「SI事業者の危機」が、叫ばれるようになって久しいのですが、それでもしっかりと業績を上げ続けている企業は、少なくありません。しかし、そういう企業でさえ、昨今は、収益率の頭打ちに悩まされています。それをリーマン・ショックに求める声も聞かれます。
確かに、リーマン・ショックは、切っ掛けでした。ある意味、予期せぬ突発的な事故でした。しかし、その傷は、そろそろ癒え始めているようで、景気や経営の指標を見る限り、マクロには、回復の兆しが見え始めています。
ただ、これをそのままIT業界に当てはめることは、妥当ではありません。事実、「仕事量は増えたが、収益が上がらない」という声を耳にすることが、多くなりました。つまり、IT業界にとっては、過去の延長線上にある回復ではないということです。
今回の原子力発電所の事故でもそうですが、その事故が、深刻であればあるほど、人々の意識の深層に大きな影響を与えます。今まで当たり前と考えていたこと、あるいは、あまり真剣に考えていなかったことに、スポットライトがあたり、それを鮮明に意識するようになる。つまり、常識が変わり、意志決定の基準が大きく変わることを意味しています。
ITにおいて、リーマン・ショックが、もっともスポットライトを当てたのは、IT部門の高コスト体質だったのではないかと思っています。
ITコストの7~8割を占めるといわれている既存システムに関わる保守や運用などのコスト。何とかしなければと意識され、叫ばれ続けてきたことですが、改めてこの問題にスポットライトが、当てられたことは、間違えないと思います。
会社の業績が、右肩に上がっている時は、この問題に対処するよりも、業績の上昇に伴う機能の拡張や能力の増強など、「体力の強化」に力点が置かれました。しかし、リーマン・ショックを切っ掛けとして、低コストで開発、運用するための「体質の改善」に重点が、移ったといえるでしょう。この変化は、視点を変えれば、「IT業界は、成長市場から成熟市場へと転換を図ろうとしている」と見ることができます。
最近注目を浴びるクラウド・コンピューティングやITILへの対応、オフショアへの開発シフト、企業統合に伴うシステム統合プロジェクト、IFRSを切っ掛けとした基幹業務システムの再構築なども、このような「体質の改善」への取り組みと捉えることができそうです。
このようなITビジネス環境におけるSI事業者の課題と、このパラダイムの変化にどう対処すべきかを、一枚のチャートにまとめてみました。いかがでしょうか?
どう対処すべきかの戦略については、「競合優位戦略」と「顧客拡大戦略」のふたつの視点で整理してみました。
市場が成熟化へ向かう転換期では、必ず「プレーヤー過剰」状態となります。従って、この状況に対処する方法は、これまでの常識を破壊するイノベーションを行い競合他社に圧倒的な競合優位を確立することか、顧客ベースを拡大し収益源を拡大することが必要になります。
両者を同時に達成することができれば、それは理想的です。ただ、これは容易なことではありません。現実的には、どちらかに軸足を置くことが必要になるでしょう。
ただ、どちらにしても、経営者が、従来の常識にとらわれない戦略を示すことです。そして、大胆に人材を登用し、組織や体制の変革を図ることだろうと思います。
変化の兆しを感じ取り、ビジョンを提示すべきは、経営者の役割です。しかし、その方法論は、若い人にまかせてみてはどうでしょうか。時代は、それほどに大きく動き始めているようです。
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