四半期の締めが終わり、ため息交じりの声が聞こえてくる。
ニュース記事を見れば、世の中の景気指標は、徐々にではあるが、好転の兆し。しかし、IT営業に話しを聞くと、どうも実感とはかけ離れている。
確かに「案件」は、増えてきたという。しかし、数字がついてこない。では、なぜ「案件」が、増えたのか?
話しを聞いてみると、相談は持ちかけられるが、かならず競合他社との比較案件。今までなら、事情を良く知っている付き合いの長いところだけに声をかけていたお客様でも、最近は、必ず相見積りとなる。
お客様も切羽詰っている。経営サイドからは、少しでもコストを下げるようにと求められる。それに対応できなければ、自分達の首も危ない。背に腹は、代えられない。結局、いろいろなITベンダーやSIerに声をかける。見かけ上の「案件」が増えることになる。しかし、数字は伴わない。
ストック・ビジネスは、不況期に強いといわれている。しかし、そのストック・ビジネスさえも、マイナスに転じ始めている。
リーマン・ショック直後は、新規開発をストップすることで、即効性のある支出削減策が実施された。その結果、委託業務は激減し、新規の請負が、ストップした。
リースが満了してもリースを延長して機器を延命する企業も少なくない。当然、ハードウェアやパッケージ・ソフトの新規売上が減少する。
しかし、この時点では、まだ保守やライセンスなどのストック・ビジネスは、すぐには数字に表れてこなかった。
「新規」はカットした、今度は、「既存」である。無駄(?)なハードウエアを減らし、ライセンスや保守料金も削減する。設備を統合し、運用負担を減らす。見直してみると、意外と使われていないハードやライセンスは少なくない。仮想化など、難しいことを考えなくても、相当数のサーバーを減らすことができる。
結果として、ストック・ビジネスも時間差で、マイナスに転じ始めたようだ。
「コスト削減」。この強迫観念は、景気回復後もしばらくは、トラウマのごとく、お客様の意思決定を支配し続けることになるだろう。
ならば、これを逆手にとって、ビジネス・チャンスを築くしかない。5%や10%などという、みみっちい話ではない。1/2、1/3といった、提案をできないものだろうか。
ただ、既存のシステムを前提に考えれば、無理である。SaaSやPaaSも、選択肢に加え、お客様が、それは無理でしょう・・・と言わせるぐらいの、思い切った発想の転換を提案すること以外、生き残るすべはない。
もうひとつ大切なことは、コスト・センターではなく、プロフィット・センターに果敢にアプローチすること。
コスト・センターとは、一般的なIT部門や総務部門など、与えられた予算内でサービス・レベルの維持、向上を求められる組織。彼らが、この要請に応えるためには、「コスト削減」しか、選択肢はない。
一方、プロフィット・センターは、「投資対効果」で、考える。事業部門であり、経営者である。今、新しいビジネスを切り開こうとするのなら、彼らに直接アプローチするしかないだろう。
お客様の業務、そして、その業界についての理解、ITのトレンドやその戦略的活用。その考察なくして、まともな話などできるはずはない。 また、業務の課題を整理する力。それを、ITで解決するための企画構成力と提案力も必要になるだろう。
どうすれば、「コスト削減」ができるかを考え、そのためのソリューションを用意すること。IT部門にアプローチするためには、必要な武器である。しかし、それだけでは、限界がある。
また、ITのコスト削減だけで、事業部門や経営者に彼らに直接アプローチすることはできない。というのは、これは、彼らにとっては、自分の管轄外であり、検討の主導権を握る立場にはないからだ。
改めて、自分たちの営業力を問い直してみてはどうだろう。本当に事業部門や経営トップに直接切り込める力が自分たちにはあるのだろうかと。それは、技術力でもなければ、コストの安さでもない。お客様の業務や経営について考え、課題を整理し、それを提案に結びつける力である。
経済指標が、たとえ元に戻っても冷え込んだ心は、容易には変わらない。そんな彼らの心に、新しい取り組みへの火種を注ぐことができなければ、ビジネスは、生まれない。その相手は、IT部門ではない。
景気がいいときは、IT部門で仕事ができた。しかし、これからしばらくは、そうはいかない。技術力、コストで勝負するだけではなく、業務革新を提案する力なくして、ビジネスを大きくすることはできない。
その取り組みは、一朝一夕でできるものではない。
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