2008年10月28日火曜日

「一歩下がる」スキル 

 上司が2週間ほど海外出張に出かけて帰ってきた。「そういえば、XXの件、やった?」と聞かれたので、「まだやっていません」と答えた。「言ったことしかやらないんだから、気が利かないよなぁ。」とお叱り言葉。

  ああよかった・・・と胸をなで下ろす。

 事実はやっている。正確に言えば、お客様の予定が変わり、プロジェクト存続の危機に直面したが、なんとか臨機応変に対応し、最悪の事態を免れた。少し予算を下回るが、ぎりぎりいけそうな状況にまでは、リカバリーした。とにかく、予算は達成できそうな状況である。

 しかし、彼の「やったこと」の基準がよく分からない。中途半端な答えをしたら、それこそ、どんな質問が帰ってくるか分からない。「じゃあどうやったの?あの人は、押さえたの?XXXには対処している。・・・」などといろいろ聞かれる。そこを見極めなくてはならない。
 「そこももちろんやっています」などと答えようものなら、「気が利くじゃないか。」とちょっと小馬鹿にした言葉が返ってくることは、想像に難くない。ますます、気が滅入る。そうでなくても、今日は虫の居所がちょっと悪いようだ。

 こんな時は、誰がなんと言おうと、文句を言いたい心境なのだろう。だから、こちらが正当性主張しても、それを聞き入れる心の受け皿がない。そんなときは、相手の不平不満のはけ口になることが、彼の心の平衡を保つための最善策といえる。これ以上、感情を高ぶらせないことだ。

 こんなとき、いろいろと説明すれば、間違えなく話題が広がる。性格や人生観などに話題が及び、「だからおまえはダメなんだよ」と徹底的にへこませてくれる。これ以上不愉快な思いはしたくない。

 そんなとっさの判断で、「やっていない」と答えてしまった。

 彼は、私は気が利かない、思慮の浅い人間というように感じているようだ。まあ、評価の基準というものは、人それぞれであるし、彼の目線で見ればそうなのだろうと思う。それを否定したところで、その目線が変わるわけでもない。それどころか、ヘタなことを言えば、ますます言葉に刺が帯びることは間違えない。とすれば、「そうなんだですよ。わたしは、バカなんです。」と認めてしまった方が、こちらへの被害も少ない。

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 あなたは、部下にこんな思いをさせてはいないだろうか。こんなことでは、部下の意欲を高め成長を促すことなどとうてい期待できない。むしろ、がんばろうという気持ちさえ、萎えさせてしまう。当然、組織力の強化など、まったく期待できないだろう。自分で自分の首を絞めているようなものだ。

 あなたの心のどこかに以下のような思いこみはないだろうか?

  • 自分がやらなければ、誰もやるはずがない。
  • 指示しなければ、何もやらない。結局は自分でやった方が早い。
  • 部下は自分より能力や判断力に劣る。たいした成果を期待しても無駄だ。

 自分が思うように人は動かないものである。自分が重要だと思っていても、相手にとっては、それほど優先順位は高くないかもしれない。自分の状況では、何も問題なく進められることでも、相手が同じ状況にあるという保証はない。
 約束を果たすか果たさないかが全てだと言い切ることもできる。しかし、その約束が数字の達成未達だけならば、わかりやすい。しかし、やり方や状況にどう対応したかなどのプロセスまで問われるならば、それぞれの価値観に大きく左右されてしまう。それぞれに自分は約束を果たしたと主張し、それぞれに相手は約束を果たしていないという。水掛け論になってしまう。

 あなたの判断や基準を押しつけ、その通りやりなさいと言うことは、ビジネス目標を達成するという点で言えば、必要なことでもある。しかし、そればかりでは、その人が自らの意志で、改善し成長しようとする意欲や機会を奪うことになる。

 感情というものをコントロールすることは、容易なことではない。しかし、部下を持つ以上、あなたにはそれを行う責任がある。コーチングやいろいろなマネージメント手法が、巷にはある。それを生かすも殺すも、自らの感情を御するスキルが前提となる。

 思いこみをぬぐい、一歩下がって全体を見渡すと、大きな流れや人の心のひだが見えて来るという。そうありたいと思う。

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