2010年12月4日土曜日

間違っていますよ。そんなことで営業力の強化はできません。

 「営業力を強化したいんです。提案書の作成や交渉の進め方など、研修して頂けないでしょうか。」
 
 このようなご相談を頂くことがある。そのような方には、次のような意地悪な質問をすることにしている。
 
 「喜んで、お引き受けしたいところですが、ところで、提案書がうまく書けることや交渉の術に長けていることで、売り上げが伸びると本当にお考えでしょうか?」
 
 時々、こんな勘違いをしている人がいる。営業力とは、プレゼンテーションやドキュメンテーション、コミュニケーションなどのスキル(技能)であると。冷静に考えれば、このような能力は、営業力の本質ではない。どんなに、美しい提案書を書き、魅力的な説明ができたとしても、それでお客様は、システム購入の意思決定をしてくれることはない。
 
 露天でものを売る商売であれば、このようなスキルが、お客様の財布のひもを緩めてくれるだろう。しかし、何百万円、何千万円、あるいは、億の単位になるようなものを、このようなスキルで売ることなどできるはずがない。たとえ目の前にいる相手をその気にできたとしても、B2Bビジネスでは、かならず稟議があり、決定権限者の承認を必要とする。このような過程を考えれば、このスキルが、本質ではないことに気づかれるだろう。
 
 では、なにがB2Bビジネスにおける営業力の本質かと云えば、「営業活動プロセス」を遂行する能力である。
 
 営業活動は、お客様を開拓し、課題を探り、案件を明確にし、解決策を描き、意志決定プロセスを攻略し、受注を果たし、デリバリーを成功させ、お客様に満足を与え、感謝と共に代金を頂く一連のプロセスである。
 
 このプロセスを通して、営業はお客様の期待を知り、お客様の価値を高める手段を考える。そして、お客様の価値を高めた対価として、その一部を頂く仕事である。お客様は、決して、モノがほしいわけでもなければ、あなたの会社と仕事がしたいわけではない。自分の課題が解決されることであり、期待が満たされることを求め、その成果に対して対価を払うわけである。
 
 モノやサービスといった商品は、この成果を得るための手段であり、お金を頂くための方便に過ぎない。
 
 「我が社のソリューションは・・・」と自信たっぷりにプレゼンテーションし、美しい資料で機能や性能を説明してくれる営業がいる。なるほど、彼のスキルはたいしたものだと思うが、だからといって買おうとは思わない。よくよく聞いてみると、彼の言うソリューションとは、何もこちらの課題を解決することを目的とはしていないようだ。「自分の営業目標を達成するという課題」を解決するためのソリューションである。つまり、自分の売りたい商材つまりプロダクトをソリューションと言う言葉に置換えているに過ぎない。きっと彼は、「我が社のソリューション」を売ることはできないだろう。
 
 展示会で、すてきな女性が、商品についてすばらしいプレゼンテーションをしてくれた。とても魅力的である。ぜひもう少し詳しく話を聞きたい、相談に乗ってもらいたいと思う。だからといって、そのプレゼンテーションをしてくれた女性がこの期待に応えてくれるだろうか。プレゼンテーションのスキルはあるが、モノを売る能力が、彼女にあるとは限らない。
 
 お客様の課題とは何かを考える。お客様の経営環境、競合他社の動向、システムの運営や構築に関わるお客様の「困った」・・・そんなところにお客様の課題はある。その課題にお客様自身が気づいていないことあるだろう。
 
 お客様に課題に気づかせ、それを具体的なイメージとして整理し、解決したいという意欲を引き出さなくてはならない。これが、「課題を発掘する」と言うことである。営業である自分が、「お客様の課題に気づく」ことが、課題を発掘することではない。なぜなら、お客様が解決したいと思わない限り、検討さえもしてくれない。
 あなたの提案書やプレゼンテーションがどんなにすばらしいものであったとしても、「是非社内で検討させていだきます。後日連絡させていたきますね。」と言われ、やった!と握り拳を心に描いても、お客様からの連絡は、一週間たっても、二週間たってもくることはないだろう。
 
 たとえ、担当者がその気になってくれたとしても、意志決定をするのは、その上司であり、経営者である。彼らの関心や期待は、担当者のそれとは異なっている。

 もしかしたら、競合他社が、既に決定権限者にアプローチしているかもしれない。CFOが、「もう少し安くできないのか」と稟議起案者に要求するかもしれない。
 
 営業活動は、実に様々なプロセスによって組み立てられている。このプロセスをスパゲティ・ナポリタンのごとく、ごちゃまぜにして考えていては、優先順位もつけられないし、改善策を見いだすことも容易なことではないだろう。
 
 営業活動をひとつひとつのプロセスに分解し、整理して理解していること。そのプロセスの中で、自分は何ができていて、何を改善すべきかを知ること。そのひとつひとつを確実にこなすための術を身につけること。このような能力こそ、営業力の本質ではないかと考えている。
 
 もちろんプレゼンテーションやコミュニケーションといったスキルも、このようなプロセスを効率よくこなすためには、是非とも身につけたい能力である。また、クラウドや仮想化が、SOAやAjaxとどういう関係にあるのかと言った、体系的、構造的な知識も、お客様の話を理解し、整理し、戦略を立てる上では、大切な能力である。また、何よりも人に好かれ、向上心を持ち、積極的な気持ちを絶やさない人間力が無くては、お客様との良好な人間関係を築くことはできないだろう。
 
 言うなれば、営業力は、プロセス、スキル、知識とそれを支える人間力の総合力である。
 
 ただ、スキルや知識、人間力は、なにも営業だけに必要なことではない。ITビジネスに関わるプロフェッショナルとして、共通な能力である。従って、営業力の本質は何かと問われれば、このプロセスが、大きな位置を占めることになるだろう。
 
 「営業力を強化したいんです。提案書の作成や交渉の進め方など、研修して頂けないでしょうか。」という考えが、決して間違っているわけではない。しかし、営業力は、そのようなことだけでは強化することはできない。
 
 営業力を強化したいのなら、「営業活動プロセス」を整理し、その遂行能力を高めることである。そんな観点から、営業力強化の取り組みを考えてみるべきではないだろうか。

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