2010年8月28日土曜日

一匹オオカミや職人営業に未来はありません

「優秀といわれる営業は、どうも一匹オオカミで動き回る人間が多い。ほんとうにこれでいいのでしょうか?」
 ある大手SIerの人材育成担当者から、こんな話をうがいました。「優秀といわれる営業」・・・本当に、こういう営業を優秀といっていいのでしょうか?私には、合点がゆきません。

 「一匹オオカミ」とは、人の助けを借りず、自発的に行動を起こします。ベテランであり、お客様との信頼関係もしっかりとできていて、手堅く仕事を取ってきます。その一方で、部下や後輩の面倒は、あまり見ない・・・というか、未熟な連中に任せていたら効率が悪い、面倒だから自分でやってしまったほうが早い。そう考え、一人で行動する場合が多い。こんな人物像が、イメージされます。

 しかし、見方を変えれば、現実逃避の結果として、孤立している人物とも見ることができます。

 自分のこれまでの経験や人間関係に自信があり、その実績と信頼関係に頼って仕事をしている。新しい技術や社会のトレンドには関心が薄く、お客様の経営や事業戦略へのかかわりにも消極的。ただただ職人的な人間関係の寝技に頼っている。これは、自分にしかできないことと信じて疑わず、お前たちにはどうせわからないことだからと一緒に仕事をすることには消極的で、まわりからも近寄りがたい。そんな孤立した存在が、「一匹オオカミ」なのかもしれません。

 お客様との人間関係は、確かに頼りになります。いざというときにお願いすれば、「おまえが、そこまで言うならしょうがないなぁ」と仕事をくれることもあります。しかし、それは景気がいい時の話。リーマンショック以来、仕事量そのものが減少し、出せる仕事もありません。また、経営者は、少しでもコストを抑えるために、必ず複数企業との比較検討を求めるようになりました。今までの実績や信頼関係という武器が、もはや使えない時代なのです。

 オフショアやクラウドは、お客様の選択肢を多様化させ、意思決定をますます複雑なものにするでしょう。お客様自身も、提案する側も何が最適解かを見出すことが難しい時代となります。

 システムのインフラは、コモディティ化し、開発や運用には、クラウドやオフショアに置き換えるという選択肢が加わります。

 このような時代の変化の中で、お客様の意思決定の基準やそのプロセスも変わり始めています。これまでは、システム部門にゆだねていた意思決定が、業務に責任をもつ部門の影響をこれまで以上に受けるようになります。

 クラウドやオフショアの普及は、お客様の期待をシステム技術から業務への対応力へシフトさせるでしょう。

 業務分析力、業務プロセスの抽象化や企画設計の力、各種サービスの多様な選択肢の中から最適なものを選別できる目利き力、国をまたがるプロジェクトを管理できる力などが、要求されるようになるでしょう。

 このような変化に対応するためには、お客様の業務や経営、そして、最新の技術や社会のトレンド、そしてその要点を体系的にとらえ、提案に活かせる能力が、求められます。

 当然、このような提案やプロジェクトの運営は、もはや職人技を自認するベテランの営業職だけでは手に負えるものではありません。トレンドを読み、お客様を知り、プロジェクト全体を見渡し、自社や他社を問わない最適なサービスや製品、そして、人材の組み合わせを作り上げる力が必要です。つまり、一個人の知識や能力では、もはやどうしようもないのです。

 お客様個別の課題を解決する最適な組み合わせを作り上げるプロデューサーとしての能力が、求められているのです。

 営業活動とは、商品やサービスを販売し、お金を頂くことではありません。お客様の価値を高め、その価値の一部を対価として頂くことです。商品やサービスは、お金を受け取る手段にすぎないのです。

 かつては、お客様の要求に応えられる力が、重宝がられました。それがお客様の価値を高める手段でもありました。しかし、お客様自身が、解決策を模索している時代にあっては、その解決策を提案し、その解決に必要な一切をプロデュースすることが求められているのです。

 一匹オオカミや職人営業に、もはや未来はありません。過去の栄光は、勲章にすぎません。新しい時代にふさわしい「優秀な営業」とは、過去の基準での優秀ではないのです。

 また、営業力を営業職の能力ととらえるべきではないことにも気づくべきです。エンジニアも含め、会社として、組織としての営業力の在り方を模索すべきでしょう。時代は、今、そんな変化を求めているのです。

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2010年8月22日日曜日

「なんでそんなこともわからないんだ!」の非常識に気付かないあなたのために

 「なぜ、もっと早く報告しないんだ。早くわかってたら、やりようがあったんだよ。だから、こんなことになるんだ。」
 
 ベテランの営業課長が、若い営業マンを前にして、言葉を噛み殺しながらも、怒りをぶつけている。
 
 その営業課長に話を聞くと、「彼は、確かに一生懸命です。でも、ちゃんと報告しないし、相談もしない。自分で何とかしようという気持ちは、立派だけど、これじゃあとれるものも取れませんよ。」
 
 つづけて、こんな話もしてくれた。
 
 「どうも、最近の若い者は、覇気がなくていけない。確かに、忙しく仕事はしていますよ。遅くまで仕事をすることもいとわないし、よく頑張ってると思う。でも、チャレンジしないというか、自分から進んで新しいことをしない。私の若いころはねぇ・・・」。
 
 こういうマネージャーが、部下の成長を阻み、組織の活力を殺いでいるんだなぁと思わずにはいられない。
 
 彼には、次の3つの点で自覚が足りない。
 
 1.報告しないのは、部下の問題と考えていること。
 2.チャレンジしないのは、世代の問題で、自分の問題ではないと考えていること。
 3.「頑張っている」、「忙しい」は、仕事が多いからで、別の意味があるとは考えていないこと。

 
 この思い込みが、問題なのだが、それに気づいていない。部下は、次のように言うだろう。
 
 「報告しない」のは、報告をしたくないから。
 
 ・報告をしても、結局は、自分のやり方を押し付けられる。
 ・こちらの話は、途中までしか聞かず、こうやればいいと指示される。
 ・日報やレポートを提出しても、まともなコメントなど返ってきたためしがない。
 
 チャレンジしないのではく、チャレンジしても無駄だと考えている。
 
 ・いつでも相談できる、助けてくれるという安心感がない。
 ・頑張れ、自発的にやれとは言うが、失敗は、許されない雰囲気がある。
 ・結局は、自分のやり方の枠に当てはめようとする。それ以外のことは、そんなことは言ってないぞと、はしごを外される。
 
 忙しいから「頑張っている」わけではない。忙しいふりをしているだけ。
 
 ・ちゃんと仕事をしています。余計な仕事をふらないでくださいね・・というメッセージ
 ・忙しくすることで、仕事をしている気持になりたい。自分を正当化したい。
 ・自分のことに没頭していたい。余計な干渉は受けたくない。
 
 マネージャーには過去の成功体験がある。自分はそれでうまくやってきた。誰に教えられたわけではない。自分で苦労して見出してきた。なぜそれができないんだという気持ちであろう。そんな思い込みが、部下の意欲をそいでいるという事実に気が付いていないようだ。
 
 プレーヤーとして優秀だから、マネージャーとなった。まだ未熟だから部下である。その視点が欠けているようだ。
  
 部下を自分の基準で評価し、できていないことを指摘し、「だからだめなんだ」と考える。減点型のマネージメントスタイルである。
 
 また、時代も違うことにも気付いていない。景気が良い時代は、お客様に足繁く通い、顔を覚えてもらい、要求には応え、トラブルにも直ちに対応する。そうすれば、仕事がもらえる時代だった。それができることが優秀であった。これもまた、間違えなくその時代の成功体験である。
 
 しかし、今は、それでは仕事は手に入らない。お客さまは、「今までのお付き合い」だけでは、発注はしてくれない。なからず、複数社との比較検討を求められる。その相手は、国内とは限りない。オフショアも同じ土俵の上にいる。もはやかつての成功の方程式は、通用しなくなっている。
 
 こんな現実に目をつむり、自分の過去の成功体験をいまだに金科玉条のごとく掲げ、その成功体験を基準にしているようでは、新たな成功を見出すことはできないだろう。
 
 部下の能力や今までの実績。あるがままの本人を基準にし、「彼にしては、よくやっているなぁ」、「こんなことができるようになったんだ」、「こんなことが得意なんだ」という視点を持つ。良いところ、成果を評価する。これが、加点型のマネージメントスタイルである。
 
 減点型のマネージメントスタイルを改め、加点型のマネージメントスタイルに転換する。これが、部下を活性化させる起点となるだろう
 
 また、自分の成功体験は、自分の名誉であり、歴史であり、自信として、心に刻むことである。ただし、その方法論は、もはや通用しないということも自覚すべきである。だからこそ、部下と一緒になって、どうすれば新しい成功体験ができるかを真摯に考えてみてはどうだろう。それを分析し、整理し、自分の言葉に置き換えて語ってみる。
 
 一生懸命だが、整理できない。そこに混乱や不安がある。マネージャーは、そんな彼らの言葉を第三者として冷静に聞き、整理をする。それができれば、部下はきっとあなたの言葉に耳を傾けてくれるだろう。
 
 マネージメントとは、技術者がそうであるように、専門のスペシャリティが必要だ。過去の経験の延長線上で、できるものではない。自分がその分野では、まだまだ素人であるということ。新しい時代となり、成功の方程式が変わったということ。その前提に立って、謙虚に学ぶべきである。
 
 その教師は、書籍や研修ばかりではない。今あなたの目の前にいる部下もまた、今の時代の教師である。彼らの話に真摯に耳を傾け、謙虚に質問する。日報にも真剣に自分の考えや意見をぶつけてみる。そうすると、部下も報告や相談を進んでするようになるだろう。
 
 一生懸命話を聞いてくれる人が、そこにいる。相談に乗ってくれる人がいる。そんなセーフティネットが、部下にチャレンジの意欲を与え、潜在力を引き出し、活力ある組織を生み出してくれるはずである。

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2010年8月14日土曜日

必ず失敗する「動機付け」の方法

 「斎藤さん、営業のモチベーションを高めるためにコミッション制を導入しようと思うんだけど、どうだろうか?」

 あるSIerの社長から、こんな相談を持ちかけられた。私は、これに次のように答えた。
 
 「多分、効果はありません。本質は、そんなところにはないと思いますよ。」
 
 私は、IBM時代、コミッションこそ、営業のモチベーションを高め、維持する最良の手段だと信じてきた。事実、私もそれを励みに、必死で成果を上げることに情熱を傾けていた。しかし、このやり方は、日本の多くの企業には、なじんでいない。また、昨今のビジネス環境の変化も、このような手段では、人の意欲を高めることにはつながらないことを実感している。
 
 “ダニエル・ピンク 「やる気に関する驚きの科学」”という記事の紹介が、Twitterのタイムラインに流れてきた。これを見て、なるほどと合点がいった。彼が言うには、「何かを達成したら報酬を与えるという外的な動機づけが、意欲を高めるという事実はない。人は、自発、成長、目的という3つの内的動機づけによって、やる気を起こす。」と語っている。彼は、いくつかの心理学実験のデータと実際の事例を示しながら、その事実を説明している。
 
 彼の見解は、私の実感とも一致する。私の研修でも、表現は違うが、まさに同様の話をしている。改めて、どうすれば営業の意欲を高められるのか、整理してみようと思う。
 
 彼も指摘していることだが、「何かを達成したら報酬を与えるという外的な動機づけが、意欲を高める」という事実は、ある条件下では成立する。例えば、業務の手順が比較的単純であるか、ルーチンワークで、生産性向上のためのスキル習得が、比較的容易な場合である。このようなケースでは、努力が成果に結びつきやすい。目的を達成するためにどうすればいいのかが明確であり、その目的を達成したときの報酬が約束されている場合は、この外的動機づけが、機能するようだ。
 
 しかし、ソリューション・ビジネスのような複雑な仕事では、そうはいかない。
 
 ソリューション・ビジネスとは、お客様ごとに異なる課題を解決するために、サービスやプロダクトの個別の組み合わせを提供するビジネスである。お客様の課題発掘から始まり、成約に至る道のりは、単純な道のりではない。お客様毎に異なる課題、かかわる組織や人の多さ、解決のための選択肢の多様さと組み合わせの複雑さ、計画通りに進むことなど決してないだろう。
 
 このような、仕事にかかわるものに「目標を達成したら報酬」という外的動機づけを与えても、「さて、どうしたものか。成果報酬はありがたいが、どうやって結果を出せばいいのか、その道筋か見えない。努力すれば何とかなるわけでもない。」となるだろう。これでは、成果報酬は、むしろ負担になる。つまり、成果を出さなければ、報酬がもらえないとなると、報酬の見通しが立たないことが、不安となり、むしろ心の足かせとなる。意欲を高めようと思ってしたことが、裏目に出てしまうことになる。
 
 では、どうすればいいのか。彼のいう、「自発、成長、目的」を導く手段を提供すればいいということになる。
 
 前回のブログでも申し上げたように、人は自分の行っている仕事の意味や目的を理解したいと思っている。それを見出した時に、ひとは自発的に行動を開始する。しかし、そこをなかなか見いだせずに、悩むことも多い。
 
 部下がこのような状況であるにもかかわらず、成功者たる優秀なマネジャーの中には、仕事の手順やその意味を伝えることをせず、「俺はなあ・・・」と自慢話を披露し、ただただ本人の自助努力を求める。
 つまり、自分の成功体験を分析的に、手順として、わかりやすく部下に伝える術を持たないのである。そのため、勢い、精神論や根性論で、部下を威圧し、本人の努力不足を指摘する。しかし、それは、自分の成功方法を分析し、わかりやすく伝えることを怠っているマネージャー自身の努力不足ではないか。
 
 成功の手順をプロセスとして整理し、それを具体的に示すことができれば、部下は、自分の行っている仕事のプロセスと比較し、何ができていて、何ができていないかに気付かされる。
 「できていないプロセス」の存在に気付けば、そのプロセスを実行しなければならないと思うだろう。まさに、自発的行動を促すことになる。
 
 「何でやらないんだ!」といわれても、何をやればいいのかわからない本人にとっては、マネージャーの言葉は、威圧であり、不安を高めるもの以外の何物でもない。むしろ、成功のプロセスを示し、「何ができていないと思う?」と聞いてみる。そこに気付けば、これを解決しなければと意欲を持つことになるだろう。
 
 自分のやるべきことを自覚し、「なんとなく」では、「なぜならば」を理解した上での行動は、本人の意欲を高めることになる。目的意識とは、こういうことを言うのだろう。
 
 プロセスを知識として理解した行動は、実践を通して、習慣となり意識せずとも行動できるようになる。改めて明示されたプロセスを振り返った時、かつて自分ができていなかったことが、自然とできるようになっている自分に気付くだろう。ここに成長の喜びがある。
 
 「自発、成長、目的」という内的動機づけは、仕事をプロセスとして分析的にとらえ、それを共有できることが、基本である。
 
 さて、もうひとつ欠かすことができないのは、このような行動を促す、組織としての仕組みであり、マネージメントのスタイルである。こちらについては、次回のブログで詳しく説明しよう。 

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2010年8月7日土曜日

共通の言語を持たないマネージャーと部下の不幸

 営業マネージャーと部下との関係で不幸なのは、仕事について語る共通の言語を持たないことである。 

 部下は、マネージャーに何とかわかってもらおうと、背景や経緯とともに、案件の進捗や課題を説明しようとする。それを聞いたマネージャーは、そのまどろっこしい説明に業を煮やし、「要はなんなんだ。もっとわかりやすく説明しろ!」と声を荒げる。

 その声に語る言葉を失った部下は、どうしたものかと途方に暮れつつも、表現を変え、視点を変えて、なんとか必死にわかってもらおうと努めるが、「だから何なんだ。つまりだな、こういうことなんだろ。」とマネージャーの一方的な要約と解説に、本心や事実に反していても、「そういうことです。」とそれ以上の言葉を失ってしまい、この説明に終止符を打つことで決着をつけてしまう。 

 マネージャーは、部下の無能力を嘆き、部下は、マネージャーのものわかりの悪さに落胆する。なぜこんなことになってしまうのだろうか。 

 営業マネージャーは、プレーヤーとして優秀だからマネージャーとなった。彼は、営業としての成功体験を持ち、どうすれば、売れるのか知っている。自分なりのあるべき姿を持っている。彼は、そのあるべき姿に照らし合わせて、部下の話を聞こうとするのだが、それは未熟であり、その要領の悪さが、納得いかない。

 また、彼は、自分の営業スタイルや手法を持っている。しかし、それを相手に伝える術を知らない。つまり、自分がなぜ成功したのかを分析し、それを相手にわかるように整理できていないのである。勢い、精神論や根性論となり、「なんでそんなこともわからないんだ!」といった説教になってしまう。 

 わからないから部下であり、分かっているからマネージャーとなっている。その当たり前の現実が、見えていないようだ。 

 彼らは、ともに表向きは、日本語を使ってはいるのだが、仕事のことになると、どうもお互いに異国の言葉で語り合っているかのようなものである。 

 仕事を組織として効率よくすすめ、部下を育てることは、マネージメントのミッションである。ならば、自分の成功体験を分析的にとらえ、どうすればわかりやすく相手に伝えられるかを考えておくことは、基本的な仕事であろう。

 部下の話を聞くときに、整理した仕事の手順を示しながら、今どこまでできているのか、次に何をするのかを、分析的に整理し、部下の発言を誘導する。部下も、会話にフレームワークが与えられれば、話もしやすく、要点も絞り込んで、発言できるだろう。

 しかし、その手間を惜しみ、「なんでわからないんだ」と自分の考えを一方的に押し付ける。そして、「しょうがない、俺が行く」と自らお客様の現場へ行くことを宣言する。それはそうだろう。そっちのほうが楽である。自分は優秀なプレーヤーであるから、慣れない仕事をするよりも、要領は心得ている。しかし、それでは部下も育たなければ、組織力も活かせない。 

 営業力の強化の必要に異を唱える人は少ないだろう。しかし、その対策として、マネージメントと部下の言葉の断絶解消に関心を持つ向きは少ないように感じている。そんな取り組みをないがしろに、プレゼンテーションやコミュニケーションのスキル、あるいは、製品や技術についての知識を増すための研修に時間を割いている。しかし、それだけでは、決して営業力の強化にならないことに気付いている人は少なくはないだろう。 

 私は、営業力強化の大切な要素として、営業という仕事を見える化することであると考えている。営業活動のあるべき姿を分析し、プロセスに分解する。そして、体系的に整理する。そうすれば、自分や部下の仕事を客観的にとらえることができるようになるはずだ。

 営業という仕事の手順が見える化されれば、今何をしているのか、どこでつまづいているのか、次に何をすればいいのかをマネージメントも部下も共通の基準で、会話することができる。また、部下も自分のしている仕事の意味を理解することができ、仕事への意欲を見出すことができるようになる。

 営業活動プロセスとは、マネージャーと部下が仕事について語り合う、共通の言語だ。これを持つことが、部下とのコミュニケーションの断絶を解消し、組織力としての営業力を高めてゆく基盤になるのではないだろうか。

 
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2010年8月1日日曜日

「営業なんだから、しっかりやってくれよ!」という責任放棄

 「営業なんだから、しっかりやってくれよ!」
 
 あるSIerの営業会議で、そんな声が響く。大丈夫と踏んでいた案件失注の報告を担当営業より受けて、怒り心頭に発した営業部長の声は、抑え気味ながらも、ドスが効いていた。
 
 私は、この案件について、以前より担当営業から話を聞いていた。そして、きっとだめだろうなぁと思っていた。その理由はいろいろある。担当者の言われるがままに、資料や見積もりを出しているだけ。意思決定者に行き着いていない。競合の有無もわからない・・・にも関わらず、「頑張ります!」と言ってしまった手前、引っ込みがつかなくなり、営業部長に無用な期待を持たせてしまったようだ。
 
 私は、彼にまずは、フォーキャストの確度を下げることと、以下の3つの点を確認するようにアドバイスした。
 
 ・いつまでに意思決定するつもりなのか
 ・意思決定の基準は、価格なのか、内容なのか、何をクリアすれば、採用されるのかを確認する
 ・よりよい提案をさせていだくためにユーザー部門の責任者に合わせてほしいと依頼する 
 
 ・意思決定の期日については、すんなりと教えてもらえたようだ。しかし、これだけの案件にしては、期間が短すぎる。
 ・意思決定の基準については、価格も内容も両方という、あいまいな回答。
 ・ユーザー部門の責任者に合わせてほしいというと、自分にまかされているから、その必要はないと断られた。
 
 その報告を受けて、これは当て馬ですよと、お伝えした。この会社から購入する意思はない。しかし、手続き上、あるいは、本命との駆け引きの材料として使われているだけだろうと合点がいった。
 
 とにかく、その窓口の人だけではなく、他の人にそれとなく聞いて御覧なさいと促したところ、予想通りだったとの報告。先に勧めたフォーキャストの確度を下げるとについては、頑張るといってしまった手前切り出せないまま確認を先行することにしたそうだが、結果はこのとおり。結局、部長の期待を大きる裏切ることになって、怒りが倍加してしまったようだ。
 
 営業の現場にいると、このような状況は、日常茶飯事だ。なぜ、おかしいぞ、何か裏にありそうだと、感じないのだろうか。彼なりに言い訳もある。それは、エンジニアから営業になって間がないからスキルがないというもの。しかし、そんなことは、営業職であろうが、エンジニアであろうが、お客様を相手にする仕事である以上、基本として持つべき感性ではないかと思う。
 
 営業部長にしても、なぜこの状況を見抜けなかったのかと思う。あたりまえの確認を怠り、部下の報告を自分の都合のいいように解釈し、あるべき論と精神論を語るだけである。そして、部下を指導し、励ましたつもりになっている。部下を叱るのは、お門違いだ。自分の無能を嘆くのが先ではないか。
 
 営業力を強化しなければならないというSIerの経営者は多い。そして、その施策の多くは、エンジニアを配置転換し、営業の肩書を与えることだ。そして、「きょうから、あなたは営業だから頑張ってくれ、期待しているよ」と言う。以上である。これで営業力を強化したことになるのだろうか。
 
 営業力というと、多くの人は、「営業職の人の能力」をイメージするだろう。しかし、わが国のSIerの現実を見ると、実際に営業が案件を取ってくるというより、お客様を担当するエンジニアが、仕事を取ってきて、その後始末の事務処理を担当するのが、営業である場合も多い。
 営業は新規顧客の獲得を期待される場合も多い。これは相当に大変なことで、経験やスキルだけではなく、何を売るか、そして、魅力的な提案なくして、きっかけさえつかめない。それを「営業だから」という理由だけで、期待され、任され、自分もそう思って戦いに挑むが、見事に撃沈する。営業は、なかなか成功体験を得られず、モチベーションを下げ、売り上げに直結する既存案件の事務処理に時間を割くようになる。そして、そちらが忙しいからと言い訳し、新規顧客開拓への機会を作ろうとしない。そんな悪循環が生まれている。
 
 このような状況の中で、いくら営業職を鍛え、鼓舞しても、ビジネスを拡大することはできないだろう。営業職の人間を増やすだけでは、営業力の強化などできるはずないのだ。
 
 私は、「営業の仕事」と「営業職の仕事」を分けるべきと考えている。「営業の仕事」は、全社を挙げて取り組むべきものである。特に、わが国のSIerは、エンジニアがその役割の多くを担っている。それが、良い悪いという議論ではなく、この現実をうまく活かしてゆく道を探るべきではないのか。
 
 営業の仕事は、精神論や感性だけでこなせるものではない。営業活動はエンジニアリングできるものであり、プロセスとして整理できる。これは、むしろエンジニアの感性に受け入れられやすい。また、お客様の課題を発掘し、案件に結びつけるには、技能と知識が大いに助けになる。それは、営業職だけが必要なものではなく、エンジアも含め、会社全体として、その能力を高めてゆくことこそ、営業力の強化なのではないかと思う。
 
 会社として、この能力を育てることもせず、営業職という肩書を与え、あとは本人の自助努力に任せるだけでは、営業力の強化などできるわけがない。これでは、まるで、「営業職への配置転換」という体のいいエンジニアのリストラではないか。
 
 「営業職の仕事」ではなく「営業という仕事」ととらえ、営業もエンジアも含めた、会社としての総合力としての営業力をどのように高めてゆくのか。そんな視点での取り組みを始めてみてはいかがだろう。

 
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