2008年12月27日土曜日

「営業力」の科学: 第一章 営業力を定義する3要素

 「営業力」という言葉、書店のビジネス書コーナーに行くと、よく目にします。仕事柄、この手の本をいろいろと買い集めたこともありますが、精神論やハウツーものが多く、「営業力とはなに?」を理論的に突き詰めているものには、未だに巡り会えないでいます。

 先日もアマゾンで、「営業はサイエンスという言葉に共感・・・」という書評を見て、「これはいいかも」と取り寄せたところ、「営業現場での苦労やお悩みにお応えする」といった人生相談的な内容で、がっかりしました。前書きには確かに「営業はサイエンスである」とはありましたが、どこにも論理的な整理がありません。なぜこれがサイエンスなのかと不思議に思いました。

 それならばと言うわけではありませんが、私なりに、この「営業力」を何回かに分けて整理してみようかと思います。

第一章 営業力を定義する3要素

 企画力、指導力、提案力・・・“力”という漢字が使われている言葉はいろいろあります。三省堂提供の「大辞林 第二版」によると、“力”には次のような意味があるようです。

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◎そのものに本来備わっていて、発揮されることが期待できる働き。また、その程度。効力。
◎ほかに働きかけて影響を与えるもの。
 (ア)ほかの人を支配し、自分の思うとおりに動かすことのできる勢い。権力。勢力。
 (イ)ほかの人が目的を達成しようとするのを助ける働き。骨折り。尽力。
 (ウ)人の心を動かす力強い勢い。迫力。
◎何かをしようとする時に役に立つもの。
 (ア)行動のもとになる心身の勢い。気力・体力。精気。
 (イ)修得・取得した、物事をなしとげるのに役立つ働きをするもの。能力。
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 目的を達成しようととする働き、人の心を動かす力、気力や精気・・・なるほど、営業という仕事に欠かせないもののようです。「ほかの人を支配し、自分の思うとおりに動かすことのできる勢い」に至っては、力=営業力?と思わずにはいられません。

 以上を踏まえ、ITソリューション営業の視点から、改めて「営業力」を定義してみると、以下のとおりとなります。
  1. 理解:お客様の期待や課題解決の要請を正しく理解し、お客様と合意すること。
  2. 企画:お客様の要請に最適な商品やサービスの組み合わせを企画すること。
  3. 説得:お客様にわかりやすく提案、説明でき、お客様の納得と合意を得ること。
以上の3つを行うことができる能力と言うことができます。

1.理解

 「理解」の能力を使うためには、まず、お客様が抱える課題を引き出し、整理しなければなりません。

 お客様は、必ずしも自分の課題に気付いているとは限りません。また、課題の存在に気付いていたとしても、課題を誰にでも分かる形に整理できていない場合があります。
 課題が整理できていなければ、課題の重要性や解決の必要性を関係者に説明し納得させることもできなければ、合理的な解決策を組み立てることもできません。従って、この課題をお客様に代わって、引き出し整理する能力が必要となります。

 次に必要なことは、整理された課題について、お客様と合意することです。本来、課題とは、お客様のものです。いくら担当営業であるあなたが、お客様の課題を正しく理解できても、お客様が、「そのとおり!それこそが自分たちの抱える課題です。」と認めてくれなければ意味がありません。「あなたの課題は、これです。だからこのように解決しましょう/この商品を使いましょう。」と言っても、お客様が自分の課題であると認めていなければ、それを解決したいとは思いません。

 では、どのようにして、この課題を見つけ、整理し、合意を取り付ければいいのか。それについては、「課題発掘のアプローチ」を使います。こちらについて、「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」にて、ご紹介していますので、ここでは長くなりますので、省略させて頂きます。

2.企画

 「企画」の能力を使うためには、次の3つのステップを踏むことが必要です。
  1. お客様のウォンツからニーズを見極める。
  2. ニーズを起点として、複数の解決策を組み立てる。
  3. お客様のベネフィットが最大化できる解決策をお客様と合意の上で選択する。
ステップ1:お客様のウォンツからニーズを見極める
 ウォンツとは、お客様が「ほしい」ものであり、多くの場合、お客様の視点で発想した「解決のための手段=To Do」です。
 例えば、「ノートパソコンを100台ほしい」との依頼をあなたが受けたとしましょう。しかし、それに対応することが、お客様にとって、本当に最善の解決策といえるでしょうか?
 お客様の「ノートパソコンを100台ほしい」理由があるはずです。それを見極めることです。例えば、「社員を100人増やす」ためかもしれません。では、なぜ100人増やす必要があるのでしょうか。それは、「新しい商品を販売するに当たり、その受注窓口を新設して対応しなければならないため」だったとしましょう。これがお客様のニーズです。「ノートパソコン100台」は、このニーズを満たすための手段に過ぎません。この違いを理解し、お客様のニーズを見極めることが最初のステップです。


ステップ2:ニーズを起点として、複数の解決策を組み立てる
 もし、このニーズつまり、お客様が何らかの手段を使って、最終的に「どうなっていたいのか=To Be」を明らかにし、これを起点に考えるならば、「ノートパソコンを100台」ではなく、「Webでのオンライン受注の仕組みを作る」という手段もあるはずです。むしろこちらのほうが、社員100人の固定費を削減できるわけですから、中長期的に見れば大幅なコスト削減が期待できるかもしれません。

 「お客様が本当に必要としているもの=ニーズ=あるべきすがた=To Be」を起点に考えるならば、解決策の選択肢が広がります。お客様から求められた「解決のための手段=To Do」に応えるのではなく、このニーズを起点にすることで、お客様のベネフィットを最大にできる手段を見つけることができます。

 このとき注意すべきは、お客様のベネフィットを最大化する最適な商品やサービスの組み合わせをつくることです。お客様は、決してみなさんの会社の「ありもの」の商品を買いたいわけではありません。お客様は、自分の課題を解決し、ニーズを満たしてくれる手段を求めているのです。その組み合わせを考える能力が求められます。
 
ステップ3:お客様のベネフィットが最大化できる解決策をお客様と合意の上で選択する
 複数の選択肢の中から、お客様が、最大のベネフィットを享受できるものを、お客様と合意の上で選択する。それが、次のステップです。

 お客様が合意しているとなれば、それは既にお客様自身の解決策です。みなさんの押しつけではなく、お客様が必要とする解決策です。お客様が、「これが私の解決策です。」となれば、それに応えればいいわけです。そうなれば、余計な駆け引きも必要なくなり、あなたはそんなお客様の期待に確実に応えればいいと言うことになります。

 以上のステップを営業であるみなさんがリードできれば、お客様のあなたへの信頼も揺るぎないものとなるはずです。お客様は、あなたに「是非とも売ってください」と言いたくなるはずです。このようなことができる能力が、「企画」の能力です。

3.説得

 「説得」とは、「是非とも売ってくださいと言いたくなる商品」の価値をわかりやすく伝え、窓口になってくれている担当者や特定部門の合意から、会社としての意志決定に昇華させる能力です。

 企業という組織は、必ずしも一枚岩ではありません。部門やそれぞれの役割に応じて、利害はことなり、意志決定の判断基準も違ってきます。また、個人的なライバル意識や人脈、性格と言った潜在的な影響力は、意志決定に影響を与えます。
 少額のものであれば、一担当者や部門長の決定で済むかもしれませんが、大きなビジネスを成立させようとすれば、このような違いを乗り越えて、会社としての合意を取り付ける必要があります。
  • 意志決定に関わるひとりひとのビジネス・バリューを見極める。
  • パワーストラクチャーを駆使して、キーパソンを説得する。
  • 組織の特性個人の欲求を理解した上で、効果的なアプローチを行う。
などの行動を行う必要があります。詳しくは、研修でご紹介していますので、ここでは省略させて頂きます。

 以上のような、3つことを行える能力が、ITソリューション営における「営業力」です。

 次回は、「第二章 営業力を強化するための3つの対象」について、解説します。

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