その理由については、いろいろな方がコメントされていますが、わたしは、「アカウント営業」の弱体化が大きな要因ではないかと思っています。
日本IBMは、かつて「アカウント営業」つまり、「担当のお客様を決め、そのお客様からの売上げに全責任持つ営業」が、営業活動のイニシアティブを取っていました。
その後、米国流に、個々の製品やソリューションの売上げに責任を持つ複数の「ソリューション営業」が、ひとつのお客様をチームとして担当するマトリックス営業体制へと移行してゆきました。この背景には、複雑化、多様化するソリューションを一人の営業が把握し、売り込むことは難しく、その都度必要に応じてチームを組んで営業活動に当たらせる方が、これからの時代にマッチしているとの判断があったからです。
しかし、その結果として、アカウント・レスポシスビリティが、失われてしまいました。ここに最大の原因があったのではないかと考えています。
ここであえて「レスポンシビリティ」と言う言葉を使ったのには、意味があります。この単語は、「レスポンス=応答、反応」と「アビリティー=能力、技能」という2つの単語の組み合わせです。この言葉には、「自分の意志でどう応答するかを判断し行動する能力」という含意があります。つまり、単なる「責任」という意味以上に、主体的、あるいは自律的な行動を含む「自主的な判断に基づく実行責任」という、積極的な意味合いを持っことばなのです。
つまり、アカウント・レスポシスビリティとは、自分の担当するお客様にかかわるビジネスについて、一切の責任を持つこと、つまり、与えられた営業目標を達成するための戦略やアクションプラン、体制の構築、トラブルへの対処など、「お客様担当ビジネス・プロデューサー」としての責任を負うことを意味しています。
かつてわたしもそんなアカウント営業のひとりだったわけですが、その責任の重さと共に、仕事へのプライドを持っていました。そんなモチベーションの高さが、日本IBMの営業を支えていたように思います。
また、このような営業スタイルは、日本のお客様にもマッチするものでした。というのも、日本のお客様の多くは、ソリューション・ベンダーにシステム戦略の立案やその後のインテグレーションを期待し、そのコーディネーターとしての役割を営業に期待しているからです。
米国では、このあたりの責任は、お客様が担うのが当然であり、そのために大規模な情報システム部門を擁している企業もすくなくありません。そういうビジネス・カルチャーの中では、むしろソリューションや製品に特化した専門営業部隊の方が都合が良く、コーディネーターの役割など期待していないのです。
このようなビジネス・カルチャーのギャップがあるにもかかわらず、米国流の営業スタイルを持ち込んでしまったことに、問題があったのではないかと考えています。
「アカウント営業」を主体とした営業組織とするのか、それとも「ソリューション営業」を主体とするのか、この議論は、つねに繰り返されています。もちろん、自分たちが取り扱う商品やその時々の景気や市場の趨勢で判断すべき事ではありますが、少なくとも今は「アカウント営業」の時代だと、わたしは思っています。
今日のニュースで、今年の日本の経済成長率は、マイナス2.6%との予測をIMFが発表していました。その実態はともかくとしても、このような報道などのあおりを受けて、お客様が財布のひもを締め始めていることは、営業である皆さんは、実感されているのではないでしょうか。
こういうモノが売れない時代、お客様の立場に立てば、モノを買いたくない時代に、いくらモノのアドバンテージを喧伝しても、そもそもお客様に買う気がないわけですから、売れるはずがありません。
お客様は、このような状況の中で、情報システム部門としてどのような戦略を立てて対応すべきか、あるいは、どのような経営を行うべきかを模索し、その解決策を求めているのではないでしょうか。
このようなときこそ、アカウント営業の出番です。ITの総合プロデューサーとして、お客様と一緒になって、お客様の課題を整理し、その解決策の立案に責任を持つ。そんな営業としての役割をお客様は期待されているのではないかと思います。
このようなお客様の期待は、SMB(小規模、中堅のお客様)ほど大きいのではないかと思います。このようなお客様の期待に応えることが出来ることが、この時代を生き抜くすべではないかと思います。
ソリューション営業とは、「商品がない」からスタートする営業活動です。これについては、いままでブログで何度も申し上げてきたことです。今の時代は、まさにこちらかのお仕着せで「売れる商品」はありません。だから、お客様の課題に耳を傾け、お客様と一緒に商品を作り上げてゆく。そんなプロデューサーの役割を担う「アカウント営業」が求められているのです。
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