2008年12月16日火曜日

壁の向こうの声を聞く その2 【完結編】

前回の続き】

年末キャンペーン(?)のお知らせ-------------
いつもご覧いただき、有り難うございます。
ちょっとあつかましいお願いではあるのですがあるのですが・・・

現在、50に届かない程度のアクセスを日々頂戴しているのですが、
年末の数値目標達成(笑)は、営業の心得です。そこで、なんとか
3桁の大台をクリアしてみたいと密かな野望をいだいております。

もしご迷惑にならなければ、お知り合いに、このブログをご紹介頂け
ないでしょうか?何もお礼はできませんが、結果は、ご報告します。
どうぞ、ご協力の程お願い申し上げます。
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それでは、前回の続きです・・・

 株主総会の翌日のことである。社長は社員を集め「これからは自分たちで売り込みをする。とにかくいままで付き合いのあったところにメールや電話で製品を紹介しようと思う。」。

 私にも相談があった。そこで、「まず、目標を決めましょう。いつまでにどれだけ売るのか。そして、役割分担も決めて、販促資料やプロモーションのためのWebも作らなくては。トライアル版の無償ダウンロードもどうか。プレスリリースをして集客もしましょう。新規購入割引キャンペーンなども企画して、きっかけを作るというのはどうでしょうか?」。

 すると社長は、「いやいや、そこまでしなくてもいいです。とにかくメールを出して、電話して、説明が必要とあれば、ベンダーにつないで、訪問してもらいましょう。自分たちも売り込みをやっているんだという前向きなところを見せれば、出資者も納得してくれるでしょう。我々がちょっとやったところで、そう簡単には売れません。どっちにしても、資金がショートするのは避けられないので、彼らに追加出資をしてもらうためにも、ちゃんとやっているんだというところを示すことが大切ですよ。」

 私は、彼の話を聞いて唖然とした。私は、「そんなことでは、出資者も納得してくれませんよ。まずは目標を決めて、必ず達成するという意気込みで手段を考えなければ、売れません。やるべき作業項目を洗い出して、役割分担して効率よく行う。最終的に目標をクリアできなかったとしても、それは結果の話。必達の気持ちで真摯に取り組んでこそ、説明できるというものではありませんか。」

 正論は強い。本人も理解せざるを得ないが、腑に落ちたという感じではなかった。とにかく、私は陣頭指揮を取ることになったのだが、まあ、うまくやってくれという社長の雰囲気は社員に伝わる。どこまで社長は本気なのだろうかと、現場の意気はなかなか上がらなかった。

 さすがにこれでは、売れない。ついに年末も近づき、改めて経営会議で出資者から報告を求められた社長だが、とにかくがんばってやっています。ほらこの通りと、コンタクトリストや販売状況を説明したものの、当然納得は得られない。とにかく一層の努力を求められ、一旦は閉会となった。

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 さて、やっと最初に戻ってきた。

 そんなことで「もっと売ってくれ」というお願いにITベンダーに伺うことになったのだが、社長にしてみれば、このベンダーがまともに売る努力をしていない、そもそも営業力がないからこんなことになっているのだという不満がある。

 「私は株主からいろいろと言われている。この会社を存続させるためにも、もっと売上を上げを上げなければならない。私には責任があるんです。自分たちもこれからいろいろと売り込みの努力もするつもりです。だから、あなたのところも、もっと努力をしてほしい。」と感情を込めた“お願い(?)”となった。

 話を聞いた本部長も“まいったなぁ”という顔である。いままで、あれだけ自らの売り込みに消極的だったのに、いまさらなんだという気持ちだろう。

 この訪問に先立ち、私は社長に「お願いをする以上は、こちらも手ぶらではいけません。無償トライアルや機能制限版などの提案を持参するのが筋です。」と話をしていた。

 しかし、社長は「それは、相手がそれを求めてきたなら言えばいい。こちらから切り出す話ではない。」という。そんなことをあなたからも言わないでほしいと釘を刺された。

 結局、実りのない訪問になってしまった。社長としては、言うことを言ったという満足感。あれだけ言ったのだから、何か動いてくれるに違いないという気持ちはあったのだろう。

 結局、このベンチャー企業は、十分な成果も上げられず、後にこのITベンチャーに格安で吸収されることになった。当時は、まだ景気のいい時代だったので、格安でも買ってもらえたからいいものの、今ならそれも無理な話だっただろう。

 このベンチャー企業の技術者は、そのまま引き受けてもらったが、社長も含めた役員や営業責任者は、受け入れてもらえなかった。

 幸いこの製品は、翌年、やっと日の目を見ることになった。機能限定版の無償ダウンロード、セミナーや新規顧客向けの割引キャンペーン。製品機能を分割して、エントリー版、プロフェッショナル版、エンタープライズ版などを品揃え。メディアへの積極的なプロモーション活動も功を奏し、展示会などのイベントでも優秀製品賞を受賞するなど評判も高まり、引き合いも増えていった。

 こんな、極端な例は私も初めての経験だったが、似たようなベンチャー企業の話はよく耳にする。いいものを作れば売れないはずはない。売れないのは、お客様が悪いのか、売り方が悪い。自分たちは、とにかくいいものを作っているのだから、責任は果たしている。なぜ売れないのか、よく分からない・・・

 いいものは、いずれ受け入れられる。その信念は、間違ってはいないと思う。とにかく、開発する側として、理想を追い求め、完成度を高める。そして、世の中に貢献したい。

 その理想無くしてベンチャー企業など創れない。しかし、それと同時に、世の中の専門家の声、そして、なによりもお客様の声に素直に耳を傾ける。そして、「分からないのはおまえが悪い」ではなく、「分からせることができない自分が悪い」という気持ちを持って、難しいことでも工夫をして分からせる努力を惜しまない。その態度がなくては、たとえどんなにいいものであっても、お客様の耳には届かない。

 この話は、ソリューション営業の現場にいるみなさんにも関係があるものだ。いくらいいものであっても、あなたが伝えたいことと、お客様の思いが同じであるとは限らない
 自分たちの製品やサービに自信を持つことは当然としても、お客様の視点から、その価値の伝え方を工夫しなければ、聞いてはくれても受け入れてはくれない

 特に新しい製品やサービスを売り込もうとするときは壁は限りなく高い。どうやってこの壁を低くするのか。その答えは、壁の向こう側にいるお客様や向こう側で働く営業の第一線の人たちの声に耳を傾けることが一番だろう。

 あなたが伝えたいことを伝えるのではなく、お客様が知りたいことを伝える

 そんな態度でお客様に接することができなければ、せっかくの良さもお客様には伝わらない。このベンチャー企業のケースは、そんな現実を私たちに教えてくれる。

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