2013年3月30日土曜日

「底上げ」と「引上げ」・変革を支える人材育成


「みんなの力で会社をどう変えるか。これはそのための取り組みです。」

325日の夕方、日本ユニシスが取り組んでいる「プリンシパル制度」の第5期生・成果発表会を見学させていただきました。

この取り組みは、若手204チームが組織を越えて、三ヶ月をかけて新規事業の企画を作り、関連部門や役員に提案して、予算をつけてもらおうという取り組みです。

代表取締役専務執行役員である平岡昭良氏の私塾として、業務時間外の私的な取り組みとして行われています。冒頭の言葉は、平岡専務がこの発表会の締めくくりで語られた言葉です。

「一週間に本を五冊読む。課題はそれだけです。あとは自由にやらせています。」

これまで5期に渡って続けられ、事業化した企画もあり、平岡専務の自信を垣間みることができました。

自分たちでテーマを決め企画を立てる。それをお客様に説明し、ほんとうに受け入れてもらえるかを確認する。その結果をふまえ、企画を手直しし、完成度を高めてゆく。そして、「ぜひ予算を付けてほしい」とオファーし、いい企画なら平岡専務がその場で即決する。

まだまだだなぁ、という企画もありました。厳しい質問に明確な答えを示せないものもありました。なるほど、これは面白いと思えるものもありました。どの企画も、単なる机上の空論ではなく、リアリティのある取り組み故、聞き応えがありました。そして、なによりも参加者の志の高さに感動しました。

この制度への参加は、自由意志です。忙しい実務をこなしながらも自ら志願して参加されています。私は、人材育成のひとつの可能性を見たような気がしました。

「社員の能力を底上げしたい」

経営者や人材育成に関わる方々から、このような相談を頂くことがあります。その前提には、基礎的な能力が不十分であり、全体として個々人の能力を底上げすることで、企業としての成長を支えたいという思いがあるのだと思います。

これを間違っているとは思いませんが、本当に企業が成長し、飛躍するには、出る杭を引き抜き、さらに持ち上げて、チャンスを与えることも大切ではないかと思っています。

特に、大きな変革の波にさらされている今の時代においては、こういう人材が、ぜひとも必要です。それを「底上げ」という考え方で育てることは難しいでしょう。

ビジネスの八割は二割の優秀な人材に支えられていると言われています。いろいろな方に、この話をすると、だいたい感覚的には一致しているという答えが返ってきます。ならば、この二割をさらに引き上げることが、企業の成長に直結しているとも言えるでしょう。

底上げだけではなく、優秀な人材をさらに引き上げる取り組みもまた、育成を考える上で、必要ではないかと思っています。

私は、こういう取り組みとして「トップガン・アカデミー」を作ってはどうかと提案しています。

「トップガン (Top Gun)」とは、トム・クルーズ主演の映画で一躍有名になりましたが、「アメリカ海軍戦闘機兵器学校」のことで、エリート戦闘機パイロットの上位1パーセントのパイロット達の空中戦技を指導するために造られた養成機関です。

「優秀な人間の能力をさらに引き上げ、最前線の攻撃力を強化し、組織の変革と新たな基盤構築を促す」という発想です。

例えば、1年間程度の期間限定で、新規事業や新しいビジネスモデルの創出、そして、それを武器にして新規顧客の開拓を行う特命組織をつくり、そこに配属します。そして、高度な研修や課題を与えるだけでなく、しかるべき成果も求めます。任期を終えれば、また再び自分の組織に戻ってゆくというものです。

参加者にとっては名誉であり、参加できていないものにはあこがれとなります。高度な実務実践と教育の機会を与え、その才能に一層の磨きをかけます。結果として、組織力の向上につながり、これを繰り返すことで、人材の底上げも果たせるのではないでしょうか。

ただ、優秀な人材を引き抜かれる現場にしてみれば、たまったものではないでしょう。また、「依怙贔屓(えこひいき)」という批判も出るかもしれません。しかし、真に変革を求めるとすれば、その変革を主導できる人材を育てる思い切った取り組みが必要です。それができなければ、いつまでも世の中の変化を後追いするだけです。

先日、ある大手SIerの幹部から、こんな話を伺いました。

「今、仕事が増えていて、人手が足りません。斎藤さんがいうほどに、SIビジネスは危機的状況じゃないですよ。」

そして、新たな事業企画に取り組むチームを解散し開発の現場へ異動させたそうです。

「ところで、利幅はどうです。十分に利益が出ているんですか。」
「いゃあ、それはこれまでにも増して厳しいですね。でもまあ、オフショアや下請けさんにがんばってもらえば、何とかなりますよ。」

仕事の需要は増えていても、収益率は下がっているそうです。多分、その下請けのSIerは、相当厳しい単金で仕事をさせられていることは、想像に難くありません。

表面的な需要は変動するものです。だからといって、旧態依然とした構造が変わらなければ、利益の弾力性は失われてゆきます。そうなれば、ちょっとした需要の変化が、これまで以上に業績に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。そう考えれば、ビジネスモデルや収益構造の変革への取り組みは不可避ではないでしょうか。

日銭を稼げることは幸せなことです。だからこそ、今取り組んでおくべきです。「執行猶予期間」が与えられたと、感謝すべきかもしれません。

日本ユニシスの取り組みは、変革を主導する人材育成の施策として、大変興味深いものです。
  • 顧客への提案、関連部門の支援とアドバイス、事業予算の提供など、実務実践につながるリアリティ
  • 育成のための育成ではなく、業績評価・人事考課への紐付け
  • 経営トップのスポンサーシップによる安心感の下支え

意欲のある人材は自分で勝手に成長します。だから、魅力的な機会を与え、その成長を支援すれば、本人は、さらにモチベーションを高め、自らが成長を加速します。そういう取り組みもまた、必要なことだとおもいます。

人材の「底上げ」は、組織基盤を強固なものにするためには、欠かすことのできないことです。それは、守りの基盤を固めるためです。しかし、変革に立ち向かい、自ら切り拓いてゆく攻めの人材を育てるためには、変革に立ち向かおうとする強い意志を持つ人材の「引き上げ」が必要です。

日本ユニシスの「プリンシパル制度」は、そんな挑戦のひとつの形かもしれません。


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2013年3月23日土曜日

「内製化」という武器を手に入れる


「できることなら、内製化を進めたいと考えています。でも、なかなか簡単じゃありませんね。」

ある大手企業の情報システム部門長から、こんな言葉を聞かされました。

先週のブログで書きましたが、コスト、スピード、ガバナンスの三つの圧力は、内製化へのデマンドを底上げしているようです。しかし、現実には大きな壁が立ちはだかっています。

ここで改めて問いたいのは、「何のための内製化か?」ということです。内製化は手段であり、それ自身が目的ではありません。それにも関わらず、内製化=三つの圧力への対応という拙速な期待感のもとにモチベーションが働いているとすれば、本末転倒というほかありません。

多くの企業において、ITは本業ではなく情報システム部門は間接部門、裏方を支える役目であると認識されています。経営環境の不透明感が漂う中で、少しでもコストを押さえたいという経営からの圧力は日増しに高まっており、コストセンターである情報システム部門もまた例外ではありません。

「本業として稼ぎをあげない情報システム部門が、なぜそんなに外注に支払う必要があるのか。そもそもその単価は妥当なのか。自分たちでやれば、支払いも減るのではないか。」

ITを知らない経営からみれば、このような意識が働くのは当然のことだと言えるでしょう。また、情報システム部門にとっても、外注がいなくては回らないことはわかっていても、このような経営の圧力に対処できる説得力を持ちません。

確かに、外注費用の内訳や妥当性は曖昧です。行っている作業内容や成果というよりも、時間に対する対価です。また、その人がいなければ困るというような、属人的価値への対価でもあります。これを論理的に説明することは難しく、結局は、内製化の努力を示すことで、経営の期待に応えようというモチベーションが働くことになります。

時代をさかのぼれば、このような議論はこれまで何度となく繰り返されてきました。

そもそも、外注を前提とした仕事の進め方が定着してきたのは、情報システム部門が抱えるコスト圧力への対応策だったはずです。つまり、社員として間接要員を持つよりも外注したほうが、コストも安くつくからです。また、いつでも切れる安全弁であり、リスク回避の手段となります。

じゃあ、再び内製化に戻せばコスト削減が図れるかと言えば、既にそんなスキルは内部にはなく、リスクを背負うことには大きな覚悟がいるわけで、そう簡単ではないでしょう。

それでも、情報システム部門が「内製化」という言葉を使う背景には、後ろ向な捉え方ではありますが、ITベンダーにコスト削減を強要するための脅し文句であり、経営に対するアピールでしかないと、穿った見方をすることもできます。

しかし、これでは、本末転倒です。むしろ、内製化をITの戦略的価値を引き出す手段として活用するという視点が必要です。この視点を抜きにして、「内製化」を掲げても、そこに経営的価値を見いだすことはできません。

コスト、スピード、ガバナンスという三つの圧力の中で、コストへの対応としての内製化は、上記の通り、実りのあるものにはならないと思っています。残りの二つに価値を見いだすべきだと思います。

下のチャートをご覧ください。ガートナーのプレスリリースを参考にチャートにしたものです。



欧米の経営者は、もはやIT戦略と経営戦略を分けて考えてはいません。その結果、「ビジネスのあらゆるセグメントがデジタル化」する流れを生み出しています。我が国でもそういう意識を持つ経営者が増えつつあります。

私は、こういう状況の中、IT戦略と経営戦略を融合させる手段として、「内製化」を積極的に位置づけてゆくべきであろうと考えています。

つまり、ITに対するイニシアティブをユーザー自身が握るための手段としての「内製化」です。

自社の経営戦略や事業戦略をITで実現することを自ら担い、外注に丸投げして、コントロール不能に陥らないためのガバナンスを担保するための「内製化」です。

では、何を内製化するかです。

まずは企画や要件定義の内製化です。本来、業務の何を解決するのか、そのためにシステムとしてどのような機能が必要であり、技術に何を使うのかは、ユーザーの責務と言えるでしょう。

もし、ユーザーがITのトレンドに無知であり、企画もまとめられない、業務要件定義もシステム要件定義もできなければ、イニシアティブなどとれません。

「要件定義をやらせてもらえないと、見積もりはむつかしいですね。」というITベンダーの言葉に、それはそうだなぁと納得し、任せてしまうようでは、イニシアティブなどとれようはずはありません。結局は、「作ってみないと、いくらになるかわかりません。」になり、あなた任せで物事が進むようでは、ガバナンスが働くはずなどありません。

また、構築のフェーズにおいても、ユーザーが主導権を確保することが必要です。自分たちがプロマネを担い、そのためにも設計やコーティングを自ら手がけるべきです。

コードも読めず(あるいは、読もうとはせず)、想像力で適当なことを語り、上から目線でべき論を振りかざすプロマネでは、その役割を果たすことはできません。

ときどき聞く話ですが、こういうプロマネは自分の能力のなさを棚に上げ、うまく行かなかったことを外注の責任にする。そして、たとえそれが準委任契約であっても、自らの失敗を外注に穴埋めさせ、完成まで責任を負わせる。ITベンダーも、それまでの代金を人質にとられているので従わざるを得ない。これでは、現場のモチベーションなどあがるはずもなく、ますます事態を悪化させることになります。

何よりも最悪なのは、プログラムの中身がわからない訳ですから、自分たちだけでは保守ができません。結果、コントロール不能となり、ガバナンスを担保できない事態になります。

もちろん、不足の労力を外部に頼らなければ、システムの構築が成り立たちません。だからこそ、自らが積極的に開発に関与する体制を作り、ITベンダーと協調・協力するスキームを作る必要があります。

また、戦略的なシステムの構築には、ITベンダーとの関係ばかりでなく、エンド・ユーザーとの協調・協力をこれまでにも増して促進する必要があります。特に、要件が定まらない新しい事業への対応となると、アジャイル開発を適用し、リーンスタートアップ的なアプローチも模索すべきでしょう。そのためにも、情報システム部門が、積極的に開発に関与することは必須です。

システムの運用については、アプリケーション次第でしょう。基幹業務系であり、頻繁に運用が変わらないシステムについては、アウトソーシングやマネージド・サービスを活用し、運用の効率をあげてゆくべきだと思います。

ただ、エンド・ユーザー・ニーズの変化に即応が求められるEC系などの顧客向けサービス、BIやコラボレーションなどの情報系といったWebアプリケーションについては、開発と運用を一体で行う(DevOps)体制を築き、内部で運用する必要があるように思います。

システム基盤については、可能な限りクラウドにアウトソーシングすべきだと思います。その意図は、最新のテクノロジーの活用と共同利用によるコストパフォーマンスの向上です。

ミッション・クリティカルに対応できるクラウド・サービスも増えています。また、必要に応じて、プライベート・クラウドの構築も模索し、ハイブリッドな環境を構築するという選択もあります。

それらをうまく組み合わせ、最適なクラウド基盤を利用し、アジャイル(俊敏性)、スケール(規模の柔軟な伸縮性)、スピード(迅速性)を担保できる基盤を構築すべきだと思います。

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「内製化」は、情報システム部門がイニシアティブをとるための手段を手に入れることです。そして、情報システム部門の戦略的価値を高めるための取り組みです。それは、同時に自らリスクを負うことへのコミットメントでもあります。

一方、ITベンダーは、このようなユーザー側の取り組みを支援してゆくべきでしょう。確かに、自分で自分の首を絞める話かもしれませんが、これがお客様の価値を高めるのであれば、積極的に提案し、支援すべきです。

幸いにも(?)、お客様に、内製化のスキルを持つ人材が不足しています。一方、ITベンダーにはそのスキルがあります。ニーズがあり、提供できるもがあるとすれば、ビジネスは成立します。

「まだしばらくはSIビジネスで食べてゆける。時間をかけて取り組めばいい。」などという希望的観測は、今年の桜ではありませんが、突然にして覆されます。

当然、収益モデルも変わるでしょう、スキル・ポートフォリオも変えなくてはなりません。また、営業マインドを変えてゆことも必要です。

情報システム部門も、ITベンダーも、ともに大きな変化の節目に立たされています。もちろん内製化だけで、この変化に対応することはできませんが、真剣に取り組むべきテーマのひとつではあるように思います。そして、その時間的余裕は、残されていないように思います。

「いつやるか?今でしょ!」

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2013年3月16日土曜日

内製化なんて、できるんですか?


「最近、お客様から内製化をすすめたいという話をよく聞くようになったんですが、どうなるんでしょうね・・・」

先日、あるSIerの幹部が話されていました。このままでやっていけるのだろうか、今後どうすればいいのだろうか・・・彼の顔には、そんな不安の色が見え隠れしていました。

確かに「内製化」と言う言葉を最近よく聞くようになりました。数年前には、考えられないくらいです。しかし、現実には、ほとんど実現できていません。なぜ、こんなことになっているのか、その背景と対処の方法について、今週と来週に分けて考えてみようと思います。

まずは背景について、情報システム部門に押し寄せる三つの圧力に着目して考えてみようと思います。

まずひとつは、コストの圧力です。リーマンショックをきっかけにIT投資が一気に抑制されました。しかし、システム基盤の保守や運用は容易に削減することはできません。そこで、新規開発を凍結し、アプリケーションの保守や開発にかかる外注費が削減されました。

震災以降、厳しいながらも徐々に景気が回復し、アベノミックスへの期待も高まっています。しかし、一旦引き下げられたIT予算を回復させることは容易ではありません。

そもそも論ですが、日本の経営者は、ITは本業を裏方で支えるものであり、情報システム部門はコストセンターとの認識が強くあります。コストは少しでも押さえることが善であり、一旦下げたコストを引き上げることには強い抵抗が働きます。

一方でグローバル化、顧客志向の多様化、ビジネス・サイクルの短期化は、ITへの需要を高めています。しかし、予算は押さえられています。そうとなれば、内製化して外に出てゆくお金を少しでも減らしたい。そんな、モチベーションが働くのは当然です。

ただ、現実には、外部のSIerに大きく依存してきた情報システム部門が、これに容易に対応できるはずもありません。内製化のスキルがないのです。また、内製化は、自らリスクを背負うことにもなりますが、その覚悟もできているとは言えないでしょう。もし、うまく行かなければ、その責めは自ら引き受けなければなりません。ITを知らない経営者にしてみれば、本業ではないITなど、うまくできて当たり前であり、それになんでこんなにお金をかけなきゃならないんだ、という認識です。

スキルの壁と経営者の理解の壁、その狭間に立たされ身動きが取れない現実が立ちふさがっています。

ふたつ目は、スピードの圧力です。先程も述べたように、グローバル化、顧客志向の多様化、ビジネス・サイクルの短期化は、これまでにも増して迅速な意思決定と行動を求めます。情報システムもそれに追従しなければなりません。

そうなると、これまでのように外注先に個別に見積もりを取り、他社と競合させ、安いところにお願いするなどという悠長なことをやっている暇はないのです。

また、このようなビジネス環境になれば、仕様があらかじめ決まっていない場合も少なくありません。それでも、まずは立ち上げて、徐々に完成度を上げてゆくことが求められます。これまでのような仕様ありきを前提に工数を積み上げ見積もりするというやり方そのものが成り立たないのです。そうなれば、融通の効く社員を使い内製でやるほうが手っ取り早いということになります。

しかし、これもまた容易なことではありません。SIerに丸投げしてきた訳ですから、開発や保守の経験はなくスキルもありません。また、ローテーションで担当が変わることもしばしばあります。そのため業務がわからない内部人材も多いのです。その一方で、SIerのエンジニアは長年同じシステムを担当しているものも多く、その立ち上げから関わってきたので、社員以上に業務とシステムに精通しています。

では、派遣でとりあえず対処するかとなると、契約が「派遣」と付くだけで、基準となる単金が大幅に下がります。これでは優秀な人材を取り込むことができません。派遣された人材やSIerのモチベーション下がりますから、もっとおいしい仕事に移動しようとする動きが起こりますので、人材の定着図れず、スキルの移転も進みません。これもまた、内製化の阻害要因と言えるでしょう。

最後は、ガバナンスの圧力です。外注コストの削減は、単金の低下につながります。そのため、SIerもスキルの育成に十分にコストをかける余裕がなくなっています。さらには、先行きの見えないビジネス環境にあって、スキルなどおかまいなしに安いコストの非正規雇用者を使いリスク回避し、とりあえずの頭数をそろえようとします。当然、プロジェクトの品質は低下します。

この傾向には、ますます拍車がかかるのではないかと懸念しています。というのは、若年層の就労人口減少です。我が国では、2000(平成17)を境にして、15歳から29歳の就労人口が減少に転じています。2000年、全就労人口に占めるこの年代は23.5%でしたが、2010年には18.8%2020年には17.1%に下がるとされています。この割合以上に、3Kのイメージがつきまとう業界においては、若年層の就労人口の低下は加速するものと考えられます。

労働集約型の産業にとって、就労人口の低下は大きな打撃です。つまり、情報システム部門は、質のいい労働力を外部から調達できない事態に直面しようとしているのです。いや、既に直面しています。

そうなれば、外部に依存するのではなく、内部に人材を留保し、長期的に自分たちで育成し内製化を目指すことが、ガバナンスの観点から必要になるのです。

もちろん、若年層の就労人口が減少する問題については、SIerと同様にユーザー企業側も同じことです。しかし、企業イメージや労働条件などで、ユーザー企業側は有利であり、採用し易いのではないでしょうか。また、自社に最適化された人材を計画的に育成することも可能です。

ただ、また同じ話にもどりますが、経営サイドに理解がなければ、そのための施策も打てません。また、何でも自前主義で、パッケージだってカスタマイズが当たり前の常識のままで、労働集約型のやり方を継承していては、対応は難しいでしょう。

また、トレンドへの見識が低いままにレガシーなテクノロジーの蛸壷の中に安住し、リスクを冒して新しいことにチャレンジしないメンタリティを残したまま内製化しても、世の中からは取り残され、ITの戦略的活用など、おぼつきません。

この辺りの意識を変え、経営に対する働きかけを進めてゆかなければ、内製化など進めることはできません。

コスト、スピード、ガバナンスの3つの圧力は、内製化へのデマンドを生み出しています。しかし、その一方で容易に対処できない現実もあります。

では、これにどう対処すればいいのでしょうか。次週は、この点について考えてみようと思います。


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