2011年11月26日土曜日

これからのクラウド・ビジネスを考える3つのビジネス・モデル


「うちもそろそろクラウドビジネスに真剣に取り組まないとなぁ。どうすればいいだうろう・・・」

ある中堅SI事業者の社長からこんな相談をいただきました。この会社の現場では、未だ「クラウド=Force.comでの受託開発」という刷り込み(?)があるようです。まあ、クラウドという言葉に関わる仕事はこれしかしていないわけで、それも無理からぬことかとも思います。

この会社は、受託開発や派遣などの仕事が多く、請負開発もありますが実態はお客様の予算に合わせるための形式的なもので、技術の独自性や専門性を求められるものは必ずしも多くはないという状況です。

定められた仕様に忠実であり、バクもなくダウンしない品質を求められ、その工数に対して対価をもらう。いわば製造業型のビジネスです。このビジネス・モデルにおいては、彼らの仕事は高く評価されるものです。

しかし、クラウド・ビジネスはこの常識を大きく変えてしまうことになります。クラウド・ビジネスの本質は、サービス業です。開発と運用は一体であり納期はなく、この組み合わせ作業が継続されることになります。また「納品物」に対する一時的な収益は期待できません。単価が安く、大量の顧客を前提とした長期継続的な収益を前提にしなければなりません。工数をかけたからといって、その対価は期待できません。魅力的な機能や使いやすさが対価をきめることになります。

この両者の違いについては、先週のブログに詳細を書きましたので、よろしければご参照ください。

さて、受託請負を主体とした事業形態からこのようなクラウド型のビジネスへ一気に移行することは容易なことではありません。しかし、先週のブログでも記載の通り、お客様のデマンドは明らかにクラウド型を志向しています。この流れはもはや戻すことはできません。ならば、この流れにうまく乗って行かなければ生き残れないことになります。

ではどうすればいいのでしょうか。その選択肢を3つのタイプに分けて考えてみました。



まずひとつは、クラウド・プロバイダーです。GoogleやSalesforce.comなどがこれに当たります。自分たちが所有するシステム資源や独自のサービスをネットワークを介して低廉に提供するビジネス・モデルです。このタイプは、お客様に優れた機能や性能を低価格で提供しなければなりません。そのため大きな初期投資によりサービスを充実させスケールメリットで広範なお客様を獲得することが必要となります。

次は、クラウド・アダプターです。アプレッソのdataspiderやISRのcloud Gateなどはこの一例といえます。クラウド・プロバイダーのサービスはコストパフォーマンスにおいて大きな魅力ですが、その見返りとして独自の標準化に対応することが求められます。また、インターネットの介在、マルチテナントなどが前提となりセキュリティへの不安も払拭できません。このようなプロバイダーの提供するサービスの課題を補完し、これに共生する形でビジネスを展開するというものです。従って、このような機能を持つ製品やサービスを開発しなければなりませんから、ある程度の初期投資は覚悟する必要があるでしょう。

最後は、クラウド・インテグレーターです。これは様々なクラウド・サービス(プロバイダーやアダプター)をお客様の個別のニーズに対応して組み合わせ、お客様個別専用のサービスとして提供するものです。従来のSI事業者が行っているオンプレミスの商材を組み合わせたシステム・インテグレーションをクラウド・サービスの商材に置き換えたものと考えてもいいでしょう。このようなビジネスでは大きな初期投資は不要です。しかし、WebアプリケーションやWebサービスを前提とすることになりますので、そのような技術に対応できる能力と様々なサービスの目利き能力や最適な組み合わせを作り上げるプロデューサーとしての能力が必要となります。

もうひとつ、この3類型に共通するものとして、24時間365日の運用基盤は強力な武器になるでしょう。すでに申し上げたとおり、クラウド=サービス型のビジネスは開発と運用が継続時にかつ一体で進行します。開発と運用が一体で行われるとなれば、その両者に対応できる事業者は優位です。また、スマートフォンの普及は24・365の常時接続ユーザーが当たり前になりますから、それに対応できることはさらに強みとなるはずです。

どのビジネス・モデルがいいかと言うことについては、それぞれのSI事業者が置かれている状況によって異なります。ただ、クラウド・ビジネスを漠然と眺めてみても、なかなか答えを見いだせないのも事実でしょう。

これからの事業戦略を考える上で、ひとつの整理の仕方として参考としていだければ幸いです。

■ 日経コンピューター主催[ソリューションビジネス道場]が開講します ■

12月9日と15日の2日間、講師を務めさせていだきます。上記のような話題も含め、ITのトレンドやビジネス環境を整理し、これからどのような取り組みが必要かを考えてみようと思います。

また、先週のブログでも紹介させていだきましたが、これからのIT営業に期待される役割や機能は大きく変わってきます。どのようにして、このような時代の変化に対応して行けばいいのかを、その実践ノウハウを交えながら解説させていだきます。

対象者は、これからのソリューション・ビジネスに関わる皆さんです。経営者、技術者、マーケティング、営業などの皆さんにお役に立つように考えています。

なお、このブログに掲載させていただいたようなトレンドに関するチャート(百数十枚)もパワーポイントのソフトコピーで差し上げます。是非皆さんの営業活動にご活用ください。

11月30日(水)までのお申し込みには割引もあるようです。詳しくはこちらをご覧ください。



Facebookで、コミュニティ・ページを開設しています。このブログに掲載したチャート以外にもいろいろと掲載しています。

よろしければ、あわせてご覧ください。

2011年11月19日土曜日

営業はリストラの最優先対象者


営業であるあなたたちは、リストラの最優先対象者です。

先日のSI営業に向けた研修でこんな話しをさせていただきました。これはなにも脅しでもはったりでもありません。もはや営業という仕事のあり方が変わろうとしているのです。それに対応できないようでは営業として役にたたなくなるという至極当たり前の話しをさせていだいただけのことです。

下の図をご覧ください。これは、SIビジネス=製造業型ビジネスとクラウド=サービス型ビジネスの違いを整理したものです。



SIビジネスでは初期段階での大きな収益を見込みます。人的負荷は初期段階に集中し、あとは負荷の比較的少ない保守・運用フェーズへと移行します。そのため安定して雇用を維持することにはリスクが伴いますから、企画・設計、開発、運用は協業を前提とした垂直分業型のスキームで成り立っています。俗に言われるゼネコン型のスキームです。また、初期段階でのかっちりとした要件定義を行い、徹底した作り込みによりバグを排除し、高い品質を実現しなくてはなりません。これは、ウォーターフォール型の開発に適しているといえるでしょう。

これに対してクラウド型のサービス・ビジネスでは、短期的な収益は期待できません。中長期的な収益を前提としたビジネス・モデルを考える必要があります。また、開発と運用は同時一体で進行し、常に機能や性能の改善が求められます。またバグがあればすぐに直す、システム障害があれば直ちに復旧できる体制を持つことが重要となります。言うなれば、いつまでも完成しない状態が続くことになります。このような継続的な開発と運用は、企画・設計、開発、運用をサービス提供者が一貫して行う垂直統合型のスキームが前提となり、人材の安定的確保が必要となります。これはアジャイル型の開発に適しているといえるでしょう。

このようなクラウド・サービスのニーズは高まりつつあります。その背景には、TCO負担が情報システム部門の全予算の7割を絞めるまでに肥大化してしまったことに加え、IT予算の緊縮傾向が続いていることが上げられます。日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向調査2011」によると、売上高に占めるIT予算比率は2000年度の2.66%から2010年度の1.18%へと、この10年間で56%低下しています。

つまり、初期投資を減らし資産を圧縮するとともに、TCOの削減をすることは企業にとっては喫緊の課題となっており、この解決策としてクラウド・サービスへの期待が高まっているのです。

それはとりもなおさず、これまでのSIビジネスを前提とした収益モデルからの転換を求められることになります。これは単に営業戦略の転換で済まされる問題ではありません。事業構造そのものの転換であり、経営の問題でもあります。

さて、このような新しいビジネス・モデルで、どのようにお客様との関係を築き、収益を確保してゆけばいいのでしょうか。

まず考えられることは、これまでのように「個客」を相手にした営業だけでは、今後のビジネス形態に対応することは難しくなると言うことです。

一時的な案件単価は大幅に減少し、長期的な視点での収益確保を前提とする必要があります。そうなると、これまで同様に多大な時間と労力を掛けてひとつの案件を獲得するというのでは、成り立たなくなるでしょう。

従来型のSIビジネスでは、営業の人件費は埋没して見えなくなっています。しかし、クラウド・サービスでは案件単価が下がりますからその費用は顕在化してくるでしょう。また、仕事のやり方も営業個人に依存した営業活動ではなく、従来とは比べものにならない数の顧客ベースを獲得するために仕組みで売る体制を整え、生産性を高めて行かなければなりません。

また、インフラやプラットフォームが隠蔽化されます。そのため、これまでのように製品の機能や性能、技術力、人材調達能力などが武器としては使えなくなります。

SaaSをお客様に売り込むことを考えてください。「IT基盤」は隠蔽化され空気のような存在になりますから、「IT基盤」が一定の水準を満たしていることは前提となり、それを差別化の要因として持ち出すことは難しくなるでしょう。より上流の「業務」に直接関わる力が必要になります。

例えば、販売情報管理サービスの場合、お客様は自分達の販売業務にこのサービスがどれほどうまく適合するかを評価の指標とされるでしょう。あなたは、営業として「販売業務」を熟知し、自分たちの提供するサービスとお客様の業務との適合性を説明することや、お客様に業務流れを変えてもらう提案をしなくてはなりません。

会計サービスなら、もはやIT基盤を云々する必要は無いわけですから、会計の実務に長けた会計士や税理士のほうが営業としてふさわしいかもしれません。このような営業チャネルの組み替えも考えなくてはならないでしょう。

また、サービスはネットワーク越しに提供されるわけですから、その変更も容易です。そのため機能改善や向上、お客様との信頼関係の維持は、これまで以上に長期継続的に行うことが必要となります。

このような営業環境の変化に対応して、求められる営業としての知識やスキルも変化するのは当然のことです。

このような変化はテクノロジーの革新がもたらすものです。しかし、お客様は、そのテクノロジーを購入したいのではありません。テクノロジーの革新によってもたらされるビジネスの革新を手に入れたいのです。

テクノロジーの進化は、テクノロジーそのものをコモディティ化/隠蔽化する方向に向かっています。当然、お客様はその上で動く、ビジネス・ロジックや仕組みの評価に重点を移すことになるでしょう。そこに応えることができる力が、これからの営業には求められているのです。




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2011年11月12日土曜日

相談される営業になるための条件: 3年後の常識に触れる好奇心


「スマホを持っていない方、いらっしゃいますか?」

IT営業を対象とする研修で、こんな質問をしてみました。なんと30人中10人ほどの人が手を上げました。私は、こんな話しをさせていただきました。

「IT営業でありながらスマホも持っていないなんて、とてもはずかしいことだと思いませんか。そうですね、この状態をわかりやすく申し上げれば、銀座の目抜き通をスッポンポンで歩いている・・・そんな状態を想像してください。それほど恥ずかしいことなんですよ(笑)」

今年、PCの世界での出荷台数は3億5千万台程度と予想されていますが、スマートフォンは4億台を越え、タブレットとともにその伸び率はPCを遥かにしのぐ勢いです。

「タブレット販売台数の増加に伴い、タブレットを使用するユーザーの数も当然増加することが予測される。・・・中略・・・2015年までに米国内だけで8210万人がタブレットを使用するとForresterは予測している。」 

PCがスマホやタブレットに全て置き換わるとは思いません。しかし、これだけスマホやタブレットが当たり前になるとすれば、企業システムも無視できなくなるでしょう。それは、その使い勝手の良さにあります。企業に勤める人はひとりの消費者でもあります。かれらは当然のこととしてこのように思うでしょう。

「なぜ、うちの社内システムはこんなに使いにくいんだろう」。

その世論はこれまで以上に高まることは間違えありません。となると、情報システム部門もその声を無視することはできなくなるはずです。

IT営業の仕事は、お客様の3年後に責任を持たなければなりません。私達はお客様のこれからの投資に責任を持ち、3年後のシステムのあるべき姿を提案しなくてはなりません。その責任を担う営業が、3年後の常識に触れること無く、この感性を持ち合わせていないとすればどうでしょう。これは怠慢としかいいようがありません。営業としてのプライドの欠如と言い換えてもいいくらいです。自動車免許も持たず運転もできない自動車会社の営業から車を買おうなんて思わないのと同じ話です。

SNSについては、社員が実名で発信することに未だ懸念を示す声も少なくありません。しかし、米国でインターネットを利用できる人の96%がFacebookのアカウントを持ち利用しています。世界で8億人の会員がいて1日に5億人が利用しているという現実。確かにリスクはありますが、それ以上に大きな可能性があると感じるのは当然のことでしょう。そんなFacebookを多くの企業が重要な顧客接点として、その活用を模索しています。「リスクがあるからビジネスに使うにはちょっと・・・」という気持ちもわかりますが、リスクのないところにイノベーションが生まれるとも思いません。

日本の会員数は未だ500万人程度です。しかし、確実に、そして急速に人口を増やしています。それが直ちにビジネスに結びつくかどうかは別としても、その可能性は無視できないでしょう。実際に使ってみればわかることですが、Facebookはコミュニケーション・ツールとして本当によくできていることがわかります。メールアドレスを探す必要もなくすぐに連絡できますし、関係者に一斉配信することも簡単です。グループを作って情報を共有し、自分の考えを整理することや思わぬ人のつながりからアイデアやビジネスのきっかけをつかむこともできます。ほんとうに便利なんです。

「TwiterやFacebookに発信しても、集客にはつながりませんよ。そこから仕事の話しがくることなんて期待できません。そんなことに時間やお金をかける暇があれば、今つながりのあるお客様に、ひとつひとつ、地道に説明する方が効果的ですよ。」

確かにサービスや商品、やっていることの告知などの情報発信を繰り返すだけでは、集客やビジネス・リレーションの開拓に役立つとは思えません。ただ、それに時間や手間がかかるという感覚にも違和感があります。移動中に、ちょっと息抜きに、そうですね、例えばたばこやコーヒーの感覚で発信する、それに時間や手間がかかるとも思えず、ましてやお金もかかりません。

自分の思ったことや気づいたことをメモに取る感覚で発信する。そこには自分の驚きや悲しみ、なるほどそういうことだったのかという気付き・・・様々な感情の動きや価値観に彩られています。そんな発言を見た人が、自分の感情や価値観と共鳴する・・・そこに人のつながりが生まれます。

そして、その共鳴が水面に水滴を垂らしたように揺らぎながら広がり、また誰かがそれに共鳴してその揺らぎに自分の感情や価値観を織り交ぜてさらにつながりを広げて行きます。しっかりと自分の意見を述べたいときは、時間を掛けて考えます。そして文書を作ります。それをブログにアップしTwitterやFacebookに発信することもあります。

決して集客や売上のために発信しているのではありません。自分の発信に様々な反射があることを期待しているだけなのです。それが気付きになり、思考の整理につながる。また、共感できる人たちの知恵や知識と巡り会うきっかけにもなります。それは、私のように個人で仕事をするものにとっても、また企業に属するものにとっても、何の違いもありません。少なくとも、私にとってはもはや貴重な情報源であり、人のつながりを生み出し、思考を整理するかけがえのない道具になっています。

このような自分のために行う行為が、結果としてビジネスや集客につながることもしばしばです。しかし、それは期待するものではなく、もたらされるものだという感覚が必要だろうと思います。

「すぐには役に立ちません」という言葉には、ITが業務処理の効率化や既存の仕組みの延長であり使い勝手を向上するための仕組みであるという常識が前提になっているのかもしれません。しかし、ITがこれまでも既存の常識を変えてしまうイノベーションの手段であったことにも思いをはせるべきでしょう。そこに思わぬ発見があるかもしれません。思わぬつながりが生まれるかもしれません。そんなわくわく感を私は感じています。

このつながりの可能性をチャートにまとめてみました。いかがでしょう?



この感覚は、使ってみなければわかりません。試行錯誤し、失敗もし、恥をかいたこともあります。集客のために使おうと考えたこともあります。そういう行為は大概が失敗でした(笑)。

そんな試行錯誤がないままに、なるほどそういうことかと感じることができなければ、SNSを活用した集客やビジネスのアイデアもきっかけも生まれてくるはずもありません。当然、ビジネスにつながるかどうかを結論づけることはできないように思います。

営業が持つべき感性は、こんな経験に裏打ちされてこそ迫力があるものです。理論や製品知識も大切です。今を正しく理解することも必要なことでしょう。しかし、お客様の期待はその先にあります。明確な答えを持ち合わせていないにしても、お客様とそのことについて会話もできないようでは、ビジネスのチャンスも生まれません。

ITの未来についてささやかな好奇心を持つことが必要です。そして、ともかく試してみることです。そんな日常の振る舞いもまた、お客様に相談されるひとつの条件であることに、私達は気づくべきかもしれません。



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2011年11月5日土曜日

相談される営業になるための条件: ネガティブトーク


あなた「我が社のパッケージはA社のものに比べて、3倍の処理能力があります。しかも、業界ではもっとも機能が豊富で、御社の必要は十分に満たしています。」
お客様「ところで、いくらなんですか?A社に比べてどの程度差があるのでしょう。そんなに機能豊富だと高いんでしょう?」
あなた「そうですね・・・3割ほどライセンス費用は高くなりますが、それに見合うだけの機能はあると断言できます。」

「余計なお世話」という言葉があります。我が社の商品やサービスがすばらしい機能や性能を持っていたとしても、このお客様にとって、そこまでの機能や性能が必要ないとすれば、それを進められるというのは、「余計なお世話」です。

自動車を単なる移動の手段と考えている人に、BMWやポルシェは売れません。値段が安く、燃費が良くて、丈夫で安全であればいいわけです。ツイン・パワー・ターボも水平対向型のエンジンも必要ありません。

お客様が知りたいのは、自分の期待を満たしくれることです。お客様の満足はそこにあります。「過ぎたるは及ばざるが如し」であり、「大は小を兼ねる」は少なくともビジネスの世界では成り立ちません。ですから、お客様の期待が何かを正しく理解しない限り、期待に応えることなどできるはずはありません。

ところで、お客様の期待とは何かを少し掘り下げてみましょう。お客様は、ホンダのフィットが欲しいという話しをされました。それは、「ホンダのフィット」そのものを気に入っていて、それ以外は欲しくないと言うことでしょうか。それとも、「値段が安く、燃費が良くて、丈夫で安全」な車が欲しいということを、自分の知っている車の名前で表現されたのでしょうか?

この違いを理解しなければ、お客様の期待を満たすことはできません。もし「ホンダのフィット」しかいやだというのなら、それを提案すること以外にお客様の満足を得ることはできません。しかし、もしお客様の期待が後者ならば、他にも様々な選択肢を提示することができるはずです。

営業がお客様の良き相談相手であるためには、この違いをしっかりと見極めることが必要です。そして後者であれば、専門家として、お客様の期待を満たすためにもっとも最も優れた選択肢は何かを示す必要があります。そのための知識は、自社製品に詳しいだけでは不十分でしょう。世の中の常識、ITのトレンドを体系的に理解しておくことも必要です。

しかし、そうなると選択肢の数は限りなく増えて行きます。組み合わせも複雑になるでしょう。ならばそれを整理整頓し、わかりやすく伝えることが大切です。そうやって、お客様の価値が最大化できる選択肢を具体的に示しながら、お客様と一緒になって最適解を創り出して行くことです。

主客一体という言葉があります。おもてなしの席で、主人も客人も一緒になって、その場を作り上げてゆくという茶道の精神を表現した言葉です。営業という仕事に置き換えて考えるならば、こちらの一方的な話しではなく、お客様の期待に応えるためにはどうすればいいのかを考え、そのお膳立てをし、お客様と一緒に最適解を創りあげて行くアプローチといえるかもしれません。

お客様の期待に応えるためには、このような場作りが必要なのです。

さて、もう一つ、「ネガティブ・トーク」ができるかどうかも、お客様の期待に応えるためには重要です。お客様は完全な商品やサービスなど世の中に存在しないことくらい十分にご存知です。ですから、私達の商品やサービスがどれほど優れているかという以前に、それらが世の中の常識に照らし合わせて、どこが良くて、どこに弱点があるかを知りたいはずです。

しかし、この期待に応えることはなかなか大変です。私もそうですが、自分のこと、自分たちの商品のことをよく見せたいという気持ちが先行し、自分たちについてのいいことばかりを話してしまいます。ただ、そのような態度をとれば、お客様はあなたを相談相手とは考えず、交渉相手として受止めることになるでしょう。

お客様と会話するときに、次の3つを自問自答してみてはいかがでしょう。

  • 良い点ばかりではなく、自分たちの限界、他社との違いや弱点を客観的に説明できるだろうか。
  • お客様はどのようなメリットを享受するかは語れるが、どんな課題やリスクがあるかも同時に語れるだろうか。
  • お客様が得をすることは語れるが、自分たちがどれだけ儲かり、得をするかも同時に語れるだろうか。

簡単なことではありません。しかし、そういう自分への冷静な目を持つこと、そしてその謙虚さが、相談される営業になるための一つの条件であることは、間違えないと思います。


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