2009年1月31日土曜日

良き先輩のいない時代

 「昔のような、良き先輩後輩の関係がなくなったよ。」

 昔、IBM時代に一緒に仕事をしていた友人が、電話越しにそんな話をしていた。彼は、今、IBMの営業所長をしている。「今度ゆっくり話をしよう」と言うことで、電話を切った。

 先日、IBM時代のある先輩営業の訃報を受け取った。

 わたしがまだ入社したばかりの頃だから、もう二十数年前のことだが、彼は、当時30代の後半か40代の前半だっただろうか。小柄ながら恰幅もよく、いつもびしっと髪を分け、エネルギッシュにオフィースの中を闊歩していた。太く張りのある声、自信に満ちた話っぷりが、今でも印象に残っている。直接、仕事をご一緒したことはないが、彼を端で見ながら「すごい人だなぁ」と思っていた。

 IBMは、12月が年度の締めである。当時営業は、ノルマ達成にものすごい執着を持っていた。「ノルマ達成が出来ないことは、恥ずかしいこと」という刷り込みがあり、一年間そのためだけに必死で仕事をしてきたといっても過言ではないくらいだ。

 年度の最後の日は、そんな雰囲気の絶頂にある。何としてでもノルマを達成しようと最後の最後まで契約をかき集めるために、営業は必死に走り回っていた。そして、その受注をインプットする業務担当者達も必死である。決められた時間までに受注データをインプットしなければ、受注は計上されない。もしそんなことにでもなれば、今年一年やってきたことが全て無駄になる。彼らもそのことはよくわかっていて、深夜まで必死で業務をこなしてくれていた。

 我が先輩営業は、そんな彼等を気遣い、年度の最終日の深夜、夜食にとすしを注文し振るまっていた。もちろん、自腹である。かっこいいと思った。すごいなぁとも思った。いずれ自分もあんなかっこいいことをしたいなぁと思ったものである。

 わたしは、研修で科学的でロジカルな営業の仕事の仕方を教えている。わたしが研修でお伝えしている内容は、そんなすばらしい先輩達から学んだことを自分なりに反芻し、整理したモノに過ぎない。

 一見浪花節的で、ロジックのかけらもないように見える彼等の仕事の仕方だったが、そこにはお客様の心理や意志決定の仕組みを熟知した上で、確実に仕事をこなしてゆく知恵が組み込まれていた。改めて考えてみれば、実に要領よく仕事をこなしていたように思う。そんなすばらしい先輩の知恵を当時の新人達は、徒弟制度のような先輩後輩関係の中で、学んできた。

 そんな関係が薄れつつある今、彼等の暗黙知や自分なりに体験した経験知を、形式知として誰にでもわかるように整理し伝えることが、今のわたしの使命なのかもしれないと思っている。

 少々、大げさな表現かも知れないが、良くも悪くもそんな先輩達から多くのことを学んできた。「昔のような、良き先輩後輩の関係がなくなったよ。」という友人の話を聞いて、未だそんな良き先輩になりきれない自分の未熟を恥じ入るばかりである。 

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