2008年12月31日水曜日

営業力の科学:第二章 営業力を強化するための3つの対象 (3)

 前回までにご紹介した「プロセス」と「スキル」を活かし、組織力としての営業力を発揮するためには、マネージメントの仕組みが、このふたつとうまく連携していなければなりません。ソリューション営業活動にとって、ふさわしいマネージメントの方法とは何か、考えてゆくことにしましょう。

3.マネージメント
 ソリューション営業の仕事は、「お客様の課題を見極め、それぞれに最適化された個別の解決策(組み合わせ)を作り、それを商品として販売する活動」です。このような活動は、関わる人や組織も多く、組み合わせを構成する製品やサービスも多様です。従って、それをひとりの営業担当者に任せきってしまうことには限界があります。

 本人の能力以上の負担は、単に仕事への不満を募らせると言うことではありません。処理しきれない情報量。どこまで自分で判断し、行動すればいいのかと言った迷い。期待に応えたいが、こなしきれないという焦り。そのような様々な思いが、不安となって心を蝕むことさえあります。

 横道にそれますが、忙しさへの不満、待遇への不満など、営業には様々な不満があります。しかし、不満で人が死ぬことはありません。
 どうすればいいのか分からない不安、誰も相談できず、助けを求められない不安。不安は、さらに不安を膨らませ、仕事や人との関わりを恐怖へと変えてゆく。そして、いつしか電話を取ろうとすると言葉が出なくなる、会議にでると脂汗をかき何も話せなくなる、通勤の満員電車で人に接すると恐怖で吐き気を催す・・・といった身体症状に発展し、引きこもり、自分の存在感を喪失する・・・最悪の場合、死を選ぶ人もいるようです。死には至らなくても、その一歩手前で苦しんでいる人には、何人出会いました。

 「たかが仕事ではないか」と、私などの楽観的な性格のものは考えてしまうのですが、まじめな性格の人ほど、こような不安を募らせる人は多いようです。程度の差こそあれ、このような人が増えているような気がします。

 このような事態を、営業担当者の性格や適性の問題として割り切ってしまうべきではないと、私は考えています。不安を拡大させる原因が、実は営業マネージメントの仕組みの中にあるというのが、私の考えです。

 逆の見方をすれば、不安がなく、モチベーションの高い営業組織は、結果として高いパフォーマンスを発揮できるはずです。

 不満は、どこの組織にもあります。その不満を少なくすることは、管理者や経営者の仕事であることは、そのとおりですが、限界はあります。むしろ、その不満を乗り越えるだけの意欲をどのように生み出してゆくのか。それが、営業マネージメントの役割ではないかと思います

 叱咤激励、相談に乗るなどの管理者としての個人的な努力も必要です。しかし、それでは、組織の仕組みとしての問題解決にはなりません。
 組織の仕組みとして、不安を排除し、組織力としての営業力を生みだし、維持してゆくマネージメント・システムが必要ではないかと考えています。私は、これを「スポンサー型マネージメント」と呼んでいます。

 ソリューション・ビジネスでは、営業個人の能力に頼るには、限界があることは、前述の通りです。また、案件発掘からクローズに至るプロセスに時間がかかるため、営業活動の進捗や状況を数字だけで評価し、判断することもできません。
 しかし、現実には、製品販売の営業活動と同じように、売上や利益など結果としての数字で評価し、判断し、そのプロセスを評価や判断の視点とはしていない。今月の予算が達成できたかどうかであり、なぜできないのかの追求はそこそこに、営業個人努力の問題として叱咤激励する。担当営業は、「なんとか、がんばってみます!」としか応えない。そんな営業現場をいくつも目にしてきました。

 このようなマネージメント・スタイルを「チェック・アンド・レビュー型マネージメント」と呼ぶことにしています。

 このような「チェック・アンド・レビュー型」に対して、「スポンサー型」は、結果ではなく、プロセスに着目し、それを評価し支援するマネージメント・スタイルと言うことができます。

 既にご紹介した「営業活動プロセス」を基準に、どこまでプロセスをこなし、次はどのプロセスに対応するのか。もし、プロセスが進捗しないのであれば、どこに課題があり、どのように対処すればいいのか・・・このようなことをマネージメントが営業と一緒になって、評価し考えてゆく。そして、「何故できないのですか?」「いつやるのですか?」ではなく、「どうすれば対処できるでしょうか?」「どのような助けが必要ですか?」を問いかける。これが、「スポンサー型マネージメント」のスタイルです。

 そして、それを単に営業管理者の自助努力として行うのではなく、既にご紹介した「3つの会議体」を使い、組織の仕組みとしてこのような機会を継続的に提供してゆくのです。
 
 「アカウント・プランニング・セッション(APS)」は、営業をリーダーとして、SEやSEマネージャー、サポート部門の関係者、経営マネージメントなどが、参加し、プロジェクトやお客様の状況を共有する会議です。四半期毎に開催され、プロジェクトをうまく進めるために関係者がどのような役割分担や支援をしなければならないかを相談する公式な場です。この会議で、担当営業は、プロジェクトの責任を自分ひとりではなく、会社として背負うことを確認できるのです。

 「週次営業会議」は、営業課やグループ単位で毎週行われるものです。APS後の経過の変更や状況の変化に対応するための具体策を相談します。ここでも、役割や計画の見直しが行われ、組織として対応することが明確に意識づけされます。

 「プロジェクト・アシュアランス・レビュー」とは、受注前、あるいは、提案書や見積書を提示する前に行われる会議です。ソリューションという商品は、お客様個別に作られたカスタム・メイドの商品であることは、既に申し上げたとおりですが、それでは、その商品を一体誰が品質保証するのでしょうか。確かに個々の商材は、メーカー保証があるかもしれませんが、オリジナルな組み合わせに対しての保証は、どこにもありません。
 それでは、一担当営業がその責任を全て負うと言うことになるのでしょうか?それは無理です。案件の規模が大きければ大きいほど、リスクは拡大し、個人の負担では追い切れません。また、経営的にも大きなリスクとなることを一担当者に背負わせること自体、危険なことはありません。
 プロジェクトを関係者一同で評価し、課題を洗い出し、お客様から受注する前に対処しておくための取り組みが、この会議です。これにより、営業個人の負担は軽減されます。

 このような、組織としての取り組みがあればこそ、営業は、不安を乗り越え、高い意欲を保ちながら仕事に取り組むことができるようになります。

 「スポンサー型」が、決して「チェック・アンド・レビュー型」に勝っていると言うことを申し上げるつもりはありません。ただ、ソリューション営業活動の特質を考えるならば、よりふさわしいマネージメント・スタイルではないかと思っています。
 大切なことは、自分の会社や組織が、どちらに主眼を置いた営業活動を行っているかと言うことです。ソリューションを売ることを進めながら、「チェック・アンド・レビュー型」のマネージメントにこだわれば、そこには必ずひずみが生まれます

 何を売ろうとしているのか。この違いを理解した上で、ふさわしいマネージメント・スタイルを適用してゆくべきではないかと思っています。

2008年12月30日火曜日

営業力の科学:第二章 営業力を強化するための3つの対象 (2)

 前回のプロセスに続き、組織としての営業力を強化するための「スキル」について、考えてみよう。

2.スキル

 営業活動プロセスで、どのような手順を踏んで仕事を進めればいいのか分かりました。次に必要なのは、その手順を確実にこなしてゆくための「スキル」です。

 スキルとは、仕事を行うための技能です。例えば、コミュニケーション・スキル、プレゼンテーション・スキル、ドキュメンテーション・スキルなどがこれに当たります。

 「意志決定者に提案内容を説明する」というプロセスをこなすためには、単に説明しておわりではなく、結果として意志決定していだかなくてはなりません。そのためには、お客様にわかりやすい説明資料を作る「ドキュメンテーション・スキル」が求められます。また、その内容にお客様が共感し、心を動かしてくれるように説明するための「プレゼンテーション・スキル」も必要です。

 ITソリューション営業に必要とされるスキルは、次の5つに分類されます。
  1. 営業活動プロセスを管理し遂行するスキル
  2. お客様の課題を把握し、提案をまとめるスキル
  3. コミュニケーションを効果的に行うためのスキル
  4. 部下を育成するスキル
  5. 組織を運営するスキル
(1)営業活動プロセスを管理し遂行するスキル
 自分の担当する案件について、現状や課題を客観的に把握し、それを関係者に報告できる能力です。営業は、お客様という人間を相手にする仕事です。そのため、現状への対処が優先され、なかなか計画どおりにことが進まないこともしばしばです。しかし、組織の一員として、営業目標を達成するためには、そのような現状に甘んじているわけには行きません。そこで、役に立つのが「営業活動プロセス」です。
 自分のおかれている状況を客観的に評価し、今どのステップにいるのか、次に行動すべきことはなにか、どこに課題やリスクがあるのかを評価し、次の行動を決めなければなりません。研修では、そのための道具として、「オポチュニティ分析」、「プロジェクト分析」、「危険度分析」のためのツールを提供させて頂きましたが、このような道具を使いこなし、自分の行動を自分の意志や計画の管理下に置くスキルが必要です。

(2)お客様の課題を把握するスキル
 営業活動は、お客様の課題を把握することが全ての起点です。お客様に「これが我が社の課題です。是非、その解決策を提供してください。」と言っていただくためにも、お客様の課題を整理し、お客様とその課題について合意する必要があります。この点については、「第一章 営業力を定義する3要素」で詳しく書きましたので、そちらをご覧ください。
 お客様の課題を把握する手段は、以下のふたつに大別できます。

■ 客観的アプローチ
SWOT分析、環境分析なとの公開されている情報やお客様への質問を通じて、お客様の 置かれている状況や課題を整理する方法です。
■積極的アプローチ
 お客様自分の抱えている課題に気付いていない場合もあれば、それを説明できるレベルに整理できていない場合もあります。それを「課題発掘のアプローチ」を駆使して、お客様に気付かせ整理する方法です。

(3)コミュニケーションを効果的に行うためのスキル
 営業活動におけるコミュニケーションとは、「共感-理解-納得」のサイクルを回すことです。
 「共感」とは、お客様が営業であるあなたに信頼感や安心感をいだき、心を開いて話を聞こう、あるいは、相談しようと言う気持ちを持っていただくようにすることです。
 「理解」とは、お客様にとって、重要なことはなにか、必要なことはなにかなど、知っておくべきこと、知りたいことをわかりやすく、確実に伝えることです。お客様の分からない、理解できないは、伝える側に責任があります。
 「納得」とは、知識として理解したことに基づき、それを自分の判断として受け入れ、行動の意志決定をしてもらうことです。

 コミュニケーションは、話し方のテクニックだけでは、不十分です。前述の「お客様の課題を把握するスキル」で、お客様自身やお客様の課題を理解していればこそ、コミュニケーションは円滑にすすみます。また、伝えたいことをわかりやすい図表や文書にするドキュメントーション能力も求められます。これらを組み合わせた総合力が、コミュニケーションのスキルです。

(4)部下を育成するスキル
 営業マネージャー、リーダーに求められるスキルです。具体的には、「セールス・コーチング」と「権限委譲」の2つの柱が部下の育成を促します。
 「セールス・コーチング」とは、部下に気付きを与えやる気にさせるための取り組みです。一般に言われるコーチングと異なるのは、営業活動プロセスを管理し、目標を達成させるという目的を持っていることです。
権限委譲」とは、うまく行けば部下の成果とし、失敗すれば自分が責任を取ることを明確にした上で、自分の業務の一部を部下に任せることです。

(5)組織を運営するスキル
 一般的な組織運営や経営論ではなく、営業活動に絞って考えるならば、「評価報酬制度」、「フォーキャスティング」、「会議体」の3本柱を運営するスキルです。

 ソリューション営業活動における「評価報酬制度」は、数字だけではなくプロセスの進捗と評価を連動させることがポイントです。これは、極めて重要なことで、営業活動プロセスを有効に機能させるためにも、それが成績評価や報酬に連動していることが、営業にとっては、モチベーションとなります。
 SFA(Sales Force Automation)を導入したが、単なる報告のためにしか使われることが無く、案件管理のツールとしてうまく機能していないという御相談を受けることがありますが、「評価報酬制度」と連携していないことが、一因として考えられるケースも少なくありません。

 「フォーキャスティング」は、目標管理にとって不可欠ですが、いつも問題になるのは、その精度です。精度を高めるためには、「歩留まりを意識した評価」、「営業活動プロセスとの一致」が必要です。こちらも、「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座[管理者コース]」で詳しく紹介していますので、ここでは、省略させて頂きます。

 「会議体」は、組織の機能を維持するための基本の仕組みです。「会議体」がうまく機能していない営業組織は、営業パフォーマンスを上げることもできなければ、営業個々人のスキル底上げも困難です。ソリューション営業活動で必要とされる会議は、「アカウント・プランニング・セッション」、「週次営業会議」、「プロジェクト・アシュアランス・レビュー」の3つが柱となります。それを支えるものとして、新規案件開拓を計画的に行うための「オポチュニティ開発セッション」や営業個々人の目標管理やコーチングを支援する「ワン・ツー・ワン ミーティング」などがあります。
 ここでは、ひとつひとつを詳しくご紹介は致しませんが、これらが有機的に連携することが大切です。

 以上の5つのスキルを育成することで、組織としてのITソリューション営業力を強化することができます。

 次回は、「マネージメント」について、解説します。 

営業力の科学:第二章 営業力を強化するための3つの対象 (1)

 以前、「営業力とは、スキルであり、生まれ持った才能やセンスではありません。」と書きました。これは、「営業力」を個人の能力として捉えたときの説明です。今回は、組織の能力としての「営業力」について、考えてみようと思います。

第二章 営業力を強化するための3つの対象 (1)

 ソリューション営業とは、
  • 個々のお客様の課題に応じて
  • そのお客様にとって最適な組み合わせを作り
  • 提案活動を通して販売する
活動と定義できます。

 このような営業活動は、規模の大きなものを狙うことになりますから、手間もかかり、受注するまでの期間も長く、関わる人や組織も増え複雑になります。見方を変えれば、規模が大きく、利益率の高いビジネスにしなければ、割の合わない営業活動です。

 このような営業活動を、ひとりの営業担当者に任せてしまうには、負担も大きく、「こなしきれない」というリスクがあります。その結果、効率も上がらず、ビジネス・クオリティの低下を招きます。従って、チームとして、組織力を活かした営業活動が求められます。

 組織力を活かした営業活動を行うためには、「プロセス」、「スキル」、「マネージメント」の3点に着目し、その能力を高め、仕組みを整備してゆくことが必要です。

 それでは、まず「プロセス」について考えてみましょう。

1.プロセス

 仕事には手順があります。これは、営業という仕事においても同様で、案件の発掘から受注を経てデリバリーに至るまでに、行うべき作業項目や確認事項、これらを遂行するための順序があります。この手順を整理したものが、「営業活動プロセス」と言われるものです。
 
 営業活動プロセスは、大きく4つのフェーズに分けることができます。

発見フェーズ:数ある「ありそうなはなし」の中から、これは攻め取るに値すると思われる案件を見つけ出し、絞り込むフェーズです。

定義フェーズ:既にこのブログで何度も申し上げていることですが、ソリューション・ビジネスは、はじめに商品はありません。お客様ごとにことなる課題を起点に、その課題を解決するためのオーダーメイドの組み合わせ商品を作り上げてゆく。それを提案活動を通じて売り込んでゆく活動です。この組み合わせを作り上げ、お客様との合意を築き上げてゆく過程が、このフェーズです。

確定フェーズ:「定義フェーズ」で作り上げた商品であっても、それが会社の合意として決済されるという保証はありません。財務担当者から予算的な成約を課せられるかもしれません。あるいは、頼りにしている部長のライバルから横槍が入るかもしれません。もしかしたら、競合他社が、トップと話を進めていて、参入障壁を築いているかもしれません。そういう壁を乗り越えて、確実に成約に結びつけてゆく過程です。

デリバリー・フェーズ:最後は、契約を頂いた内容を確実に仕上げ、売上に結びつけるフェーズです。デリバリーは、常にトラブルの火種を抱えています。これらをうまく処理して、納期、コスト、品質を守って納品する。その過程を適切にこなすこと、つまり「プロセス品質」を高めることで、お客様との信頼関係を一層強固なものとすることができます。また、新たな課題を整理し、次の仕事のきっかけを掴む絶好の機会です。

 この4つのフェーズを確実にこなしてゆくことが、営業の仕事です。各フェーズの詳細な活動内容や実践ノウハウについては、研修でご紹介していることでもありますので、ここでは割愛させて頂きます。

 この営業活動プロセスには、3つの役割があります。
  1. 要領よく営業活動を行う
  2. 営業活動の進捗を客観的に評価する
  3. 結果ではなくプロセスを管理する
(1)要領よく営業活動を行う
 予め仕事の手順が明らかであれば、次に何をすべきかが分かります。もちろん、全ての営業活動で状況が同じなわけはありませんから、その手順か完全に一致するとは言えません。しかし、当たりを付ける、あるいは、何をすべきかを考える上でのきっかけにはなります。つまり、やるべきことを先読みし、先手を打つことです。お客様の行動や反応を予測することにも役立ちます。

 このように、営業活動プロセスを予め明らかにしておけば、仕事は計画的に行えます。行き当たりばったりで、何か起きたら対処する「後始末」型の仕事の進め方ではなく、次にやるべきことを先読みし、先回りしてこなしてゆく「前始末」型の営業活動が行えるようになるのです。
 その結果、行動の無駄がなくなり、時間的余裕も生まれます。何よりも、心の余裕が生まれ、冷静で合理的な判断や行動ができるようになりますので、仕事の質を高めることができます。

(2)営業活動の進捗を客観的に評価する
 営業活動プロセスとして、仕事の手順が予め明示的に示されていますので、今どこまでその作業を完了しているのかを、具体的に示すことができます。つまり、営業活動プロセスは、進捗を把握する客観的な指標としも使えます
 特に営業活動の期間が長期化するソリューション営業活動においては、成約までに多くの作業をこなしてゆかなければなりません。その間、売上を計上することかできませんから、数字を進捗の指標にすることはできません。現実には、担当営業の「表現力豊かな説明」をマネージメントが聞いて、これならば、確度60%だとか、80%というように、経験と勘に基づいて進捗を評価しいる場合が多いのではないでしょうか。

 営業活動プロセスが具体的に示されていれば、このような主観的な評価ではなく、「この作業項目を完了したから、確度70%」と客観的に進捗を評価することができます。このような進捗評価基準を持つことにより、対象となる案件に関わるチームメンバー全員が、共通かつ客観的な進捗把握の手段を持つことができるようになります。

(3)結果ではなく、プロセスを評価する
 売上が上がったか否かではなく、どの作業項目を完了したかを客観的に捉えることができます。また、どの作業項目に取りかかろうとしているのか、どの作業項目が進捗していないのか、その理由は?対処法は?・・・というように、営業活動のプロセスこどに状況を把握、評価することができます。
 営業マネージメントは、部下の担当営業と共に評価し、その対応方法や支援について、話し合うことができるようになります。

 「とにかく、精一杯がんばりなさい!(営業の本音:何をどうやって、どうやってがんばればいいのか、教えてください!)」、「いまは、やるべきことをひとつひとつこなしてゆきなさい。(営業の本音:ひとつひとつの作業項目を具体的に教えてください!)」などと言った精神論的指導ではなく、営業活動の具体的な活動内容に即した評価や指導を行うことができるようになります。

 次回は、「スキル」について、考えてみようと思います。

2008年12月27日土曜日

「営業力」の科学: 第一章 営業力を定義する3要素

 「営業力」という言葉、書店のビジネス書コーナーに行くと、よく目にします。仕事柄、この手の本をいろいろと買い集めたこともありますが、精神論やハウツーものが多く、「営業力とはなに?」を理論的に突き詰めているものには、未だに巡り会えないでいます。

 先日もアマゾンで、「営業はサイエンスという言葉に共感・・・」という書評を見て、「これはいいかも」と取り寄せたところ、「営業現場での苦労やお悩みにお応えする」といった人生相談的な内容で、がっかりしました。前書きには確かに「営業はサイエンスである」とはありましたが、どこにも論理的な整理がありません。なぜこれがサイエンスなのかと不思議に思いました。

 それならばと言うわけではありませんが、私なりに、この「営業力」を何回かに分けて整理してみようかと思います。

第一章 営業力を定義する3要素

 企画力、指導力、提案力・・・“力”という漢字が使われている言葉はいろいろあります。三省堂提供の「大辞林 第二版」によると、“力”には次のような意味があるようです。

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◎そのものに本来備わっていて、発揮されることが期待できる働き。また、その程度。効力。
◎ほかに働きかけて影響を与えるもの。
 (ア)ほかの人を支配し、自分の思うとおりに動かすことのできる勢い。権力。勢力。
 (イ)ほかの人が目的を達成しようとするのを助ける働き。骨折り。尽力。
 (ウ)人の心を動かす力強い勢い。迫力。
◎何かをしようとする時に役に立つもの。
 (ア)行動のもとになる心身の勢い。気力・体力。精気。
 (イ)修得・取得した、物事をなしとげるのに役立つ働きをするもの。能力。
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 目的を達成しようととする働き、人の心を動かす力、気力や精気・・・なるほど、営業という仕事に欠かせないもののようです。「ほかの人を支配し、自分の思うとおりに動かすことのできる勢い」に至っては、力=営業力?と思わずにはいられません。

 以上を踏まえ、ITソリューション営業の視点から、改めて「営業力」を定義してみると、以下のとおりとなります。
  1. 理解:お客様の期待や課題解決の要請を正しく理解し、お客様と合意すること。
  2. 企画:お客様の要請に最適な商品やサービスの組み合わせを企画すること。
  3. 説得:お客様にわかりやすく提案、説明でき、お客様の納得と合意を得ること。
以上の3つを行うことができる能力と言うことができます。

1.理解

 「理解」の能力を使うためには、まず、お客様が抱える課題を引き出し、整理しなければなりません。

 お客様は、必ずしも自分の課題に気付いているとは限りません。また、課題の存在に気付いていたとしても、課題を誰にでも分かる形に整理できていない場合があります。
 課題が整理できていなければ、課題の重要性や解決の必要性を関係者に説明し納得させることもできなければ、合理的な解決策を組み立てることもできません。従って、この課題をお客様に代わって、引き出し整理する能力が必要となります。

 次に必要なことは、整理された課題について、お客様と合意することです。本来、課題とは、お客様のものです。いくら担当営業であるあなたが、お客様の課題を正しく理解できても、お客様が、「そのとおり!それこそが自分たちの抱える課題です。」と認めてくれなければ意味がありません。「あなたの課題は、これです。だからこのように解決しましょう/この商品を使いましょう。」と言っても、お客様が自分の課題であると認めていなければ、それを解決したいとは思いません。

 では、どのようにして、この課題を見つけ、整理し、合意を取り付ければいいのか。それについては、「課題発掘のアプローチ」を使います。こちらについて、「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」にて、ご紹介していますので、ここでは長くなりますので、省略させて頂きます。

2.企画

 「企画」の能力を使うためには、次の3つのステップを踏むことが必要です。
  1. お客様のウォンツからニーズを見極める。
  2. ニーズを起点として、複数の解決策を組み立てる。
  3. お客様のベネフィットが最大化できる解決策をお客様と合意の上で選択する。
ステップ1:お客様のウォンツからニーズを見極める
 ウォンツとは、お客様が「ほしい」ものであり、多くの場合、お客様の視点で発想した「解決のための手段=To Do」です。
 例えば、「ノートパソコンを100台ほしい」との依頼をあなたが受けたとしましょう。しかし、それに対応することが、お客様にとって、本当に最善の解決策といえるでしょうか?
 お客様の「ノートパソコンを100台ほしい」理由があるはずです。それを見極めることです。例えば、「社員を100人増やす」ためかもしれません。では、なぜ100人増やす必要があるのでしょうか。それは、「新しい商品を販売するに当たり、その受注窓口を新設して対応しなければならないため」だったとしましょう。これがお客様のニーズです。「ノートパソコン100台」は、このニーズを満たすための手段に過ぎません。この違いを理解し、お客様のニーズを見極めることが最初のステップです。


ステップ2:ニーズを起点として、複数の解決策を組み立てる
 もし、このニーズつまり、お客様が何らかの手段を使って、最終的に「どうなっていたいのか=To Be」を明らかにし、これを起点に考えるならば、「ノートパソコンを100台」ではなく、「Webでのオンライン受注の仕組みを作る」という手段もあるはずです。むしろこちらのほうが、社員100人の固定費を削減できるわけですから、中長期的に見れば大幅なコスト削減が期待できるかもしれません。

 「お客様が本当に必要としているもの=ニーズ=あるべきすがた=To Be」を起点に考えるならば、解決策の選択肢が広がります。お客様から求められた「解決のための手段=To Do」に応えるのではなく、このニーズを起点にすることで、お客様のベネフィットを最大にできる手段を見つけることができます。

 このとき注意すべきは、お客様のベネフィットを最大化する最適な商品やサービスの組み合わせをつくることです。お客様は、決してみなさんの会社の「ありもの」の商品を買いたいわけではありません。お客様は、自分の課題を解決し、ニーズを満たしてくれる手段を求めているのです。その組み合わせを考える能力が求められます。
 
ステップ3:お客様のベネフィットが最大化できる解決策をお客様と合意の上で選択する
 複数の選択肢の中から、お客様が、最大のベネフィットを享受できるものを、お客様と合意の上で選択する。それが、次のステップです。

 お客様が合意しているとなれば、それは既にお客様自身の解決策です。みなさんの押しつけではなく、お客様が必要とする解決策です。お客様が、「これが私の解決策です。」となれば、それに応えればいいわけです。そうなれば、余計な駆け引きも必要なくなり、あなたはそんなお客様の期待に確実に応えればいいと言うことになります。

 以上のステップを営業であるみなさんがリードできれば、お客様のあなたへの信頼も揺るぎないものとなるはずです。お客様は、あなたに「是非とも売ってください」と言いたくなるはずです。このようなことができる能力が、「企画」の能力です。

3.説得

 「説得」とは、「是非とも売ってくださいと言いたくなる商品」の価値をわかりやすく伝え、窓口になってくれている担当者や特定部門の合意から、会社としての意志決定に昇華させる能力です。

 企業という組織は、必ずしも一枚岩ではありません。部門やそれぞれの役割に応じて、利害はことなり、意志決定の判断基準も違ってきます。また、個人的なライバル意識や人脈、性格と言った潜在的な影響力は、意志決定に影響を与えます。
 少額のものであれば、一担当者や部門長の決定で済むかもしれませんが、大きなビジネスを成立させようとすれば、このような違いを乗り越えて、会社としての合意を取り付ける必要があります。
  • 意志決定に関わるひとりひとのビジネス・バリューを見極める。
  • パワーストラクチャーを駆使して、キーパソンを説得する。
  • 組織の特性個人の欲求を理解した上で、効果的なアプローチを行う。
などの行動を行う必要があります。詳しくは、研修でご紹介していますので、ここでは省略させて頂きます。

 以上のような、3つことを行える能力が、ITソリューション営における「営業力」です。

 次回は、「第二章 営業力を強化するための3つの対象」について、解説します。

2008年12月26日金曜日

突然ですが、ついに芸能界にデビューです!

 表紙に写っているのが、私です。・・・ 嘘です!

 実は、私のランニンク体験が、「ランナーズ」という雑誌の記事になりました。嬉し恥ずかしです。

 タイトルは・・・「成功する脱メタボ」 堂々の8ページに渡っての掲載です!同じ雑誌には、あの熱血テニスコーチ 松岡修三も出ていますが、彼は1ページのみ。私の勝ちです!

 元メタボの皆様(もちろん私もそのひとりですが)3人との脱メタボ体験対談記事が、4ページ。さらに「やせる、走れる、充実の3ヶ月プラン」にランナー・モデルとして、4ページ。着せ替え人形のように衣装を着せられ、いろいろな恥ずかしいポーズをさせられました。その写真の枚数は、なんと17カット、しかも、目次にも写真が掲載されています!

 読んでみたいでしょ?そういう方は、書店でお買い求めください。立ち読み禁止です!

 「成功する脱メタボ」というタイトル、確かにその資格は十分にありますね。走り始めて一年間で、77Kgの体重を65Kgまで減量できたわけですからね。

 編集の方に伺ったところ、「メダボを特集すると売れ行きが伸びるんですよ!」とのこと。なるほど、だからこんな特集組んだわけですね。とすると、私は、どこにでもいる身近なおじさんの代表としてのご指命だったわけ?容姿端麗、イケメンというわけではなかったんですね。まあ、一応納得できます。

 さて、これがきっかけでタレント業、いやモデル業へ転身という話になるでしょうか。いや、次は表紙を狙います!その時には、また報告致します。

 ・・・・・・ それは、ないですね(笑)!

2008年12月25日木曜日

マーケティングとは、お客様へのコーチング

日本PGP株式会社の社長をしている北原さんから、マーケティングのためのプレゼンテーションとホワイトペーパー作成のご依頼を頂いた。

 北原さんも私と同様、日本IBMで営業としての修羅場を経験した戦友(?)であり、その後、外資系セキュリティ関連企業のトップを歴任した後、今年から今の会社の社長に就任した。

 彼は、「現実に起きている情報漏えいに関わる事件や事故、法律的な要請などの観点から、暗号化の大切さを訴求したい」という。「暗号について、製品や技術についての説明ではなく、利用者や個人情報を預かり管理を任されている企業の経営者や業務を任されているご担当の方を対象に、その必要性をわかっていただけるような内容にしてほしい」との依頼である。

 私は、改めてマーケティングの仕事とは、こういうことを言うのだろうと思った。

 彼もまた経営者であり、売り上げに責任を持っている。外資系でもあり、数字についてのプレッシャーは、日本企業の比ではないだろう。そのような状況にありながらも、先を見据えて、製品ではなく暗号化そのものの大切さを理解してもらおうという考え方には、大いに共感する。しかも、お客様の目線を意識し、その視点から資料を作ってほしいとの彼の要請は、私としても大いに興味をそそられるものだった。

 この資料を作りながら、私も多くのことを学ばせていただいている。


 お客様の情報をお預かりする企業としての責任、新会社法法で求められる内部統制とIT統制、COSOやCOBITに代表されるIT統制とIT資源との関係。IT資源の根幹をなすデータという資源の意味。これらを保護し、組織としての対応を規定した法律の条文やガイドライン。それらが、企業の暗号化対策とどのように結びついているのか。

 こんな視点から、暗号化の必要性や役割を訴えてゆこうと考えている。
 
この依頼を受けて、いろいろな資料や法律文書などに当たり、技術的視点とは異なる暗号化の大切を知る機会となった。
 
 また、公表される事件や事故の多さを見ていると、改めて情報漏えいに対する日本企業の意識の低さにも気付かされる。「またか?」を通り越して「日本はこれで本当に大丈夫なのだろうか?」と思わずにはいられない。そして、それら事件は、どれもどこでもありそうな話であり、決して他人事では、済まされないことに気付かされる。にもかかわらず、対策が遅々として進んでいない現実。危機感を持たざるを得ない。

 「マーケティングとは、ニーズを創造すること」である。セールスと対立する概念であり、「セールスをいらなくすること」と言い換えることができる。セールス(売り込み)をしなくても、お客様から「ぜひ売ってください」と言わしめるための取り組みと言ってもいいだろう。

 このような仕事は、すぐに数字には結びつかないことでもあり、なかなか予算をつけにくいものである。しかし、新たな市場でリーダーシップを取ろうとするのならば、率先して行うべきことだろう。
 IBMは、かつてこのような取り組みに時間とお金をかけてきた。だからこそ、お客様は、商品についても真剣に話を聞いてくれたのである。

 マーケティングとは、売れない商品を売れるようにするこではない。お客様が「現実を認識し、その対策の必要性に自ら気付く」、それを手助けすることがマーケティングの役割である。お客様へのコーチングと言い換えてもいいだろう。

 このような機会や情報の提供は、お客様にとっても大変ありがたいことに違いない。お客様が、あなたの会社を自分たちにとって役に立つ相手であると分かれば、お客様はあなたの話に真剣に耳を傾けてくれるだろう。

 今回の仕事で、あらためてその原点を省みることができた。

 PGPについてのプレゼンテーションは、いずれ詳しく紹介させていただこうと思う。

2008年12月22日月曜日

お客様に騙されてはいけない!

 今あなたが手がけている案件は、今月末、間違えなく成約できますか?

 年末のこの時期だからこそ、無駄な動きは避けたいものです。できれば、確実に数字に結びつく仕事に集中したいですよね。

 そんな時に注意すべきは、お客様の甘言です。
  • 「斎藤さん、大丈夫だから。僕のほうで、書類は回しておくから。」
  • 「常務の了解もとれているので、あとは事務処理だけですよ。」
 若い頃、こんな言葉に、何度も騙された。特に月末や期末は、数字については、誰もが敏感になっている。そんな時にこの言葉を信じ、「大丈夫です」と自信を持って数字を約束しているにもかかわらす・・・
  • 「斎藤さん、ごめん!優先することがいろいろあって、今月の経営会議に出せなかった。」
  • 「経理部長が、もう一度数字を見直せと言っているので、改めて見積を検討させてもらえないだろうか」
 「えっ、そんな・・・どうしてくれるんですか?」と言ってみたところで、後の祭りである。上司からはどやされ、なんとか他でリカバリーしろと言われても、もう期日までに時間がない。自分の詰めの甘さにほとほと嫌気がさす。

 こんなこともあった。

 「いい提案だよね。もう少し詳しい資料をもってきてくれない。」というありがたいお客様の言葉。一生懸命資料を作り、時間をかけてお客様を訪問し説明する。
 「XXX社は、こんな提案を持ってきているんだけど、IBMさんは、どう違うの?その当たり、詳しい人に話を聞きたいんだけど・・・」と質問。「では、改めて詳しいSEと伺います。」という会話が繰り返される。

 ご年配の担当部長である。権限はないが、時間だけはたっぷりある。とにかく、社内のこと、製品のこと、何でもよく知っている。そういう意味では、情報通であり、良き教師ではあるが、数字には結びつかない。しかし、積極的に質問され、提案をもとめられ、こちらの話もきちんと聞いてくれるこのようなお客様には、ついつい何かを期待し、時間を費やしてしまう。しかし、その何かは、永遠に訪れることはない。

 こんなお客様もいた。
  • 「わかった!任せておけば大丈夫だから」
  • 「だいじょうぶ、大丈夫・・・あとは、こちらでやっておくよ」
 一見とても信頼できそうだ。しかし、進捗は如何でしょうかと伺うと、「うまくいっているよ」と詳しくは語ってくれない。それを信じて、待てど暮らせど、いつまで経っても連絡がない。
 安心もしていたし、他の仕事も忙しかったので、上司から、「おい、あの件、どうなっているんだ?」と聞かれるまでは、こちらからアクションを起こさなかった。確かに、連絡が遅い。そこで、どうなったかを聞いてみると、「今回は導入しないことになった。」とのそっけない回答。今更どういうことですか・・・と言ってみたところで、ことは解決しない。
 
 見積書を提出した。提案書を出した、契約書を渡した・・・やることはやったから、後は、お客様にお任せする。こんな営業としての大罪をあなたは犯していないだろうか

 お客様の優先順位とあなたの優先順位は、同じではない。そんな当たり前の感覚を先ず持たなくてはならない。

 また、あなたの交渉相手は、意志決定にどの程度関与し、影響力を行使しうるのか。そのことについて、あなたは客観的に評価できているだろうか。

 社内の力関係は、表向きの肩書きだけでは分からない

 例えば、定年を間近に控えている経理本部長は、創業社長の長男であるシステム課長より、実質的な決定権を持っていない場合もある。
 ライン職から外れ、担当部長の肩書きを持つ年配の方は、セミナーには必ず出席し、営業の話にも熱心に耳を傾けてくれるが、意志決定にはまったく結びつかないことが多い。

 自分は、リーダーであり、意志決定の一切は私が握っているという。要求はするが、情報は提供してくれない。何か問題が起こると、あなたや社内の第三者のせいにして、自分は被害者だという顔をする。
  • 進捗しないには、必ず訳がある。
  • お客様の言葉を鵜呑みにしてはいけない。
  • あなたが思っているようにお客様は動いてはくれない。
 しつこさは、営業の武器である。特定の情報に頼るのではなく、いろいろな角度から裏付けを取り、客観的に、冷静に現実を評価する。

 数字を追いかけていると、どうしても期待が先行し、「自分がやらなければ」の責任感も相まって、希望的な数字が口をついて出てきてしまう。しかし、その結果はミスフォーキャストであり、落胆であり、自責の念である。
 
 こんな時こそ、研修でお渡した「オポチュニティ分析」や「プロジェクト分析」、「パワーストラクチャー分析」が、役立つだろう。自分の期待や推測ではなく、事実を事実として受け取る冷静さを持つには、こんな道具に頼るのもひとつの方法かもしれない。

 そうやって、改めて自分の抱える案件を見直し、優先順位を付け直す。不安があれば、それを確かめる。そうやって、無駄のない、省エネ営業を心掛けては如何だろう。

 こんな時期だからこそ、冷静さが求められる。

2008年12月21日日曜日

自分を鍛える道場

 現役で営業をしていた頃の年末は、尋常ではなかった。

 IBMは、12月決算なのだが、担当するお客様のほとんどは、3月決算。この時間差がほんとうに忌々しかった。

 当時は、大型汎用機の売り上げがノルマ達成の絶対条件だった。SIのような請負は少なく、年末の数字を達成させるためには、何としてでも大型汎用機の契約を受領し、年末までに導入作業を完了しなければならない。

 当時の営業にとって、最大のモチベーションは、与えられたノルマを達成し、HPC(Hundred Percent Club)の資格を得ることだった。もちろんコミッションも入るわけだが、HPCは、普通の営業であることの証明であり、誰もがHPCの資格を得ることを目標に、必死で働いていた。年末は、その達成期日であり、何としてでも結果を出さなければならない。そんな思いで、徹夜や休日出勤など厭わず、お客様と会社を往復する毎日を過ごしていた。

 お客様にしてみれば、「また、恒例の年度末の押し売りか・・・」と渋い顔だが、そこは心得たもので、この時期だからこそ好条件を引き出せるという打算もあり、お互い分かった上での交渉が繰り返される。
 
 仕事は、普段の倍以上のスピードで動いていたように思う。午前中の打ち合わせ、午後にはお客様との交渉、それを社内に持ち帰って関連部門と再び相談、提出資料を作り直したり、社内手続きのための書類を作成したりしていると、深夜になるのは当たり前で、早朝までかかってしまうこともしばしばだった。

 箱崎のオフィース近くにカプセルホテルがあった。そこで数時間仮眠して、シャワーを浴びる。再び出社して、また仕事である。

 年末は、そんな毎日が当たり前のように繰り返されていた。

 今思うと、なんと非効率で要領の悪いことをしていたのかと苦笑いせざるを得ない。ただ、何としてでもノルマは達成するという決意だけはしっかりと持っていた。それが当たり前という雰囲気を、営業だけではなく、SEも、カスタマーエンジニアも、業務部門の人間も、社内のすべてが共有していた。その旗振りは、担当営業である自分自身であるという自覚。モチベーションは、極めて高かったと思う。

 会社のためではなく、しぶしぶであろうが何であろうが、ノルマを受け入れた以上は、それはもう自分自身への約束である。それが達成できないとなると、自分で自分の負けを認めることになる、そんなことは、絶対にしたくない。そんな思いが、気持ちを突き動かしていた。

 こんな雰囲気の中で、コミットメント(必達目標)の意味、そして何としてでも目的を達成してやるぞという気力の大切さを学んだことは確かだろう。

 無事数字を達成し、正月を迎えると必ずと言っていいほど、高熱で寝込んでしまう。年末までは、風邪もひかず、徹夜にも耐えてきた身体が悲鳴を上げて、「休息せよ」の強制命令を発する。自己調整機能が働くのだろうか、高熱に苦しみながら一日二日寝込んだ後は、実にすっきりする。人間の身体とは、うまくできている。

 こんな話は、過去の栄光であり、自己満足に過ぎない。同じようなことをする必要など無いだろうし、もうそんなことが許される時代ではないだろう。

 事実、私が「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」を始めたのも、こんな非科学的で非効率な仕事のやり方ではなく、「営業をエンジニアリング」ととらえ、論理的に、かつ効果的に行う方法を伝えたかったからに他ならない。がむしゃらに突き進むのではなく、効果的に仕事をこなしてゆくこと。そのことの大切さを伝えると共に、それが出来るという自信を持ってもらいたい。そんな思いが、この研修には込められている。

 今振り返れば、現役の自分には、そんな知恵などみじんもなかった。講師として偉そうなことを言っているが、こんな恥ずかしい過去もあったことを告白しなければならない。その罪滅ぼしというわけではないが、皆さんには、この二の舞を踏んでいただきたくないと思っている。

 ただ、必達の決意、それは会社のためではなく、自分のためであるということ。それに向かう気力や情熱。この両者は、たとえ知恵があったとしても必要なことである。そのことまで、否定するつもりはない。

 営業として成長すると言うことは、売り上げを上げられる優秀な営業になることやマネージメントとして出世することではない。
 営業という仕事を通して、ひとりの人間として、自分に課したチャレンジを達成できる知恵を身につけ気力を養うことだろうと思う。研修でお伝えする内容は、自分で知恵を育むきっかけであり、仕事をするための道具であり、スキルである。それを自分自身の成長に供するためには、意志の力も併せて学ばなければ、自分の人間力を育てることは出来ない。営業としての数字や昇進は、そんな人間力の結果であり、ひとつの表現の方法に過ぎない。

 私にとって、年末とは、自分を鍛える道場だったのかも知れない。

2008年12月19日金曜日

新商品を売り出す その3:商品を売り込む道具

 「商品の価値」とは、この商品によってもたらされるお客様のベネフィットであるという話をした。性能や機能も価値を生み出す要素ではあっても全てではない。むしろ、その商品の目的、つまり、この商品によって何を解決し、どのようなベネフィットをお客様に提供できるかを正しく理解しなければ、その商品の良さは伝わらない。

 また「商品の魅力」は、お客様の満足に比例するという話もした。お客様の満足は、商品単体でもたらされるものではない。導入前の検討から始まり、導入後の開発や運用に至る一連の作業が、お客様にとって楽に、確実にこなせる組み合わせを提供する。商品をその組み合わせのひとつの要素として、あなたの会社だけのオリジナルな組み合わせを作ることが出来れば、結果として商品の魅力も増し、他社との差別化も可能となる。ソリューションという商品は、このようにお客様の目線に立った組み合わせである。

 では、この「商品」をどうやって売るのかと言うことだが、これについては、売るもの、お客様も様々であり、ここで一律に申し上げるのも難しい。そこで、共通する要素としてのどのような営業ツールを用意すればいいのかを考えてみることにしよう。
  1. マーケティング・プレゼンテーション 提供しようという商品の必要性を訴求する内容。社会情勢、法律、公的ガイドラインなど、必要性を説き、危機感をあおり、商品導入の必然性を訴え、ニーズを喚起する。
  2. アセスメント・シート 導入の必要性に気付いて頂くためのツール。お客様の状況について確認する質問を列挙。インタビューや自己回答式で答えて頂くことで、どこに課題があり、提供しようとするサービスを利用することによるコストとメリットを概算することが出来る。
  3. パンフレット きっかけを作る、お客様に興味を持っていただくための道具。性能や機能ではなく、どのようなベネフィットがもたらされるかを中心に、数ページの資料を作る。
  4. 製品仕様書 パンフレットの最終ページあたりに組み込むことも可能だろう。製品の性能や機能、特徴をまとめた資料を作る。
  5. 提案書のひな形 製品やサービスについての価値、詳細な説明、費用、作業の手順などをまとめる。稟議書の素材となるもの。
  6. セールス・ガイド 自社あるいは販売代理店のセールスが誰に、どのように販売すればいいかを説明したマニュアル。必要とするお客様の見分け方、プレゼンテーションの方法や台詞などを含める場合がある。一連の資料を作った人だけが、それら資料を使えるようでは、効率が悪い。
 ざっと、こんなところだろうか。

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 詳しくは、いずれ研修としてご提供しようと考えています。是非そのときは、ご参加下さい。
 また、このような商品作りの企画、資料作成も承っております。お気軽にご相談下さい!
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 ということで、ご相談をお待ちしております!

追伸:よろしければ、このブログをお知り合いにもご紹介下さい。よろしくお願いいたします。

2008年12月18日木曜日

新商品を売り出す その2:商品を魅力的に見せる

 「商品の魅力とは、購入者の満足に比例する

 商品の機能や性能は、お客様の満足を高める大切な要素ではある。しかし、それがすべてではない

 今の世の中、「唯一無二」のIT製品などなかなかお目にかかれない。それぞれに特徴があり、優位性はあっても、絶対的なものではなく、一長一短がある。そのような商品同士の比較の中で、商品だけに着目して、その良さを訴求しようとしても、自ずと限界がある。

 「ソリューション・ビジネスは、“商品がない”からスタートする」という話を以前にもしたが、お客様の求めているものは、ハードウェアやソフトウェアではない。お客様は、課題を解決したいのであって、商品を購入したいわけではない。ハードウェアやソフトウェアは、課題解決の手段を構成するひとつの要素に過ぎない。それら要素の組合せが、自分にとって最もふさわしいものであることを見極め、購入を意思決定する。

 お客様が求めているものは、[楽]X[確実]X[安価]である。

 これは、足し算ではなく、かけ算であることに意味がある。お客様にとって、楽にしかも確実にできるという確信があるならば、価格については、多少他社より高くても仕方がないだろうと思って頂ける。

 商品を含む、あなたが提供しようとする課題解決の手段=ソリューション=「個々のお客様に最適化された組み合わせ」を提供できれば、お客様の満足は高まり、結果として、商品も魅力的に見えるはずだ。

 ただ、これをすべてのお客さまごとに個別に作るということになると、担当する営業の力量に左右され、会社全体の効率は期待できない。

 そこで、お勧めしたいのが「ソリューション・パッケージ」という考え方。その商品をお使いいただくお客様が、楽して、確実に、効率よく利用できるサービスや仕組みを組み合わせのひな形を作り、必要に応じて、その組合せをカスタマイズして提供するという考え方。

 たとえば、VMを売ろうとする場合、
  • VM適用による効果や概算費用を算定するアセスメント
  • 導入計画策定セッション
  • 商品(VM+ハードウェア)
  • 運用最適化支援サービス
  • リモート監視サービス
  • ポイント制 保守・サービス・パッケージ(基本+サービスやインシデント対応)
  • ・・・
というような組み合わせが考えられる。

 このような組み合わせを「VM最適活用ソリューション・パッケージ」という自社のオリジナル商品として提供できれば、お客様の満足度は高まるだろう。同時に、無償の「サービス」は減り、利益のかさ上げにも貢献する。

 これは競合他社への差別化にもなる。自分たちならではのオジナルな組み合わせを提供できれば、同じ商品を販売している他社との競合に対し、優位を築くことができるだろう。

 「商品の魅力とは、購入者の満足に比例する

 購入者の満足を高めるためにどうすればいいのか。そのための手段を考え、最適な組合せを創り出す。ハードやソフトは、お客様の満足を高めるための手段のひとつであることを忘れてはならない。

 手段が一人歩きしてしまい、「この商品は、こんなにすばらしいものなんです!」と力説するだけでは、お客様は、自分がどれほど満足できるかを思い描くことなどできないだろう。それでは、商品の魅力は伝わらない。

2008年12月17日水曜日

新商品を売り出す その1:「商品の価値」とは?

 ものを売ることは、決して簡単なことではない。営業を経験した人であれば、身にしみていることだろう。ましてや、新しい商品やサービスを販売するとなると、その難しさは何倍にもなる。幾重にも立ちはだかる壁を崩し、やっとその向こうにあるお客様にたどり着く。一足飛びに、向こう側へ飛び越えたいところだが、そんな都合のいい方法は、そうあるものではない。

 まず最初に突き当たる壁は、その商品の価値を明確にすることだろう。そんなことは当たり前だと言われるかもしれないが、意外とこの肝心なことができていない場合が多い。

 例えば、海外の製品を販売する場合。マニュアルや製品紹介の資料を和訳し、それをそのままWebに掲載したり、お客様への説明資料として使っているケースをよく目にする。このような資料は、やたら文字が多く、専門的な用語が多用されており、わかりにくい。何が違うのか、どこが画期的なのか、じっくり読まなければ分からない。

 また、使い方や事例などが書かれていても、海外のものばかりで、それが日本の事情とかけ離れているものも多く、折角読んでもピントこないものも少なからずある。

 そもそも、そんなものを平気で製品説明資料として使っている感性が疑われる。本当に売る気があるのなら、お客様がその資料を見ただけで、「ぜひ売って下さい!」と言わせるぐらいのものを用意しようと考えるべきだろう。

 このような資料を作るときに、まずとり組むべきことは、製品の機能や性能について深く理解することではない。この製品が解決しようとしていること、つまり、製品の目的とでも言うか、どのような価値をお客様にどどけようとしているのか。それを理解することだ。

 その上で、自分の思いこみではなく、日本の実情に合わせ、お客様の現場で使われるシーンをイメージし、このような使い方なら、これだけの価値を生み出すことができる。そのひとつひとつを明らかにし、お客様が、「なるほど、このような使い方ならわが社でもありそうだ。それで、これだけの価値があるならば検討してみよう。」と思わせることだろう。

 製品紹介資料とは、そのようなことを伝えるもののことを言う。製品スペックや価格資料も必要ではある。しかし、それだけでは、お客様にほしいと思っていただくまでの道のりは遠い。

 もちろん、既に同様の商品が出回っていて、その商品のもたらす価値が広く理解されているものであれば、「価格が1/3」や「スピードが10倍」と言うだけでも、十分に価値は伝わる。しかし、新しい考え方や分野の商品となると、利用シーンや必要性の背景にある法律や制度、世の中のトレンドなどの変化と絡めて、必要性を喚起することから始めなくてはならない。知恵の使いどころだ。

 新商品の開発でも同じことだが、この商品がもたらすお客様の価値は何かを考え、仕様を絞り、作り込んでゆく。よくある「技術者の趣味」でつくられた商品は、「お客様が欲しいもの」というものが乏しく、「こんなにすごいんです」という自己満足と自慢に満ちていて、売るに売れない。機能は豊富だが、「そんなに必要ないのでもっと安くしてください」という大半のお客様の期待に沿うことができない。

 「商品の価値」とは、「お客様がほしいと思う気持ち」である。これをどうやったら生み出すことができるのか。新しい商品を新たに作るにせよ、海外から優れた商品を持ってくるにせよ、お客様の目線、お客様がまさに利用しようとしている状況に即して、お客様の「ほしい」を徹底的に考える。それが、新しい商品を売り込む上で、最初のステップとなる。

 次回は、「商品を魅力的に見せる」方法について、考えてみよう。

2008年12月16日火曜日

壁の向こうの声を聞く その2 【完結編】

前回の続き】

年末キャンペーン(?)のお知らせ-------------
いつもご覧いただき、有り難うございます。
ちょっとあつかましいお願いではあるのですがあるのですが・・・

現在、50に届かない程度のアクセスを日々頂戴しているのですが、
年末の数値目標達成(笑)は、営業の心得です。そこで、なんとか
3桁の大台をクリアしてみたいと密かな野望をいだいております。

もしご迷惑にならなければ、お知り合いに、このブログをご紹介頂け
ないでしょうか?何もお礼はできませんが、結果は、ご報告します。
どうぞ、ご協力の程お願い申し上げます。
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それでは、前回の続きです・・・

 株主総会の翌日のことである。社長は社員を集め「これからは自分たちで売り込みをする。とにかくいままで付き合いのあったところにメールや電話で製品を紹介しようと思う。」。

 私にも相談があった。そこで、「まず、目標を決めましょう。いつまでにどれだけ売るのか。そして、役割分担も決めて、販促資料やプロモーションのためのWebも作らなくては。トライアル版の無償ダウンロードもどうか。プレスリリースをして集客もしましょう。新規購入割引キャンペーンなども企画して、きっかけを作るというのはどうでしょうか?」。

 すると社長は、「いやいや、そこまでしなくてもいいです。とにかくメールを出して、電話して、説明が必要とあれば、ベンダーにつないで、訪問してもらいましょう。自分たちも売り込みをやっているんだという前向きなところを見せれば、出資者も納得してくれるでしょう。我々がちょっとやったところで、そう簡単には売れません。どっちにしても、資金がショートするのは避けられないので、彼らに追加出資をしてもらうためにも、ちゃんとやっているんだというところを示すことが大切ですよ。」

 私は、彼の話を聞いて唖然とした。私は、「そんなことでは、出資者も納得してくれませんよ。まずは目標を決めて、必ず達成するという意気込みで手段を考えなければ、売れません。やるべき作業項目を洗い出して、役割分担して効率よく行う。最終的に目標をクリアできなかったとしても、それは結果の話。必達の気持ちで真摯に取り組んでこそ、説明できるというものではありませんか。」

 正論は強い。本人も理解せざるを得ないが、腑に落ちたという感じではなかった。とにかく、私は陣頭指揮を取ることになったのだが、まあ、うまくやってくれという社長の雰囲気は社員に伝わる。どこまで社長は本気なのだろうかと、現場の意気はなかなか上がらなかった。

 さすがにこれでは、売れない。ついに年末も近づき、改めて経営会議で出資者から報告を求められた社長だが、とにかくがんばってやっています。ほらこの通りと、コンタクトリストや販売状況を説明したものの、当然納得は得られない。とにかく一層の努力を求められ、一旦は閉会となった。

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 さて、やっと最初に戻ってきた。

 そんなことで「もっと売ってくれ」というお願いにITベンダーに伺うことになったのだが、社長にしてみれば、このベンダーがまともに売る努力をしていない、そもそも営業力がないからこんなことになっているのだという不満がある。

 「私は株主からいろいろと言われている。この会社を存続させるためにも、もっと売上を上げを上げなければならない。私には責任があるんです。自分たちもこれからいろいろと売り込みの努力もするつもりです。だから、あなたのところも、もっと努力をしてほしい。」と感情を込めた“お願い(?)”となった。

 話を聞いた本部長も“まいったなぁ”という顔である。いままで、あれだけ自らの売り込みに消極的だったのに、いまさらなんだという気持ちだろう。

 この訪問に先立ち、私は社長に「お願いをする以上は、こちらも手ぶらではいけません。無償トライアルや機能制限版などの提案を持参するのが筋です。」と話をしていた。

 しかし、社長は「それは、相手がそれを求めてきたなら言えばいい。こちらから切り出す話ではない。」という。そんなことをあなたからも言わないでほしいと釘を刺された。

 結局、実りのない訪問になってしまった。社長としては、言うことを言ったという満足感。あれだけ言ったのだから、何か動いてくれるに違いないという気持ちはあったのだろう。

 結局、このベンチャー企業は、十分な成果も上げられず、後にこのITベンチャーに格安で吸収されることになった。当時は、まだ景気のいい時代だったので、格安でも買ってもらえたからいいものの、今ならそれも無理な話だっただろう。

 このベンチャー企業の技術者は、そのまま引き受けてもらったが、社長も含めた役員や営業責任者は、受け入れてもらえなかった。

 幸いこの製品は、翌年、やっと日の目を見ることになった。機能限定版の無償ダウンロード、セミナーや新規顧客向けの割引キャンペーン。製品機能を分割して、エントリー版、プロフェッショナル版、エンタープライズ版などを品揃え。メディアへの積極的なプロモーション活動も功を奏し、展示会などのイベントでも優秀製品賞を受賞するなど評判も高まり、引き合いも増えていった。

 こんな、極端な例は私も初めての経験だったが、似たようなベンチャー企業の話はよく耳にする。いいものを作れば売れないはずはない。売れないのは、お客様が悪いのか、売り方が悪い。自分たちは、とにかくいいものを作っているのだから、責任は果たしている。なぜ売れないのか、よく分からない・・・

 いいものは、いずれ受け入れられる。その信念は、間違ってはいないと思う。とにかく、開発する側として、理想を追い求め、完成度を高める。そして、世の中に貢献したい。

 その理想無くしてベンチャー企業など創れない。しかし、それと同時に、世の中の専門家の声、そして、なによりもお客様の声に素直に耳を傾ける。そして、「分からないのはおまえが悪い」ではなく、「分からせることができない自分が悪い」という気持ちを持って、難しいことでも工夫をして分からせる努力を惜しまない。その態度がなくては、たとえどんなにいいものであっても、お客様の耳には届かない。

 この話は、ソリューション営業の現場にいるみなさんにも関係があるものだ。いくらいいものであっても、あなたが伝えたいことと、お客様の思いが同じであるとは限らない
 自分たちの製品やサービに自信を持つことは当然としても、お客様の視点から、その価値の伝え方を工夫しなければ、聞いてはくれても受け入れてはくれない

 特に新しい製品やサービスを売り込もうとするときは壁は限りなく高い。どうやってこの壁を低くするのか。その答えは、壁の向こう側にいるお客様や向こう側で働く営業の第一線の人たちの声に耳を傾けることが一番だろう。

 あなたが伝えたいことを伝えるのではなく、お客様が知りたいことを伝える

 そんな態度でお客様に接することができなければ、せっかくの良さもお客様には伝わらない。このベンチャー企業のケースは、そんな現実を私たちに教えてくれる。

2008年12月14日日曜日

壁の向こうの声を聞く その1

 もう何年も前の話だが、年末も近づき、クライアントであるベンチャー企業の社長とともに、その会社の製品を取り扱ってくれているITベンダーの営業本部長を訪ねたことがあった。目的は、もっと売ってくれとのお願いである。

 お願いの結果がどうなったか・・・

 その話をする前に、このお願いに至る経緯について話をしよう。

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 このベンチャー企業は、ある有名私立大学の研究者が発明した技術を使って、3年の歳月をかけて開発したソフトウェア・パッケージだ。その年の春にやっとの思いで製品化に漕ぎ着けたもものであった。

 販売を引き受けてくれたITベンダーは、早くからこの技術に着目し、製品として販売するためのアドバイスや仕様作り、研究委託や出資などの金銭的なことも含めて支援を行ってくれていた。

 この社長は、自らも博士号を持つ大手製造メーカーの技術部門長だったのだが、大手企業での管理者としての経験を買われ、このベンチャーに出資するファンドが社長として招聘した方だった。

 当初は、2年以内に製品化を予定していたが、「もっと技術としての完成度を上げたい」との社長の意向もあり、具体的な仕様がなかなか定まらず、製品化が大幅にずれ込んでしまった。

 売る側のITベンダーとしては、機能を増やすよりも、基本的な機能が確実に動き、バグのない製品としての完成度を求めていたのだが、技術者魂の社長としては、納得がいかない。ITベンダーの声に耳を貸さず、とにかく機能を追求した。

 そんなこともあって、1年遅れのリリースとなったが、社長としては満足な製品ができたと至って満足だった。

 出資者であるファウンドからは、「製品ができた以上は、ITベンダーに任せっきりにするのではなく、販売チャネルの開拓やマーケティング活動を自分で行うように」と求められていたが、「自分たちは開発会社であり、売るのは自分たちの役割ではない。ITベンダーがやるべきであって、技術的な支援はするが、売ることは任せる」との考えを崩すことはなかった。

 私は、そんな状況を見かねたあるファンドの関係者から相談を受け、この会社を手伝うことになった。

 まずは、自分たちの製品を紹介するわかりやすい資料を作ろうと、私は提案した。技術や機能、仕様などを紹介する説明資料はあるのだが、「こんなにすごいんです!」「すばらしい機能が盛りだくさん!」という自慢話のような内容である。一体お客様のベネフィットは、どこにあるのかよく分からない。

 「こんなにいいものをつくりました。どう使えるかは、自分で考えてください。」と言わんばかりの内容である。これでは、売るに売れない。

 「まずは、私がまとめますから、内容についてアドバイスしてください。」とお願いし作り始めた。販売してくれるITベンダーとも相談し、この製品のセールス・ポイントを絞り込み、「こんなに効果が出ます。」という製品説明のためのプレゼンテーションを完成させた。

 これを見た社長曰く、「これじゃあ、うちの製品がどれほど豊富な機能があるのか、よく分からない。これでは、使えない。」とのことである。

 「お客様は、機能の豊富さなど求めていませんよ。自分たちにどのように役立つか、どれだけコストが削減できるかを知りたいのです。それを先ず伝えなければ、興味も示してもらえませんよ。」

 社長は、それでも納得できない様子。それではと言うことで、「お客様に興味を持って頂くためのこの資料とは別に、“製品機能編”ということで、製品の機能を詳細に説明した資料を作りましょう」と提案した。

 社長は渋々納得したが、「それは、売るところのベンダーが作ればいいのであって、何でうちが作らなきゃならないのか・・・」とまだ不満のようであった。

 こんなこともあった。

 「新しい考え方の製品です。その価値を分かってくれている人は限られています。まずは、トライアルとしてしばらく無償で使っていだくか、機能を制限して安く購入していだくようにして、価値を認めて頂く人たちの裾野を広げましょう。そうやってきっかけつくり、ニーズを喚起しないと、大きな需要は期待できません。」

 社長曰く、「これだけ機能があるわけだから安く売るなどとんでもない。価値を分かってくれるところが買ってくれればいい。興味がないところに売る必要などない。開発費も相当投じているんだから、安売りして、製品の価値を貶めたくない」とのこと。これには参った。

 結局のところ、そのITベンダーも及び腰になり、営業現場の販促もなかなかはかどらない。そんな様子を見て、この社長は、「いったい彼らはどういうつもりなんだ。ちゃんと仕事をしているのだろうか。」と言い出す始末である。

 じゃあと言うことで、この社長はかつてのつてで、別のシステム・ベンダーに「うちの製品を扱ってくれているITベンダーが全然ダメなんで、あなたのところで扱ってはもらえないだろうか。」と話を持ちかけた。
 話を持ちかけられた会社も義理は欠けない。協力しましょうと言うことにはなったが、「まずは製品の理解と評価を行わなければ、責任は持てない、時間がほしい」とのこと。彼にしてみれば、直ぐに売ってくれるものと信じていたようだが、その目論見もかなわなかった。

 製品を出荷してからの最初の株主総会では、どうなっているのかと出資者から突き上げられ、いろいろと説明はしたものの、「自分たちでも積極的に売り込み活動をしてください。」と言うことになり、さすがの社長も策を講じなければならなくなった。

 そこで社長は・・・ 【次回へ続く】

2008年12月12日金曜日

商材=ソリューションではありません

 これからは、ソリューション・ビジネスの時代。そう言われるようになって久しいが、その実践に経営者は、どこまで真剣にとり組んでいるのたろうか。

 このブログでも、よく話題にすることだが、“それらしい”パッケージ・ソフトウェアの品揃えを充実させることをソリューション・ビジネスと勘違いしてはいないだろうか

 ソリューション・ビジネスとは、「商品がない」からスタートする。つまり、商品提供を目的とするのではなく、お客様の持つ課題を解決する。その手段を提供することが、ソリューション・ビジネスである。商品提供は、課題を解決する手段であって、目的ではない。

 昨日のブログでも紹介したが、お客様が自分の課題の存在に気付き、その整理を助けることができれば、お客様は自ずと、その解決手段を必要と考えるようになる。お客様へのそういう手助けを行うことが、ソリューション営業の最初の仕事となる。

 お客様が求めているものは、決して商品ではない。どうすれば、自分の課題が解決できるかであり、その答えを提供してほしいと望んでいる。

 「お客様の気付きを促し、何を行うべきか自分で自覚する」。実は、このプロセスは、コーチングの手法そのものであり、ソリューション営業とは、コーチング営業と言い換えることもできる

 現実の問題として、業種や分野を絞り、商品やサービスの品揃えを充実させ、それを持って「ソリューション・ビジネス」を展開している企業は多い。そして、自社の商品や実績などをお客様に紹介する。そして、それがお客様の期待にかなうものかどうか・・・後は、お客様自身に判断を委ねるしかない。

 これでは、「どうすれば解決できるかは、お客様が自分で考えて、結論を出してください」といっているようなもの。ソリューションを提供したことにはならない。

 分野に特化した商材の品揃えや実績は、お客様が課題に気付き、整理するための枠組みを提供する「きっかけ」にすぎない。お客様の課題は、共通するものはあっても、同じものは二つとない。それぞれに固有の課題を抱えている。
 ソリューション営業の仕事は、このきっかけを利用して課題を掘り下げて、お客様の固有の課題や対策についてとことん話し合い、お客様に最適な解決手段について、双方の合意を引き出すことにある。

 ソリューション・ビジネスとは、「商品がない」からスタートする。お客様の個別の課題に対処するためのオーダーメイドの商品を作り、提供するビジネスである。商材は、その商品を構成する素材であって、すべてではない。お客様にとって最適な組み合わせを創造し、それを提供するビジネスである。

 ソリューション・ビジネスを行うということは、業種に特化し商材をそろえることで終わりではない。それをきっかけとして、お客様の課題をさらに深く掘り下げ、お客様に最適な商材やサービスなどの組み合わせを作り上げることである。それができなければ、ソリューション・ビジネスではない。

 景気が後退するなか、ますますお客様の選別眼は厳しくなっている。商材の品揃えの多少だけで、他社との競合を制することはできない。

 だからこそ、このような仕事ができる人材を育て、うまく活かしてゆくためのマネージメント・システムをつくること。それが、ソリューションビジネスを行うということではないだろうか。

2008年12月11日木曜日

誰のためのソリューションですか?

 「我が社のソリューションは・・・」と、お客様に説明している方も少なからずいらっしゃると思うのですが、そんなあなたは、次の質問になんと答えますか?

 「誰のためのソリューションですか?

 あなたは、「もちろん、お客様のためのソリューションです!」とお答えになるでしょう。

 さて、それは、本当に「お客様」のためのソリューションなのでしょうか?

 もう一度、考えて頂きたい。「ソリューション」とは、「課題を解決するための手段」であることは皆さんもご存じの所です。では、いったい誰の課題を解決するための手段なのでしょうか?

 営業としてのノルマや予算を達成しなければならないという、「あなた自身の課題」を解決するための手段とはなっていないでしょうか。

 あなたは、お客様の課題をしっかりと掘り下げ、自信を持って「お客様の課題」を解決する手段として「ソリューション」という言葉を使っていますか?

 「そんなことはない。お客様の課題を解決するためのソリューションを提供しています。」

 ならば、もう一つ伺いたいのですが、「我が社のソリューション」とは、一体何のことでしょうか?ハードウェア、パッケージ・ソフトウエア、ASP・・・などのあなたの会社がとり扱う商品のことではないのですか?

 だとすれば、それはあなたが売り込みたいものであって、まさにあなたの課題を解決するための手段ではないのですか?

 お客様の課題を明らかにせず、それを分かった顔をして「お客様のためのソリューション」というのであれば、それは、お客様に対するソリューションの押しつけでしかありません。

 そもそも「課題」は、お客様がそう思うものであって、営業であるあなたが「御社の課題は・・・」と押し付けるものではありません。お客様が、「これがわが社の課題です。」と自覚し、それを解決したいと思わなければ、あなたがどんなにすばらしい「わが社のソリューション」を提供しても、所詮、的外れなものになってしまいます。

 しかし、お客様が必ずしも自分の課題を正しく認識しているとは限りません。研修でも話をしていますが、「課題発掘のアプローチ」をうまく使い、お客様の課題を整理し、お客様自身に課題の存在とそれを解決する必要性に気づいていただくこと。その「気付き」を引き出すお手伝いをすることが、ソリューションを売るという仕事のスタート・ポイントです。

 お客様は、あなたの会社の商品を手に入れたいと思っているわけではありません。自分たちが抱えている課題を解決したいと思っているのです。それをきちんと確認したうえで、それならば、「わが社は、こんな解決策=ソリューションを提供できます。」というのなら、きっとお客様も話を聞いてくれるに違いありません。

 「我が社のソリューションは・・・」と言う前に、「あなたの課題」ではなく、「お客様の課題」に向き合うこと。それが、ソリューション営業の基本です。

2008年12月10日水曜日

商品=プロデュースX(機器+サービス)

 「SIerやITベンダーは、サービスの時代になって、中抜きになる」と書いた。となると、一体、その両端は、誰が来るのだろうか?

 その答えについて話をする前に、前回の補足として、PaaSとクラウドコンピューティングについて、まずは考えてみようと思う。

 PaaSとは、SalesFoces.comが、昨年発表したコンセプトで、Platform as a Service つまり、サービスとして提供されるプラットフォームの略である。SaaS(Software as a Service)つまり、サービスとして提供される(アプリケーション)ソフトウェアほど、業務システムに関わるところまで、事業者に委ねてしまうのではなく、システムを運用するプラットフォームと開発環境だけをサービスとしして提供するというものだ。
 SalesFoces.comがいうまでもなく、このようなサービス形態は、すでにいくつもあるが、ますます広がってゆくことは十分に考えられる。

 SaaSに比べて、こちらのほうが個々の企業の業務実態に即してシステムを柔軟に開発することができるという考え方もある。そうすると、SIや開発の受託は残るわけで、Sierも中抜きにならずにすむという見方もある。

 しかし、前回も申し上げたとおりSIとは、結局のところハードウェア・ビジネスに結びついてこそ成り立っている側面があるだけに、開発だけとなるとどれだけビジネスとしての旨みがあるかは、なはだ疑問といわざるを得ない。ましてや、SIと称しながらも、システム販売、導入、ネットワーク構築などに依存してきた事業者にとっては、大変厳しい時代となるだろう。

 お客様にしてみれば、ハードウェアをサービス事業者に任せてしまうわけだから、システム開発にだけ着目して、その品質、納期、コストをさらに厳しく追求するようになるだろう。しっかりとした、開発標準や管理体制を提供できない事業者は淘汰されてゆく。お客様が、サービスにもとめる要求水準がますます高くなってゆくのである。

 視点を変えれば、ハードウェアの販売を手がける大手事業者にとっては、根本的な事業転換を求められることになるのだろう。

 その一方で、彼ら大手が一時請負事業者となり、そこからシステム開発のみを受託されていた企業にとっては、ビジネス・チャンスと見ることもできる。プロジェクトマネージメント、プロセス品質の管理などを徹底し、それを「サービス商品」として持つことができれば、売り込む上での強力な武器となるだろう。

 PaaS以外にも、SaaS、ASP、WebAppなど、自社にシステム開発や運用の環境を持たず、ネットの向こう側、つまりインターネットを介してシステム資源利用するコンピューター環境のことをクラウド・コンピューティングと言う。

 PaaSにしろクラウド・コンピューティングにしろ、アメリカ人は、言葉を作るのがうまい。切れのいい、そうかと思わせるような言葉を作り、わが社の事業コンセプトであり、業界のトレンド・リーダーという顔をする。こちらもなにか新しい考え方が生まれてきたような錯覚にとらわれる。
 しかし、従来からの流れを整理し、それをこのような言葉に表現しただけのことであり、珍しいものではないとさめたみかたもできるが、たしかに自分で考えをまとめたりお客様に説明するには、これはこれで役に立つ。

 横道にそれてしまったが、クラウドにしろPaaSにしろ、インターネット越しの向こう側にシステム資源を置くという考え方。この不況の中で、ますます企業は、真剣にその可能性を追求するようになるだろう。

 その一方で、それらサービスを提供してくれる企業に対する依存も高まるわけで、ビジネス・コンティニュイティの観点から、リスクが高まることは避けられない。

 もし、サービスを提供してくれる事業者が潰れてしまい、サービスを提供できなくなってしまったらどうなるか。あるいは、そこまで行かなくても、事業の拡大にあわせてシステム資源を大きくするときやより高いサービス・レベルの要求に対して迅速に対応してもらえるのかといった課題も残る。

 となると、このようなサービスを提供できる事業者は、安定した経営基盤を持つ大手企業ということになるのだろうか。
 このような、大手企業のPaaSを利用し、SaaSやASP、あるいは、BPOを提供する事業者も現れるだろう。このような分業が、今後ますます進むことは想像に難くない。

 「中抜きの両端は、誰が来るのだろうか?」という最初の問いかけに戻るが、片方はお客様。それも、システム部門ではなくエンドユーザーに近い部門である。システム部門は、彼らに対するアドバイザーであり、システム・サービスを購入する購買部門的な役割となるかもしれない。
 
 もう片方は、ネットワーク事業者、プラットフォーム・サービス提供事業者、アプリケーション・サービス事業者というように、役割分担がますます進んでくるだろう

 このようにパラダイムが大きく変わろうとしている時期に、みなさんは、どのようなポジションで仕事をされようとしているのか。

 まじめにこつこつしっかりと仕事をし、信頼関係を築き、きちんとリピートをもらえているから安心・・・という時代ではなくなろうとしている。景気動向とあいまって、お客様の購入基準も大きく変わろうとしている。

 ソリューション営業とは、このような顧客の変化を捕らえ、お客様個別の課題解決のための「商品=プロデュースX(機器+サービス)」を作り、提案を通して提供して、販売活動を行う仕事である。

 営業個人が「ソリューション営業力」を持つだけではなく、時代の変化を見据えた、企業としての「ソリューション営業戦略」が今求められている。
 

2008年12月8日月曜日

えっ!?まだ御社ではITの運用や開発に人を抱えているんですか?

 「えっ!?まだ御社では、ITの運用や開発に人を抱えているんですか?

 そんな会話が当たり前になる時代が目前に迫っている。

 日本IBMが、1000人のリストラを行っているとのニュースを聞いて、一体どういうことになっているのだろうかとちょっと考えてみた。世界中のIBMで唯一日本IBMだけが大幅な減収減益となっているのだが、その結果としてのリストラである。たぶん、ふたつの事情が重なっているのではないかと思う。

 まず第一は、ハードウェア・ビジネスからサービス・ビジネスへうまく展開できなかったことが考えられる。

 ご存じのように日本IBMは、90年代前半、ハードウエア・ビジネスからサービス・ビジネスへと大きく舵を切り替えた。その目玉となったのがSI(システム・インテグレーション)ビジネスである。
 SIは、お客様自身のシステムの開発を請け負うことであり、それを運用するシステムは、お客様が購入する。つまり、ハード付きのシステム開発請負業務であり、完全なサービス・ビジネスへの転換とは言い難い側面がある。契約上は、ハードと開発請負を分ける場合もあるが、両者は不可分な関係にあった。これは、そこそこうまくいった。

 その後IBMは、全世界的にSO(ストラテジック・アウトソーシング)やBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)など、ハードウエア・ビジネスには依存しない本来のサービス・ビジネスへ軸足を移しはじめる。日本は、その動きにうまく乗ることができなかった。たぶんその背景には、日本の雇用の形態や「システムが自分の手元になければ安心できない」という、米国流のビジネス合理性とは相矛盾する社会文化的側面があるように思う。

 もうひとつは、SMB(小規模、中規模の顧客向けビジネス)の伸び悩み。

 ご存じのように、日本IBMは、昔から大手のお客様に強かった。一方で、中小の企業は、国産各社が圧倒的なシェアを持っていた。そんな棲み分けができていた。
 その後、システムの世界は、ダウンサイジングとデファクトスタンダードの時代となり、メーカー間の垣根は取り払われ、大手企業も中小企業も同じ製品を使う。つまり、製品の違いはなくなり、それを拠(よりどころ)とした差別化が難しくなった。

 また、ソフトウェアもパッケージ・ベースが常識となる。IBMは独自のアプリケーション・パッケージから手を引き、プラットフォーム・メーカーへと転換を図る。IBMもそれ以外のITベンダーも同じ商品を扱うようになったのである。

 つまり、「大手企業には圧倒的に強いIBM」という根拠が無くなり、その構図が崩れたと言える。見方を変えれば、大手もSMBも、同じ商品でビジネス展開が可能となった。もともと中小型でもシェアを持っていたアメリカやその他の地域のIBMは、このような市場構造の変化にも柔軟に対応し、SMB市場でも確実に地歩を築くことがてぎた。

 しかし、日本では事情が違っていた。SMB分野は、国産各社が強力な地盤を持っている。むしろ国産各社にとっては、敷居の高かった大手企業への参入のチャンスが広がったのである。
 オフコンからPCサーバーの時代になり、HPやデルの台頭と相まって、SMB市場での競合は、ますます厳しさを増している。そんな、読み違えもあったのではないかと思う。

 「日本マーケットの特殊事情など関係ない。そんなものは、売れないことに対する逃げ口上」。米国系IT企業のマーケティング担当者が、日本に参入するときにそんなことをよく言っている。米国のスタンダードが世界のスタンダード、日本も同じはずという思いこみが強い。それで失敗し、日本から撤退する企業も少なくない。

 ハードウェアの時代であれば、製品の機能、性能が重要であり、その製品に対するサポート力で競合優位を築くことができた。ハードウェアは、システムの基盤であり、お客様が求める価値の内外格差も少ない。

 しかし、時代はサービスを求めている。サービスは、お客様ごとの個別の事情に対応できてこそ、価値を認めていだくことができる。そこには、機能や性能だけではない、習慣や社会文化と言った各国個別の事情が大きな影響を持つようになる。
 つまり、日本ならではのサービス商品とは何か。それを提供できる自由な発想と、組織としての柔軟性が必要になる。

 今の日本IBMは、その点で苦労しているようだ。

 ITビジネスの当面のトレンドは、SOやBPO、そして、ASPやSaaSなどの本来のサービス・ビジネスとなるだろう。これは、見方を変えれば、SIerやIT機器ベンダー「中抜き」時代の到来を意味する。

  「えっ!?まだ御社では、ITの運用や開発の受託や請負をやっているんですか?

 この現実に目を背けていると、いずれは取り残されてしまう。その時まで、もうあまり時間はない。

仕事の両輪

 先週の木曜日と金曜日に今年最後の研修講師を務めた。普段よりは、少ない人数での開催だったが、営業にとっては、年末の忙しいこの時期によく集まって頂いたと思う。本当に有り難うございました。

 ところで、私が現役で働いていた頃の年末は、毎日終電、週に1~2日は徹夜、休日返上という日々。クリスマス・イブを家族と過ごしたという記憶はない。

 なんとしてでも、年末までに契約書をもらい、納品して売上を計上しなくてはならい。約束した以上予算は達成する。それが営業というものだ。

 売上と言っても、当時は大型コンピューターである。カスタマー・エンジニア(CE)が、据え付け作業を完了するまで、売上計上はされないというルールがある。お客様にはもちろんのこと、CEにも拝み倒して、31日までに作業を完了させてほしいとお願いする。当然徹夜作業も覚悟の上。12月31日の深夜に作業が終わったこともある。
 そして年明け5日からお客様の業務がスタートするとなると、今度はSEが1月2日からシステム導入やチェック作業を行う。営業が休みをとれるのは、元旦だけということもしばしば。

 CE作業もSE作業も営業である私に何ができるわけではない。それでも、作業をする人たちの食事の世話やお茶の手配、時々様子を見に来るお客様の応対など、やるべきことは多い。こんなことに会社のお金は出ない。自腹は覚悟の上。

 二番目の娘が5歳の時、こんな作業の最中に肺炎で入院することになったという連絡が入った。その時は、福島県のいわき市にいた。CE作業が続く中、終電で東京へ戻り病院へ直行。その日は、病院に泊まり込んで、翌日始発で再びいわき市のお客様のところへ戻る。そんなこともあった。

 今思えば、よくそんな生活をしていたものだと思う。

 研修では、「営業の仕事はエンジニアリングだ」という話をする。仕事は、論理的かつ合理的に、しかも効率よく進めるべきだと説いている。その舌の根も乾かないうちにこんなことを言うのもいかがなものかと思うが、これだけは確信を持って申し上げることができる。

 「理屈だけで人の心を突き動かすことはできない。やはり最後に人を動かすのは、プロとしての気迫であり、熱い思いだろうと思う。

 科学的なアプローチは、仕事の定石。それを活かすのは、プロとしてのプライドであり、仕事への情熱なのだと思う。このふたつは、切り離すことのできない車の両輪。

 そのころ、もっと要領よく仕事をするすべを知っていたならどうだっただろうか。それは、所詮イフの話であり、今更そんなことを考えても意味がない。ただ、家族を犠牲にしてまで働きづめで働いた。そのことについては、今でも申し訳ない気持ちがある。 

 昨日、アメリカに住んでいる一番上の娘夫婦からクリスマス・プレゼントが届いた。開けずに、リビングに飾った。本当にありがとう。

2008年12月4日木曜日

営業力とは、生まれ持った才能やセンスではありません

 今年最後の「ソリューション営業プロフェッショナル養成講座」が、今日明日の2日間行われる。この研修の中で、いつも最初に申し上げるメッセージがある。

 「営業力とは、生まれ持った才能やセンスではありません。技能であり、スキルです。

 研修に参加される方の経歴を拝見すると、実に様々だ。入社以来、IT営業職の方もいらっしゃるが、SE、プログラマー、保守技術員。同じ営業でも、不動産、保険、家電製品などを扱っていたという人もいる。ユニークなところでは、「生協でおばちゃん相手に野菜を売っていました。」という方もいた。様々なキャリアの持ち主だ。

 人は誰も自分の国籍を持っている。言い換えるなら、その人がもっともやりやすい、そして、居心地のいいスタイルというものがある。それこそが、生まれ持ったセンスであり、いままで培ってきた経験なのだろうと思う。その人なりの持ち味が生かせないようであれば、仕事など楽しくないし、決してうまくは行かない。それが個性というものであろう。

 このような個性とスキルは、別ものだ。これを区別せず、ごちゃ混ぜにしてしまうと、人の成長が見えてこない。

 私は、この研修でソリューション営業の定石、つまり仕事を効率よく、効果的にこなしてゆくための手順や具体的な実践の技術をお伝えしている。つまり、スキルの部分である。

 誰でも練習すれば自転車には乗れる。ちょっと頑張れば、ロードレースやトレイルレースに出場することも夢ではない。努力はいるが、一定の水準までは、誰でも自分のスキルをのばすことができる。このスキル、つまりハンドルの操作、ペダルの踏み方、重心のとり方には、誰がやっても大きな違いはない。
 しかし、自分が好む自転車のタイプ、乗り方にはいろいろなスタイルがある。それが個性というものだろう。自分のスタイルがあるからこそ、楽しむことができる。
 あなたのセンスや経験は、あなたの営業スタイルとなる。SEや保守技術者であれば、その経験を生かして技術の本質をわかりやすく伝え、お客様の信頼を得ることができるだろう。生協の店員であれば、人の心の機微を捕まえ、お客様に好かれることができるかもしれない。
 
 しかし、センスや個性だけでは、案件を確実にクローズに持ち込むことはできない。だから、仕事の手順を正しく理解し、そのプロセスを着実に進めてゆくことができれば、仕事の効率は上がり、効果を出すことができる。

 この違いを自覚して頂くこと。そして、営業力=スキルを学んで頂くこと。それが、この研修の狙いだ。

 この定石の上に、それぞれの個性を重ね合わせ、自らの営業スタイルを育ててゆく。それは、ここに参加する皆さんの責任となる。

 さあ、今日も張り切って、講師を務めますか・・・!

2008年12月2日火曜日

数字が出ない、だから仕事をしている振りでごまかす

 あるシステム・インテグレーターの営業会議での話し。この会社も例に漏れず、お客様のプロジェクトの延期や予算見直しのあおりを受けて、年末の予算達成が難しい状況になってきました。

 営業本部長は、今年の春、営業力を強化したいと社長に嘱望され、この地位についた人です。

 この会社には、それまでも営業部はありました。しかし、新規顧客開拓や売り込みというよりも、既存顧客の対応や営業業務が主な役割でした。これでは、この先事業の発展は望めないと考えた社長は、大手システム・ベンダーで法人営業のマネージメントとして、新規顧客開拓に辣腕をふるった彼を雇い入れました。

 彼も社長の期待に応えようと、自ら先陣を切ってお客様をまわり、今年9月までは、なんとか予算を達成することができました。しかし、ここ数ヶ月の急激な需要の減退に、予定を30%も下回る受注見通し。これでは赤字を覚悟しなければなりません。
 社長からも、この状況に対処するための施策を打ち出し、実施して欲しいと求められています。

 そこで、彼が打ち出した施策は、今まで訪問したお客様や展示会などで名刺交換したお客様に、メールや電話で連絡を取り、とにかく訪問して、ビジネス・チャンスを掴もうという作戦です。

 その進め方についての相談を受けたのですが、とにかく「やるだけのことはやる」というのはいいのですが、何を売り込むのか、どうやって受注に持ち込むのか、何のシナリオもない状態です。「下手な鉄砲も・・・」ではないですが、とにかく営業全員で訪問しようというこの作戦に、彼の真意を質しました。

 かれの本音は、「どうせ数字は出せない。しかし、なにもやらないわけにはゆかない。ちゃんとやっているというところを社長に説明できるようにしておきたい。」というものでした。要するに、「仕事をしているふりをしておけばいい」ということなのです。

 目標とする数値も示さず、何を達成すればいいのか曖昧。しかも、メールを送り、電話をするという手段が目的となってしまい、その結果どうなって欲しいかという意向は、何も示されていない。お客様に魅力を感じて頂くための武器もシナリオもない。ただ「売りまくれ」という指示。その一方で、「やった証拠」のために誰に連絡したか、どこを訪問したかは、きちんと報告するようにと営業には伝えられています。

 営業担当者にもそんな彼の腹の内はよく分かっています。当然、モチベーションは上がりません。

 「斎藤さん、ほんとうにこんなことでいいのでしょうか?」と営業担当者に相談を受けました。彼は、自分なりの施策を考え、この営業本部長に提案したのですが、今はそこまでしなくてもいいと受け入れてもらえなかったそうです。

 私は、この営業本部長に、会社が如何に危機的状況に置かれているのか、そして、社長にも部下にもあなたの考えは見透かされていることをわかりやすく説明しました。
 かれも、わかってはいるのですが、期待に応えなければという思いと、どうしようもない状況の狭間で、自分で何とかしなければと思い込み、社長にも部下にも本音でぶつかれなかったようです。

 私は、社長にも進言し、とにかくもう一度なにができるかを関係者を集めてきちんと話し合おうということにしました。

 追い込まれると、自分で抱え込んでしまうか、自分の見栄のために形だけを整えようとする。人には誰もそんな弱さがあります。こういう時だからこそ、あえて開き直り、自分だけではなく、部下や上司を信頼して、英知を出し合うことが必要です。

 これもまた、リーダーシップのひとつのあり方だと思います。