2008年9月3日水曜日

情報を隠す上司の愚

 人に仕事を任せることは、簡単なことではありません。

 先日こんなことがありました。あるITベンダーの営業部長が、2週間ほど前の営業会議で、自分の部下に「この案件については、君に任せる。頼むよ!」と権限委譲。彼も張り切って、「分かりました!頑張ります。」とニコニコしながら意欲をみなぎらせていました。

 そして、先日、再び営業会議に同席したところ、こんな会話のやり取りがありました。

営業部長:「注文手続き、まだ進んでいないようだけれどもどうなっているの?」
担当営業:「A部長に話をしたのですが、社内の手続きがまだなので、あと2、3日待ってくれないかとのことでした。」
営業部長:「この間、この件で設備工事を請け負っているM社の営業課長と別件で話をしたとき決裁がのびているので、まだ2~3週間かがかかるらしいと聞いたよ。(強い口調で、感情的に)なぜ、君は、そんな話も知らないんだね。君の話とは矛盾するじゃないか。」

 みなさん、どう思われますか?

 私は、即座にその部長に申し上げました。

 「部長、それはないでしょう。もし、そんな情報が入っていたなら、なぜ彼にすぐに知らせないのですか?彼に任せたのなら、彼に処理させるべきです。今になってそんなことを言うのはおかしいですよ。」

 営業部長は、ムッとしていましたが、これでは任された営業部員は意欲を失います。同時にこの営業部長は、この発言で自らの信頼も大きく損ねてしまったのです。

 営業部長にしてみれば、叱咤激励のつもりだったのかもしれません。しかし、少し意地悪に考えるならば、他の部下の手前、自分の方が営業として、その情報収集能力が優れていることを見せたかったのかもしれません。

 どちらにしても、この営業部長は、権限委譲のなんたるかを理解していなかったことは確かなようです。

 部下に仕事を任せるとは、自分がやるべき仕事を切り出し、部下に委ねることです。しかし、失敗は自分が引き受けることを自覚しなければなりません。

 部下は仕事を任されたことを誇りに思い、やり遂げようと努力します。任された仕事が、彼の能力や経験を越えているからこそ、やり遂げてみせるという意欲が生まれるのです。日常こなせる仕事を任されるのでは、仕事を押しつけられた、また仕事が増えたと感じるだけですから、彼にとっては、なんら成長の機会とはなりません。

 しかし、一方では、不安もあります。「失敗したらどうしよう・・・」と。だからこそ、失敗の責任は自分にあることを任せた側は明確に伝え、一緒になって成功することを望まなければ、彼の成長のチャンスを奪うことになるのです。

 結果から言えば、この営業部長は、彼に情報を隠したのです。そして、自分の持っている情報を武器に優位に立とうとしたのです。そして、その目論見は見事に成功しました。その後、担当営業君曰く「だったら、俺になんか任せずに自分でやればいいんですよ。」とぼやいているのを聞きました。

 権限委譲をするときに決してやってはいけないことがあります。
 1.情報を隠すこと。
 2.ベテラン(できそうな人)にばかり任せること。
 3.任される人を募集すること。

 権限委譲とは、単なる負荷の分散ではありません。責任を負わせ、意欲を高め、成長の機会を与えることです。マネージメントの大切なミッションです。

 改めて、そのことを考えさせられました。

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