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ある大手電子機器メーカーの産学連携担当者と話しをしたときのことです。
「日本の大学は、本当の意味で研究開発のパートナーにはなりえませんよ。」
彼は、コミットメントがないことを理由として挙げていました。
「すばらしい研究成果もあり、その能力や大学の設備などに不満はありません。しかし、成果に対する約束があいまいであり、QCD(品質、コスト、期限)が予測できません。もちろん、研究段階ですから、失敗のリスクはあります。しかし、大学当局も研究者も、約束して守れなかったら仕方がありませんという態度です。それでは、企業として“仕事を”任せることはできませんよ。」
国立大学には、「委任経理金」あるいは、「奨学寄附金」という寄付制度があります。企業は、大学に寄付を行い、その使途は、大学に任せるというものです。もちろん、何の見返りもなく企業が寄付を行うはずはなく、企業は、カウンターパートの研究者とどのような使途に使うかをあらかじめ合意した上で、手続き上「成果を求めない」純粋な奨学のための寄付行為として、お金を納めることになります。
「特定の企業を利する成果を挙げることは国立大学の本分ではない」という建前なのでしょうが、このような常識が、未だに研究者を縛っているのです。したがって、「成果をコミットすることは、いけないこと。研究者の本分は、知の探求であり、社会的、経済的な成果を求めることは、学究の徒のすへきことではない。」とでも言うような常識が大学には存在しているというのです。
この企業は、米国の大学には、数億単位の研究費を提供しています。その理由は、コミットがあるからだそうです。米国の大学研究者は、大学からの給与はわずかです。有名な研究者であっても、標準的なサラリーマンよりも安いくらいです。大学にしてみれば、スタンフォードやハーバードというような看板を提供しているのだから、あとはその看板を使って自分で研究費やスタッフの予算をまかないなさい、というわけです。当然、成果へのコミットメントなくして、研究費を集めることはできませんから、それはもう必死なるのも当然です。
しかし、コミットメントのない日本の大学には、数十万円、数百万円がせいぜいであり、それ以上支払うことは難しいとのことだそうです。
じゃあ何故、小額でもお金を払うかというと、優秀な学生を就職させるためなのです。つまり、優秀な学生が集まる研究室との関係を持ち、彼らと共同で研究を行うことで、人材を見極める。その機会として、利用しているというのが本音のようです。本当の成果は、自分たちの会社に就職した後であげてくれればいいと考えている。優秀な人材が手に入るのであれば、この程度の金額は、無駄ではないということなのです。
日本のやり方がいいのか、アメリカのやり方がいいのか。それぞれに一長一短はあります。どちらがいいともいえません。ただ、企業の立場からすれば、コミットメントをしっかり与えてくれる相手であればこそ、信頼し、大金を支払おうということになるのです。
IT業界とは、関係ない話になってしまいましたが、企業の意思決定を支配する心理を考える上で、これは大いに参考になる話です。
お客様に提案をする。如何に自分たちが優れた技術集団であり、優秀な製品を持ち、しっかりとした体制で臨むことを説明しても、競合他社もきっと同じ様にお客様を説得することでしょう。両者に絶対的な優位は見出しにくく、それぞれに一長一短がある。結局のところ、最後はこんな状況の下で、お客様は、どちらに仕事を任せるか判断をしなければなりません。
この状況をブレイクし、自社への決定を促す切り札は、営業の、そして、会社としてのコミットメントの強さといえるでしょう。
もちろん、気合や根性の話しではなく、コミットできる十分な根拠の積み上げなくして、できるものではありません。それができる社内の仕組み作りができていなければ、勢いだけでコミットしても結果がついてこなければ、契約違反であり、信頼は得られませんから、二度と仕事を任せてはもらえないでしょう。
しかし、この点をあいまいにし実質SI的な内容であっても、リスクを回避するために「委任」や「準委任」で提案し、成果を保証しないというケースは、よくあることです。
お客様の財布の紐がきつい状況が続いています。お客様も、従来は、そのあたりをあいまいにし、要員確保という観点から、こんな契約も甘んじて受けてきました。しかし、人材がだぶつき、優秀な人材を確保しやすい買い手市場が続く状況にあって、お客様の選択の目は、厳しくなっています。
コミットメントについて、もう一度真剣に向かい合ってみるべきかもしれません。
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