2012年3月31日土曜日

「何ができるか」ではなく「何をすべきか」を考える ソリューションの本質

「どうすべきか、手詰まりなんです。情報システムの必要性に疑問をもたれているわけではありません。ただ、なぜこんなに費用がかかるのか、なぜこのシステムが必要なのか・・・これまでにも増して、その説明が求められているんです。我々の存在価値さえ問われている有様です。」

ある情報システム部門長から、こんな悩みを打ち分けられました。

「何ができるのだろうか?」。だれしも考えてしまいます。しかし、それでは、この悩みに応えることはできません。自分たちにできることには誰しも限界があります。その範囲の中で答えを出したとしても、それが本当にお客さまの悩みを解決する最善の策なのかと考えると、必ずしもそうとは云えません。

こう考えてみてはどうでしょう。

「何をすべきだろうか?」と。自分たちにできるかどうかにかかわらず、何をすればこの問題に対処できるかです。

ソリューションと言う言葉の本質は、「何を使うか」あるいは「どのように実現するか」の手段ではありません。「何を解決するか」あるいは「どうなりたいか」のあるべき姿を実現することです。それを実現する最善の策は必ずしも自分たちだけで完結できるとは限りません。

お客さまの求めるソリューションとは、あるべき姿を実現することであり、私達にできることをして欲しいわけではないと言うことです。

「何をすべきだろうか?」この言葉を自分に問いかけてみる。そして、お客さまと一緒になって考えてみる。現状のしがらみや様々な“常識”を排し、あるべき姿を明確にし、そこに至る最善の策を考えてみる。それが、ソリューション・ビジネスの本質ではないかと思っています。

お悩みを聞かせて頂いた情報システム部門長は、自社のシステムの構築や運用に長年関わってこられたベテランです。だからこそ、様々な社内外とのしがらみをもたれている。それは仕方がないことです。だからこそ、しがらみのない外部の目で、それを捉え、解決策を考えることができる。それが私達の役割なのでしょう。

「何ができるか」ではなく「何をすべきか」を考える。それが、お客さまに向き合う私たちの責任です。その自覚が、ソリューション・ビジネスの原点ではないでしょうか。


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2012年3月24日土曜日

ネガティブトーク お客様の信頼を勝ち得る力

「プロジェクトが予定通りいかなくなりそうで、気が重いんです。」

入社三年目の彼女は、営業としてがんばっている。まだまだ発展途上ながら、意欲だけは誰にも負けないという気概。今回のことも、真摯にお客様に向き合っているからこそ、自分で何とかしなければと、思い悩んでいるようだった。

そんな彼女の相談に、「お客様に正直に言っちゃいなさい」と伝えた。

「この案件は、すでに受注したものだよね。だったら、お客様もこれを成功させるしかないんじゃないかなぁ。確かに売り込むときは、駆け引きの相手だったかもしれないけど、今となっては同じ仕事の同士じゃないか。お客様に同士として正直に現状を伝えること。そして、一緒になって解決に協力してほしいことを伝えてみてはどうだろう。まずはそれが最初じゃないだろうか。」

「もちろん、現状を伝えるだけでは、お客さんだって、"いったいどういうことだ" となるだろう。だから、どうしたいか、どうすべきかをきちっと考え、その解決策とともにお客様に相談すること。そして、もう一つ大切なことがある・・・」

そして、次のように続けた。

「あなた自身が、なんとしてでもやり抜く覚悟であることを、心の言葉でしっかりと語りかけること。その覚悟を合わせて伝えることができなければ相手の協力を引き出すことなんてできっこない。できる?」

彼女の目に、決意が光っていた。

「完全無欠のプロジェクトなんか、ありえないよ。トラブルなんて、大なり小なり必ずある。それはお客様だって知っている。大切なことは、トラブルと向き合う姿勢だと思う。トラブルから逃げず、真剣に考え、なんとしてでもやり抜く。その姿勢を示し、行動を起こすこと。だからといって、すべてが解決するという保証はない。しかし、お客様の協力を得ることができれば、成功の確率もぐっとあがるはず。」

「もうひとつ大切なことがある。それは、自分で何でもやってしまおうと思わないこと。お客様は、あなた個人に、このプロジェクトを依頼したわけじゃないよね。あなたは、プロデューサーとして、会社の代表者としての役割を担っていると考えるべきだ。だから、どんどん社内に働きかけ、組織の知恵を引き出すことだと思う。社内への売り込みもまた、あなたの大切な仕事だと心得ておくべきだよ。」

そして、こういう話もした。

「解決策を探るとき、注意すべきは、自分たちにできることを前提に考えないこと。何ができるかではなく、何をすべきかを考える。つまり、あるべき姿というか、事態に対処する最適解を作ること。そして、それを実現する筋道を次に描く。その順番を間違えないようにね。」

彼女は、次のように答えてくれた。

「自分でなんとかしなきゃって、考えていました。それじゃあだめなんですね。大切なことは自分のことじゃなく、お客様のことなんですね。お客様のために何をすべきか。そして、自分だけで何とかしない。そうですよね。私みたいな若造にできるわけないですよね。」

気になったので、次のように補足した。

「勘違いしてほしくないことがある。あなたはこのプロジェクトにおける会社の代表であり、プロデューサーであり、その点においては、若造かベテランかは関係ない。それはプロとしての責任だ。その点においては、他人に頼るのではなく、自分の責任として全うすることだと思う。しかし、自分だけですべてが解決できないことも事実。大切なことは、なんとしても解決すること。だから、社内の知恵、社外の協力、つまり、解決にベストな布陣をあなたが描き、その人たちの協力を引き出し、それをとりまとめる。それがあなたの役割なんだと思う。あなたは成功の請負人だ。あなたの役割と周りの役割、そのことをしっかりとわきまえなくちゃいけない。」

営業という仕事をしていると、お客様にいいことを伝えたい、そうやって信用してもらおうと思ってしまう。そして、ポジティブトークがつい先行してしまう。しかし、それでは結果として、お客様に、うさんくささや不信感を与えてしまうことにもなりかねない。

ポジティブなことを伝えることは簡単だが、ネガティブなことを伝えることには、勇気がいる、エネルギーがいる。だからこそ、相手の心に深く突き刺さる。それが、お客様の成功であり、幸せを考えての言葉ならば、お客様も真摯に受け止めてくれるはずだ。

彼女は、きっとこのトラブルを収集するだろ。そして、自らの手で成長の実感をかみしめることになるだろう。

ネガティブトークを誠実にお客様に伝えること。その勇気が、お客様との絆を強めることになる。大変なことである、勇気のいることである、苦しいことである。だから成長の糧となる。そんな気持ちで向き合ってみてはどうだろう。そんな気持ちで向き合えば、みんなが振り向いてくれるはずだ。

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2012年3月17日土曜日

「知らせる力」から「知られる力」へ 本当の人脈とは

「山田社長ならよく知ってますよ。彼に話せば何とかしてくれますよ。」

私は誰々をよく知っています、あの人なら私が話せば聞いてくれますよ・・・

そういう趣旨の話しを自慢げにされる方がいらっしゃいます。しかし、こういう話しを聞くと、「私はキムタクを知ってますよ。」「野田総理のことならよく知っています。私が話せば聞いてくれますよ(・・・日本国民ですから)」とあまり変わらないように思えてしまうのは、私がへそ曲がりだからかもしれません。

人脈築くことの大切さは、よく言われることです。しかし、人脈という言葉の意味が時々逆の意味で使われていることがあります。

人脈とはどれだけの人を知っているかではなく、どれだけの人に知られているかです。

たとえあなたがどれだけの人を知っていても、あなたがその人に知られていなければ、いったいどのような価値が生まれるのでしょうか?

偉い人のお供で会議や会食の機会があり、名刺も交換し、挨拶も交わしました。そういう機会が何度かあったとして、名刺もたくさん集まりました。しかし、それで人脈は広がったことになるのでしょうか。

たとえどれだけ多くの人を知っていたとしても、あなたが相談を持ちかけたとき、「あなたならよく知っています。是非話を聞かせていただきましょう。」と言ってもらえない存在だとしたら、その「人脈」はなんの価値も生み出せしません。

その一方で、あなたがたとえその人を知らなくても、その人があなたを知っているなら、こちらとしてはたとえ初めてでも、相手は真剣に話を聞いてくれるはずです。

本物の人脈とは、相手に与えられるものを持つこと、そしてそれを提供し続けることで築かれるものだと思います。

私の友人に、佐々木賢一さんという仙台のベンチャー企業の社長がいらっしゃいます。かれは、今回の震災直後に南三陸町に入り、それ以来毎週現地に入り、地元の人たちの話しを聞き、必要なものを届け、その情報を多くの人たちに発信し続けています。そして、自ら「ITで日本を元気に」というグループを作り、IT企業の多くの仲間と共にPCを避難所や仮設住宅、被災した学校や企業に届ける活動を続けています。その数は、500台を越えるまでになりました。

この活動を通して、南三陸町で彼の名前は知られるようになりました。そして、知らない人からの相談も寄せられるようになったそうです。また、IT業界に関わる人たちに地域の現状を伝えることを通じて、多くの支援者、協力者が彼と共に活動しています。私も、そんな彼の活動を聞いて、何度か被災地を訪れる機会を得ることができました。

彼は、被災地の地元に、そして、IT業界に知られる存在となりました。たぶん、彼から相談された多くの人は、真剣に彼の話を聞こうと思うはずです。

人脈を築くとは、まさにこのようなことなのだと思います。

人脈とは、与えるもの持ち、それを与える努力を積み重ねた結果として築かれるものだと言うことです。

ビジネスの日常にもこの考えは矛盾なく当てはまります。つまり、相手が必要となるものを届けることができなければ、あなたは相手からすぐに忘れられてしまいます。相手が何を必要としているのか知り、その必要を満たせるものを届けられる存在であることを伝え、実行してゆかない限り、あなたは相談される存在になれないでしょう。

先日のブログ「営業力とは競合を作らない力」に次のように書きました。

お客さまに「課題」があればまずはあなたに相談する。そういう存在になれば、競合はありません。・・・そういうお客さまとの関係を作る力こそ、私は「営業力」ではないかと思っています。


プレゼンテーションやドキュメンテーション、会話術など「知らせる力」を磨くことも大切です。しかし、私はそれ以上に、与えられるものを持つ努力、それらを積み重ねてゆく努力、つまり「知られる力」を磨くことはもっと大切なことではないかと思っています。

人脈とは、そうやって築き上げてゆくものではないでしょうか。


■ 3.11 被災地を訪れて ---

先日の3.11、「ITで日本を元気に」のメンバー31人と共に、宮城県の石巻から沿岸部を福島県の南相馬、福島第1原発20キロメートルの規制線が引かれているところまで見てきました。改めて、復興はまだまだこれからであるという現実を思い知らされました。


石巻市門脇小学校の教室
震災直後の光景が残されています。
幸いにも生徒は避難して難は免れたそうです。

破壊され尽くされた圧倒的光景、いまだ瓦礫が手つかずの地域、ねじ曲がった線路に崩れ落ちた駅舎のあるプラットフォーム。まだまだ時間がかかりそうです。


東松島市大曲
石巻は瓦礫の撤去も進んでいますが、こちらはまだまだです。

東松島市野蒜
奥松島の景勝地、仙石線の駅舎は破壊されたままの姿をとどめています。


名取市閖上(ゆりあげ)
 この一帯で一千名を超える人たちが亡くなりました。
このあたりはかつて住宅街だった場所です。
今では、360度なにもありません。
ここで、14時46分を迎え一同黙祷を捧げました。


南相馬市
福島第1原発の20Km規制線。
これより先に立ち入ることはできません。
こちらの放射線量は問題のないレベルでした。



今回は放射線の簡易測定器も持参しました。途中立ち寄った飯館村役場ではこの行程の最大値2.31μSv/hという値を計測。これは仙台駅前の33倍という線量でした。もうすっかり日が暮れた街にはまったく生活の明かりはありませんでした。



震災一周年を迎え、マスコミの報道も徐々に下火になるでしょう。しかし、まだまだ手つかずの課題が山積しています。この現実を改めて思い知らされました。

自分には何ができるか、何をすべきかを考えることは大切なことだと思います。しかし、まずはその前にこの被災地を自分のカラダで感じることです。

今回のツアーには被災地を始めて訪れる方もいらっしゃいました。そのだれもが、いや再び訪れたものでさえ、この光景に圧倒され、それぞれに思うものがあったと思います。

瓦礫の広域処理が進まないという現実。そこには被災地の実感が乏しいということもあるのでしょう。だからこそ、この光景を感じた人を増やし、その思いを伝え広げてゆく。そんな取り組みにも意味があると信じています。考える前に感じること。そういう行動もまた大切なのだと思います。

震災後2年目を迎えた今、地道に末永く被災地に関わっていこうという思いを新たにした、そんな1日でした。



福島駅
今回参加した「ITで日本を元気に」のメンバーです。



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2012年3月10日土曜日

クラウドはSIを衰退産業に追込むのか


「SIerとは過去の資産でかろうじて生き延びている衰退産業」なのでしょうか。

クラウドはSIerにとっては利益相反であり、クラウドの普及はSIerからビジネスを奪い、衰退産業へと追込むことになるのでしょうか。

これまでに変化のない時代はありませんでした。それに対処することがビジネスであり、人生なのだと思います。今回の変化は少々いつもより大きいかもしれません。しかし、ひとつの変化に過ぎないのです。

変化が大きいと申し上げた理由は、これまでのSIerの収益構造が大きく変わるためです。従来SIerは「構築→保守→運用」というサイクルを収益基盤としてきました。この構造が変わってしまいます。スキルやノウハウが新しいものに置き換わるという表面的な問題ではないということです。



クラウドがもたらす価値として「スケール」、「アジリティ」、「コスト」をあげることができます。
「スケール」とは、ビジネス要件に最適なリソースを必要に応じていくらにも拡大、組み合わせることができることで、安定性や信頼性を大きく向上させることができます。「アジリティ」とは、ビジネス要件の変更に迅速・柔軟に対応できることです。「コスト」とは、低コストで必要かつ大規模なリソースの調達が可能になることです。

クラウドによってもたらされるこれらの価値をビジネス・システムに活かすためには、これまで通りのウォーターフォール型のやり方では不可能です。まさに、この部分がSIerのビジネス構造を大きく変えることになる本質があります。

SIerとして考えられる対応としてはつぎのようなことが考えられます。

  • アプリケーションの部品化とコンポーネント化による開発品質の保証と期間短縮の両立。
  • プログラム・モジュールの組合わせからサービスの組合わせへのシフト、当然その目利きも重要。
  • サービスは運用と構築が一体となって進行します。この両者のスキルを併せ持った人材の育成。


このような対応により、SIビジネスの構造を変えてゆくことが必要になります。これより、次のような変化が生まれるのではないでしょうか。

  • 案件単価は低下するが利益率が拡大する。
  • ビジネス・サイクルは短縮するが、回転数が増加し結果として利益を拡大させる。
  • これまで中小では無理だとあきらめていた運用と構築を一体とした継続型ビジネスを提案できるようになる。

システムとは組合わせであり、これを実現する手段はインテグレーションしかありません。従って、インテグレーションと言うニーズそのものがなくなることはないはずです。ただ、大きく変わるのは、何をインテグレーションするかです。この変化に対応することが、SIビジネスを拡大させる条件となるはずです。

このようなクラウドによってもたらされる変化に加え、「オープン」もSIビジネスの基盤に大きな構造変化をもたらすことになるでしょう。



その名前の通り「オープン」は大手中小を問わず誰にでも利用できます。クラウドも今後OpenStackなどのオープン・スタンダードに対応した「オープン・クラウド」の時代を迎えることになるでしょう。そうなると、ますます大手中小の開発・検証環境のギャップは縮小されてゆくことになります。また、得意分野を先鋭化させることで、中小であっても大手に互するアドバンテージを築くことも容易になります。

このあたりをまとめると次のようになります。 

  • 開発・検証に必要な資源調達のコストがかからない
  • 本番実行環境と開発・保守・運用を一括したビジネスを展開できる
  • 組合わせの範囲や選択肢が拡大しイノベーションを起こしやすい 

新しいSIer時代の到来を予感させるものです。つまり、System Integratior から Service Integratiorへと自分たちの役割を変化させていゆくことです。

ただ、このような変化に対応するための3つの条件があります。 

  • ビジネス・ロジックによる差別化
  • DevOpsのスキルと体制の実現
  • クラウドAPIによるインテグレーション

「ビジネス・ロジックによる差別化」とは、プラットフォームのコモディティ化や自動化が進むことで、ここでの差別化や収益の拡大が難しくなります。従って、より上流に対応するスキルが必要となります。

「DevOpsのスキルと体制の実現」とは、開発と運用の壁を取り払い、両者を一体としたビジネス・プラクティスを実現することです。サービスとは構築と保守と運用が一体で進みます。当然両者がこれまで以上に融合、連携しなければならなくなるでしょう。

「クラウドAPIによるインテグレーション」とは、クラウドはCPUもストレージもデータベースも全てAPIによって提供されますから、これを組み合わせることがインテグレーションとなります。当然、各クラウド・サービスの背後にはプラットフォームがあり運用もあります。その特性を理解し、お客様に最適な組合わせを提供するためには、各サービスを深く理解することが必要になるでしょう。

SIを衰退産業とするか、成長産業とするかは、このような変化に対応できるかどうかにかかっています。そのハードルは決して高いものではないと思っています。ただし、時間はそれほどないことも意識しておくべきでしょう。


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2012年3月3日土曜日

営業力とは競合を作らない力


「営業力の強化が、なんとしても必要なんです。」

このようなご相談を頂くことがあります。しかし、この「営業力」と言う言葉の解釈は、人それぞれです。「売上を増やす力」、「新規の顧客を獲得する力」、「案件を確実に受注する力」・・・おおよそ、そんな意味で使われているように感じています。中には、プレゼンテーションやドキュメンテーション、交渉力などのスキルを「営業力」と解釈されている場合も少なくはありません。

これらが間違っていると言うつもりはありません。ただ、いまひとつ腑に落ちないというのが正直な感想です。

私は、こう考えています。「営業力とは競合を作らない力」だと。

営業の責任は、数字に責任を持つことです。つまり、担当とするお客さまやテリトリーにおいて、会社と約束した売上と利益を期限内で達成することです。この責任を果たす能力が、「営業力」ということになるのでしょう。この責任を確実に、そして効率よく達成するためには、競合と戦っている暇などないのです。

お客さまに「課題」があればまずはあなたに相談する。そういう存在になれば、競合はありません。もちろんなんでも受けられるわけではありませんが、自分たちにできることなら、まずは自分たちの仕事になります。そういうお客さまとの関係を作る力こそ、私は「営業力」ではないかと思っています。

IT業界で考えてみましょう。私達が取り扱っている商品やサービスの多くはコモディティ化しています。HPのサーバーもDellのサーバーもIBMのサーバーも全て中身はIntelのXeonであり、Windowsです。それぞれ特徴あるサービスやプロダクトを生み出そうという各社の努力は、結果として決定的な違いを見出しにくくしています。お客様の立場で見れば、それは一長一短であり、絶対的な優位を明確にすることは容易なことではありません。

このような環境に私たちは置かれているわけです。

また、ITはかつてに比べてとても複雑になりました。私が現役のころ、ITはメインフレームでした。すべてがこのインフレームという太陽を中心に回っていたのです。しかし、今そのような絶対的な中心はなく、大小さまざまな太陽が明滅を繰り返し、その組み合わせは多様です。

これだ!という最適解は用意されていません。しかし、お客様は最適解を必要としているのです。

このようなお客様の相談に乗り、一緒になって、お客様個別の最適解を描くことができればどうでしょうか。

お客様の課題を整理し、あるべき姿を明らかにする。そしてその手段を描き、お客様と合意する。あとはあなたにお任せです。

あなたは、お客様と描いた最適解を実現する組み合わせを提供する。もちろん自社だけですべてをまかなうことはできないかもしれません。それはしかたのないことですが、まずはあなたの会社にできることを優先させることに、お客様は何の異議もはさまれることはないでしょう。

このような関係を築く力こそ、私は「営業力」だと思っています。

君子務本、本立而道生

人格者は、物事の本質や根本のために努力する。物事の本質や根本を成り立たせようとすれば、おのずとそこへ至る道は明らかになる。

論語にこのような言葉があります。

営業の仕事とは、お客様の本質や根本、つまりお客様のあるべき姿を明らかにし、それをお客様と合意することから始まります。まずは方法にとらわれるべきではありません。お客様の課題とは何かを見極め、整理し、それが解決された後に、お客様にどのような幸せが、あるいは成功があるのかをお客さと一緒に描くことです。そこが合意できれば、そこへ至る方法をあなたが提案すればいいのです。この順番を入れ替えてはいけません。

このような役割を果たせる営業になる。素晴らしいことですが、容易なことではありません。しかし、「君子務本、本立而道生」です。営業力の根本を追求すれば、おのずとそこへ至る道は見えてくるのです。


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