2009年3月13日金曜日

他人の作った業務モデルを受け入れること / パッケージソフトウェア導入の勘所

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 「パッケージ・ソフトウェアでコスト削減!」

 そんな営業トークをよく耳にします。本当にそうなのでしょうか。

 今回は、このパッケージ・ソフトウェアについて、それを購入するお客さまの立場から、考慮すべき点を考えてみようと思います。

 パッケージ・ソフトウェアを購入する目的は、時間と他人のノウハウを買うことです。
 
 以前、コールセンター向けに開発された電子メール管理システムの製品企画やマーケティング、営業の仕事をしていたことがあります。

 このシステムは、お客さまから、WEBのフォームや電子メールでのお問い合わせを、その意味や内容、キーワードなどで自動分類し、対応する担当者へ回答文言の候補を付けて提示するというものです。
 また、お客さま毎の受信、返信の履歴を管理し、過去のお問い合わせやその回答もすぐに引き出すことができるというもので、応対の品質やスピードを大きく向上させることが出来るものでした。

 それまでは、アウトルックなどの個人用の電子メールで対応することが一般的でした。しかし、履歴が共有できず、回答も個人に依存していたことから、品質にもばらつきがありました。各社ともメールでのお問い合わせが増大しつつある中、このような製品への需要が高まっていたのです。

 しかし、コールセンターで電子メールに対応することについては、まだ十分なノウハウの蓄積が無く、多くのコールセンターが、どのようにすればいいのか、試行錯誤の状況でした。

 このパッケージも最初は試行錯誤でしたが、電子メール対応への取り組みに熱心な、大手のコンピューター・メーカーやネットバンクにご採用いただき、私たちもお客さまと一緒にノウハウを蓄積し、それが製品へ、どんどん反映されてゆきました。

 日本で企画し、開発した製品と言うこともあり、また、センスのいいエンジニアを開発に投入し事もあって、画面構成や機能の詳細にわたり、よく作り込まれ、完成度はどんどんとあがっていったのです。

 スピードが命のネット・ビジネス。しかも新しい分野だけに、多くの企業にノウハウがありません。まさにパッケージ・ソフトウェアを利用する条件が整っていたわけです。

 しかし、使い始めてみると、その取り組みの違いにより、その効果の明暗が分かれ始めたのです。それは、パッケージ・ソフトウェアをうまく利用する上での条件を理解する上で、大変参考になります。

 効果を上げ、業務に不可欠なツールとなった企業には、以下の3つの条件が、揃っていました。
  1. 業務プロセスをパッケージにあわせる
  2. パッケージをカスタマイズしない
  3. 専任担当者を置き、コンテンツやルールの整備を責任を持って行う
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1.業務プロセスをパッケージにあわせる
 パッケージ・ソフトウエアは、なんらかの業務モデルを前提として開発されています。従って、その業務モデルと大きく異なる業務を行おうとすると、当然そこに齟齬が生じます。「使い勝手が悪い」、「こんなものは、使えない」などという批判の多くは、製品そのものが悪いのではなく、製品が前提としている業務モデルと自分たちのそれとの違いから生じるものなのです。

 従って、パッケージ・ソフトウェアを使うと言うことは、その業務モデルを受け入れ、自社の業務をそれにあわせることを覚悟しなければなりません。多少の違いは、運用で工夫できるかもしれません。しかし、頑なに今までのやり方にこだわるならば、パッケージの導入は失敗します。

 ある失敗した企業は、不幸(?)にも、独自に電子メール対応の仕組みを自分たちで作り、その開発者が業務にも関わっていました。なかなかそのしがらみから逃れることが出来なかったのです。そのため、使い勝手が悪いと言うことになり、なかなか現場に定着しなかったのです。
 
2.パッケージをカスタマイズしない
 カスタマイズとチューニングの違いを理解しておくことが必要です。カスタマイズとは、プログラムコードの変更を伴う修正です。一方、チューニングは、パラメーター設定の変更による調整です。うまく使っている企業は、チューニングは行っても、カスタマイズは行わないようにしていました。また、付帯する機能や他のシステムの連携は、APIや運用、例えば、メールの内容を社内のノウハウ・データベースに登録するとき、カットアンド・ペーストで行うなどの工夫をして、対応していました。

 機能の追加や修正については、当然現場からも要求があがります。しかし、トラブルは別として、基本的には、それを要望としてまとめ、バージョンアップでの対応を待つという方針を貫きました。このようにすれば、個別に開発コストを負担する必要はなく、品質保証もメーカー側が責任を持ってくれます。

 このような対応により、自社だけではなく、他社のノウハウを含めて、バージョンアップで手に入れる選択をしたのです。多少の不便はありましたが、運用で逃げることはできます。このような対応を選択した企業は、その後も確実にバージョンアップの恩恵を享受し続けたのです。

 逆に、積極的にカスタマイズで自社の最適化を追求したところは、長続きしませんでした。この企業は、個々の機能については、高く評価していたのですが、自前のシステムとの連携を優先するため、現行のシステムのサブシステムとしてこのパッケージを動かすことを選択したのです。

 結局、大幅なカスタマイズにより、その後のパージョンアップには追従できず、必要な新しい機能については個別開発ということで、高いコストを支払うことになったのです。多分そのシステムは、今でも動いていると思うのですが、機能の拡張にはついて行けず、古いバージョンのまま塩漬けになっているのではないでしょうか。

3.専任担当者を置き、コンテンツやルールの整備を責任を持って行う
 このシステムの特徴は、お客さまのお問い合わせの内容に合わせて、ふさわしいと思われる回答候補をシステムが自動的に複数選択し、その内容を担当するエージェントにメールを振り分けることができます。

 従って、内容を仕分けするルールの設定や回答候補の整備が、運用品質を上げる上で大きな鍵を担っています。そこに優秀な人材を専任として担当させたところは、大きな成果をかげました。

 ナレッジマネージャー、ナレッジスペシャリストといわれる担当者です。「優秀な人材を現場から引き抜くと業務に支障が出るのでは」と心配される向きも多いのですが、ルールやコンテンツが充実すれば、それ以上に効率や応対品質が改善します。上層部が、そんな人材を抜擢できれば、効果は絶大です。

 残念ながら、業務の片手間、みんなで一緒に・・・では、コンテンツの充実やルールの整備は進みません。せっかくのシステムキッチンでも食材が半分腐りかけていれば、おいしい料理など出来るはずはありません。そんなところは、ことごとく失敗しています。

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 「電子メール対応システム」の一例ですが、パッケージを導入する際の勘所がおわかり頂けるのではないでしょうか。

 パッケージを導入すると言うことは、他人の作った業務モデルを受け入れることです。それに自社の業務をあわせる覚悟が無ければ、自ら作り上げた方が賢明かも知れません。

 両極端に考えることはないにしても、パッケージ・ソフトウェアの特質をよく理解した上で購入しなければ、結果として、とても高価な買い物をすることになりかねませんので、ご注意下さい。

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