研修だけならプロの講師がそれなりの内容を提供できます。しかし、研修の成果が活かされるも活かされないも、先輩や上司が実務の中でどう関わるかによって決まってきます。なによりも、プロとしての意識は、実務を通してしか育まれることはありません。だからこそ、先輩や上司が育成のプロになるべきなのです。OJTは研修の内容を実務を通して定着させる取り組みです。新入社員の育成は、この両者のがっちりした組み合わせがあってこそ、成し遂げられるものだと思っています。
しかし、私が知る限り、新入社員研修とOJTをひとつの育成プログラムとして設計し、運営している企業は少ないように思います。研修はそれなりにお金をかけてしっかりやるが、OJTはほったらかしの現場任せ。OJTの達成目標や内容は曖昧なままに、おざなりの「OJTリーダーの心得」的な研修のみ。OJTのプロセスや実践スキルを教えることはありません。「君たちも新人の経験があるんだから、わかるだろ・・・」と暗黙の了解を前提としてOJTが走り出してしまいます。
しかし、引き受ける現場としては、日常の仕事に追われています。結局、何の思慮もなく若手にOJTのリーダーを任せ、「将来マネージャーになるための良い勉強だから頑張ってやってくれ!」と励ましの言葉だけ。任された方は、その方法もわからず、困惑してしまうだけです。
任された方も意欲がないわけではありません。なんとか役割を果たしたいと思うのです。しかし、ベテランほどに要領を心得ていない若手にとっては、毎日が戦いです。自分だけで精一杯です。「他人を育てる」という余裕はありません。営業であれば、ノルマもあります。自分のノルマに加え新人のノルマも自分で抱えなければいけない。ああ面倒だと思う人もいるでしょう。
結局は、方法もスキルも曖昧なままにOJTというほったらかしが進行します。結局は、新人たちが育つも育たないも、OJTリーダーや新入社員本人次第、運任せということなのでしょうか。ダメなら本人に適正がなかったと言訳すれば良いと言うことなのでしょうか。
せっかく高いコストをかけて優秀な人材を採用しても、これではその能力を最大限に引き出すことはできません。なんともったいないことかと思います。
現場のたたき上げをよしとする文化が未だ根強いことが背景にあるのかもしれません。仕事は、実務実践を通して学ぶものだという精神論です。そのこと自体を否定するつもりはありません。しかし、時代とともに価値観やビジネス環境も変遷しています。かつての成功体験は単なる過去の栄光であり、その方法論がそのまま通用するという保証はありません。これを塩漬けにしたままに、現場に任せてしまっていいのでしょうか。
ここ何年か、新入社員研修に係わりながら、彼等の価値観が、大きく変わってきていることを実感しています。その特徴は、強い仲間意識や同期意識、自分の発言がどう見られるかを意識し自分の考えや意志をはっきりと主張せず言葉尻を曖昧にしてしまう、周りとの関係にとても気を遣う、たとえば、先輩たちととうまくやるために積極的に飲みに行くことを目標に掲げるなどいうのは、意識して努力しなければできないし、意識しなければならない大切なことと考えているからでしょう。
まわりからよく評価されたいという意識の強さ、素直さを通り越した静かさ、競争心の低下、いや競争をよくないと考える意識と言うべきかもしれません。誰もがそうだと言うつもりはありませんが、総じてそんな傾向が強まっているようにも見受けられます。これを「自己肯定感の低下」とみる専門家もいるようですが、なるほどと思わずにはいられません。
自己肯定感:自分は大切な存在だ、自分には可能性がある、やればできる、やるしかないというように自分を肯定的に捉え、自発的な意欲を持ち、他人と自分との違いを意識し意欲的に人間関係を築こうとする心の有り様
また、ITビジネスに関して言えば、プロダクトだけで差別化が難しくなった現在、お客様の課題やニーズを起点として最適な組み合わせを創りあげ提供するソリューションへと軸足が遷りつつあります。
競争力の源泉が大きく変わってしまいました。ビジネスの本質が大きく変わってしまったのです。その変化について行けず、いやその変化を受け入れず、いまだ過去の成功体験と方法論が通用すると思い込んでしまっているベテランやマネージメントの存在は現場任せのOJTをますます難しいものにしています。
競争力の源泉が大きく変わってしまいました。ビジネスの本質が大きく変わってしまったのです。その変化について行けず、いやその変化を受け入れず、いまだ過去の成功体験と方法論が通用すると思い込んでしまっているベテランやマネージメントの存在は現場任せのOJTをますます難しいものにしています。
現場たたき上げの基盤が変わっているわけです。ならば、過去の価値観や方法論が、今に通用する能力を育てることができないという現実を直視すべきだと思うのです。
現場を知り、企業文化を身につけ、一人前の社員に育てる、その役割の最も多くの時間を費やすOJTにもっと真剣に向き合うべきではないでしょうか。時代は大きく変わっています。そのことを受け入れなければ、せっかくの優秀な人材もなかなか戦力になってくれません。いや、できる人材は、そのことに気付き早々と自分が活かせる職場に転職してしまいます。
OJTは研修と一体に設計し、運用する。そういう時代になったと考えるべきだと思っています。
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