2011年7月2日土曜日

IT業界は、「衰退産業」という言い訳

 「もはや、IT業界は、衰退産業ですよ。市場の伸びは止まり、利益もかつてのように上げることは出来なくなりました。」
 
 ある、SI事業者の営業役員から、こんな話を伺いました。確かに、ここ数年の情報サービス産業の統計を見ると、衰退とは言わないまでも、市場全体の成長の伸びは鈍化し、事業所の利益率や労働生産性は低下しているようにも見えます。リーマンショックをキッカケとした大幅な減収減益のあと、最近、仕事の量は増えているようです。しかし、以前のような利益率を確保することは、難しくなりました。
 
 この営業担当の役員が指摘するように、この市場をマクロに眺めてみると、確かに、成長産業から成熟産業へと大きく舵を切ったことは間違えないように思います。
 
 しかし、だからといって、自分たちの業績をこの市場の変化を理由にするというのは、いかがなものでしょうか。
 
 ITに限らず、どのような産業も市場の変化は避けて通ることは出来ません。その変化を先読みし、先手を打って対応するのが、経営であり、その先兵が、営業なのではないかと思うのです。
 
 SI事業者は、確かに、今厳しい価格競争に晒されています。そのような中にあっても、自らそれに対処し、確実に利益を上げているところもあります。
 
 例えば、ある中堅のSI事業者は、自らアジアに開発拠点を構え、上流やUI周りは日本で、コモディティ化し価格競争の厳しい開発や保守は、海外でという仕組を作り、お客様の厳しい単金要求にも応えられる体制を作っています。
 まだ、既存需要に支えられているのが現実です。しかし、お客様の要求に応えられる体制は整いつつあり、厳しい要求が出てきたときに、競合に負けず、しかし、確実に利益を確保できる体制は、営業の自信ににもつながっているようです。
 
 また、あるところは、数年前から中国に開発拠点を構え、現地で採用したエンジニアを3年間、日本に転勤させ、日本のお客様に貼り付けて、日本的な仕事の流儀を徹底的に学ばせています。そのあと、中国へ戻し、現地で開発に当たらせる仕組を作っています。これを繰り返すことで、中国であっても、日本的な仕事感覚で、仕事がてきる体制を整えつつあります。
 日本で仕事をさせる訳ですから、その間は、安くは出来ないのですが、彼らが帰国すれば、日本との意思疎通も容易にでき、安心して仕事をまかせることができ、しかも単金が安くできるようになりました。
 
 相当数の開発要員を運用要員、それも、運用設計や高度な運用技術に対応できる要員として再教育し、体制を大幅に転換する取り組みをされているところもあります。これは、仮想化やプライベート・クラウド化に伴う、高度な運用技術に対応できる新たな需要に対応しようというものです。また、マネージド・サービスを強化し、お客様のITアウトソーシングの需要にも応えるべく、体制を整えつつあります。
 日本の企業、特に大手は、運用のコストは下げたいが、海外に運用をまかせたくはないという意識は根強いようで、仕事を増やされているようです。
 
 ある企業は、Webアプリケーションの開発要員を大幅に増員すると共に、対応するフレームワークを整えて、これからの需要に先取りする体制を構えています。この分野については、まだまた人手不足であり、単金も高く、結果として利益率も高いようです。技術のコモディティ化が進み、価格競争の厳しい既存システムにかかわる保守需要を切り捨て、新しい分野にでることは、勇気のいることだとは思います。しかし、時代がそれを求めていることは確かであり、その手応えを感じ始めているようです。
 
 このような時代の変化をうまく捉え、「衰退産業」と言われるこの業界の中でも、確実に業績を上げている会社がある一方で、コモディティ化した技術にしがみつき、自らを厳しい価格競争に晒している企業もあります。
 
 もちろん、今を食べてゆかなければなりません。そんなリスクは犯せないという考え方も、多くの社員を抱える経営者の気持ちとしては、当然のことです。しかし、もはや過去の成功体験が通用しない時代です。新しい、成功体験を自ら作り上げてゆく気概が必要なのではないでしょうか。
 
 時代の流れを先取りし、積極的な取り組みをしている企業に共通している点は、「経営が営業を信頼している」ように見えます。
 
 お客様の第一線に接する営業が司令塔になって、社内のリソースをうまくとりまとめています。それを経営者が支援しています。
 
 残念ながら、過去の成功体験から抜け出せず、未だその法則をかたくなに守り通そうとする経営者もいます。彼らの言訳は、決まって、「そんなことに優秀な人材を割いてしまったら、どうやって今を乗り越えればいいんだ。それより、今のスキルで、新しい仕事を取ってくることに営業は優先してもらいたい」というものです。
 
 営業の現場は、「だからダメなんだよ」と意欲をなくしてしまいます。魅力的な商品がないままに、お客様の需要がそこにないままに、売ってこいと言われても、それはもう、大変なことなのです。
 
 そんなお互いの疑心暗鬼がある企業は、「もはや、IT業界は、衰退産業ですよ。」という言訳しかできないのでしょう。
 
 時代の流れは、待ったなしで、速度を速めています。ITは、その変化の最前線にいるのです。
 
 私は、IT産業は、「衰退産業」であるとは考えていません。「成長の方向が変わった」と考えています。ですから、今までの方向に進む限り、需要は確実に減り続けるでしょう。だから、新たな方向を模索すべきなのです。
 
 新たな方向に目を向けられる営業力、それを支える経営の信頼。新しい営業のあり方が求められているように思います。


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1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

IT産業が「衰退産業」ではなくSIerが衰退業種と言いたかったのでは・・