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以前、ある大学の産学連携担当者から、企業への技術移転について相談を受けた。
この大学は、地方の医科大学で、先進的な医療技術の研究では定評がある。彼は、まず自分たちのとり組む研究内容内容の一覧表を示し、それぞれの研究成果やこの大学が持っている特許について話を始めた。
確かに興味深い研究テーマではある。しかし、今ひとつピンとこない。もちろん、私が医学の門外漢であることもそうだが、結局彼が話していることは、自分たちの技術が、どれほど先進的で優れているかといった自慢話であり、これが実用の現場で、どのように役立つかといった話はほとんどない。
「すごくいいものです。だから買ってください。その使い方は、お金を出す側で考えてください。」と私には聞こえた。これでは、売れるはずはずがない。
シーズ(Seeds:素材)はあるが、ニーズ(Needs:使い方)は、自分にはよくわからないといっているようなものである。それでは、産学連携にはならないだろうと思った。
大学の研究とは、研究者の興味や関心、あるいは、思い込みが原点だ。実用になるかどうかなど、そもそも考えてはいない。だからこそ、思いもよなない、画期的な成果が生まれることもある。これが、シーズになる。
一方、実用や応用は、企業の役割だろう。優れた研究成果を、どうすれば、ビジネスにできるかを考える。彼らは、企業として競合優位を確保するための新しい製品やサービスのあるべき姿を描く。目標の設定だ。その目標達成に向けて、研究開発を行う。しかし、どうしても越えられない壁がある。ブレークスルーしなければ、新製品は生まれない。新たな知見や研究成果を取り入れ、この問題を解決したい。そこにニーズが生まれる。
産学連携部門の役割は、こんな両者のギャップを埋め、ニーズとシーズを結びつける橋渡しを行うことにある。
しかし、この大学の場合のように、彼らは、大学の立場にとどまり、シーズ一覧表を作るだけで、ニーズとシーズのマッチングは、お金を出す企業側に任せているところも少なくない。
「売り込む」ということと、「ほら、こんなにいいものがたくさんありますよ」と説明して回ることとは、同じではない。売り込みは、企業側のニーズを引き出すことからはじめなければ、成果は望めない。
「私たちの抱えている課題は、これなんです。何とか解決してもらえないでしょうか?」と企業側に言わせる。それならばと、ふさわしい研究者を探し、その解決策をについて、検討を始める。そんな売込み活動をするのが、産学連携担当者の役割といえるだろう。
来訪された産学連携の担当者に、こんな話しをさせていただいた。学内の研究成果の一覧を作るだけではなく、企業からのニーズを身近に聞ける企業と大学の定例会議を開催してはどうか。また、コーディネーター役を決めて企業に出向き、シーズの話だけをするのではなく、ニーズの聞き取りを進めてみてはいかがでしょうかと提案した。その成果が、これから出てくることを期待したい。
この話、ソリューション営業の仕事と、なにもかわりません。
お客様のニーズを起点にする。どんなにすばらしいシーズがあっても、そこに必要とする人がいなければ、ビジネスにはならない。当たり前のことのようですが、シーズばかりを語り、うまく説明できたと満足。その一方で、お客様のニーズを探る努力を忘れてしまっている。そんな営業も少なくないようです。
あらためて、営業としての自分の姿勢を考えてみる機会となりました。
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