2009年6月19日金曜日

料理人のような営業

 昨晩は久し振りに近所のビストロで食事をした。国立駅の北口にある「シェル・ド・リヨン」。十数人入ればいっぱいになるこじんまりとしたフレンチ食堂。いつもながらの絶品を実にリーズナブルな金額で出してくれる。

 私も時々食べたくなるランチプレートは、ボリュームも十分。味については本場フランス仕込である。帰国後、オテル・ド・ミクニで副料理長をしていたオーナーシェフの村上さんの料理は、間違えなく一流のフレンチ。それでいて、1000円は破格だ。

 フレンチのレストラン・オーナーをしている友人が、こんなことを言っていた。「あそこのレストランは、業界じゃあ掟(おきて)破りだよ。あの値段で、あれだけの料理を出してはいけない」そうだ。

 昨日は、いつも頼むメリメロ・サラダ(具沢山のサラダ)とTOKYO-X(銘柄豚)の肩ロースのグリル。そして、お手ごろな白ワインを注文した。二人で食べるにはじゅうぶんのボリューム。

 昨日は珍しくワインのつまみにとチーズも頼んでみた。ギャルソンに、どんなチーズがあるかと聞いてみると、バスク地方のブレビがあるという。初めて聞く名前だった。羊乳のハード・チーズで、それを削って出すのだという。珍しいモノ好きとしては、迷わずに注文した。

 彼の説明から、パルメジャーノのような堅いチーズを想像していてた我々の前に出されたモノは、なんと白マイタケ(?)。これには驚いた。それを口に入れると、とてもクリーミーで味わい深い。刺激的な香味はなく白ワインの邪魔をしない。一緒に出された薄く切った黒パンに乗せて口にいれる。黒パンの酸味と実によく合う。さすがだ。

 久しぶりのささやかな贅沢。といっても、二人でこれだけ食べて、しかもワインをボトルで注文しても一万円でおつり。軽やかな酔い心地と満たされたおなか。それでいて、お財布も満足している。

 カウンター越しに、シェフの村上さんに「驚きました。おいしかった。」と伝え、チーズのことを聞いてみた。すると彼は、チーズの塊を冷蔵庫から出してくれた。そして、面白い形をしたチーズ削り器に乗せ、それを削って見せてくれた。なるほど、こうやって削るのか。また今度も注文してみよう。

 「ありがとう。おいしかった。」シェフに感謝を述べる。そして、喜んでお支払い。

 「プロだよな。これが、本物の仕事だよなぁ。」そんな感動を傍らにいる相方に話しながら、とても気持ちがよかった。

 昨日も書いたが。お客様に感謝され、そして御代をいただける幸せ。それは、営業だけのことではない。シェフもまたそのために工夫をし、研鑽を怠らない。

 美味しいと思って、この店に来た。その期待は絶対に裏切らない。値段についても、これぐらいという予想はある。まったくその通り。いつもながら、すばらしいと思う。しかし、この店は、それだけで終わらせない。驚きを与えてくれた。それは、感動に変わる。それが、感謝となり、また来たいという決意になる。

 調理人と料理人は違うとの話を聞いたことがある。調理人は、食事を作る。料理人は、感動を作るそうだ。

 料理人のような営業。そうなりたいと、はるか遠くを仰ぐ。

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