2009年1月1日木曜日

営業力の科学:第三章 営業力の本質 (最終章)

 営業であるあなたは、ある製品をお客様にご購入いだこうと売り込みをかけています。

 営業であるあなたは、「この製品は、御社の業務に必要とされるほぼ全ての機能を持ち、カスタマイズ性にも優れていますので、御社の業務手順に容易に合わせることができます。御社の業務の生産性は大幅に高まります。」とお客様に購入の決断を促します。

 これを聞いたお客様は、「うちの会社の業務について、ろくに知らないくせに、なぜ生産性が大幅に上がると言い切れるのだろうか。自分の商品を売りたいために、言っているだけじゃないのか?そんな話は、鵜呑みにできないね。」

 なぜ、こんな会話の行き違いが生じてしまうのでしょう?

 営業の仕事は、ものを売ることではありません。お客様の課題を解決する手段を提供することです。解決できることに期待や確信が持てるからこそ、その手段である製品が売れるのです。

 一般的にお客様の課題には共通性があります。それを頼りに製品は作られます。これは、物作りの視点です。しかし、お客様の視点に立って考えるならば、それは一般論であり、それぞれに違った事情を抱えている自分たちの課題を、そのまま解決できるものではないと考えるでしょう。

 この違いと一般化された製品の性能や機能のギャップを埋め合わせることができなければ、例え製品の機能や性能が他社を凌駕するものであっても、お客様は、何の魅力も感じないでしよう。

 製品の視点とお客様の視点。この両者のギャップを埋めることが、営業の仕事です

 この違いを埋めるために、まず営業は、「なに」を売りたいかではなく、「なぜ」売りたいかを追求することです。

 「何=もの=To Do(こうしたい)」からはじめるのではなく「なぜ=目的=To Be(こうなりたい)」からはじめることが大切です。これについては、第一章の「お客様のウォンツとニーズを見極める」でも紹介させていだきました。

 終着点(To Be)を決めれば、そこに至る手段(To Do)は、様々にあります。その手段のひとつとして、御社の製品がある。しかし、手段(To Do)からはじめてしまえば、お客様に選択肢はなく、その手段が、お客様に最大の価値を提供できるという確証は得られません。

 製品の持つ機能や性能とは、終着点(To Be)を探り出す、議論のきっかけにすぎません。

 「私たちは、お客様は、こんな課題をお持ちではないかと考え、この製品にこのような機能や性能を作り込みました。御社には、同様の課題があるのではないでしょうか?もしあるとすれば、それを解決する方策としお使い頂く価値はあるでしょうか?」

 「なぜ」売りたいかを追求すると言うことは、お客様のTo Beを知り、お客様の受け取る価値を最大化できる手段=ソリューションを見つけ出そうという努力に他なりません。
 
 ものを売りたい「もの売り営業」と、お客様の課題を解決したい「ソリューション営業」の違いは、ここにあるのです。

 この両者の違いを整理してみると次のようになります。

■「もの売り営業」のスタイル
  • 何をもって差別化するのか?製品やサービスの価格、機能、性能のアドバンテージで差別化する。
  • お客様の購入基準は?:お客様は、上記と同じ視点で製品やサービスの購入を判断する。
  • お客様の営業への期待は?:営業には、良い条件を提示してくれることを期待する。

■「ソリューション営業」のスタイル
  • 何をもって差別化するのか?:お客様が享受する価値を最大化できる方策を提示し、それで差別化する。
  • お客様の購入基準は?:お客様は、自らが享受できる価値が最大かどうかで判断する。
  • お客様の営業への期待は?:営業には、価値を最大化できる方策を一緒に考えてくれる相談相手となってくれることを期待する。

 「営業力」は、「なぜ」を追求する力です。お客様の「なぜ=To Be」を追求することができれば、お客様にとって最も魅力を感じて頂けるもの、すなわち「最大の価値を享受できる方法」を見つけ出すことができるのです。それができれば、売り込まなくても、お客様から「ぜひそれを売ってください」と求められるのです。

「営業力」=「お客様の価値を最大化できる手段を提供できる力」

 この等式を個人として、組織として、強化、定着させること。「営業力の科学」で書かせていだいたことは、その手段のごくごく大まかなところに過ぎません。
 具体的なテクニックや実践ノウハウを文章だけでお伝えしきれないことは残念ですが、賢明な皆様にとって、幾ばくかのヒントになればと願っています。

 5回に渡って書かせて頂いた「営業力の科学」については、これで一旦終了とさせて頂きます。よろしければ、皆様のご意見やご感想など、コメントとし頂戴できれば幸いです。

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