2011年8月26日金曜日

営業力の正体

 「営業力を強化したい。相談に乗ってもらえないでしょうか。」
 
 このようなご相談を頂く機会が最近増えてきたような気がします。しかし、そのご相談のほとんどが営業職の能力についてのご相談なのです。
  • 営業にもっと危機感を持たせたい
  • 新規顧客を獲得できる営業を育てたい
  • 戦略的な思考でお客様にもっと食い込める人材を育てたい
  • ・・・
 だから、是非そんな研修をお願いできないだろうかという相談がほとんどです。
 
 僭越ながら、営業プロセスやスキルについての研修については、それなりに準備はしています。仕事ですから喜んでお引き受けいたします・・・と申し上げたいところなのですが、「本当にそれでいいのでしょうか?」とついつい本音を申し上げてしまい、ご期待に反することもしばしばです(笑)
 
 研修にご参加頂ければ、なるほどこうすればいいんだと大いにモチベーションも上がります。そして、よーし明日からがんばって実践しようとなるのですが、上司や経営者が、同じ思いを共有できていないわけですから、思い通りに進みません。
 また何かを売ろうにも、あるいはサービスを提案するにも魅力的なものが提案できない、あるいはエンジニアが動いてくれないなど、こちらの思うようにならないこともあります。

 真実の眼が開かれてしまった以上、今まで通りでは納得できません。満足できません。そうなると、「だからうちはだめなんだ」とストレスを募らせ、「仕方がない、郷に入れば郷に従へ」となって意気消沈。効果どころか逆効果になりかねません。
 
 営業力とは、決して営業職の能力ではありません。営業力とは、会社の能力であり組織の能力ではないでしょうか。営業という仕事は、営業職だけではなく、経営者もエンジニアも一緒になって行なうべき仕事です。当たり前のようですが、意外とこの当たり前に気づいていないひともいらっしゃいます。
 
 経営者や管理者にしてみれば、業績が上がらないことを営業の能力の問題にした方が、自分の気持ちも楽になるでしょう。責任も転嫁でき言訳もできるでしょう。しかし、それでは本当の営業力強化にはなりません。
 
 営業の仕事の目的は、「お客様の価値を高め、お客様の感謝を手に入れること」です。モノやサービスはその手段であり、突き詰めればお金を頂く手段と考えることもできます。これを実現するための経営者の役割とはなんでしょうか。管理者にもエンジニアにも、そして営業にも当然に役割があります。それを議論しないままに営業の役割だけが先行し、プレゼンテーションやコミュニケーション、交渉術などのうわべのスキルを身につけてもいったい何を売ればいいのでしょうか。
 
 ITが今よりもっとシンプルで、景気に支えられた需要が供給を大きく上回っていた時代であれば、お客様も営業も必要としているものがすぐにわかりました。あとは、それを確実にそして適正な金額で提供できればお客様も満足してくださいました。営業も自分のやることを理解していました。忙しくもありましたが、営業の個人力が業績に直結していた時代です。

 しかし、ITビジネスが複雑になり解決策の選択肢が多様化しています。また成長を支えるシステムから低コストで変更や変化に柔軟なシステムへとお客様の期待の重み付けが変わりつつある中、お客様も営業もこれだといえる正解を見いだせません。もはや営業職個人の能力に頼っていては、お客様に満足頂ける解決策を提供できないのです。
 
 会社としての営業力、組織としての営業力。真剣に考えて見るべきかもしれません。自分たちに何ができるか?という先入観を捨て、お客様は何を必要としているのか?そんな視点で議論してみてはいかがでしょうか。その上で、できることを考えてみる。それで足りないものがあれば、どうやってこれを埋めればいいのか。もはや、自分たちだけですべてをまかなうことなどできない時代です。そんな柔軟性もまた、答えを導く助けになるはずです。
 
■ ITソリューション塾[第8期]を開講します ■

 あなたは、次の質問に自信を持って答えることができますか?
  • クラウド・コンピューティングと仮想化は、どう違うんですか?
  • スマートホンとHTML5とWebアプリケーション。クラウドとの関係は?
  • サーバーの仮想化は知っています。では他の5つの仮想化とは何ですか?
 自社製品は知っているけど、世の中の常識は知りません。そんな営業をお客さまは、頼りにするでしょうか。

詳しくは、こちらをご覧ください。
 
なお、今回も会場の都合で定員20名とさせていだきます。もし、「参加したいがすぐには決められない」というかたがいらっしゃいましたら、まずはお知らせいだけないでしょうか。いつもすぐにいっぱいになってしまい、ご迷惑をおかけすることになってしまいます。なにとぞご協力頂ければと存じます。

場所:東京・市ヶ谷
期間:10月5日から12月7日 
   毎週水曜日 18:30~20:00
   全10回
費用:9万4千5百円/一括

内容はこちらをご覧ください。


 Facebookで、コミュニティ・ページを開設しています。よろしければ、ご参加ください。

2011年8月20日土曜日

抵抗勢力との正しいつきあい方

 「おっしゃることはわかりますよ。でも、それはうちには無理ですね。」
 
 なにか新しいことを始めようとすると、こういうことを言う人が必ずでてきます。「抵抗勢力」と言われる人たちです。「いっていることばは理解できるが、自分は受け入れたくありません」と言うことなのでしょう。
 これまで自分なりのやり方で実績を積み重ね築いてきた自分の評価。正しいと信じ貫いてきた信念や価値観。言うなれば積み上げてきた過去の栄光という土台の上にある自分存在意義を失うかもしれないという恐怖。たぶんそんな思いが彼を抵抗勢力にするのでしょう。
 
 「ああ・・・なるほど、それとてもよくわかります。私もね・・・」とこちらの話題を横取りし、自分の成功体験の自慢話を始める人もいます。
 
 「あなたの言うことはわかってますよ。余計なこと言わなくても、こちらでできますから・・・」と言うことなのでしょうか。こんな抵抗勢力にお会いすることもあります。
 

 「確かに取り組まなければならないことですね。でも、現状をなんとかすることを優先しなければなりません。新しいことを始める余裕はないんです。」という方もいます。
 
 現状が何ともならないので、新しいことでチャンスを作ろうと申し上げているのに・・・という思いがこみ上げてきます。今までのやり方の延長線上ではもはやどうしようもないことは本人も気づいているのです。しかし、それ以外の方法となると経験もなければ勘も働かない。つまり、自分の出番がなくなってしまう。そんな寂しさと不安から、こんな発言をされているのかもしれません。
 
 そんな抵抗勢力に「あのひとのやりかたはもう古いんですよ。もはや通用しませんよ。」と愚痴をこぼす若手。これもまた、いかがなものかと思います。抵抗勢力とは、過去の成功者であり功労者も少なくありません。彼が今この地位にあるのは、その功績があったればこそであり、それをも無視するなど失礼な話です。ましてや人格にまで踏み込んで批判するというのは、どうも大人げないように思います。
 
 すばらし過去の栄光に心からの敬意を表すべきは、人の道理ではないかと私は思っています。しかし、どんなにすばらしく輝いていた巨大な恒星も、時間という流れの中で遠い彼方での輝きになれば、その恒星自体が何も変わらなくても、夜空の小さな一点になってしまう。これもまた事実です。
 
 「どうやるかではなく、どうあるべきか」
 
 そんなときは、こんな議論を徹底的に行なうしかないかもしれません。「あるべき姿」について合意すること。つまり最終的にどうなっていたいかを具体的なイメージで共有する、つまりまずゴールを決めるということです。その上で、このゴールに行き着くための方法を合理的に考えることを促してみてはいかがでしょう。
 
 注意すべきは、自分たちにできることを前提にしないことです。できるできないにかかわらず理想的な方法論を議論することから始めるべきです。「できること」という思考の枠を外してみる。そうやって、自分という枠組みにこだわらない発想の場を作ってみてはいかがでしよう。その次に、ならば自分たちはどうすればいいかを議論するという順番です。
 
 俺の気持、あいつの面子などの情が出てくることにも注意が必要です。そんなときは、「あるべき姿」を再び確認します。「あるべき姿」に立ち帰り、これを実現する上でもっとも合理的な選択肢を考える。そんな冷静な議論の積み重ねが大切かもしれません。
 
 「言っても無駄」と思われがちな対抗勢力も、本心は何とかしなければと思っているものです。そんな人と議論するためには、「どうやるか」という方法論ではなく、「あるべき姿」の確認と共有を起点に議論をは初めてはいかがでしょう。
 
 この合意がないままに「方法論」に終始して、結局は「あいつは何もわかっていない」、「考えが古い」といらいらしてみても、血圧が上がるだけで、業績は上がりません。
 
 残念ながら、こういう議論さえも拒絶する抵抗勢力は存在します。そういうときは、仕方がありません。自分が同じ立場に立ったら絶対にこんなことはしないと決心し、その思いを神棚に上げて毎日拝み、忘れないようにすることです。そんなことに腐ってみても、不健康になるだけですから。そういう割り切りもまた抵抗勢力との健全なつきあい方かもしれません。


 Facebookで、コミュニティ・ページを開設しています。よろしければ、ご参加ください。

2011年8月13日土曜日

クラウドの本質:無人コンピューティングのもたらすもの

 クラウドの市場動向については様々な統計が発表されていますが、どの調査結果を見ても対前年比何十パーセントの増加であり、数年後には何倍という威勢のいいものばかりです。
 
 それでは、クラウド・ビジネスに積極的に参入することで、事業の拡大のチャンスが手に入ると考えていいのでしょうか。ことは、それほど単純なものではないように思います。
 
 情報サービス産業協会(JISA)の統計をみると、我が国の情報サービス産業の売上高合計は、2009年度には21兆5千億円となっています。これに対してクラウドの市場規模は、調査会社によりその定義の範囲が異なるので厳密な比較はできませんが、2012年度には1千億円から2千億円と推計しています。
 両者の統計の根拠が異なるためこれを同列に比較することは難しいにしても、それでも「クラウド」といわれる市場が、情報サービス産業全体から見て、決して大きなものでないことは想像できます。
 
 また、クラウドの定義についても、厳密な学術的定義があるわけではありません。先日、調査や出版に関わる人から聞いた話では、基本的には企業の自己申告が根拠になっているとのことでした。もちろん、調査する方も裏付けをとって最終的には判断されている訳ですが、膨大な調査対象を精査することは容易なことではありません。
 
 事実、私も多くの「クラウド」をビジネスにされている方々と接する機会も多いのですが、クラウドについての解釈が実に様々あることに驚かされます。
 
 例えば、単なるデータセンターでのホスティングやコロケーションを「クラウド」と呼んでいるところもあれば、自社のデータセンターにお客様個別に専用システムを立ち上げて、それをネットワーク越しに提供しているだけのものもありました。中には、仮想化とクラウドを区別せず話をされている方も少なくありません。
 
 以上のようなサービスをクラウドと言ってはいけない決まりはありません。しかし、このような曖昧な理解がまだまだ多い中、クラウドという市場を見かけの数字だけで理解しようとすることに疑問を持たざるを得ません。
 
 クラウドについては、米国のNISTの定義があります。これは、大変よく考えられており、クラウドの本質を理解する手がかりを与えてくれます。この定義につての解説は多くの方が語られていますので、ここでは申し上げませんが、私なりの理解を少しだけお話ししたいと思います。
 
 以前にもこのブログで紹介したことではありますが、クラウドとは、「無人コンピューティング環境の実現です。これにより徹底して人件費を削減し、システム資源の調達と運用コストを極限まで低減することを目的としている」ということです。
 
 この意味を理解するためには、人件費について日米の理解の違いについて知っておく必要があります。つまり、日本において人件費は固定費です。しかし、米国では変動費であると言うことです。
 
 ITのテクノロジーは日々進歩を続けています。そのためコストパフォーマンスもどんどんと改善され、ついこの前までは数台のサーバーを必要とした処理も、今では一台でも余裕でこなせるなど、当たり前のこととなっています。しかし、人件費はどうでしょうか。過去数年、あるいは十数年上がることはあっても下がることはありません。つまり、人件費を何とかしない限り、システムを所有し利用するコスト=TCOを下げることはできないのです。
 
 クラウドは、仮想化+運用の自動化+サービス化の技術や仕組みを駆使し、この人件費をなくしてしまおうという取り組みなのです。先ほども申し上げましたように、米国の人件費は変動費ですから、人を削減してこれを利用料金に反映させることで低価格のサービスを提供しようとしているのです。日本では、人件費は固定費です。ですから、技術的に追従できても利用料金に反映することは容易ではありません。
 
 クラウドの特徴を「所有から使用へ」と言われることも多いのですが、確かに結果としてそうなるのですが、これは決してクラウドの本質を説明しているものではないように思います。
 
 つまり、これは明らかに開発、保守、運用にたずさわる情報システム部門やSI事業者、あるいはサーバーを販売するベンダーの仕事を置き換えるものなのです。
 
 ユーザー企業の経営者の視点から見れば、これは大変魅力的なものに見えるでしょう。その一方で、情報システム部門の人たちからみれば、仕事を奪う対象と見えるかもしれません。SI事業者にすれば、もはや存亡の危機となりかねません。
 
 先ほどの統計の話に戻りますが、情報サービス産業全体の市場はそれほど大きく拡大するとは思えません。その一方で、クラウドの市場は急激に伸びています。しかも現状ではクラウドの理解が必ずしも厳密ではありません。いうなれば、今までの仕事をクラウドという言葉に置き換えて、数字を書き換えただけなのかもしれないということです。
 
 クラウドの本質、つまり、「無人コンピーティング環境の実現によるシステム資源の調達と運用のコストを極限にまで削減する」という取り組みは、経営上のニーズと一致しますから、間違えなく今後ともますます進んでゆくと思います。その一方で、情報システムの戦略的な活用や、ITを使った業務プロセスや環境のイノベーションへのニーズもなくなることはないでしょう。見方を変えれば、クラウドはこのような取り組みを行ないやすい条件を整えてくれることになるはずです。
 
 ITサービス産業に関わる私達は、ここにもっと関心を持つべきであり、そのための取り組みを進めてゆくべきだと思います。もはやシステム基盤はクラウドに置き換わり、コモディティ化した技術を基盤とした開発や保守は、オフショアに席を譲ることになるでしょう。そうなると、お客様の経営や業務ニーズに直接関わる業務の課題を解決することに答えを用意することしか生き残るすべはないと考えるべきです。
 
 私はNISTの定義にある厳密な意味での「クラウド」の普及を否定するものではありません。むしろ、ますます加速してゆくと思います。その一方で、市場全体が伸びていない以上、置き換えられる業務がかなりの規模で出てくることも避けられないと考えています。その事実に率直に目を向けることが大切だと思います。
 
 クラウドの本質である「無人コンピューティング環境の実現」が意味するところ、そして、それが今の自分たちのビジネスにどのように置き換えてゆくのかという現実を考えなくてはいけないときが、きているのではないでしょうか。


これ一枚でわかる これまでの強み、これからの強み
これ一枚でわかる 今、注目されるITトレンドのキーワード
これ一枚でわかる 国際会計基準(IFRS)導入の選択肢
これ一枚でわかる Lotus Notesの歴史 

・・・気がつけば32枚になりました。

このブログへご意見も、是非書き込んでください。

よろしければ、こちらからご覧ください。

2011年8月6日土曜日

「腐れ縁」という強み

 「うちの強みって、なんでしょうかねぇ・・・」

 ある中堅SI事業者の営業課長の口から、こんな言葉が出てきた。
 
 私は、強みのない会社などないと思っている。当然のことだろう、何も強みを持たないところにお客様は仕事など頼むだろうか。
 
 私は、この営業課長に、「しかし、もう20年近くA社(お客様)で仕事をされてきてるじゃないですか。」と切り返すと・・・「腐れ縁ですから(笑)」という言葉が返ってきた。
 
 「そこが強みじゃないですか!」と申し上げると、彼はきょとんとした顔をしていた。
 
 私達は、自分たちにできる技術や取り扱っている商品を引き合いに出し、それを他社と比べることで自分たちの強みを考える。しかし、このような見方をすれば、中堅・中小のSI事業者は大手SI事業者やソリューション・ベンダーに太刀打ちできるはずがない。その意味で強みがないといえば、全くその通りだろう。
 
 しかし、20年にわたるお客様との信頼関係は、どうやって築かれたのだろうか。誠実な仕事ぶり、無理を聞き、お客様のかゆいところに手が届く仕事をしてきたこと。何よりも、お客様の担当者以上に特定の業務やシステムに精通していることが、強みではないのだろうか。たとえ大手企業であろうとも、この「強み」をそう簡単に手に入れることはできないはずだ。
 
 以前、このブログで「お客様の困ったをメニュー化する」という話を書いたことがある。そこでも申し上げたが、自分のできることを資産と考えるのではなく、お客様自身を資産と考えるなら、自分たちの「強み」を違う目線でとらえることができるのではないかと思う。
 
 だからといって、現状にあぐらをかいていていいはずはない。お客様の現場を知っているが故に見えてくる「お客様の困った」や、お客様の気づいていない様々な課題をお伝えすること。そして、その解決策を提案すること。
 
 「これができるのはあなたの会社だけですよ。ほかの会社には、そう簡単にまねのできないことですよ。それが、あなたの会社の強みではないでしょうか。」
 
 もちろん、時代の潮流を読み、新しいことに果敢にチャレンジして競合優位を築く取り組みを、怠るべきではない。ただ、これを「強み」に育てることは、そう簡単なことではないことも事実である。特に体力のある大手とガチンコで勝負するとなると、これはなかなか大変なことだ。
 
 お客様の現場にいるからこそ見えるものがある。それを整理してみてはどうだろう。また、それを他のお客様を担当するチームと共有してみて欲しい。「なんだ、一緒じゃないか」ということになる。
 
 そして、これに対応すべく、それぞれのチームがお客様個別に同じようなやり方で対応していることに気づくだろう。ならば、それを会社全体で、組織的に対応できる仕組みを作ったらどうだろう。それは他の会社にも使っていただける可能性は高い。このような取り組みが、お客様の立場に立った魅力的な製品やサービスを生み出すのではないだろうか。
 
 「強み」を世の中の常識的視点(?)だけでみるのはやめにしてはどうだろう。自分たちにしかできない「強み」は間違えなくある。青い鳥の話ではないが、それはきっと自分たちの身近なところにあるのではないだろうか。


これ一枚でわかる これまでの強み、これからの強み
これ一枚でわかる 今、注目されるITトレンドのキーワード
これ一枚でわかる 国際会計基準(IFRS)導入の選択肢
これ一枚でわかる Lotus Notesの歴史 

・・・気がつけば32枚になりました。

よろしければ、こちらからご覧ください。