「こりゃあだめだ・・・」
ある企業の情報システム部長のスタッフとして、いくつかのSI事業者の提案書を拝見したことがあります。次期システムの構築がテーマだったのですが、中にはそんなため息を漏らさずにはいられない提案を目にすることがありました。
決して、内容がひどいわけではありません。RFPも出しているし、正直なところ構成する機器や開発の中身にそれほど大きな違いはありませんでした。
では何が違うかといえば、それは資料の美しさです。
確かに、表紙もあり、目次もあり、内容については実にきめ細かく丁寧に書かれています。しかし、その書き方が、物語調であったり箇条書きであったりと全体に統一感がありません。
表はエクセル画面をコピーしてきているのですが、ディスプレイ画面をそのままコピーしてきているので枠の外に余計な罫線が表示されています。
図は色や形に統一性がなく、グレーの箱の上に黒の明朝体で「DBサーバ」と書かれていたり、背景を白で塗りつぶしグレーの箱に「アプリケーションサーバ」と描かれていました。
タイトルの書き方にも統一感はありません。「1.ハードウェア構成」という書き方もあれば、四角で囲んで「ソフトウェアの機能」と書かれています。内容のレベルが違うのは確かですが、突然書き方が変わると、「なぜ?」と違和感を感じてしまいます。
フォントの大きさもパワーポイントのデフォルトの箇条書き設定をそのまま使っているのでしょう、ひとつの枠中の文字量の違いによりページによって大小様々で統一されていません。
まだまだ突っ込みどころは満載なのですが、この辺でやめにしておきます。
内容が悪いわけではありません。見た目が悪いのです。残念ながら、この提案書を出した会社は最終選考の対象から外させて頂きました。
「中身がよければいいではないですか。」そんなご意見もあるかもしれませんが、私はそんなことはないと思っています。
わかりやすく美しい資料とは、相手にわかりやすく伝えようという思いの結果だと思います。そんな気配りも思いやりもないところに仕事をお任せしても、打ち合わせや相談に手間がかかり、余計な時間がかかるだけです。プロジェクト進捗の状況説明を求めてもうまく説明できず、重要なリスクを見落としてしまうかもしれません。
コミュニケーション能力の欠如。この提案書は、この会社のそんな弱点を露呈していると判断しました。
担当営業の問題ではないか・・・といわれるかもしれません。しかし、それをチェックもできず平気で提出させる会社の文化も疑うべきでしょう。
確かに内容は緻密で正確かもしれません。しかし、こういうところにお任せすると、こちらが言ったことは丁寧にこなしてはくれても、変更や変化への柔軟性は乏しいと思われます。なぜなら、状況説明や対策をわかりやすく説明できるとは思えず、そのため状況判断に手間もかかり、結果として柔軟性に欠ける可能性があります。
プロジェクトにトラブルはつきものです。それも状況把握と意思疎通がうまくできれば迅速に対処できます。この会社に、それが円滑に行えるとは思えないのです。
提案書を見て、その企業の仕事の姿勢は、はっきりと見て取ることができます。
美しいといってもイラストを駆使し色を多用することではありません。「どうすれば混乱なく、確実に大切なことを伝えられるだろうか」を追求すれば、体裁は整い、余計は省き、結果として美しくなるのです。
「SIのという商品には”かたち”がないので売るのは難しい」という人がいます。それは、とんでもない言いがかりであり、ごまかしです。「SIの商品は提案書」ではありませんか。お客様はその「かたち」をみて、買うかどうかを判断しているのではないでしょうか。
まともな提案書も作れないSI事業者とは、まともな商品を作れない会社と言うことになります。だれが汚い商品を買いたいと思うでしょうか。
営業は、そんなお客様の感性にもっと敏感であるべきでしょう。これまでは、書式に従い丁寧に仕様や積算、見積もりを書き上げれば採用していただけたかもしれません。しかし、競合がますます厳しさを増す中、そのような事務書類の提出だけでは生き残ることはできません。その現実に目を向けるならば、今一度、自分たちの商品の「かたち」に真剣に取り組むべきかもしれません。
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