2008年8月29日金曜日

ケーススタディ(1) 回答

 ケース・スタディへのご回答、有り難うございました。また、回答が遅くなってすみません。

 さて、では回答といきましょうか・・・とかなんとか言っていますが、実は、ケース・スタディを書き上げた本人も、どう回答すればいいのやら、正直なところ本当に難しいと感じています。 このような状況は、身近にあります。そして、実に重たく切実な内容です。絶対の正解はありませんが、私なりの考えを回答として書かせて頂きます。

問題1:あなたならこの状況にどのように対応しますか?自分なりの対処方法を考えてみてください。

 このような状況になってしまった以上、30%削減の要望に抵抗しても、むしろお客様の心証を悪くするだけです。「承知しました!」とまずはお答えし、潔く「我が社としては、大変厳しいご要望ではありますが、ご依頼に応えられるよう30%削減した場合の仕事の進め方について、提案をさせて頂きます。」と、まずは応える方が賢明です。

 お客様もあなたの会社にどれだけ依存しているかを知らないわけではありませんし、コスト削減があなたの会社にインパクトがあることくらいは想像がつきます。そのような状況の中で、あなたが何の抵抗も示さず承諾することで、お客様には少なからず「申し訳ない」という気持ちを起こさせることができるでしょう。お客様をこのような心理状態に持ち込んでおくことは、今後の交渉を進める上では有利です。

 次に、費用を30%削減した際の工数や体制を厳密に見積もり、提示することです。現状でも、残業をしなければならないほどに仕事があるわけですから、たぶん現場は大変苦労することになります。その事実を現状の労働時間や作業時間のデータと共に客観的な事実として説明し、30%削減をそのまま受け入れると、業務に重大な支障を来すことになることを、感情を交えず、実証し説明することが必要です。
 また、合わせて、みなさんの会社がこの会社の業務に長年関わり、その経験で会得した現場でのノウハウや特殊事情について、容易に代替が利かないことをできるだけ客観的に説明すべきです。

 しかし、これだけならば、「30%削減したら仕事ができなくなりますよ!」という脅しに過ぎません。これでは、喧嘩になってしまいます。
 そこで、「従って、今のやり方のままでコスト削減に対応するだけでは、大変なことになります。いかがでしょうか、どうしたらもっと効率を上げることができるか、ご一緒に検討を始めませんか?」と提案してみてはどうでしょう。コスト削減プロジェクトをはじめるのです。

 そのような提案を行うことで、一律削減要求に一定の猶予期間を作ることができるかもしれません。お客様にしてみても、無理をお願いしているという引け目は多少なりともあるでしょうし、「効率を上げる」ための取り組みを自ら行ってこなかったことは、彼らの責任でもあります。その当たりのお客様の気持ちをうまくくみ取って、対応すべきです。

 一方で、あなたの会社も無傷ではいられません。それは覚悟すべきでしょう。どうすれば無駄をなくせるか、コストを削れるかを十分に検討し、この間に利益率を少しでも高められる方法を模索しなければなりません。そのような検討を踏まえて、現状を改善し、コストを削減できる新たな施策を提案すること。それをたたき台としてお客様との議論を深めてゆくべきです。結果として、削減幅を小さくできるかもしれませんし、効率化のための新たなシステム提案ができるかもしれません。転んでもただで起きてはダメです。

 このように単に「言われた数字に反応する」のではなく、業務の本質を見るための行動をお客様と一緒に起こす。つまり、お客様にとって最も妥当な対応策を一緒に探り出すこと。それこそが、お客様がみなさんへの信頼を深めることになります。改めて、みなさんなしでは仕事ができないという信頼を勝ち取るチャンスでもあります。そうすれば、競合他社の入り込む余地はなくなります。

 また、現在行っている残業についても「無償サービス」ではなく、有償であることを改めて確認しておく必要があります。「効率化」という美名の実は、時にして残業へのしわ寄せとなります。それが請求できないとなるとコストはかさむばかりです。また、本当の意味での効率化、コスト削減にはつながりません。

 事実に基づき、業務の本質に迫り、一緒になって最善策を探る。このような態度を通じて、お客様の信頼関係をさらに深めると共に、売上の減少を最小限に抑え利益の確保を目指すべきではないかと思います。さらには、新たなビジネス・チャンスを掴むことができるかもしれません。

問題2:もし過去に戻ることができるとすれば、あなたはこのような事態になる前に、どのような対応をしておくべきだったと思いますか。

このような事態の変化は、突然起こるものではありません。お客様の業務やその周辺を取り巻く事業環境の変化は、かなり前からあったはずです。そのような変化の予兆を見いだしていなかったことは、営業として問題です。
 また、お客様との信頼関係にあぐらをかき、改善への努力を十分に行ってこなかったことも考えられます。

 システム運用業務は、一般的にユニークネスを出しにくく、人月単価で比較されやすいものです。文書化しにくい現場ノウハウは確かにあります。しかし、一定の重複期間があれば、移管は容易であり、絶対的な参入障壁にはなりません。しかし、往々にして、委託されているという既成事実があたかも永遠に続くかのような思いこみをして、その事実にあぐらをかいてしまうことがあります。厳に慎まなければなりません。

 みなさんのコメントにありましたが、不断の改善努力を怠らず、課題を見つけ、運用委託業務にとどまらず、いろいろな提案をして、お客様に対するイニシアティブをとり続けることが必要です。そのような状況になれば、本当の意味であなたの会社は、なくてはならない存在になるはずです。

 また、運用業務を通して、いろいろなお客様の内部の情報や課題は見えてくるはずです。これをきっかけとして、運用にとどまらず新たなプロジェクト提案を仕掛け、お客様におけるあなたの会社の役割や社内シェアを拡大することを心掛けるべきだったでしょう。そうすれば、ビジネス・リスクを分散できたはずです。

 先読み力のなさ。お客様を深掘りという態度。その欠如が、今回の事態を一層深刻なものにしているように見受けられます。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

先のコメント名は正しくはEugene Asiaです。Augeneではありません。こんにちは。
一つAdditional のコメント。私のいる金融業界では少数の顧客に売上が集中していると、これも一つのリスク要因として見ます。もしケーススタディの会社が売上のかなりの部分をこの顧客に依存してるとなると、ビジネスリスクの観点からも、常日頃から新しい顧客を増やす必要があります。

斎藤昌義 Saito,Masanori さんのコメント...

Eugene Asiaさん お名前失礼致しました。
さて、いつもコメント有り難うございます。ご指摘の通りお客様の分散、いうなればお客様のポートフォリオと言うことになるのでしょうか、やはりIT業界でもリスク分散は心掛けなければなりません。また、回答にも書かせて頂いたのですが、顧客内の予算を持つ部門を分散すること、これをお客様の深掘りというわけてすが、それもまた必要なことだと思っています。

どちらにしても、パイを広げることは、リスクヘッジにもなり、シナジーを活かしたビジネスの拡大にもなります。