新入社員の皆さん。社会人への門出を心からお祝い申し上げます。
今皆さんは、人生の新たな節目に立ちました。きっと、大きな希望と無限の可能性に、胸を膨らませていらっしゃるだろうと思います。しかし、その一方で、今回の大震災が、自分たちのこれからに、どんな試練をもたらすのだろうかという不安もいだかれているのではないでしょうか。
そんな皆さんに、これからのIT業界がどうなるのか、そして、皆さんは、何をすべきなのか、若干の先輩風を吹かせながら、少し語らせていただきます。
希望に胸を膨らませる皆さんの気持ちに水を差すようで申し訳ないのですが、これからしばらくの間、この業界は、厳しい試練の場に立たされると覚悟してください。多分、皆さんが就活された時のように、そう、リーマンショックが、日本の経済を大きく落ち込ませた時のように、ITへの需要は抑制されるでしょう。
なぜならは、震災の復興でまず優先されるのは、建物であり、生産設備であり、ライフラインだからです。ITへの新たな需要は、後回しにされるでしょう。
お金は、天から降ってわいてくるものではありません。企業は、限られた資金の中で優先順位を決めて、お金を使います。だから、まずは、企業は、その存続に必須の活動を優先するでしょう。ITへの需要も、企業活動の基幹をなす既存システムの日々の運用に、優先的に配分されることになります。新規の開発や設備投資は、当面先送りされるだろうと考えられます。
また、電力不足に伴う計画停電は、経済活動を落ち込ませることになるでしょう。生産設備や商業施設の稼働時間の短縮でモノやサービスが提供できません。また、何事にも「控えなければ」という気持ちが、人々の消費意欲を低迷させるでしょう。人がものを買わない、使わなければ、企業は、たとえ供給ができても、お金を稼ぐことはできません。そんな悪循環に陥るかもしれません。当然、お金が稼げなければ、ITへの予算は、後回しにされ、絞られてしまいます。
皆さんは、いまそんな状況の中で、社会人としてのステップを歩み始めました。しかし、もはや後戻りはできないのです。この宿命を皆さんは、受け入れる以外にはないのです。
その一方で、この震災は、人々を寛容にし、シェア(ともに分かち合う)の精神を広めています。そして、節電や節約、リスクの少ない社会の大切さに気付かせてくれました。私のような大人達が、当たり前に思ってきたことに「非常識」の三文字を突きつけているのかもしれません。
私たちの時代、ITは、生産性を高め、消費を促し、豊かさを生み出す道具でした。ITという言葉が使われるようになる以前のコンピューターは、魔法であり、未来であり、発展の象徴でした。そのために、私たちは、がむしゃらに働き、社会に貢献し、家族を支えてきたのです。
そんな時代の流れに、ブレーキをかけたのは、2年前のリーマンショックでした。IT投資は、抑制され、多くのIT企業が、経営危機に直面しました。そんな中で、ITビジネスのあり方にも、見直しの声がかかりました。多くのIT企業は、その変化の方法を模索し始めていたのです。そんなやさきに、今回の震災がありました。
私は、今回の震災が、この大きなパラダイムの変化を加速するだろうと思っています。
皆さんは今、そんな変化の転換点に、はじめの一歩を踏み出したのです。私たちが、築き上げたITの常識が、大きく変わり始めようとしています。そして、皆さんは、この変化の担い手とならなければならないのです。それもまた、皆さんの宿命であると心得てください。
いずれ気付くことになると思いますが、残念ながら、過去の栄光が、未だに通用すると固く信じている大人達がいます。たとえ言葉では、「もう、俺たちの時代じゃない」と、ものわかりのいいことを言いながら、自分流の常識や価値観をおしつけ、従わせようという大人達は、少なくはありません。
彼らもまた、間違えなく、その時代を背負ってきた人たちであり、成功者です。社会人の先輩として、そして、人生の先達としての彼らに敬意を払うべきは、人の道だと思います。ただ、時代の感性や技術的方法論は、皆さん自身に分があります。大人達の「当然」を鵜呑みにする必要などありません。自信を持って、自分の考えを主張し、行動すればいいのです。
「自分を主張し、意見を述べる」。そういう社会人に、なって欲しいと思っています。しかし、それは、ただ若いと言うだけでできることではありません。それは、勉強しなければできないのです。
IT業界に限った話しではありませんが、勉強をしない社会人は、いつまでたっても自分を主張することもできなければ、変化の担い手にはなれません。やらされ仕事をさせられ、生きるために必要な糧を得ることが精一杯です。社会のグローバル化が進む中で、それさえも、厳しさを増してくるでしょう。
では、「勉強」とは何か?です。けっして、難しいことではありません。次の3つを実行してください。
1.「なぜ?」と疑問を持ち、その理由を追及すること。
2.「なんだろう?」と思ったら、やってみること、聞いてみること。
3.毎朝1時間、自分のための時間を作ること。
1.「なぜ?」と疑問を持ち、その理由を追及すること。
ものごとには、必ず理由があります。また、そうなった経緯や事情があるのです。言われたことを鵜呑みにするのではなく、なぜそういうことなのか、なぜこれをしなければならないのか、なぜこの人はこういうことを言うのだろうか・・・そういうことに、関心を持ち、考え、聞いてみることです。
皆さんの目に見えることは、景色の断片に過ぎません。その周りには、もっと広く、もっと深い景色が広がっているのです。景色の断片の裏側にある構造や仕組、法則に関心を持つことです。そうすると、あなたの見ている景色は、奥行きを増し、色彩も鮮やかになります。そうすると、わずかな景色であっても、いろいろなことが見えるようになります。そして、未来が見えてくるのです。
2.「なんだろう?」と思ったら、やってみること、聞いてみること。
TwitterやFacebookが、注目されています。スマートフォンやタブレットを多くの人たちが持ち歩いています。なんだろう、どうなっているんだろう、使えるのだろうか・・・もし、少しでもそう思ったら、使い始めてください。そして、いろいろと試してください。これを暇つぶしや趣味と片付けないで欲しいのです。そこには、いろいろなビジネスの可能性があります。
トレンドものに限った話しではありません。「なんだろう?」、「こうしてみてはどうだろう?」「こんな資料を作ってみたらどうだろうか?」・・・切っ掛けはいろいろです。もし、そう思ったら、使ってみること、試してみること、行動してみることです。
失敗もあるでしょう。時間の無駄と感じることもあるかもしれません。しかし、それとて、大切な勉強であることに代わりはありません。
本や人の言葉だけでは、ものごとの本質は、分からないものです。身体で感じてみて、初めて理解できることも少なくはないはずです。めんどくさがらないでください。そのためらいが、あなの成長のチャンスを確実に減らしいるのだと思うべきです。
3.毎朝1時間、自分のための時間を作ること。
朝の1時間を私は、人生のゴールデンタイムと呼んでいます。何をするかと言えば、今日やることの確認とイメージ・トレーニングです。また、仕事に関係あるかどうかに関係なく、いろいろと情報を集めたり、整理したりする時間として使っています。
毎朝、1時間を自分のために使ったとしましょう。あなたは、10年間で、ゴールデンタイムを待たない人に比べて、1年半余計に、自分に投資できるのです。
感覚的な表現ですが、今日やることのイメージ・トレーニングをするだけで、仕事は、3割から5割、効率的に使えます。言い換えれば、人生の密度が、濃くなるのです。また、効率的な仕事ぶりは、周りからも評価されます。すると、難しい仕事もどんどん任されるようになるでしょう。ますます、あなたの成長のスピードは加速します。
社会とは、静かな戦場です。親が、社会が、誰かが与えてくれる、よき時代は終わったのです。社会は、自分の成長を武器に闘う戦場です。人よりも優れた能力や知識を持ち、効率よく仕事ができる。それを武器に競い合うのです。思いやりや仲間意識を否定するつもりはありません。しかし、みんなで一緒に・・・は、ないのです。社会には、リーダーが必要だし、またそれを支える人も必要です。その役割分担は、そんな戦いの結果として、自然と決ってくるのです。
「若気の至り」という言葉があります。新入社員の皆さんは、この「若気の至り」が、許されるうちに、大いに「若気の至り」に励んでください。もちろん、よく考えた上での行動であり、ただ無分別に行動することではありません。それが、世の中のため、お客さまのため、会社のためであれば、たとえ失敗したとしても、怒られて終わりです。「しょうがないやつだなぁ・・・」とあきれられるだけの話しです。あなたは、そのマイナス以上に、多くのことを学ぶはずです。
30才にもなって、「若気の至り」は、もはや通用しません。多分、そこまでが限度でしょう(笑)。とにかく、やってみる、試してみることです。
「頑張りすぎる必要はない」という人がいます。私は、かならずしもそうは思いません。頑張りすぎて、自分の限界を知ることも、大切な勉強だと思います。もちろん息抜きも必要でしょう。しかし、頑張るときは、おもいっきり頑張りすぎてみる。そんな勉強の仕方もあると思います。
とにかく、枠をはめないことです。答えを決めてかからないことです。これから、社会が大きく変わろうとしています。それは、パラダイムの変化です。いままでのパラダイム、つまり過去の常識の延長線上には、答えがないからです。
その変化の担い手は、皆さん自身です。勉強してください。行動してください。頑張りすぎてください。
そして、これからの未来を、もっともっと居心地のいいものにしてください。ITは、間違えなく、そのためのかけがえのない手段となるはずです。それを創り出し、活かしてゆくのは、皆さんの役割なのです。
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