2011年12月23日金曜日

「理解・納得できなければやらせない」企業は潰れる


「計画に緻密さが足りない。収益の裏付けも根拠が不十分。これでは、承認なんかできるわけないじゃないか」

事業計画を役員会に諮ると必ずこういう意見が出てきます。

リーン・スタートアップという言葉をご存知でしょうか。リーン= Leanとは、「やせた、貧弱な」スタートアップ=起業という意味です。

スティーブン・ブランクの「アントレプレナーの教科書」という起業家のバイブルみたいな本がありますが、この本に影響を受けた起業家のエリック・リーズが考え出した事業を始めるための手法です。

この手法の肝は、「すぐに始めてみる」です。

厳密な要件定義や事業計画を行うことなく、とにかく「これはいけそうだ」と思いついたら、とにかく作ってみる。たとえ未熟なサービスであってもそれをリリースし、課金もしてしまいます。

バグもあれば、機能も不十分。それでも始めてしまいます。そして、サービスを提供しながらバグを修正し、機能を高めて行きます。それをきわめて短いサイクルで繰り返し行って行くこで、顧客の反応確かめながら、さらに完成度を高めて行く。そうやっと早期に顧客を集め、少しでも売上を得て存在感をアピールし資金を呼び込もうという考えです。

知名度のない企業やサービス、根拠も不十分なままに鉛筆をなめて創作した事業計画。資金を提供する側も、そのような見えないビジネスに資金を出すには大きなリスクが伴います。しかし、たとえ未熟ではあっても、またクレームがあっても、とにかくサービスを提供し実績をアピールする。そうするほうが、遥かに可能性やリスクを捉えやすくなりますから、資金を提供しやすいというわけです。

わたしは、このような手法を既存のSIerも採用してみてはどうかと思っています。

大小様々な企業の事業計画策定に係りながら常々思うことは、テクノロジーの革新やトレンドの変化に敏感な若手社員とそのようなこと関心を持たない経営者との意識のギャップです。

時代の変化に対応すべくチャレンジし、どんどん攻めるべきだと考える若手社員、片やリスクを冒すことに慎重な姿勢を崩さない経営者。共に会社をもっとよくしたいという思いは同じなのに、その手法の違いで対立してお互いに疑心暗鬼を生み出している。そんな構図をよく目にします。

両者の言い分にはそれぞれに理由があります。一概にどちらが正しい、どちらが間違っているといえるものではありません。ただ、ひとつはっきりしていることは、力関係の不均衡です。経営者が圧倒的に有利な立場にいる。たから、結局は経営者の意見に従わざるを得ません。残念ながらこのような環境では、イノベーションが生まれることはありません。

敗北した若者たちはどうするか。面従腹背を貫き会社に留まるか、会社を辞めるかです。ともに彼らの持つ可能性や能力を引き出すことはできません。

立場上、若手にも経営者にも接することができる訳ですが、若手をもっと信じ任せてあげてはどうかと思うことがしばしばです。ITのトレンド、ビジネス環境を彼らはよく知っています。かれらはお客様と身近に接し、お客様の必要としているもの、どうすればもっとうまくできるだろうかを真剣に考え勉強しています。もちろん全ての若者がそうだと言うつもりはありません。ただ、そういう人は必ずいるのです。

先日、普段はライバル関係にあるふたつの大手SIerで、事業開発・研究の責任をもつ二人と共に会食の機会がありました。彼らは共に、「これまでのSI事業に手を抜くつもりはないが、今後の大きな成長は期待できない。新たな事業の開発を急がなければ、会社としての成長はない。SI事業を補う形での事業をどのように創り出してゆくがが大きな課題だ。」

これは、大手に限らず受託や請負を生業にしてきた企業にとっては、共通の課題でしょう。

ではどうすればいいのでしょうか。

SIerはこれまで、お客様の業務分析から始まり、課題整理、要件定義とすすめ仕様を作りそれを開発する。言うなれば、「既知の仕様」を起点としたシステム開発を得意としてきました。これがウォーターフォール型の開発です。

しかし、今、何が新たな事業として成り立つかわからない状況、つまり「既知の仕様」がありません。「未知の仕様」からスタートしなければならないのです。このような状況にあっては、「リーン・スタートアップ」がいいのではないかと思っています。

とにかく、現場の感性を信じ始めてみることです。そこで試行錯誤を繰り返し、走りながら考え、完成度を高めてゆく。「計画が不十分、収益の裏付けがない」を理由にゼロ・イチの判断をするのではなく、必要最低限のチャンスを提供し、サービスを初めて見るということです。

こんなことを言うと、「バグがあったらどうする」、「クレームがあったらどうする」と、どうしても足かせをはめたがるものですが、そのリスクを引き受けるのも経営者の役割だろうと思うのです。

「理解・納得できなければやらせない」ではなく、「理解・納得できないから、わかるようなものを作ってくれ」の発想に変えることです。

会社をよくしたいという思いを信じること。失敗のタネを積むのではなく、小さな失敗のタネをたくさん撒いて、大きな成功のチャンスを増やすこと。「リーン・スタートアップ」はスタートアップの企業ばかりではなく、既存企業にも十分使えるのではないかと考えています。

■ 開催決定 * ITソリューション塾 第9期 ■

過去8期に渡り、多くの皆さんにご参加いただきました「ITソリューション塾」、その第9期を下記の日程で行うことが決定いたしました。

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毎週水曜日の 18:30-20:30
全10回開催
初回 2月8日/最終 4月11日
場所 東京・市ヶ谷
参加費 9万円(+消費税)
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ITの最新トレンドとビジネス戦略、ソリューション・ビジネスに関わる人が是非身につけたい顧客満足度の管理方法やドキュメンテーションなどの顧客応対スキルなどを体系的に整理します。


ITの最新トレンドとビジネス戦略については、社内やお客様の説明にそのまま使っていただけるように、パワーポイントのソフトコピーで差し上げます。ちなみに第8期では500ページほどになりました。








詳細のカリキュラムはこれからですが、例えば・・・
・クラウドとITトレンド
・ソーシャル・メディア
・クラウド・クライアント/モバイル端末とHTML5
・ITプラットフォーム・ソリューション
などの最新トレンドとこれらに関わる業界の動向、そしてビジネス戦略などをできるだけわかりやすいビジュアルを駆使して体系的に解説します。


毎回、すぐに一杯になりますので、もし参加をご検討の場合には、私のメールアドレスまたはFacebookにメッセージをお送りください。


■ コレ一枚シリーズ いろいろ 

Facebookから、皆様のご意見を頂戴したり、情報を発信しています。

詳しくはこちらへ。



2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

半年ほど前「リーン営業」という言葉を知り、営業手法の変革を部内に訴えましたが、一笑に・・・でした。
この時は、自動車メーカーの話を引用した記憶があります。

斎藤昌義 Saito,Masanori さんのコメント...

もともと、MITの研究者がトヨタの生産方式を研究して、発表した生産方式がリーン生産方式と言われるもののようです。

ただ、ここでいうリーンスタート・アップとは、少し違う意味合いでこの言葉が使われているようで、両者に直接的な関係はないように思いますが、さて、どうなのでしょう。