2010年11月27日土曜日

邪魔な上司にならないための3箇条

 「ああ、めんどくさい。課長に説明すると、また余計なことを言われそうで、めんどうだよなぁ。」

 あなたは、部下に、そんなことをささやかれてはいませんか。

 部下を持ったからと云って、その瞬間にあなたの能力が、一気に向上するわけではありません。「プレーイング・マネージャーとして、頼むよ」を期待され、よぉーしと気合いを入れて、意気込むのは良いのですが、今までの仕事が、大きく変わることはなく、「マネージメント」という仕事が、追加されるに過ぎないのです。

 昇進は、評価されていることの証です。それはそれで、うれしいことですが、「マネージメント」という仕事への期待に応えなくてはなりません。

 プレーヤーとして、優秀であったあなたが、昇進するのはだれの目から見ても、当然です。だから、それを周りも受け入れ、頑張れと励まし、期待を寄せてくれるはずです。では、どうすれば期待に応えられるのでしょうか?

 自分のやってきたことは、自分でわかっています。どうすれば、お客様の課題に迫ることができるのか、どうすれば、お客様と親しく会話できるのか、どうすれば、お客様を説得できるのか・・・あなたは、それを体で知っています。そんなあなたから部下を見ると、なんて要領が悪いんだと思うでしょう。そして、「何でそんなことが、できないんだ!」と自分を基準に部下を評価してしまう。そんなことはありませんか?

 部下の成長は、チームの実績に直結しています。だからこそ、彼らがパワーアップしてほしいと思っています。しかし、ついつい、「こうしなきゃだめじゃないか!」、「とにかく、俺の云うとおりにやっておいてくれ!」、「なんで、何回云っても分からないんだ。」と嘆きや怒りをぶちまけて、部下を萎縮させてはいませんか。

 優秀だからあなたはマネージメントを任されている。未熟だからあなたの部下なのです。そんな当たり前を忘れてしまい、優秀な自分を基準にして、部下を評価しませんか。優秀な自分を基準に、部下の至らなさを減点し、だからだめなんだと評価してはいないでしょうか。部下には部下の精一杯があります。そんな彼が、自分の精一杯を発揮し、新しいことができたとすれば、それを評価する。そんな加点型で部下を見ることはできないでしょうか。

 あなたには、成功体験があります。それは、あなた自身の体が感覚的に知っていることです。しかし、なぜ自分は成功したのかを分析的にとらえ、それを手順として整理し、わかりやすく説明できますか。その努力を怠り、「もういい、こうすればいいんだ。この通りやっておけば、絶対うまくいく。とにかく、俺の云うとおりにやりなさい!」と逃げてはいないでしょうか。

 人は、教えられたら学ばないものです。やれと云われれば、やりたくないものです。それは、あなたもご存じのはずですよね。でも、そうしちゃったほうが、余計なことを考えなくて良いから、楽ちんですよね。あなたは、そんな手抜きの達人なのですか。

 マネージメントの役割は、たった3つだけです。

 まずは、部下のモチベーションを維持すること。いま本人がやっていることの目的や価値を理解させること。それが、本人の成長にどれだけ意味があるかに気づかせることです。そして、進んでやろうとする気持ちを引き出します。そうすると、部下は、その仕事を楽しめるようになります。
 
 箸の上げ下げまで細かく指示することは、「あなたがいうことは正しいとは思います。でも、私には私のやり方があるんですよ。」という反発をいだかせるだけです。
 多少の失敗も本人の勉強です。そう思って、目的と期待する結果を示し、後は任せてみてはどうですか。きっと、本人は意気に感じて、自分で工夫する。思わぬ力を発揮するかもしれません。それを評価してあげましょう。その潜在力を引き出すことこそが、マネージメントの最大の役割ではないかと思うのです。

 次に必要なことは、通訳者としての役割です。経営者の方針、会社の施策をわかりやすく現場に意訳して、説明してあげる仕事です。図解するのもひとつの方法かもしれません。経営者の言葉や会社の施策は、その背景や歴史、社会の動きが分かっていないと、その言葉だけでは、本意をつかみにくいものです。それをわかりやすく解説し、現場の意識や理解に、同じベクトルを与えることは、マネージメントの大切な役割と言えるでしょう。それができなければ、組織はバラバラになり、組織全体のエネルギーを同じ方向に向かわせ、最大の力を発揮することができません。その通訳の役割をマネージャーは担っているのです。

 最後は、今の方向とは反対向きの通訳としての役割です。現場の状況やニーズ、お客様の反応や意向を、あなたの上司や経営者に伝えることです。現場に足繁く通う経営者であっても、日常のオペレーションで、現場に接しているわけではありません。また、財務や経営に関わる様々な重責を担う経営者は、現場へ目を向ける機会をなかなか持てずにいるはずです。だからこそ、彼らに理解できる言葉で、簡潔明瞭に本質を伝えることで、現場に近い感性を与え続けることも、マネージメントの役割と言えるでしょう。結果は、お客様の満足度を高めることになり、自分たちも仕事がしやすくなるはずです。

 「そんなことをおっしゃいますが、日々雑務に追われ、余裕なんてありません。プレーイング・マネージャーとして、お客様も担当しているし、簡単じゃありませんよ。」と本音が聞こえてくるようです。

 そうなんです。「プレーイング・マネージャーという言訳」には、なかなか説得力があります。経営者にしてみても、優秀な営業をお客様から引きはがすには、リスクがあると云うことで、かっこいいカタカナ言葉で、その気にさせているわけですから、そうじゃないとは、云いにくいものです。

 残念ながら、これについての正解はありません。あなたが、今の自分をどう位置づけ、何を重要と考えて優先順位をつけるかは、ご自身で判断してください。

 ただ、これだけは覚えておいてください。本来マネージャーは、部下と対立する関係にあってはいけない存在です。先に述べました3つの役割も、マネージャーは、部下のサポーターであり、スポンサーとして、彼らの自発性と潜在力を引き出す役割を担っています。しかし、プレーイング・マネージャーの不幸は、自分も部下と同じプレーヤーであり、競争し、対立する存在であるという事実です。この相反するふたつの役割をあなたが担っていると云うことです。

 これを整理できないまま、ふたつの立場を混在させたまま、マネージャーの役割を果たすことはできません。部下から見ると、それは「ぶれている」とも見えるでしょう。プレーイング・マネージャーをやめてしまえ!などと云うことは許されないでしょう。だから、今自分は、どちらの立場にいるのかを意識し、その時々の役割に準ずるしかないように思います。

 これができないと、部下は、あなたを邪魔な存在と見なしてしまうでしょう。なんと言っても、自分のライバルですからね。そんな相手が自分の上司なんて、納得できないのは当然のことです。自分の仕事の邪魔をしないでください、成長の邪魔をしないでくださいと・・・

 邪魔な上司にならないためには、今あなたができることは、自分の役割を正しく理解することです。そして、その自覚を持って、ひとつひとつの場面をこなしてゆくことかもしれません。

2010年11月21日日曜日

【図解】営業マネ-ジメント・サイクル

「営業活動は、一人でやるものではない。」
 
 何を当たり前なことをと思われるかもしれないが、改めて現実を見てみると、この当たり前が、意外と実行に移されていないことに気づかれるだろう。
 
 優秀な(?)営業が、一匹狼で、職人技を駆使して、お客様との関係を構築し、仕事をとってくる。組織も、そういう人間を頼りにし、仕事を任せている。
 営業力がないことを個人の能力のなさと考え、営業スキルと称して、プレゼンテーションや交渉術を身につけさせようと考える。
 営業会議は、数字の集計と確認に終始し、何でやらないんだと恫喝され、頑張れと励まされ、「営業というものはなぁ・・・」とありがたい上司のお言葉を拝聴する。
 
 いずれも、営業力は個人力という前提である。結局は、個人の自助努力に期待し、その意欲や能力を高めることが、営業力の強化であるとの暗黙の了解の上で成り立っている。
 
 このブログでもたびたび申し上げているが、営業力は組織力である。
 これまでにもまして、お客様の期待や解決策の選択肢が多様化する時代にあって、これが最適という答えを見いだすことは、容易ではない。お客様も売る側も最適解を予め用意しておくことは難しい。お客様と一緒になって解決策を作り上げる。そんな営業力をお客様は期待しているのではないかと思う。
 
 もちろん個人力の大切さを否定するつもりは毛頭無い。ただ、その力に頼った営業力では、どうしても限界がある。この現実を打ち崩し、組織としての営業力を引き出し、お客様に最大の価値を提供するためには、営業個人と組織を連携させるための仕組が必要だ。そのためには、「個人と組織を連携させるマネージメント・システム」に目を向ける必要があるだろう。
 
 営業のマネージメント・システム・・・これを考える上で、参考になる資料を紹介しよう。
 
 「【図解】営業マネージメント・サイクル」である。

  以前にも紹介したが、「ソリューション営業モデル研究会」なるものを立ち上げて、ちょうど1年になるが、発足当初より、そのメンバーとして一緒に活動しているキヤノンITソリューションズの永田さんが、おもしろい資料をまとめてくれた。
 
 “複雑に見えるものは何かが間違っている”が、彼のモットーだそうだが、まさに一目瞭然のチャートに仕上がっている。余計な、解説は不要だろう。ご覧頂けば、その意味をご理解いただけるものと思う。
 
 彼の言葉を借りれば、「社内の営業プロセスの整備がうまく進まない最大の理由は、営業マネジメント・プロセスがうまく機能していないからではないか」と考え、そのあるべき姿を図表にまとめたそうである。さて、みなさんは、どのようにこの資料を受け取られるだろうか。 

2010年11月13日土曜日

【コメントを追加しました】対策投資と戦略投資:クラウドを武器に企業の意識改革を迫る

 「企業利益が、リーマンショック以前の水準に戻ったとの報道もあるが、どうも実感がわかない。みなさんは、どのようにお感じですか?」

 毎週水曜日の夜に開催している「ITソリューション塾」で、ある大手ソリューション・ベンダーの営業の方から、そんな問いかけがあった。
 
 この塾には、大手中小を問わず20名ほどのIT企業の営業関係者が参加をしているが、一同を同じような感触を持っているようだ。
 
 いろいろと理由は考えられるが、そのひとつに企業が内部留保金の積み上げを拡大していることが考えられる。
 
 資本金10億円以上の大企業を対象とした財務省の「法人企業統計」によると、内部留保金に該当する利益剰余金と資本剰余金は、合計227兆円となり、10年間で74%も増えている。つまり、投資できるはずの資金を投資に使わずため込んでいるわけで、空前の金余り状態と言っても過言ではない状況が生じている。*この内容が誤りであるとのコメントをいただきました。下記、ご参照ください。2010/11/17更新*
 
 これでは、いくら利益が出てもそれが新規投資に向かないわけである。景気動向の先行き不安が未だ払拭されない中で、このような経営心理が働いているのだろう。当然のことながら、このような状況では、ITへの新規投資にも消極的にならざるを得ない。「景気がもどりつつあるという実感がわかない。」という背景には、このような理由があるのかもしれない。
 
 また、「情報システム部門の予算の7割が保守や運用などのコストであり、新規開発投資は3割に過ぎない。」という話を前回のブログで紹介した。この高コスト体質の情報システムの現状を見直そうという動きが多くの企業ですすんでいる。これは、情報システムだけの問題ではないが、企業統合による経営の効率化と合わせ、情報システム統合プロジェクトが、大手金融機関を中心に盛んである。
 
 この動きは、情報システム機器や開発要員と言ったIT企業への需要を拡大するが、一時的なものである。本質的には、標準化の推進、システムの統合、運用の自動化や簡素化といった、IT需要の拡大を抑制する取り組みである。
 
 内部留保金の積み増しによる新規投資の抑制に加え、中長期的な情報システム需要の低減に向けた動きは、たとえ我国の経済指標が改善しても、ITの需要拡大には、ストレートに反映されることはないだろう。
 
 もうひとつ考えておくべきは、我国企業の情報システム投資に関する目的意識が、対策投資を重視する傾向にあることだ。
 
 情報システムに限った話ではないが、我国企業は、意志決定に際して「失敗をしてはいけない」という基準が、大きく影響している。失敗することは、減点であり、出世の妨げになる。これは、ある意味、日本の伝統文化のようなものでもある。この結果、リスクを伴う新たな事業分野への参入、利益拡大にむけた体質の強化や仕組作りなどの戦略投資に対しては、どうしても慎重になる。この傾向は、短期的な収益を優先しなくてはならない資金余力に乏しい中堅中小企業にとっては、なお一層のことである。
 
 このメンタリティは、決してネガティブな側面ばかりでもない。高品質(時には過剰とも言える)を生み出す意識とも同根のものであろう。しかし、その反面、高コスト、機動力の低下などネガティブ側面も否めない。今のような社会的なパラダイムが大きな変革を求めている時代にあっては、これが、競争力の足かせになることもあるだろう。
 
 日本の企業は、伝統的に組織としての団結力が強い。従って、組織内の縦のキャリアパスが正当なものと受け入れられている。米国のように他の企業に移って出世するなどという横のキャリアパスは、心情的に受け入れがたいものがある。従って、社内の縦組織の中で成功することを目指すことになるが、その条件は、「失敗しない」ことである。言い換えれば、「スモール・スタート」、「リスクは犯さない」ことが大切なのである。このようなメンタリティは、徐々には変わりつつあるとは思うが、簡単にはなくなるものではないだろう。
 
 ここにおもしろい調査がある。「クラウドへの投資目的、日本は「コスト削減」、他国は「戦略的投資」」というものだが、なるほどと合点がゆく。クラウドの利用にも、同様の意識が働いているのかもしれない。
 
 この記事にあるような「コスト削減」に加え、「法令・規制への対応」、「業務内容の変更への対応」などという対策投資は、取り組まざるを得ないことである。しかし、新しい事業分野への進出や事業構造の変革などの取り組みにITを積極的に活用するといったと戦略投資については、意志決定に大きなハードルが立ちふさがっているようだ。
 
 ただ、我国企業が、グローバルな市場で競争力を取り戻すためには、この戦略投資が不可欠である。対策投資を重視するあまり、こちらへの投資を怠れば、競争力が相対的に低下することは避けられない。
 
 私は、そんな戦略的投資を促すひとつの手段として「クラウド」は、有効ではないかと考えている。失敗しても、所詮「クラウド」である。初期投資は少なくてすむ。いつでも、手放すことができるし、リスクも限定される。大きな失敗は回避され、減点も少なくてすむだろう。「スモール・スタート」には、うってつけの手段である。ちょっと、へそ曲がりな提案かもしれないが、我国企業のメンタリティを考えれば、現実的なアプローチかもしれない。
 
 クラウドを「コスト削減の手段」ととらえるだけではなく、戦略投資の武器として考える。ITベンダーは、そんな視点を持って、お客様にその価値を訴えてゆくというのはどうだろう。内部留保金という、巨大な金庫をこじ開けるきっけになるかもしれない。

*追加のコメント(2010/11/17更新)*

 本記事に対して、知り合いの会計士の方から次のようなご指摘がありました。
このご指摘には、「内部留保金」についての、私の解釈が誤りであること。また、世間でも同様の解釈があることを指摘されています。

 加えて、今の我国企業の経営努力の実態をこの「内部留保金」に絡めて説明されています。

このコメントは、大変示唆に富むものであり、一連のメールでのやりとりをそのまま転載させていただきます。

ご指摘のメール----------------------------

斎藤さん、

「資本金10億円以上の大企業を対象とした財務省の「法人企業統計」によると、内部留保金に該当する利益剰余金と資本剰余金は、合計227兆円となり、10年間で74%も増えている。つまり、投資できるはずの資金を投資に使わずため込んでいるわけで、空前の金余り状態と言っても過言ではない状況が生じている。」の部分は正しくないのではないでしょうか。

日本共産党も同じ間違いをし続けていて、
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik09/2010-02-09/2010020901_04_1.html
識者から指摘を受けても一向に主張を曲げないというか、正さない、政治家にあるまじき確信犯なのですが、内部留保は資金調達サイド(貸方)の数値であって、資金運用・資金投入サイド(借方)の数値ではありません。したがって、この数値の大小とIT投資の増減に直接の関係はありません。

原則として、利益剰余金は、これまでの稼ぎからこれまでの配当を差し引いた残余です。また、資本剰余金はこれまでの増資額(=資本取引)のおよそ半額です。(なお、通常、資本剰余金は内部留保に含まれないのじゃなかろうかという気もします。)これらの金額が積み上がっているということは、日本企業がより多く稼ぎ、より配当を増やさず、より増資による資金調達をし、あるいはM&Aで大きくなってきたか、の履歴です。で、その結果できた資金を、現金のままとってあるのか、投資あるいは費用として使ったかは、別問題です。

ちょっと古いデータですが、利益剰余金の積みあがり傾向とは関係なく、むしろ若干反比例的に、日本企業の現金残高は長期安定、微減傾向にありました。
http://bit.ly/94qZlo
あくまで推測ですが、背景として、より強い企業が生き残り、より稼げる環境を先行確保して内部留保を高める過程で、脱落企業が淘汰され、日本における企業数が減少傾向にあることや、個別企業でもメインバンクに無理やり多めに貸し付けられて余計な定期預金を組まされるような取引慣行がほぼなくなったこと、あるいは連結経営が進んで、グループキャッシュマネジメントがより効率的になってきたことなどが背景にあるのではないかと推測しています。

なお、リーマンショック後生き残った会社は現金をより積み上げる傾向にあるため、直近の統計であれば現金残高はやや上向き傾向にあるのではないかと思いますが、いずれにしても内部留保と同額の現金を「貯め込んで」いるようなことは決してありません。

返信のメール ----------------------------

Sさん

斎藤です
ご指摘感謝します

なるほど、勉強不足です お恥ずかしい限りです。
ありがとうございました。

ご指摘いただいたことに関連して、教えていだきたいのですが、IT投資意欲を抑制する何らかの経営的モチベーションが働くとすれば、どのような財務会計上、あるいは、管理会計上の指標が、効いてくると考えられるでしょうか。

もちろんこのような視点からだけで、投資抑制の要因を判断することはできないと承知しておりますが、お客様をデータで理解しようとするとき、何らかの目安になればと思うのですが、いかがでしょう。

回答のメール ----------------------------

斎藤さん、

 財務会計または管理会計の指標でIT投資意思決定を左右するようなものがあるかと問われても、IT以外の投資意思決定と大きく異なる指標はちょっと思いつきません。

 通常IT投資は本業をサポートするものであって、それ自体が売り物になるわけではないので、まずは本業が儲かっていて、その儲かりのスピードを上げる余地、あるいは競合他社に圧倒的な差をつける余地が、IT投資によって生まれるかどうか。または、本業は儲かるかどうかスレスレだが、IT投資を通じて本業のスピードや管理精度が向上することによりキチンと儲かる事業になるかどうかが大切で、これらが是となれば、お金があれば投資できるし、なくても借り入れて投資(またはリースで投資)することになります。お金がない、借入先もないとなれば、VCの扉を叩きます。それでもダメなら投資のしようがないということになりますが・・・。

日本企業の内部留保がたまっているのに、現金があまり増えていないということの一因は、内部留保を重要な資金調達源とし、借入の返済を優先するバランスシートの見直しが続いているためかもしれません。また、国内外の外注先を使いながらファブレス型経営を志向する会社が増えているためかもしれません。しかし、バランスシートを身軽にすることと、必要なIT投資を行って経営スピードの点で他社に負けないことは両立可能と思います(言い換えれば、IT投資は不動産投資や工場建設ほど巨額でない)ので、何らか特定の会計指標をもってIT投資が抑制されるというようなことはないのではないかと思います。

普段、こういった視点で数字を見ていないので、的確な回答になっていないかもしれません。すみません。

返信のメール ----------------------------

Sさん

斎藤です
貴重なご指摘感謝します

> バランスシート
> を身軽にすることと、必要なIT投資を行って経営スピードの点で他社に負けないこと
> は両立可能と思います(言い換えれば、IT投資は不動産投資や工場建設ほど巨額でな
> い)ので、何らか特定の会計指標をもってIT投資が抑制されるというようなことは
> ないのではないかと思います。

この点は、大変示唆に富むご指摘かと思います。

ITの戦略的投資によりバランスシートを改善する。
つまり、IT指標を見て、投資の意欲を判断するという視点ではなく、より積極的にIT投資が、バランスシートに貢献するという目線を持つ必要がありそうですね。

大変勉強になりました。
感謝いたします。

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いかがでしょうか?すこし突っ込んだ議論ですが、ご参考になれば幸いです。

2010年11月6日土曜日

新規開拓ができない営業の無能を嘆き、既存顧客の深耕ができない技術者の営業センスのなさを愚痴る

 「吉田部長とは、長年のつきあいだし、信頼関係もある。今回も、うちに発注いただけるはずだよ。」という営業部長。
 担当営業が、その吉田部長を訪問すると「申し訳ない。今回は、他のところに頼むことにしたんだ。まあ、次もあるので、引き続きよろしくお願いしますよ。」という言葉。
 ここで引き下がるわけにはいかないと考えた彼は、「うちとは長年のおつきあいでもありますし、なんとかお願いできないでしょうか?」と食い下がった。しかし、結果は変わらなかった。

 仕事柄、ソリューション・ベンダーの経営者や営業の責任者と話をさせていただくことも多い。そうすると、最近、商談が増えたという話をされる。景気が戻ってきたようだという意見も聞こえてくる。しかし、成約に結びついているかと質問をすると、どうもそうではないらしい。むしろ、競合案件が増えて、簡単には受注できないという。
 
 いままでは、他社との棲み分けができていて、この部分については、当たり前に自分達への発注があった。そんな、お客様でさえも、競合、相見積もりにされることが増えたという。お客様の担当者にしてみれば、自分のところのシステムをよく知っている業者であれば、余計な説明などしなくていい。「これ、よろしく!」、「分かりました!」ですまされる関係のほうが、手間もなく楽なはずである。それでも・・・である。
 
 冷静にこの事実を考えれば、案件が増えたと考えるべきではないだろう。むしろ、相変わらず少ない案件を複数の会社に競合させているだけのことである。担当者が、あなたの会社を信頼し、自分も楽をしたいと思っても、もはや経営者が、それを許してくれない。そんな状況が、あるようだ。
 
 加えて、クラウドやオフショアは、そんなお客様の意識をあおっている。クラウドやオフショアを使えば、もっと安くできるのではないかという期待感である。
 
 また、「低単金」という新たな常識。リーマン・ショックでユーザー各社がコスト削減に躍起になっているとき、ITソリューション・ベンダーは、業務量を確保するために安い値段で仕事を引き受けてきた。
 今までの仕事量は、変わらないのに一律単金20%カット・・・新人は勉強だから、とりあえずタダ・・・本来は、準委任で行うべき仕事を請負にして、単金の上限を押さえ、多少の工数の変動(ほとんどは、追加)は、そこで吸収させる・・・などの新しい常識が、定着してしまった。そこに、新たな調達の手段であるクラウドやオフショアが加わり、そことも競合しなくてはならない。
 
 景気の先行きへの不安感から、多くの企業が内部留保金の積み増しを行っている。当然、新規投資には、お金が回らない。加えて、情報システム部門の高コスト体質。IT部門の予算の7割が、保守や運用などの経費に回され、新規投資は、わずか3割に過ぎない。もちろん、情報システム部門も、これ以上できないというくらいに、いろいろと工夫をしてきたのだろうが、従来の仕組を踏襲する限り、根本的なコスト構造の変革は、期待できない。
 
 景気がよくて、会社の業績が伸びているときは、そんなことを気にすることもなかっただろう。しかし、今は、この現実が、経営者にとっては、「何とかならないのか」という気持ちをかき立てているように思う。
 
 この閉塞感を打開するためには、もはや目先の改善や単金の引き下げといった取り組みでは、限界がある。低コストで、変更や変化に柔軟なシステムへの構造変革が、必要だ。お客様もその取り組みに関心を持ち始めている。
 
 つまり、お客様が求めているのは、「これ、よろしく!」への対応ではない。「どうすればいいだろうか?」への回答であろう。「これ、よろしく」の時代は、お客様にも頼む仕事がいくらでもあった。だから、お客様との人間的な信頼関係は、強力な武器であり、それが案件獲得の大きな力になっていた。しかし、もはやその威力は、相対的に低下しつつある。
 
 私は、お客様との個人的な信頼関係を否定するつもりはない。それは、従来もこれからも、大切なものだと思う。しかし、それだけでは、稟議を通し、決済を取り付けることが難しい時代になった。人と人のつながりの大切さに加え、経営合理的な観点での「どうすればいいだろうか?」に応える知恵と工夫が、今まで以上に求められているように思う。
 
 この期待に応えるためには、個人力として営業力をとらえていては、無理である。組織として、会社として、お客様の期待に応えてゆくために、何をすべきかを考えるべきである。営業職の役割、エンジニアの役割、経営者の役割・・・もはや従来の常識を前提とした役割分担では、対処しきれない。
 
 未だに、営業は売る人、事業部は作る人。そんな古い常識をかざし、新規顧客の開拓ができないのは、営業が無能であるからだと嘆き、既存顧客の深耕ができないのは、事業部のエンジニアに営業センスがないからだと愚痴っているようでは、お客様の期待に応えることはできないだろう。
 
 組織を越えて、お客様の「どうすればいいだろうか?」に応えるためには、会社として何ができるだろうかを考えてみるべきだろう。その取り組みは、間違えなくお客様に伝わるはずだ。そこにこそ、人間関係を越えた、お客様との本当の信頼関係が築けるのではないだろうか。