビジネスに、このようなやり方は、害にこそあれ、モチベーションを高めることにはつながらない。
 
 お客様と一緒になって、これからの設計図を描く。これを営業だけにやらせることは難しい。マネージャーも、エンジニアも、一緒になって知恵を出し、その役割を営業と分担し、チームとして作り上げてゆく。エンジニアにプログラミングやプロマネの能力も必要だが、お客様の業務を分析し、体系化し、テクノロジーと結びつけてゆく。そんな、広範な知識と能力が求められている。ここは、まだまだ、オフショアやクラウドのサービスに勝ち目がある領域だ。
 
 営業という仕事が、営業職の仕事である限り、このような、取り組みはできないはずだ。もはや、営業の概念が、大きく変わってしまったということを受け入れることだ。かつての常識が非常識となってしまった事実を受け入れることが、起点である。
 
 危機感とは、「従来」と「現在」とが、どう変わったかを対比することである。そして、あるべき姿の「現在」と今そこにある「現在」のギャップを冷静に捉え、受け入れることである。
 
 感覚の問題ではなく、論理の問題ととらえること。それを共有すること。危機感とは、そうやって意志づけられるのだろうと思う。
 
 感覚的言葉だけで、危機感をあおってみても、混乱を招くだけである。また、それぞれの都合のいい解釈により、自分たちの組織や仕事の変化を最小限に食い止めようとする。それが、先ほどのような混乱を招く原因となっている。
 
 危機感を論理的、合理的にとらえれば、あるべき姿は何か、何を目指すべきかは、共有しやすくなるだろう。また、手段をどうするかについての利害の対立は、なくなることはないにしても、あるべき姿を実現するためには、どうすればいいかを合理的に判断できるだろう。気に入るか、気に入らないかの感情論は、その地位を下げることになる。
 
 精神論、宗教論として、危機感を醸成するだけでは、危機の本質を見誤ることになりかねない。また、営業力も、従来当たり前とされていた営業職の力としての営業力ではなくなってしまったことを真摯に受け止めること。会社、組織としての新たな営業力を定義しなおし、その上で、営業やエンジニアを含め、役割や能力をどうするか、考えてゆくべきなのだろう。
 
 かつての営業としての成功体験を持つ人たちが、いま営業の中堅管理者となっている人は多い。そういう人にはおしかりを受けるかもしれないが、あえて申し上げたい。
 
 「世の中、変わったんです。滅私奉公、お客様は神様といった気持ちで成し遂げたあなたの成功体験。そこで身につけた方法論は、今の若者たちにとって、役にも立たないんです。同じことをやらせると失敗します。むしろ害です。
 “滅私奉公、お客様は神様です”は、今の若者たちには、カッコワルイの象徴です。そのことを受け入れましょう。
 過去の栄光は、お客様のお役に立てた喜びがいかにすばらしいものかを伝えるたとえ話としては役に立ちます。それまでです。“何でできないんだ!こうすればいいんだよ”というような方法論まで指図しない。やり方は任せ、それをサポートする。それが、今マネージメントに求められていることなのです。」

2010年10月2日土曜日

「こうすれば受注できる」という常識が、もはや通用しない時代

 「クラウドへの取り組みや新しいパッケージの販売など、いろいろと手を打ってはいるのですが、どうしても数字に結びつきません。営業力の強化が急務です。営業の育成を何とかお願いできないでしょうか。」
 
 あるSI事業者の社長から、そんな相談を頂きました。しかし、ことは、そんなに簡単なことではないように思うのです。
 
 以前、このブログでもご紹介した「第二の変化」について、いろいろなところでお話をさせていただきましたが、まさにそうだというコメントを多くの方から頂きました。今日は、このテーマと営業力について、もう少し深く掘り下げてみようと思います。
 
 今、我が国のSI事業者は、「今までの常識」を崩壊させるほどの、ふたつの大きな波にさらされています。特に、中堅、中小のSI事業者にとっては、経営をも揺るがす力を持っているほどです。

 まず、第一の波は、「ニューノーマル」の波です。日本のSI産業は、上流工程を握る一部大手SI事業者と1万社ほどの中小SI事業者による下請け構造によって成り立っています。
 
 リーマンショックにより、お客様の新規開発の意欲が大きく減退しました。その結果、従来からの元請-下請けの産業構造は維持されたままに、元請、下請けともに、業務量が大幅に減ってしまったのです。そして、中小規模のSI事業者は、元請、および、お客様のコスト削減要求に応えるという名目で、単金を大きく引き下げてでも受注しようというサバイバル合戦が始まったのです。

 また、お客さまも、今までのように「従来からの付き合い」だけで、特定の事業者に業務を委託することは、もはや許されない状況となりました。経営の方針として、大幅なコスト削減が求められる情報システム部門にとって、乾いたぞうきんを縛ることを求められました。また、経営の意思として競合/相見積もりは必須となったところも少なくありません。その結果、見かけ上の案件や引き合いは増えても、成約になかなか結び付かないといった事態を招いてしまいました。

 この競合に勝ち残れないSI事業者は、大手SI事業者に買収されるか、倒産を余儀なくされてしまったのです。大手SI事業者による中小SI事業者の買収は、グループ内製を推し進めることとなり、独立系SI事業者に仕事が回りにくいといった新たな構造も作り上げてしまったのです。

 加えて、とりわけ大きな課題は、お客様が、「この金額でもなんとかできるではないか」と思い始めていることです。つまり、中小SI事業者は、仕事の確保を優先するために、お客さまからの値引き要求に応えざるを得なかったわけですが、業務内容の実態は、大きく変わるものではなかったのです。そのため、「安い単金でも同じ仕事ができるではないか」という新たな常識(ニューノーマル)をお客様の意識に植え付けてしまったのです。これが、第一の波です。

 この第一の波は、新規開発が中止または白紙となるなかで、まずは開発業務に顕著な影響を与えました。そして、すぐには業務内容を変えることができない運用や保守などのストック・ビジネスにも、順次影響を与え始めました。

 今、リーマンショックが、ひとつの区切りを迎える中、景気指標が改善し、大手金融機関など、一部業種においては、新規開発需要が盛り返しつつあります。また、大手銀行などでは、このリーマンショックをきっかけとして、より低コストかつ、変化への柔軟性を模索した体質強化のためのシステム再構築プロジェクトも立ち上がりつつあります。しかし、その恩恵が、なかなか、中堅、中小のSI事業者に波及してこないというのが現状でする。
 
 その理由は、大手SI事業者によるグループ内製の優先、ニューノーマル意識の定着による受注金額の頭打ち、そして、第三の選択肢であるクラウドやオフショアとの競合です。これが、第二の波です。

 つまり、エンドユーザーのITシステム需要は回復しても、それが、リーマンショック以前のように、中堅、中小のSI事業者の需要に、直接つながらないのです。
 
 リーマンショック以前の産業構造、すなわち、大手が元請/中小が下請けで成り立っていたSI産業構造は、もはや崩れ始めているのです。これは、派遣型、あるいは、業務委託型を主要な事業の柱としているSI事業者にとっては、大きな影響を与えることになります。
 
 また、お客様は、システム規模を大きくするための投資に積極的ではありません。いかに低コストで、かつ柔軟に運用できるかに関心が高いわけで、中長期的に見れば、IT投資抑制に向けた取り組みを始めようという訳です。

 お客様の仕事が好調なときは、お客さまもシステム事業者に何を求めるべきかが、明らかでした。例えば、サーバー、開発要員の工数やスキル、運用・保守作業など、拡大する業務に対応するための「体力強化」のためのリソースを求めていたのです。

 しかし、第二の変化がもたらしたものは、これとは質的に異なるものです。いかに低コストで、効率よく、柔軟に世の中の変化に対応できるかという「体質強化」のためのシステムです。需要の拡大も、単にリソースを増やすという単純志向での解決策は、許されないのです。
 
 従来からの「こうすれば受注できる」という営業活動の常識が、もはや成り立たたなくなったのです。

 つまり、景気回復に伴う需要の増大に対処する手段は、従来のようにオンプレミス型のリソース、例えば、サーバーや国内の開発、運用の要員を増やすことだけではなく、「クラウドという仕組み」や「国境を越えた事業者」という選択肢をも前提に考えなくてはならなくなったのです。その結果、選択肢は多様化し、複雑さを増しています。
 
 どの組み合わせが、自分たちにとって、最もふさわしい手段の組み合わせ=ソリューションなのか、それ自体に絶対の正解を見出しにくい状況となり始めているのです。

 言い換えれば、お客さまもSI事業者もともに、何が最適解なのかがわからず、両者が一緒になって、その最適解を考え、創造してゆくといった取り組みが、求められる時代を迎えたのです。

 私たちは、この新たな常識を真摯に受け止める必要があります。

 この事態に立ち向かうためには、営業という仕事についての従来から常識も見直す必要があります。
 
 いままでの営業は、お客様とのコミュニケーション能力や信頼関係を構築、維持することが強く求められてきました。また、お客様のリソース調達の要求に適正なコストで迅速に答えることが求められてきたのです。それをできることが優秀であり、業績にも貢献していたのです。
 
 しかし、第二の変化は、この営業の常識を変えようとしています。クラウド、オフショアを含む多様な選択肢の中から、お客様の課題解決に最適な組み合わせを創造する。そのプロデューサーとしての役割といえるでしょう。
  
 決して、お客様との信頼関係や人間関係は不要という訳ではありません。ただ、それだけに頼っていると、仕事は手に入らない。そんな状況が生まれてきているのです。
 
 ますます競合が厳しくなる中で、競合他社を超える魅力的な組み合わせ=ソリューションを創造する。それは、営業一個人の力量では、限界があります。
 
 営業は、会社の力、組織の力、あるいは、社外のサービスや商材をお客様の課題解決のために結集する。その全体図を描き、戦略を立て、リソースの組み合わせを設計する。今求められる営業には、そんなクリエーターとしての能力が求められているのです。
 
 そのためには、営業力を営業職の能力とらえるのではなく、会社や組織の仕組みととらえ、エンジニアもサポートスタップが、ともに営業活動を理解し、その役割を担う必要があるのです。
 
 第二の波は、確実にSIの産業構造を変えてゆくことになるでしょう。それに対処するために「営業職を増やし、その能力を育成する」というだけでは、対処しきれません。営業力を営業職の力ではなく、会社の力ととらえなおし、その力を高めてゆく、そんな根本的な構造改革が、求められる時代が、到来しているのです。

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2010年9月25日土曜日

提案営業などやめてしまえ!御用聞き営業こそ、最高の営業だ!

 「うちは、提案営業に力を入れています。」という、あるソリューション・ベンダーの営業部長。かなり自信を持っているようだ。

 そんな彼の自慢の部下に、「実際のところどうなの?」と聞いてみると、おもむろにカバンから分厚いバインダーを取り出した。そこには、自分たちの製品やサービスについての説明資料やパンフレットが、ぎっしりと、そして整然と詰まっていた。「お客様に行って、なんでも提案できるように用意しているんですよ。」と自慢げに話してくれた。
 
 後で、他の方に彼の営業成績を聞いてみると、案の定、今ひとつだそうである。どうも、この営業部長も部下の営業も、提案営業の意味を勘違いしているようだ。
 
 まず第一に、お客様は、製品やサービスをほしいなどとは、思っていない。この大前提を忘れているようだ。お客様がほしいものは、自分の抱える課題を解決することであり、製品やサービスは、その手段にすぎない。
 
 お客様の課題を十分に聞き出すことなく、こちらにとって都合のいい製品やサービスを説明したところで、お客様にしてみれば、「いいお話を聞かせていただききました。社内で検討のうえ、後日こちらから連絡をさせていだきます。」と笑顔で応えてくれるだけ。それ以降、待てど暮らせど連絡が来ることはないだろう。
 
 第二に、資料を説明することを提案だと思っていること。提案営業とは、こちらが用意した資料を積極的に説明し、お客様を説得して、ねじ伏せることだと思っている節がある。
 
 彼に同行した新人営業にこっそり話を聞いてみた。すると、かれは、のべつお客様に話し続けていたという。自分から積極的に話すこと=提案営業という図式があるようだ。しかし、お客様にとっては、きっといい迷惑だろうと思う。そうやって、彼は、仕事をしたという充実感に酔いしれているのかもしれない。
 
 自分は、こんなに一生懸命やっている。成果が出ないのは、自分の努力が足りないのではなく、お客様が悪い、製品が悪い、マーケティングが悪い。いや、今は、時期が悪いだけだ。いずれ努力は報われる・・・とかれは信じているのかもしれないが、このままでは、その「時期」は、きっと訪れることはないだろう。
 
 第三に、謙虚さがないようだ。ここが、本質であるように思う。かれは、人の話に耳を傾けない。問題点を指摘しても、どこで仕入れたか知らないが、あるべき論を語り、自分の主張を正当化する。一見、自信ありげで、頼りがいのある人物にも見える。しかし、他人を言いくるめた自己満足に酔いしれ、お客様の不満を見過ごしてしまう典型的なタイプである。
 
 自分のやり方や製品に自信を持つこと。そして、思い込んで邁進することは、称賛されてしかるべきである。しかし、回りやお客様の声に耳を傾け、その考えを他人の目線で客観的に評価し、修正してゆくことができなければ、お客様に受け入れていただける言葉は、生まれてこない。そんな、謙虚さが、ビジネスのチャンスを引き寄せるものだと思う。
 
 私は、研修で常々申し上げているが、「お客様8割、自分2割が、会話の黄金比率」であると。
 
 言うまでもないが、話を聞くより、話すほうが気持ちがいい。だから研修の講師などは、究極のエンターティメントを楽しんでいると申し上げても過言ではない(笑)
 
 お客様に満足していただくためには、お客様の話に100%の時間を割くのが理想かもしれない。しかし、それでは仕事が進まない。そこで、2割という時間使い、お客様に話したい、伝えたいという気持ちを引き出し、彼の伝えたいことを整理してゆくのである。つまり、自分の2割は、錬金術師の治具であり、お客様の8割は、金の鉱石ということになる。
 
 提案とは、「お客様の課題を解決するための手段とその意思の表明」である。その起点にあるお客様の課題を明らかにしないままに、提案などできるはずがない。
 
 自分たちの製品やサービスについての説明資料は、お客様の課題を聞き出すきっかけとして、まずは利用すべきである。買ってもらう商品の説明ではない。
 
 パンフレットを見せながら、「こんなことにお困りではありませんか?」、「こんな機能があれば、仕事が楽になるのではありませんか?」と使う分には、役に立つだろう。
 
 それをきっかけに、「・・・ということは、こういうことへの取り組みはやらなきゃいけないとお考えなのでしょうか?」となるだろう。だんだんと、客様の核心に迫ることができる。
 
 また、お客様について、事前に調べておくことも大切だ。こんな業種業態、業績であり、競合他社は、製品やサービスは・・・じゃあ、きっとこんな課題があるはずだ。そんな仮説を携えて、お客様に赴く。それを一気にひけらかすのではなく、小出しにしながら、お客さの話を引き出してゆくことも大切である。
 
 時には、沈黙の罠(わな)を仕掛けてみてもいいだろう。なるほど・・・といながら、腕組みをして、よくわからいふりをして、黙ってしまう。人は、話したい、教えたい衝動を抑えることは難しい。つい口を滑らせてくれるかもしれない。
 
 とにかく、お客様の話を聞き出すことが全ての起点であると心得るべきである。お客様は、自分の課題を話ながら、自分で課題を整理することになる、そして、お客様自身にもその解決の必要性が、意識に昇る。
 
 こちらが、押し付けた課題ではなく、お客様が、自ら課題の存在を意識し、課題解決の必要性を自覚することこそ、課題を明らかにするということ。この前提なくして、提案は効力を発揮しない。
 
 提案営業とは、究極の御用聞き営業である。まずは、お客様の御用=解決してほしい課題を引き出すことに徹すること。それがあって、初めて提案のチャンスを手に入れることができる。

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2010年9月18日土曜日

ふたつのクラウド:常識にあぐらをかいている時代ではなさそうだ

 「IBMが全正社員40万人のうちの3/4に当たる30万人を2017年までに解雇し、プロジェクトの必要に応じて契約社員として再雇用する。」
 
 IBMの人材管理の代表責任者が、こんな発言をしたという記事が報道されたのは、今年の4月である。あくまで検討されているだけであり決定されたことではないとの記述もある。また、あるIBMの現役の方から「IBMはこの記事を否定した」との情報も頂いた。

 この記事の真偽をうんぬんする立場にはないが、この記事に書かれている内容は、実に現実感がある。
 
 この記事には、さらにこんなことが書かれている。
 
 ・正社員を大幅に減らすことで、社屋のコスト、企業年金や保険の負担が大幅に削減される。
 ・大多数の大手サービス・プロバイダーは、既にこのような戦略を試み始めている。
 ・会社としての資金的蓄積を増すための現在とりうる唯一の方法は、正社員を削減することである。
 
 また、人材は、必要に応じて「crowdsourcing(一般大衆からの調達)」するとの記述もある。
 
 この記事を深読みすれば、こう解釈することができるだろう。
 
 「会社として、余人に代えがたい専門性の高い人材(professional)は、全社員の1/4。残りの3/4は、グローバルに目を向けると、いつでも調達可能な大衆(crowd)である。」
 
 つまり、「企業を先導するリーダーや専門家は、社員として長期継続的に抱え込む。しかし、それ以外は、プロジェクトごとの必要に応じて、最適な人材を、適正なコストで世界から調達できるので、あえて正社員として、雇っておく必要はない。」。経営合理的に考えれば、きわめてあたりまえな発想といえるだろう。
 
 このようなクラウド・ソーシング(crowd sourcing)の取り組みはすでに始まっている。例えば、P&Gは商品開発に、ボーイングは機体組み立てに、この手法を活用している。さらに、クラウド・コンピューティングは、このような経営の在り方を後押しする存在になりつつある。

 例えば、研究委託のサービスを提供する「InnoCentive」は、化学物質の研究開発課題の解決に、全世界数万人の研究者から公募し、共同研究を行う仕組みを提供している。また、「DELL Ideastorm」は、DELLの顧客を対象として、製品改善のための情報収集や提案を集めている。他にも、Webコンテンツの開発、市場予測、研究開発、システム開発など、クラウド・コンピューテング上にクラウド・ソーシングのための仕組みが、どんどんと出現している。
 
 この社会インフラは、国境という壁を越えて、世界をひとつの人材調達市場に変えようとしている。例えば、ホームページの制作であるが、日本では、1ページ=7千円前後が相場とも言われているが、日本語のわかる中国の会社/個人にインターネットを介して依頼すると、500円前後で引き受けてくれる。つまり、国境を越えた「同一スキル=同一賃金」が、人材調達の常識となるかもしれない世界が、もはや現実のものとなっている。
 
 クラウド・コンピューティングの普及は、クラウド・ソーシングが容易な社会インフラを築きつつある。この変化に私たちは、どのように対応すべきだろうか。
 
 クラウドというと、私のようなコンピューター業界の人間は、ついついクラウド・コンピューティングという技術やサービスを考えてしまう。しかし、もうひとつのクラウドは、人材の在り方、あるいは、マネージメントやキャリアといった仕事の在り方、自己実現や自分のプロフェッショナリティの追求といった生き方にも関わる問題である。
 
 このふたつのクラウド(cloud と crowd)は、これからの私たちの生活の変化に大きな影響を与えるキーワードとなりそうだ。

 ITソリューション塾 [第5期]まもなく締切りです!

 あと、1~2名は可能です。詳しくは、こちらをご覧ください(PDFにて詳細もダウンロードできます)。

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2010年9月11日土曜日

「信頼」という言葉の重み

 「お客様と親しくなること。相談される、信頼される営業になりたいと考えています。」
 
 ある新入社員研修の冒頭、「どんな営業になりたいと思いますか?」という質問に、こんな答えが返ってきました。
 
 「そうだよね、そんな営業になりたいよね・・・」と言ってあげたい気持ちはありましたが、あえてこんな回答をしてみました。
 
 「確かに相談される、信頼される営業になることができれば、素晴らしいよね。じゃあ、どうすれば、そんな営業になれるのだろう?
 
 笑顔で、親しく、誠実に・・・そんな、生易しいものじゃないと思うよ。
 
 お客様に信頼されるというのは、あなたが、お客様を愛し、お客様のために汗して働き、命を懸けてお客様を成功へと導くこと。信頼されるためにではなく、お客様の成功を願い、真剣に取りくむ。そして、気がつけば、信頼という二文字がそこにある。そんなものだと思うんです。営業とは、そんな仕事です。あなたには、それができますか。」
 
 彼女の目は、点になっていました。多分、自分は、模範的な回答ができたと、満足していたのかもしれません。
 
 彼女ばかりではなく、ちょっと大げさではないかと思われる方も、いらっしゃるでしょう。では、是非、このビデオをご覧ください。きっと、稚拙な私の言葉ではとても表現することのできない、信頼の意味に気付いていただけるのではないかと思います。


 ITソリューション塾 [第5期]を開講します!

 塾に参加される方の多くは、ベテランの皆さんが多いようです。何人かの方と話をしてみました。どなたも優秀な方ばかりです。そんな方が、なぜ塾へ参加しようと思われたのでしょうか・・・多分、賢明な読者は、お分かりだと思います。

 あと、1~2名は可能です。詳しくは、こちらをご覧ください(PDFにて詳細もダウンロードできます)。

2010年9月4日土曜日

マネージャーの嘆き、部下の落胆

 「なんで、俺のいうことが、わからないんだ!」と部下の不出来を嘆くマネージャー。「なんで、俺のいうことをわかってくれないんだ!」と落胆する部下。
 
 この案件を何としてでも獲りたい、営業目標を達成したい、このお客様で提案のきっかけをつかみたい・・・思いは同じはずなのに、なぜか通じ合わない。そんな現場に出会うことがある。
 
 一体誰が悪いのか、どこに問題があるのかと考えてみるのだが、どちらにも言い分がある。これぞという正解を見出すことは、難しい。とはいうものの、嘆いているだけば、改善の糸口も見つからない。そこで、今回は、マネージャーの視点から、このような事態への対処の仕方を考えてみようと思う。
 
 マネージャーは、部下との関係において、次のような課題を抱えている。
 
1.部下の仕事の状況が、見えない
2.自分を基準に部下を評価し、指示を与えてしまう
3.自分ではわかっているつもりだが、それを部下にうまく伝えられない

1.部下の仕事の状況が、見えない
 同じ単語であっても、それが意味するところが、微妙にずれていることは、よくある。また、ボキャブラリーの貧弱、結論を先に言わず、くどくどと状況説明を始めてしまい、いったい何が言いたいのかとイライラしてしまうこともある。勢い、「・・・で、結論は、どうなんだ?」、「だから、どうしたいんだ!」と威圧的に詰問してしまう。すると、相手の頭は、真っ白になってしまい、何をどう話していいのか、いや、いままで何を話していたのかさえ、どこかへ飛んでしまう。

 こんなことを言われるくらいなら、説明などしたくない、めんどくさいとなり、十分に情報は伝わらない。こういうことには、なっていないだろうか?
 
 SFAを導入した。目的は、営業活動の状況や進捗を把握し、迅速な意思決定を下すためであるはずだった。しかし、結果は、部下にとっては、むしろお荷物であり、余計な仕事を増やされたという、被害者意識へつながってしまってはいないだろうか?
 
 当然である。部下からの一方通行。何のレスポンスもない。いったい何のためにインプットしているのだろう。たまにレスボスが返ってくることがある。しかし、「了解」、「頑張ってください」では、自分にとって何の役にも立たない。システムがあれば、情報は集まるというが、仏を作っても魂を入れなければ、日報清書システムであり、清書された日報も電子紙屑入れに放り込んでいるのと変わりがないではないか。これでは、何のためのSFAなのか、目的のない、ただ義務だけの仕事に仕事の意義を見いだせないのは、当然といえるだろう。

2.自分を基準に部下を評価し、指示を与えてしまう
 初めからマネージャーとして優秀なものなどいない。優秀なプレーヤーだったから、マネージャーになる場合が多い。しかし、フレーヤーとマネージャーとでは、役割が違う。そのひとつが、部下の育成である。
 
 プレーヤーであれば、自分の成長は、自分の責任の範疇に収まっている。しかし、マネージャーは、自分ではなく、他人の育成に責任を負わされる。自分のことなら見えるが、他人のことは見えない。だから、報告や説明を求めるのだが、稚拙な説明に「なんでもっとうまく説明できないんだ」といら立ちを感じる。
 
 自分ならもっとうまくできる。当然である。優秀だからマネージャーであり、未熟だから部下なのだ。しかし、優秀である自分の成功体験や手法を基準にし、部下を見てしまうと「なんで、できないんだ、なんでわからないんだ」となってしまい、自分のやり方を押し付けてはいないだろうか?
 
 「そういわれても・・・」という部下の思い。言葉では分かっても、腑に落ちない。
 
 「だからだめなんだ!じゃあ、俺がやる!」となり、プレーイング・マネージャーと称して、自分の行動を正当化する。しかし、その本質は、マネージャーとしての責任放棄である。
 
3.自分ではわかっているつもりでも、それを部下にうまく伝えられない
 マネージャーの成功体験や武勇伝は、時に気持ちを鼓舞されるものだ。自分もああなりたい、そんな仕事をしてみたいと意欲を湧き立たせることもある。
 しかし、では、どうすれば、そんな成功ができるのか?その方法や手順を教えてほしいと願っても、「あきらめない気持ちが大切だ!」、「とにかく、お客様に食らいつけ!」、「毎日やるべきことをやればいいんだ。」という、精神論、根性論を語られるにすぎない。ありがたいお言葉だが、では、具体的にどうすればいいのかが、とんと見えてこない。
 
 「そんなもものは、盗むものだ!自分で経験して、見つけ出すものだ!」という言葉もわからないではない。しかし、これは、単に自助努力を求めているにすぎない。確かに、ほっておいてもその勘所を見出して、成長するものもいるだろうが、これは、博打である。組織全体としての計画的、効率的な底上げには、結びつくことはない。
 
 根性も大切であることはわかる。しかし、部下が求めているのは、具体的な手順であり、方法である。素晴らしい精神論もいいが、それは目標であって、過程ではない。知りたいのは、過程なのである。
 
 このような3つの課題を解決する手段は、あるのだろうか。そのいくつかを考えてみようと思う。
 
 まず、マネージャーは、自分なりの成功する営業活動を分析的に理解することだろう。つまり、感覚的にとらえている成功の体験をプロセスとして言葉に置き換えることである。自分がこなしてきた仕事の手順を整理してみることである。これが、営業活動プロセスである。
 
 営業活動プロセスは、お客さまの開拓や案件の発掘、そして、受注に至る一連の仕事を進めてゆくためには、何をしなければならないかを体系立てて整理したものである。
 
 これを組織で共有する。その基準をたよりとして、営業活動の状況や進捗を部下と共有することができる。いうなれば、状況を整理整頓するための枠組みである。漠として、状況をとらえるのではなく、進捗や活動状況に枠組みをかぶせ、ひとつひとつの区分毎に状況を確認し、課題や対策を議論する。これが、営業活動プロセスだ。
 
 次に必要とされるのは、「セーフティネット」である。人は、他人に、やらされることには、抵抗するものである。また、学ばさせようとすると学ばないのも人間の性である。だから、自発的に行動し、自発的に学ぼうという意欲を引出し、これを維持することである。
 
 マネージャーにとって、もっとも大切な仕事は、このような部下の意欲を高め、維持することである。そのためには、言われたからやるのではなく、とにかくやらせてみること。そして、失敗をさせることだろう。ただし、大きな失敗やつまづきの前に、それを見つけ、適切な方向に導く仕掛けも必要だ。これが、セーフティネットである。
 
 いつでも相談できる、話を聞いてもらえる。そんな安心感を与えることである。コーチングもまた、このような状況を作り出す有効な手段となる。
 
 コーチングとは、「答えは本人の中にある」ことを前提とし、それを引き出すためのテクニックである。自分の答えは、他人からの指示ではない。自分の意思に基づく行動は、意欲が高い。そんな自発的な行動とそれを支えるセーフティネットにより、人は自らの力で、成功のきっかけを手に入れることができる。
 
 もうひとつが、「スポンサーシップ」である。部下の自発的行動は、成功のきっかけである。しかし、結果までの道のりは遠い。だから、部下の成功のためにできることはなにかを真剣に考える必要がある。
 
 チェック・アンド・レビューではなく、レポート・アンド・サポートの精神で、部下の主体的行動を見守り、必要な支援を与えること、そして、組織のビジョンや方向をわかりやすく伝えることが、マネージャーの役割である。
 
 営業活動プロセス、セーフティネット、スポンサーシップは、先にあげたマネージャーの3つの課題を解決するための基盤を提供してくれるのではないかと思う。
 
 ところで、このような営業活動の基盤となるものを整理整頓し、誰もが、参考にできる、利用できるひな形となるモデルは、ないものかと思われる方も多いだろうと思う。
 
 こんな思いを共有する30数社のベテランの営業マン、マーケター、経営者などが集まり、「ソリューション営業モデル研究会」なるものを立ち上げた。ご興味があれば、お問い合わせを
 
 その成果については、このブログでもいずれ紹介してゆこうと思う。また、今年の10月20日に新潟で開催される「iSUC新潟大会(毎年数千人が集まるIBMユーザー企業の研究会)」にて発表させていただくこととなった。よろしければ、ご参加いだだきたい。

 ITソリューション塾 [第5期]を開講します!

 すでに多くの方にお申し込みをいただき、感謝しています。個人で参加したいという方も多く、その志の高さに敬服いたします。そんな皆さんと語り合えることが、今から楽しみです。

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2010年8月28日土曜日

一匹オオカミや職人営業に未来はありません

「優秀といわれる営業は、どうも一匹オオカミで動き回る人間が多い。ほんとうにこれでいいのでしょうか?」
 ある大手SIerの人材育成担当者から、こんな話をうがいました。「優秀といわれる営業」・・・本当に、こういう営業を優秀といっていいのでしょうか?私には、合点がゆきません。

 「一匹オオカミ」とは、人の助けを借りず、自発的に行動を起こします。ベテランであり、お客様との信頼関係もしっかりとできていて、手堅く仕事を取ってきます。その一方で、部下や後輩の面倒は、あまり見ない・・・というか、未熟な連中に任せていたら効率が悪い、面倒だから自分でやってしまったほうが早い。そう考え、一人で行動する場合が多い。こんな人物像が、イメージされます。

 しかし、見方を変えれば、現実逃避の結果として、孤立している人物とも見ることができます。

 自分のこれまでの経験や人間関係に自信があり、その実績と信頼関係に頼って仕事をしている。新しい技術や社会のトレンドには関心が薄く、お客様の経営や事業戦略へのかかわりにも消極的。ただただ職人的な人間関係の寝技に頼っている。これは、自分にしかできないことと信じて疑わず、お前たちにはどうせわからないことだからと一緒に仕事をすることには消極的で、まわりからも近寄りがたい。そんな孤立した存在が、「一匹オオカミ」なのかもしれません。

 お客様との人間関係は、確かに頼りになります。いざというときにお願いすれば、「おまえが、そこまで言うならしょうがないなぁ」と仕事をくれることもあります。しかし、それは景気がいい時の話。リーマンショック以来、仕事量そのものが減少し、出せる仕事もありません。また、経営者は、少しでもコストを抑えるために、必ず複数企業との比較検討を求めるようになりました。今までの実績や信頼関係という武器が、もはや使えない時代なのです。

 オフショアやクラウドは、お客様の選択肢を多様化させ、意思決定をますます複雑なものにするでしょう。お客様自身も、提案する側も何が最適解かを見出すことが難しい時代となります。

 システムのインフラは、コモディティ化し、開発や運用には、クラウドやオフショアに置き換えるという選択肢が加わります。

 このような時代の変化の中で、お客様の意思決定の基準やそのプロセスも変わり始めています。これまでは、システム部門にゆだねていた意思決定が、業務に責任をもつ部門の影響をこれまで以上に受けるようになります。

 クラウドやオフショアの普及は、お客様の期待をシステム技術から業務への対応力へシフトさせるでしょう。

 業務分析力、業務プロセスの抽象化や企画設計の力、各種サービスの多様な選択肢の中から最適なものを選別できる目利き力、国をまたがるプロジェクトを管理できる力などが、要求されるようになるでしょう。

 このような変化に対応するためには、お客様の業務や経営、そして、最新の技術や社会のトレンド、そしてその要点を体系的にとらえ、提案に活かせる能力が、求められます。

 当然、このような提案やプロジェクトの運営は、もはや職人技を自認するベテランの営業職だけでは手に負えるものではありません。トレンドを読み、お客様を知り、プロジェクト全体を見渡し、自社や他社を問わない最適なサービスや製品、そして、人材の組み合わせを作り上げる力が必要です。つまり、一個人の知識や能力では、もはやどうしようもないのです。

 お客様個別の課題を解決する最適な組み合わせを作り上げるプロデューサーとしての能力が、求められているのです。

 営業活動とは、商品やサービスを販売し、お金を頂くことではありません。お客様の価値を高め、その価値の一部を対価として頂くことです。商品やサービスは、お金を受け取る手段にすぎないのです。

 かつては、お客様の要求に応えられる力が、重宝がられました。それがお客様の価値を高める手段でもありました。しかし、お客様自身が、解決策を模索している時代にあっては、その解決策を提案し、その解決に必要な一切をプロデュースすることが求められているのです。

 一匹オオカミや職人営業に、もはや未来はありません。過去の栄光は、勲章にすぎません。新しい時代にふさわしい「優秀な営業」とは、過去の基準での優秀ではないのです。

 また、営業力を営業職の能力ととらえるべきではないことにも気づくべきです。エンジニアも含め、会社として、組織としての営業力の在り方を模索すべきでしょう。時代は、今、そんな変化を求めているのです。

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あなたは、次の質問に答えられますか?

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お客様の話が理解できる、整理できる、質問できる。

お客様の課題を探り、提案につなげたい。もし、そうお考えになるのなら、この程度の常識力は不可欠です。

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これまでも、SEやコンサル、営業、マーケティング、ベンチャー企業の社長などが、参加されました。

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2010年8月22日日曜日

「なんでそんなこともわからないんだ!」の非常識に気付かないあなたのために

 「なぜ、もっと早く報告しないんだ。早くわかってたら、やりようがあったんだよ。だから、こんなことになるんだ。」
 
 ベテランの営業課長が、若い営業マンを前にして、言葉を噛み殺しながらも、怒りをぶつけている。
 
 その営業課長に話を聞くと、「彼は、確かに一生懸命です。でも、ちゃんと報告しないし、相談もしない。自分で何とかしようという気持ちは、立派だけど、これじゃあとれるものも取れませんよ。」
 
 つづけて、こんな話もしてくれた。
 
 「どうも、最近の若い者は、覇気がなくていけない。確かに、忙しく仕事はしていますよ。遅くまで仕事をすることもいとわないし、よく頑張ってると思う。でも、チャレンジしないというか、自分から進んで新しいことをしない。私の若いころはねぇ・・・」。
 
 こういうマネージャーが、部下の成長を阻み、組織の活力を殺いでいるんだなぁと思わずにはいられない。
 
 彼には、次の3つの点で自覚が足りない。
 
 1.報告しないのは、部下の問題と考えていること。
 2.チャレンジしないのは、世代の問題で、自分の問題ではないと考えていること。
 3.「頑張っている」、「忙しい」は、仕事が多いからで、別の意味があるとは考えていないこと。

 
 この思い込みが、問題なのだが、それに気づいていない。部下は、次のように言うだろう。
 
 「報告しない」のは、報告をしたくないから。
 
 ・報告をしても、結局は、自分のやり方を押し付けられる。
 ・こちらの話は、途中までしか聞かず、こうやればいいと指示される。
 ・日報やレポートを提出しても、まともなコメントなど返ってきたためしがない。
 
 チャレンジしないのではく、チャレンジしても無駄だと考えている。
 
 ・いつでも相談できる、助けてくれるという安心感がない。
 ・頑張れ、自発的にやれとは言うが、失敗は、許されない雰囲気がある。
 ・結局は、自分のやり方の枠に当てはめようとする。それ以外のことは、そんなことは言ってないぞと、はしごを外される。
 
 忙しいから「頑張っている」わけではない。忙しいふりをしているだけ。
 
 ・ちゃんと仕事をしています。余計な仕事をふらないでくださいね・・というメッセージ
 ・忙しくすることで、仕事をしている気持になりたい。自分を正当化したい。
 ・自分のことに没頭していたい。余計な干渉は受けたくない。
 
 マネージャーには過去の成功体験がある。自分はそれでうまくやってきた。誰に教えられたわけではない。自分で苦労して見出してきた。なぜそれができないんだという気持ちであろう。そんな思い込みが、部下の意欲をそいでいるという事実に気が付いていないようだ。
 
 プレーヤーとして優秀だから、マネージャーとなった。まだ未熟だから部下である。その視点が欠けているようだ。
  
 部下を自分の基準で評価し、できていないことを指摘し、「だからだめなんだ」と考える。減点型のマネージメントスタイルである。
 
 また、時代も違うことにも気付いていない。景気が良い時代は、お客様に足繁く通い、顔を覚えてもらい、要求には応え、トラブルにも直ちに対応する。そうすれば、仕事がもらえる時代だった。それができることが優秀であった。これもまた、間違えなくその時代の成功体験である。
 
 しかし、今は、それでは仕事は手に入らない。お客さまは、「今までのお付き合い」だけでは、発注はしてくれない。なからず、複数社との比較検討を求められる。その相手は、国内とは限りない。オフショアも同じ土俵の上にいる。もはやかつての成功の方程式は、通用しなくなっている。
 
 こんな現実に目をつむり、自分の過去の成功体験をいまだに金科玉条のごとく掲げ、その成功体験を基準にしているようでは、新たな成功を見出すことはできないだろう。
 
 部下の能力や今までの実績。あるがままの本人を基準にし、「彼にしては、よくやっているなぁ」、「こんなことができるようになったんだ」、「こんなことが得意なんだ」という視点を持つ。良いところ、成果を評価する。これが、加点型のマネージメントスタイルである。
 
 減点型のマネージメントスタイルを改め、加点型のマネージメントスタイルに転換する。これが、部下を活性化させる起点となるだろう
 
 また、自分の成功体験は、自分の名誉であり、歴史であり、自信として、心に刻むことである。ただし、その方法論は、もはや通用しないということも自覚すべきである。だからこそ、部下と一緒になって、どうすれば新しい成功体験ができるかを真摯に考えてみてはどうだろう。それを分析し、整理し、自分の言葉に置き換えて語ってみる。
 
 一生懸命だが、整理できない。そこに混乱や不安がある。マネージャーは、そんな彼らの言葉を第三者として冷静に聞き、整理をする。それができれば、部下はきっとあなたの言葉に耳を傾けてくれるだろう。
 
 マネージメントとは、技術者がそうであるように、専門のスペシャリティが必要だ。過去の経験の延長線上で、できるものではない。自分がその分野では、まだまだ素人であるということ。新しい時代となり、成功の方程式が変わったということ。その前提に立って、謙虚に学ぶべきである。
 
 その教師は、書籍や研修ばかりではない。今あなたの目の前にいる部下もまた、今の時代の教師である。彼らの話に真摯に耳を傾け、謙虚に質問する。日報にも真剣に自分の考えや意見をぶつけてみる。そうすると、部下も報告や相談を進んでするようになるだろう。
 
 一生懸命話を聞いてくれる人が、そこにいる。相談に乗ってくれる人がいる。そんなセーフティネットが、部下にチャレンジの意欲を与え、潜在力を引き出し、活力ある組織を生み出してくれるはずである。

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2010年8月14日土曜日

必ず失敗する「動機付け」の方法

 「斎藤さん、営業のモチベーションを高めるためにコミッション制を導入しようと思うんだけど、どうだろうか?」

 あるSIerの社長から、こんな相談を持ちかけられた。私は、これに次のように答えた。
 
 「多分、効果はありません。本質は、そんなところにはないと思いますよ。」
 
 私は、IBM時代、コミッションこそ、営業のモチベーションを高め、維持する最良の手段だと信じてきた。事実、私もそれを励みに、必死で成果を上げることに情熱を傾けていた。しかし、このやり方は、日本の多くの企業には、なじんでいない。また、昨今のビジネス環境の変化も、このような手段では、人の意欲を高めることにはつながらないことを実感している。
 
 “ダニエル・ピンク 「やる気に関する驚きの科学」”という記事の紹介が、Twitterのタイムラインに流れてきた。これを見て、なるほどと合点がいった。彼が言うには、「何かを達成したら報酬を与えるという外的な動機づけが、意欲を高めるという事実はない。人は、自発、成長、目的という3つの内的動機づけによって、やる気を起こす。」と語っている。彼は、いくつかの心理学実験のデータと実際の事例を示しながら、その事実を説明している。
 
 彼の見解は、私の実感とも一致する。私の研修でも、表現は違うが、まさに同様の話をしている。改めて、どうすれば営業の意欲を高められるのか、整理してみようと思う。
 
 彼も指摘していることだが、「何かを達成したら報酬を与えるという外的な動機づけが、意欲を高める」という事実は、ある条件下では成立する。例えば、業務の手順が比較的単純であるか、ルーチンワークで、生産性向上のためのスキル習得が、比較的容易な場合である。このようなケースでは、努力が成果に結びつきやすい。目的を達成するためにどうすればいいのかが明確であり、その目的を達成したときの報酬が約束されている場合は、この外的動機づけが、機能するようだ。
 
 しかし、ソリューション・ビジネスのような複雑な仕事では、そうはいかない。
 
 ソリューション・ビジネスとは、お客様ごとに異なる課題を解決するために、サービスやプロダクトの個別の組み合わせを提供するビジネスである。お客様の課題発掘から始まり、成約に至る道のりは、単純な道のりではない。お客様毎に異なる課題、かかわる組織や人の多さ、解決のための選択肢の多様さと組み合わせの複雑さ、計画通りに進むことなど決してないだろう。
 
 このような、仕事にかかわるものに「目標を達成したら報酬」という外的動機づけを与えても、「さて、どうしたものか。成果報酬はありがたいが、どうやって結果を出せばいいのか、その道筋か見えない。努力すれば何とかなるわけでもない。」となるだろう。これでは、成果報酬は、むしろ負担になる。つまり、成果を出さなければ、報酬がもらえないとなると、報酬の見通しが立たないことが、不安となり、むしろ心の足かせとなる。意欲を高めようと思ってしたことが、裏目に出てしまうことになる。
 
 では、どうすればいいのか。彼のいう、「自発、成長、目的」を導く手段を提供すればいいということになる。
 
 前回のブログでも申し上げたように、人は自分の行っている仕事の意味や目的を理解したいと思っている。それを見出した時に、ひとは自発的に行動を開始する。しかし、そこをなかなか見いだせずに、悩むことも多い。
 
 部下がこのような状況であるにもかかわらず、成功者たる優秀なマネジャーの中には、仕事の手順やその意味を伝えることをせず、「俺はなあ・・・」と自慢話を披露し、ただただ本人の自助努力を求める。
 つまり、自分の成功体験を分析的に、手順として、わかりやすく部下に伝える術を持たないのである。そのため、勢い、精神論や根性論で、部下を威圧し、本人の努力不足を指摘する。しかし、それは、自分の成功方法を分析し、わかりやすく伝えることを怠っているマネージャー自身の努力不足ではないか。
 
 成功の手順をプロセスとして整理し、それを具体的に示すことができれば、部下は、自分の行っている仕事のプロセスと比較し、何ができていて、何ができていないかに気付かされる。
 「できていないプロセス」の存在に気付けば、そのプロセスを実行しなければならないと思うだろう。まさに、自発的行動を促すことになる。
 
 「何でやらないんだ!」といわれても、何をやればいいのかわからない本人にとっては、マネージャーの言葉は、威圧であり、不安を高めるもの以外の何物でもない。むしろ、成功のプロセスを示し、「何ができていないと思う?」と聞いてみる。そこに気付けば、これを解決しなければと意欲を持つことになるだろう。
 
 自分のやるべきことを自覚し、「なんとなく」では、「なぜならば」を理解した上での行動は、本人の意欲を高めることになる。目的意識とは、こういうことを言うのだろう。
 
 プロセスを知識として理解した行動は、実践を通して、習慣となり意識せずとも行動できるようになる。改めて明示されたプロセスを振り返った時、かつて自分ができていなかったことが、自然とできるようになっている自分に気付くだろう。ここに成長の喜びがある。
 
 「自発、成長、目的」という内的動機づけは、仕事をプロセスとして分析的にとらえ、それを共有できることが、基本である。
 
 さて、もうひとつ欠かすことができないのは、このような行動を促す、組織としての仕組みであり、マネージメントのスタイルである。こちらについては、次回のブログで詳しく説明しよう。 

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2010年8月7日土曜日

共通の言語を持たないマネージャーと部下の不幸

 営業マネージャーと部下との関係で不幸なのは、仕事について語る共通の言語を持たないことである。 

 部下は、マネージャーに何とかわかってもらおうと、背景や経緯とともに、案件の進捗や課題を説明しようとする。それを聞いたマネージャーは、そのまどろっこしい説明に業を煮やし、「要はなんなんだ。もっとわかりやすく説明しろ!」と声を荒げる。

 その声に語る言葉を失った部下は、どうしたものかと途方に暮れつつも、表現を変え、視点を変えて、なんとか必死にわかってもらおうと努めるが、「だから何なんだ。つまりだな、こういうことなんだろ。」とマネージャーの一方的な要約と解説に、本心や事実に反していても、「そういうことです。」とそれ以上の言葉を失ってしまい、この説明に終止符を打つことで決着をつけてしまう。 

 マネージャーは、部下の無能力を嘆き、部下は、マネージャーのものわかりの悪さに落胆する。なぜこんなことになってしまうのだろうか。 

 営業マネージャーは、プレーヤーとして優秀だからマネージャーとなった。彼は、営業としての成功体験を持ち、どうすれば、売れるのか知っている。自分なりのあるべき姿を持っている。彼は、そのあるべき姿に照らし合わせて、部下の話を聞こうとするのだが、それは未熟であり、その要領の悪さが、納得いかない。

 また、彼は、自分の営業スタイルや手法を持っている。しかし、それを相手に伝える術を知らない。つまり、自分がなぜ成功したのかを分析し、それを相手にわかるように整理できていないのである。勢い、精神論や根性論となり、「なんでそんなこともわからないんだ!」といった説教になってしまう。 

 わからないから部下であり、分かっているからマネージャーとなっている。その当たり前の現実が、見えていないようだ。 

 彼らは、ともに表向きは、日本語を使ってはいるのだが、仕事のことになると、どうもお互いに異国の言葉で語り合っているかのようなものである。 

 仕事を組織として効率よくすすめ、部下を育てることは、マネージメントのミッションである。ならば、自分の成功体験を分析的にとらえ、どうすればわかりやすく相手に伝えられるかを考えておくことは、基本的な仕事であろう。

 部下の話を聞くときに、整理した仕事の手順を示しながら、今どこまでできているのか、次に何をするのかを、分析的に整理し、部下の発言を誘導する。部下も、会話にフレームワークが与えられれば、話もしやすく、要点も絞り込んで、発言できるだろう。

 しかし、その手間を惜しみ、「なんでわからないんだ」と自分の考えを一方的に押し付ける。そして、「しょうがない、俺が行く」と自らお客様の現場へ行くことを宣言する。それはそうだろう。そっちのほうが楽である。自分は優秀なプレーヤーであるから、慣れない仕事をするよりも、要領は心得ている。しかし、それでは部下も育たなければ、組織力も活かせない。 

 営業力の強化の必要に異を唱える人は少ないだろう。しかし、その対策として、マネージメントと部下の言葉の断絶解消に関心を持つ向きは少ないように感じている。そんな取り組みをないがしろに、プレゼンテーションやコミュニケーションのスキル、あるいは、製品や技術についての知識を増すための研修に時間を割いている。しかし、それだけでは、決して営業力の強化にならないことに気付いている人は少なくはないだろう。 

 私は、営業力強化の大切な要素として、営業という仕事を見える化することであると考えている。営業活動のあるべき姿を分析し、プロセスに分解する。そして、体系的に整理する。そうすれば、自分や部下の仕事を客観的にとらえることができるようになるはずだ。

 営業という仕事の手順が見える化されれば、今何をしているのか、どこでつまづいているのか、次に何をすればいいのかをマネージメントも部下も共通の基準で、会話することができる。また、部下も自分のしている仕事の意味を理解することができ、仕事への意欲を見出すことができるようになる。

 営業活動プロセスとは、マネージャーと部下が仕事について語り合う、共通の言語だ。これを持つことが、部下とのコミュニケーションの断絶を解消し、組織力としての営業力を高めてゆく基盤になるのではないだろうか。

 
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2010年8月1日日曜日

「営業なんだから、しっかりやってくれよ!」という責任放棄

 「営業なんだから、しっかりやってくれよ!」
 
 あるSIerの営業会議で、そんな声が響く。大丈夫と踏んでいた案件失注の報告を担当営業より受けて、怒り心頭に発した営業部長の声は、抑え気味ながらも、ドスが効いていた。
 
 私は、この案件について、以前より担当営業から話を聞いていた。そして、きっとだめだろうなぁと思っていた。その理由はいろいろある。担当者の言われるがままに、資料や見積もりを出しているだけ。意思決定者に行き着いていない。競合の有無もわからない・・・にも関わらず、「頑張ります!」と言ってしまった手前、引っ込みがつかなくなり、営業部長に無用な期待を持たせてしまったようだ。
 
 私は、彼にまずは、フォーキャストの確度を下げることと、以下の3つの点を確認するようにアドバイスした。
 
 ・いつまでに意思決定するつもりなのか
 ・意思決定の基準は、価格なのか、内容なのか、何をクリアすれば、採用されるのかを確認する
 ・よりよい提案をさせていだくためにユーザー部門の責任者に合わせてほしいと依頼する 
 
 ・意思決定の期日については、すんなりと教えてもらえたようだ。しかし、これだけの案件にしては、期間が短すぎる。
 ・意思決定の基準については、価格も内容も両方という、あいまいな回答。
 ・ユーザー部門の責任者に合わせてほしいというと、自分にまかされているから、その必要はないと断られた。
 
 その報告を受けて、これは当て馬ですよと、お伝えした。この会社から購入する意思はない。しかし、手続き上、あるいは、本命との駆け引きの材料として使われているだけだろうと合点がいった。
 
 とにかく、その窓口の人だけではなく、他の人にそれとなく聞いて御覧なさいと促したところ、予想通りだったとの報告。先に勧めたフォーキャストの確度を下げるとについては、頑張るといってしまった手前切り出せないまま確認を先行することにしたそうだが、結果はこのとおり。結局、部長の期待を大きる裏切ることになって、怒りが倍加してしまったようだ。
 
 営業の現場にいると、このような状況は、日常茶飯事だ。なぜ、おかしいぞ、何か裏にありそうだと、感じないのだろうか。彼なりに言い訳もある。それは、エンジニアから営業になって間がないからスキルがないというもの。しかし、そんなことは、営業職であろうが、エンジニアであろうが、お客様を相手にする仕事である以上、基本として持つべき感性ではないかと思う。
 
 営業部長にしても、なぜこの状況を見抜けなかったのかと思う。あたりまえの確認を怠り、部下の報告を自分の都合のいいように解釈し、あるべき論と精神論を語るだけである。そして、部下を指導し、励ましたつもりになっている。部下を叱るのは、お門違いだ。自分の無能を嘆くのが先ではないか。
 
 営業力を強化しなければならないというSIerの経営者は多い。そして、その施策の多くは、エンジニアを配置転換し、営業の肩書を与えることだ。そして、「きょうから、あなたは営業だから頑張ってくれ、期待しているよ」と言う。以上である。これで営業力を強化したことになるのだろうか。
 
 営業力というと、多くの人は、「営業職の人の能力」をイメージするだろう。しかし、わが国のSIerの現実を見ると、実際に営業が案件を取ってくるというより、お客様を担当するエンジニアが、仕事を取ってきて、その後始末の事務処理を担当するのが、営業である場合も多い。
 営業は新規顧客の獲得を期待される場合も多い。これは相当に大変なことで、経験やスキルだけではなく、何を売るか、そして、魅力的な提案なくして、きっかけさえつかめない。それを「営業だから」という理由だけで、期待され、任され、自分もそう思って戦いに挑むが、見事に撃沈する。営業は、なかなか成功体験を得られず、モチベーションを下げ、売り上げに直結する既存案件の事務処理に時間を割くようになる。そして、そちらが忙しいからと言い訳し、新規顧客開拓への機会を作ろうとしない。そんな悪循環が生まれている。
 
 このような状況の中で、いくら営業職を鍛え、鼓舞しても、ビジネスを拡大することはできないだろう。営業職の人間を増やすだけでは、営業力の強化などできるはずないのだ。
 
 私は、「営業の仕事」と「営業職の仕事」を分けるべきと考えている。「営業の仕事」は、全社を挙げて取り組むべきものである。特に、わが国のSIerは、エンジニアがその役割の多くを担っている。それが、良い悪いという議論ではなく、この現実をうまく活かしてゆく道を探るべきではないのか。
 
 営業の仕事は、精神論や感性だけでこなせるものではない。営業活動はエンジニアリングできるものであり、プロセスとして整理できる。これは、むしろエンジニアの感性に受け入れられやすい。また、お客様の課題を発掘し、案件に結びつけるには、技能と知識が大いに助けになる。それは、営業職だけが必要なものではなく、エンジアも含め、会社全体として、その能力を高めてゆくことこそ、営業力の強化なのではないかと思う。
 
 会社として、この能力を育てることもせず、営業職という肩書を与え、あとは本人の自助努力に任せるだけでは、営業力の強化などできるわけがない。これでは、まるで、「営業職への配置転換」という体のいいエンジニアのリストラではないか。
 
 「営業職の仕事」ではなく「営業という仕事」ととらえ、営業もエンジアも含めた、会社としての総合力としての営業力をどのように高めてゆくのか。そんな視点での取り組みを始めてみてはいかがだろう。

 
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 8月26日(木)の午後、人材育成のご担当者を対象にセミナーを開催いたします。以前、よりこのブログにて取り上げてまいりました、「第二の変化」が、SIerやITソリューション・ベンダーのビジネスにどのような変革を求めようとしているのか。そして、この時代の変化に、どのような人材を育てなければならないのかを解説させて頂きます。

 会場の都合上、先着40名様に限らせていただきます。ご多忙とは存じますが、ぜひお越しください。
 
 詳細は、こちらをご覧ください。

2010年7月25日日曜日

あなたの常識は、もはや非常識です!

 前回紹介させていだいた第二の変化の本質は、「開発や運用にかかわる常識の崩壊」といえるだろう。開発や調達のコストを20パーセント削減するの類ではない。期間もコストも、何分の一となる手段が、手の届くところにある。SIerは、そんな新しい常識とうまく付き合わなくてはならない。
 では、どのような付き合い方があのだろうか。次の3つの方法があるように思う。

1.クラウド・ブローカー
 この言葉は、昨年7月、ガートナーのレポートで紹介された。

 「クラウド・サービスを組み合わせ、お客様の目的とする機能を実現するインテグレーター」といったところだろうか。多様化、細分化するクラウドのサービスを、お客様が自分で選択し組み合わせることは容易ではない。そこを代ってやってあげますよというサービスである。
 また、それらをお客様のオンプレミス・システムと連携させる開発も含まれる場合もあるだろう。つまり、クラウド・サービスを素材にシステム・インテグレーション・サービスを提供するようなものだ。
 このようなサービスを提供するには、クラウド・サービスについての目利き力、SOAやESB(Enterprise Service Bus)などのノウハウ、そして、業務についての知識や業務プロセスを整理し、抽象化できる能力やUMLなどのスキルが必要になるだろう。


2.ビジネス・コンサルティング
 クラウド・ブローカーの上流工程を切り出したものといえるかもしれない。お客様の業務プロセスや仕事の仕組みについてのコンサルティングとその最適化、また、BPOとして受託するサービスである。
 現在、この部分は大手SIerやコンサルティング会社が、握っている。ただ、特定の業務分野や中堅中小の企業に向けて、パッケージ化したり、テンプレート化することで、コストの低減が図れるのではないだろうか。特に中堅中小の企業にとって、大手企業以上にコスト削減にはセンシティブであるし、業務プロセスを改革するにしても人材がいない。クラウドやオフショア・サービスを前提として、業務プロセスの改革を支援できれば、その価値は大きいはずである。
 このようなサービスを提供するには、業務ついての知識やBABOKに代表されるような業務分析能力、業務プロセスを整理し、抽象化できる能力、UMLスキルなどが必要になるだろう。


3.クラウド・サービス活用型ベンダー
 Googleは、300万台を超えるサーバーを所有しているという。また、年間サーバー出荷台数が1000万台といわれる中、Google,Salesforce,Amazon,Microsoftの4社で200万台近くのサーバーを購入しているらしい。この圧倒的な物量に対抗することは、もはや容易なことでない。また、その技術革新のスピードやサービス・メニューの充実も、豊富な資金に支えられている。これに対抗するサービスを独自に構築し、提供できるだろうか。
 しかし、その一方で、クラウドならでは課題も抱えている。国をまたがることで生じる法規制やコンプライアンスの問題。払しょくできないセキュリティへの不信。インターネットを介することによるQOSへの不安などである。このようなクラウドの抱える課題を克服することができれば、お客様に大きなメリットを提供できるだろう。
 また、ユーザー・インターフェイスや日本固有の業務にかかわるオペレーションに近い部分は、クラウドやオフショアで対応することは困難である。
 クラウドの提供する圧倒的なスケール・メリットを利用しつつ、クラウドの使い勝手を向上できるサービスやパッケージを提供ることができれば、それは大きなビジネス・チャンスになる。
 例えば、アプレッソのDataSpider Servista。各社のクラウド・サービスが提供するデータ形式に対応し、オンプレミスのデータベースなどと連携するアダプタ群、サービスの高速実行を可能にする実行環境などを提供するデータ統合化ツールなどは、その一例である。
 また、インターナショナルシステムリサーチのCloud Gateは、GoogleのGmailが抱えるセキュリティ上の不安を解消してくれるパッケージ・ソフトウェアである。
 このように、クラウドの良さをうまく利用し、課題を克服したり、使い勝手を向上できるソフトウェアやサービスを提供するというビジネスは、十分にチャンスがあるだろう。
 
 第二の変化を、避けることはできない。とすれば、その流れをうまく利用する道を探るべきである。
 「まだ時間がある。すぐには変わりませんよ。」と言い続けて、もう何年になるだろうか。現実を見ず、避けてきた人たちは、今自分が、崖っぷちに立っていることに気付いていない。

 そろそろ、自分の足元を見るべきだ。第二の変化は、あなたの常識を、もはや非常識なものにしてしまっているかもしれない

2010年7月17日土曜日

第二の変化:何もしないでいいのですか?

 我が国のSIビジネスは、リーマン・ショックをきっかけとして、需要の大きな落ち込みを経験した。しかし、多くの経済指標が、改善される中で、SIビジネスが、同様の軌跡をたどっているという話は、寡聞である。「SI需要の回復は、景気の回復から半年から1年くらいは、遅れるものですよ。」という、楽観論も聞かれるが、果たして、本当にそうなのだろうか。

 私は、この楽観論には、賛成できない。むしろ、リーマン・ショック以上の大きな構造的な変化が、新たに始まろうとしていると考えている。リーマン・ショックがもたらした第一の変化に続き、今私たちは、それ以上に大きな第二の変化に直面していると考えるべきだろう。
 
 我が国のSI産業の構造は、コンサルティングや企画、設計といった上流工程を、限られた大手ゼネコンSIerが握り、そこで受注した開発や運用を多数の中小SIerが、下請けとして受託する構造で成り立っている。第一の変化は、この産業構造を維持したまま、その規模が、縮小するという変化であった。それが、下の図である。
 

 この第一の変化は、「業務量の減少」と「単金相場の低下」をもたらし、生き残りが難しくなった中小のSIerは、大手ゼネコンSIerに買収されるという動きを加速した。本来ならば、景気の回復は、この産業構造を維持したままで、再び規模を拡大することになるが、3つの要因が、それに歯止めをかけているように見える。

 その第一は、「ニューノーマル」である。「単金相場の低下」は、ユーザー企業にとっては、もはや既得権益になり、「この金額で同じことができるではないか」という、新たな常識が、定着してしまった。また、SIer側も、仕事を受託し続けるためには、単金を上げてほしいとは言いにくい。この暗黙の了解が、SIerの利益拡大の頭を押さえている。

 第二の要因は、オフショア開発の使い勝手が向上したことにある。オフショア開発については、「まともに動かない」、「こちらの意図とは違うシステムができてしまった」などの失敗を重ね、どうすればうまくできるかのノウハウも蓄積されつつある。その結果、オフショア開発の使い勝手が向上し始めている。また、オフショア開発拠点の開発力や品質管理能力も著しく向上している。ちなみに、中国国内のCMMIレベル5の企業は、今年の3月時点で48社。日本の17社をはるかにしのいでいる。しかも、その伸び率は、前年対比65%増であり、わが国の15%を凌駕している。インドは、189社、そしてベトナムもすでに3社が、CMMIレベル5の認定を受けている。その伸び率は、日本以上であることは、言うまでもない。
 さらに、中国の一流大学院卒の初任給は、年額150万円程度であり、当然英語力に問題はない。また、ベテラン・クラスである30才でも、年収は300万円程度であるから、もはや人件費という観点だけから見れば、太刀打ちできない。オフショア開発環境の整備とももに、同一スキル=同一賃金の競争は、日本国内という縛りを越えて進行し始めており、この動きが止まることはないだろう。

 第三の要因は、クラウドの普及である。それも、PaaSの企業システムとしての使い勝手が、向上してきたことは、企業のシステム利用形態に大きな変化をもたらすものと考えられる。PaaSとは、ミドル・ウェアをネットを介して提供するサービスであるが、「企業システムとして使い勝手のいいPaaS」の先鞭を切ったのが、MicrosoftのWindows Azure Platformといえるだろう。なぜ、Azureかといえば、オンプレミス(企業が自社でシステムを所有し、自ら運用するシステム利用形態)とクラウドをシームレスなプラットフォームとして構築したからである。つまり、オンプレミスのWindowsサーバーで使われている.Netの開発運用が、何の変更もなく、そのままクラウド・プラットフォームで実行可能となる環境を作ったからである。つまり、企業は、今までのシステム資産やVisual Studio / .Netの開発スキルを、クラウド環境でも、そのまま継承できるわけであり、クラウド利用についての企業としての抵抗感を、大きく低減することになるだろう。

 また、Java環境でも同様の動きが始まっている。そのひとつがsalesforce.comが始めた、vmforceだ。vmwareと組み、Javaの開発環境としては、多くのユーザーを抱えるSpring Frameworkを利用できるようにしたことだ。同様に、Googleも自社のPaaSサービスであるGoogle App Engineのビジネス版(Google App Engine for Business / GAE for Business)にSpring Frameworkを提供することを表明している。
 こうなると、インフラの構築を伴うSIビジネスや運用サービスは、このクラウド・サービスと競合することになる。
 また、第一の変化で大手ゼネコンSIerが取り込んだ中小のSIerをグループ企業として、グループ内製を優先させる動きと重なり、独立系の中小SIerの業務減少は、もはや構造的なものとなりつつある。これが、第二の変化である。
 
 第一の変化をなんとかやり過ごし、景気の回復を待ち焦がれていた多くのSIerにとって、次に立ちふさがる第二の変化は、もはや時間の問題で解決されるものではない。ビジネスのあり方、そして、人材のあり方を問い直される大きなパラダイムの変化である。
 
 では、どう対処すべきなのか。これについては、次回あらためて、解説させていただく。
 

 営業力は、営業職だけに求められるものではありません。エンジニアもまた、その能力が求められています。第二の変化に対応した営業力の獲得は、営業、エンジニアを問わず、求められています。
 
 よろしければ、ご参加ください。

7月21日(水) 最新ITトレンド
7月28日(水) 営業活動プロセスと実践ノウハウ
8月04日(水) マネージメント・スキル

詳しくは、こちらをご覧ください。
 

2010年7月10日土曜日

お客様の期待を裏切ることができますか?

 先々週、先週と一日の休みもなく研修や講演が続いた。ありがたいことだが、さすがに終日の立ち仕事は、体にこたえる。しかし、講義が終わり、「大変役に立ちました」とのお言葉をいただくと、そんな疲れも、吹き飛んでしまう。そして、よぉーしと再び元気をいただくことができる。これがあるから、やめられない。そして、ますます内容に磨きをかけなければと、その日の反省を書き留めている。

 昨日もいつものように講義が終了した。アンケートを書き終えた受講者のひとりが、私の前にやってきて、「今日が金曜日なのが残念です。」という。「どうしてですか?」と尋ねると、「ここのところ元気がなかったんです。でも、講義を聞いて、すぐにでもこのやり方で、お客さまに伺いたいと思っています。だから、明日が休みなのが、残念なんです。」。

 なんとも気恥ずかしいやら、しかし、最高のお褒めの言葉である。改めて、このような仕事ができることをありがたく思っている。

 私は、研修の中で、「営業活動の目的は、お客様の感謝とともに、対価をいただくことである。」と申し上げている。 

 ものを売って、お金をいただくだけなら、ある意味たやすいことである。しかし、ありがとうという言葉とともに、お支払いをいただくことは、容易なことではない。そのために、もっとも大切なことは、「お客様の期待をどうすれば裏切ることができるか」を追及することなのだろうと思っている。

 お客様は、「ここまではやってくれて当たり前」という基本的な期待を持っている。これを満たしたとしても「当然」であり、そこに感謝は生まれない。しかし、「ここまでやってくれたらいいなぁ」という、潜在的な期待は持っているものだ。

 例えば、お客様が、あなたに見積を依頼し、いつも通り、10%程度の割引で提出すれば、「当然」と感じるだろう。しかし、お客様は、もう少し安くしてくれたらいいなぁと、口には出さないが思っている。それが、お客様の潜在的な期待である。そこで、それを慮って15%の割引で見積もりをしたなら、お客様はどう感じるたろうか?きっと、「素晴らしい」と感じてくれるだろう。この時初めて、お客様は、「感謝」という気持ちを抱くことになる。

 「感謝」とは、お客様の潜在的な期待を超えて、初めて生じる気持ちということができるだろう。しかし、残念ながら、これは長続きしない。あなたのこの頑張りによって、お客様の基本的な期待は、もはや15%の割引となってしまっている。次は、それ以上のものを提供しなければ、お客様に感謝の気持ちは生まれないだろう。この繰り返しは、いずれ破たんすることになる。

 では、どうすればいいのだろうか。「期待を裏切ること」。それしか手はないだろう。

 「期待を裏切る」というべきか、「期待を超える」と言い換えてもいいかもしれない。お客様の期待していない、しかし、その期待以上の価値をお届けすることができれば、お客様は、驚くであろうが、同時に「すごい」と感動してくれるはずである。

 しかし、これはそうたやすいことではない。これを実現するためには、お客様の表向きの期待を知るだけでは不十分なのである。

 例えば、お客様から、PC100台の見積もりを依頼された。そして、基本的な期待以上の割引金額で見積書を提出しても、結局のところ、それは、PC100台というお客様の期待の範囲にとどまっているだけである。

 しかし、なぜPC100台かを聞いたとしよう。すると、新たなサービスを立ち上げるのに電話での受付要員を100人増やさなければならないので、そのためにPC100台が必要だとわかった。つまり、PC100台は、目的ではなく、手段だったわけである。つまり、お客様は、PC100台がほしいのではない。「増加する受注に対応したい」というのが本当の目的なのである。

 ならば、PC100台ではなく、WEBでオンライン受注システムを提案するという方法もあるはずだ。そうすれば、PC100台は不要になり、固定費となる人件費も削減できる。一時的なコストはかかるかもしれないが、中長期で見れば、お客様はより大きな価値を享受できるはずである。そんな提案をしてみてはいかがだろうか。、

 お客様、そんな提案を期待していなかった。しかし、改めて聞いてみると、はるかにそちらのほうが、メリットがありそうだ。そういう提案ができたなら、お客様は、あなたに感謝し、感動してくれるにちがいない。

 もちろん、ことがこのようにうまく運ぶ保証はないが、お客様の期待の延長に答えを探すのではなく、お客様の真の目的、つまり、あるべき姿に着目すれば、もっとお客様の価値を高めることができるきっかけが見いだせるかもしれない。このような「期待の裏切り」には、きっとお客様も感謝してくれるはずだ。

 私は、営業研修でこのような話をするが、これは、単にテクニックやスキルの問題ではないと念を押している。基本は、お客様を愛する気持ちなのだと。お客様を好きになり、愛する気持ちがあれば、お客様を成功させたい、もっともっと、大きな価値を享受してほしいと願うはずである。その思いがあるからこそ、調べ、考え、お客様の期待を裏切る知恵を生み出すことができる。

 講師をしていると、ひとりひとりの気持ちや状態が手に取るようにわかる。つかれてるなぁ、つまらなそうにしているなぁ・・・そんな受講者の顔を見ながら、どう伝えようかと考える。何かを受け取って返ってほしい、役に立つ気付きを手に入れてほしいと。力及ばず果たせないことも少なくない。しかし、彼らへの愛情を失うことはない、いや、そうありたいと言い聞かせながら、言葉を考えている。それは、自分の稚拙なテクニックを超えるものであるし、彼らの期待を裏切るための、原動力でもあると信じている。

■ 研修 「営業プロフエッショナル・スキル研修」 開催します

 セクシーな提案書の作り方、お客様の満足をどうすれば管理できるか、お客様に満足を与えながら説得する方法・・・などの営業プロフェッショナルに必要な実践スキルを学びます。

 7月14日(水)・九段下にて開催いたします。

 ご興味があれば、 こちらをご覧ください。

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2010年7月3日土曜日

究極の営業力

 「営業とは、どのような仕事だと思いますか?」

 ある新入社員研修の冒頭で、そんな質問を投げかけてみました。

 「営業の仕事は、エンジニアとお客様との仲介者です。」、「会社の顔となってお客様とかかわる仕事です。」、「お客様との信頼関係を築く仕事です。」という、まっとうな、そして、模範的な解答が返ってきました。

 そんな回答の中に「営業とは、商品を売って、お金をいただく仕事です。」という、元気な男子社員の発言。その発言に、私は、ちょっと申し訳ない気持ちはありましたが、異議を唱えました。「営業は、商品を売ってお金をいただく仕事ではありません。」と。

 彼らとしてみれば、とても意外だったようです。「えっ」という顔をして、一瞬、その場の空気が、固まってしまいました。

 「確かに、形だけ見れば、営業という仕事は、お客様に商品やサービスを売ることで、その対価をいただく仕事です。しかし、お客様は、その商品がほしいわけではありません。自分の課題を解決したいのです。お客様は、課題が解決できるという「価値」に対価を支払っているのです。商品やサービスは、その価値を手に入れる手段であり、対価の対象ではないのです。」

 営業の現場に立つと、ついこの本質を見失ってしまうことがあります。

 ソリューションとは、お客様の課題を解決することであることは、頭では分かっています。しかし、気が付くと自社の製品やサービスをソリューションと読み替えている。そして、自分たちのノルマ(予算)達成という課題解決の手段としてしまっては、いないでしょうか。

 また、お客様の話をろくに聞かず、自分たちの商品やサービスが、いかに優れているかを、お客様に滔々と語ってはいないでしょうか。

 お客様の業務の現状を理解する努力もせずに、聞きかじりの理想論をまくし立て、いかにお客様は、その理想からかけ離れているかを説教してはいないでしょうか。

 どれも、お客様の価値を高めるためではなく、自分たちの価値や自己満足のために営業をしてしまう。これでは、営業という仕事の本質から、どんどん離れてしまうことになります。

 このような発想の根底には、お客様への愛情の欠如があるのかもしれません。

 人が、人を心から愛するならば、その人のためにできることは何かを必死に考えるでしょう。そのために、一生懸命、相手を知ろうとするはずです。そして、相手の幸せを見て、こちらも同じ気持ちで喜びを感じることができるはずです。

 お客様を成功させたい、お客様の課題を解決したい。そのために、何をすればいいのかを考える。そのために必要な情報や知恵を集め、お客様とも語り合う。そして、彼らが成功することを心から喜ぶことができる。また相手も感謝し、その感謝とともに対価をお支払いいただく。

 そんな仕事ができれば、本当に幸せだと思うのです。

 なかなか、できることではないと思います。しかし、そんな理想を描き、努力することは、誰にでもできるはずです。

 これから営業の現場に出る新入社員。彼らだからこそ、理想を範としてほしいと思っています。現場に出て、それどころではない現実に直面することもあるでしょう。だからこそ、冷静になった時には、この理想をもう一度思い返してもらえればと願っています。

 営業力とは、スキルだけではありません。このような精神を持ち続けることが、もっとも大切なことなのだと思います。そうすれば、お客様にも愛してもらえます。決して、離れることはないでしょう。それこそが、究極の営業力といえるかもしれません。

■ 研修 「営業活動プロセスとその実践ノウハウ」 開催します

ソリューション営業の即戦力化と成約率を高める取り組みについての研修です。

7月7日(水)・九段下にて開催いたします。

ご興味があれば、 こちらをご覧ください。

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2010年6月26日土曜日

「営業力」と「人間力」

 先日、こんなメールをいただきました。

 「貴社のホームページを拝見した際に、ITソリューション塾を知りまして、途中からではありますが、ぜひ今週から参加させていただきたく、このたび、メールいたしました。」

 そして、そこには、「わたくし、社会人一年目でXXX(一部上場の大手システムベンダー)の情報・通信システム事業部門に勤務しております。」と書かれていました。つまり、今年入社したばかりの新入社員というわけです。

 私は、「まずは、見学にいらっしゃい」と彼をさそい、水曜日の夜に開催されている「ITソリューション塾」に彼はやってきたのです。

 講義が終わり、私は、「新人君には、ちょっと難しかったかなぁ」と思いつつ、どうだったかと尋ねてみると、「難しかったですが、なんんとかついてゆけるように頑張ります!」とのこと。なんとも、こちらが勇気づけられる思いでした。

 ノーベル文学賞受賞者でアイルランドの詩人であるウィリアム・バトラー・イェーツは「教育とは、バケツを水で一杯にすることではなく、火をつけて、燃やしてやることだ」と語っています。

 つまり、教育とは、知識を詰め込むことではなく、学びたいという意欲を持たせてあげることだ言うのです。蓋し、名言です。

 先日のソリューション営業モデル研究会でも、「営業力は、人間力」ということが、話題になりました。

 どんなに知識を学ぶ機会を与え、マナーを教えても、本人に探究心や向上心といった「人間力」が備わっていなければ、知識や能力は、営業力には、結びつかない。この人間力をどのように高め、引き出してゆくかが、営業力育成のカギを握っているという議論です。

 しかし、「人間力」なるものは、抽象的で、主観的なものであり、これを評価することは、容易なことではありません。しかし、評価のできないものは、コントロールできず、育成の方法論を議論することができません。このジレンマに議論も行き詰ってしまいました。

 まあ、簡単に出せる答えではありません。ただ、それを考えること、それ自体に、私たちは、改めて「人間力」の大切さに気付かされました。

 では、イェーツが語るように「火をつけて、燃やす」ために、いったい何ができるのでしょうか。それには、3つ原則があるように思います。

1.知らないこと、足りないことに気付かせる

 危機感や不足感を満たそうという欲求は、だれにもあります。自分に何が足りないのか、このままでは、自分は成長できない。その思いが強ければ強いほど、炎は大きく燃え上がるはずです。

 自分の能力を客観的な指標で評価し、他者と比較すること。仕事の手順や業績を見える化し、現状を客観視することなどは、気付きを与える一つの手段となるはずです。

 また、対話することも大切です。話し合う中で、自分が整理でき、客観視できることも少なくありません。

2.やらせてみて、体感させる

 「このままではまずいぞ」と気付いたとしても、それは、限られた知識や経験の中の「想像」でしかありません。本当にそうなのかを検証してみることが必要です。とにかくやってみる。体感し、「想像」を「実感」に変えることで、初めて人はその知識や能力を手に入れるのだろうと思います。当然失敗もあるはずです。その失敗から学ぶことも多いはずです。

3.セーフティ・ネットを用意する

 「失敗して当然」を前提としてチャレンジさせる。それが成長の原動力になるはずです。しかし、最近は、過剰なコンプライアンス意識の高まりの中で、「失敗は許されない。あってはいけない」を前提とした組織も多いようです。確かにコンプライアンスも大切ですが、過剰な抑制は、むしろ成長の芽を摘むことになるでしょう。それよりも、何かあったら誰かが助けてくれる、相談できる、そんな風通しの良い組織を作ることのほうが、はるかに有効だと思うのです。

 このセーフティネットがあれば、失敗も小さなうちに表に出てきます。そして、適切な指導をすれば、それもまた学びの機会になるはずです。

 私たちは、時にして知識やスキルを教え、学ぶことで個人の能力が高まると考えてしまいがちです。しかし、教え、学ぶことは、目的ではなく手段であるということを思い返す必要があります。

 教え、学ぶという手段を通し、自分に何が足りないのかに気付くこと。その不足感と危機感が、「火をつける」ことになるのでしよう。そして、学ぶことによって、成長できる実感を、よろこびとして感じることが、真の目的あることに気付かなければなりません。

 件の彼は、誰に言われたわけではなく、自分で自分に火をつけたのです。なかなかできることではありません。その炎を燃やし続け、さらに大きくしてゆくことをお手伝いすることが、私たち大人の役割なのだろうと思うのです。

■ 研修 「営業活動プロセスとその実践ノウハウ」 開催します

ソリューション営業の即戦力化と成約率を高める取り組みについての研修です。

7月7日(水)・九段下にて開催いたします。

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2010年6月19日土曜日

「ソリューション」という言葉に抵抗感を持つあなたへ

 ソリューションという言葉をつかうことに抵抗があるとか、あえて使わないようにしているという方が、いらっしゃるようです。先日も、Twitterで、「ソリューションという言葉を安易につかわないほうがいい」という呟きを見かけました。

 このような意識の背景には、「他人の課題を解決できるなどと偉そうなことを言うべきではない」という正義感とでもいうか、倫理観とでもいうか、そんな意識があるようです。また、「ソリューションという言葉の意味が、あいまいで、自分で自信を持って使えない」という方もいらっしゃるでしょう。

 どちらにしても、「ソリューション」という言葉を十分に納得できないままに、使うことに抵抗があるという、きわめて真摯な思いが、背景にはあります。

 確かに、IT業界では、この「ソリューション」という言葉が、安易に使われているようです。

 本来、「ソリューション」とは、「お客様の課題を解決すること、あるいは、その解決の手段」です。しかし、実態は、「わが社のソリューションは・・・」と称して、自社の商材を「ソリューション」という言葉に読み替えているだけの人も少なくありません。

 それでは、どう考えても、「お客様の課題」の解決ではなく、「自分たちのノルマを達成し、売り上げを上げる」ための「自分の課題」を解決する行為に過ぎません。「ソリューション」という言葉が、このような安易な使われ方をされることにも、抵抗感を感じる方は、いらっしゃると思います。

 では、IT業界の中で使われる「ソリューション」とは、いったいどういう意味なのか。歴史的な背景をも振り返りながら、私なりの解釈をご説明したいと思います。 

 「ソリューション」の字義は、「解決または、解決策」です。では、何を解決するかといえば、お客様の課題を解決することです。ならば、解決すべき対象である「課題」とは、なんでしょうか。

 「課題とは、お客様がこうありたいと"望んでいる姿(あるべき姿)"と"現状"との"ギャップ"」です。

 たとえば、"あるべき姿"が、「売上高を100億円にする」と考えているお客様がいらっしゃったとしましょう。しかし、このお客様の"現状"は、「売上高が80億円」です。とすると、「20億円足りない」という"キャップ"が存在します。すなわちこれが、「課題」となるわけです。もし、あるべき姿と現状が一致しており、ギャップがなければ、当然ながら、課題は存在しないことになります。

 このギャップを解消することが「課題を解決する」ことであり、その手段を「解決策=ソリューション」と考えれば、課題とソリューションの関係をすっきりとご理解いただけるのではないでしょうか。

 ですから、「ソリューション」を提供するためには、まずお客様の望んでいるあるべき姿と現状を明確にする必要があります。お客様とこれらについての話もせずに、冒頭「わが社のソリューションは・・・」と演説することが、いかにソリューションという言葉からは、程遠いものであるかは、いうまでもありません。

 プロダクトやサービスなどの商材は、「お客様の課題を解決(=ソリューション)するための手段であって、目的ではないのです。

 お客様は、プロダクトやサービスをほしいわけではありません。また、あなたの会社を採用したいわけではありません。自分たちの課題を解決したいのです。その課題を解決してくれる確実な手段を提供してくれるのであれば、結果として、あなたの会社を採用してくれるはずです。この順序がひっくり返っては、いないでしょうか。

 ところで、IT業界でソリューションという言葉が使われるようになったのは、1980年代頃ではないでしょうか。このころのソリューションは、プロダクトより上等なもの、あるいは、「わが社は、他社とは違いますよ」というキャッチフレーズとして、「ネットワーク・ソリューション・カンパニー」とか、「トータル・ソリューションをお届けします」というような使われ方をしていました。

 それ自体、何も間違えではありませんが、なんとなくあいまいなままに、使われていたように思います。そのひとつの転機になったのが、1990年代の半ば、IBMの定義したソリューションの意味です。

 ご存知のように、IBMは、メインフレームが事業の柱でした。しかし、ダウンサイジングが始まり、世の中が、メインフレームからミニコンやオフコンへと関心が移る中、IBMは、メインフレームのアーキテクチャの一貫性をウリに、プロセッサーから端末、ソフトウェアを含むすべてのコンポーネント、そして、開発、保守にいたるまで、IBM一社に任していれば、その組み合わせを一切保証し、安定的な運用をお約束しますといって、ダウンサイジングに対抗していました。

 確かに、デファクト・スタンダードやオフープン・スタンダードというものは、怪しいものでした。多くのベンダーが、わが社の製品は、これらにすべてに準拠して作られていますというのですが、いざ組み合わせてみると、うまくつながらないこともしばしばです。そんなことをクレームすると、「どうも、相性が悪いようです」となんだかよくわからない答えしか返ってきません。しかし、コストの安さと自由度の高さは如何ともしがたく、ダンサイジングは、ますます広がっていったのです。

 しかし、組み合わせの一切をメーカーに任せることができたメインフレームと違い、ミニコンやオフコンの組み合わせは、ユーザー自身が、責任を持たなければなりません。

 確かに、TCA(Total Cost of Acquisition = 取得のコスト)は、大幅に下がりました。そして、各部門の裁量で、部門マシンが増殖してゆきました。しかし、その結果として、組み合わせや運用にかかわるユーザーの負担やTCO(Total Cost of Ownership)は、むしろ増えてゆきました。

 そんなころ、IBMのCEOになったのが、ガースナーです。彼は、IBMとしては、初めての社外からのCEOで、コンピューターの常識を知らない人物だと、ささやかれたものです。

 そんな彼は、このお客様の現状をみて、「お客様の課題」を解決しないのは、おかしいと考え、「IBMだけではなく他社の製品も含め一切の組み合わせに責任を持つ」と宣言し、それをソリューションといい始めたのです。そして、このソリューションを実現するサービス事業を「システム・インテグレーション」と定義したのです。

 いま、IT業界で使われている「ソリューション」という言葉には、このような歴史的な背景もあるように思います。

 「ソリューション」という言葉をどう解釈するかは、人それぞれです。どれが、絶対的な正解であるとはいえません。ただ、「お客様の課題を解決する」という本質に変わりはありません。

 それは、単一の商品を意味するものでもなければ、プロダクトより上等なものというキャッチフレーズでもありません。

 「お客様毎の個別の課題を起点として、これを解決するための手段(プロダクトやサービス)の組み合わせを提供すること」となることだけは、間違えないように思います。

 どうでしょうか、このように考えてみると、プロダクトを売るにしても、SIを売るにしても、それは、ともにソリューションを実現するための取り組みであることが、お分かりいただけると思います。

 「ソリューション」という言葉に、抵抗を感じたり、拒否反応を示す必要は、どこにもありません。自信を持って、「ソリューション」を語ればいいのです。

■ 「ソリューション営業モデル研究会」をなぜ立ち上げたか

 私が、「ソリューション営業モデル研究会」を立ち上げたのは、この「ソリューション」を伝えてゆくためには、営業がこの言葉を深く理解し、効果的に動くための能力が、重要であると考えたからです。

 「お客様の価値を高める」ことは、営業にとって、何よりの幸せです。ただ、その能力を高め、スキルを身に着けることを、個人の自助努力に任せているだけでは、この業界の健全な発展は望めません。そんな思いに共鳴してくれた多くの方が、今この取り組みに参加してくれています。ご興味があれば、ご連絡ください。

■ [無料]クラウド時代に勝つ!ソリューション営業力育成セミナ

 営業力は、「強化」から「質的な転換」へと変わりつつあります。クラウドは、IT業界にどんな変革をもたらそうとしているのか、それに応えるために、営業にはどのような能力が、求められるのか。そんなことを考えてみようと思います。

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  日時 6月22日(火)15:00-17:00

  場所 東京・九段下 → 詳細、申込はこちらまで

  * 座席に限りがございます。お早めにお申し込み下さい。 *

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うちめしネット まいにちの食事を、もっとやさしく。

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