2010年10月31日日曜日

売る側から考えたクラウドの定義

 現在、広く受け入れられているクラウド・コンピューティングについての理解は、米国NIST(国立標準技術研究所:National Institute of Standards and Technology)の定義に準じるものが多いようです。しかし、売る側の立場としては、どうもしっくりこないというのが、正直なところです。

 たとえば、NISTの定義にSaaS,PaaS,IaaSのサービス・モデルとプライベートとパブリックを区分する配置モデルがあります。しかし、厳密に考えれば、このサービス・モデルは、パブリック・クラウドのサービス・モデルであり、プライベート・クラウドには、当てはまりません。ちょっと、中途半端な気がします。 

 売る側のスキルや体制の視点から見ると、SaaSは、業務ノウハウを基盤としたビジネス・モデルです。もちろんプラットフォームなくして、サービスの提供はできませんが、現実の問題を考えると、この両方の能力を兼ね備えているIT事業者は、決して多くはありません。ですから、アプリケーションは自分で運営し、プラットフォームは他者に任せると言った仕組作りも可能なはずです。両者は、分離して考えることができます。 

 一方、プラットフォームに目を向けると、不特定多数を対象としたミドルウェアやインフラ環境を構築し、自ら運用するPaaS,IaaSの場合と企業内にシステムを構築し、特定のお客様のためにシステムを構築、運用する場合とでは、必要となる投資やリスク、体制やスキルは、大きく異なります。 

 サービス・モデルと配置モデル。このふたつが、別々の解釈軸で区分されているのは、売る側のスキルや体制、ビジネス・モデルを考える上では、どうも不便な感じがしています。 

 もうひとつ考えるべきは、我が国と米国とのビジネス環境の違いです。

 我が国では、ユーザー企業は、社内ニーズのとりまとめ役であり、システム構築や運用などのインテグレーションは、SI事業者に依存するケースが少なからずあります。しかし、米国では、このインテグレーションの役割、つまり、PM、調達、開発、運用などをユーザー企業が持つ場合が一般的で、不足のリソースを必要なときに外部から調達するという考え方が、一般的なようです。 

 従って、システムに関わるコストや効率は、完全にユーザー視点です。また、きめ細かくエンドユーザーの要望に応える自主開発も、日本ほどには積極的ではありません。コストや効率の観点から、パッケージ・ソフトウェアを導入し、パッケージ・ソフトウェアに業務をあわせることについても、割り切っているようです。  

 NISTの定義を改めて、この視点から眺めてみると、SaaSは、パッケージ・ソフトウェアの置き換えです。また、PaaSは、データベースなどのミドルウェアに関わるスキルを持つ人材調達の代わりであり、IaaSは、ハードウェア・リソースの低コストでの調達手段と見ることができます。米国の事情を考えると、実にわかりやすい利用者視点の区分であり、合理的な解釈と言えるでしょう。 

 SI事業者に大きく依存している我が国のユーザー企業には、この発想は生まれにくいかもしれません。また、SI事業者にとっては、このような考えは、自らの利益と相反する危険思想かもしれません。従って、このような合理的な考え方を採用することには、どうしても消極的になってしまうのかもしれません。 

 また、プライベート・クラウドの昨今の動向を米国のビジネス環境からみると、あることが分かります。それは、プライベート・クラウド構築の負担軽減です。 

 前述の通り、米国では、システム・インテグレーションの実行責任は、ユーザー企業側にあります。従って、プライベート・クラウドを構築するためには、自ら必要なハードウェアやミドルウェアを選定し、その組み合わせを自らの責任において、保証しなくてはなりません。これは、スキル的にも、人材的にもなかなか大変なことです。コストと効率に敏感な企業にとっては、これは大きな負担となっています。 

 このようなユーザーの課題を解決しようという動きが、「Cloud in a box」です。この言葉、オラクルのCEOであるラリー・エリソンが、Exalogic Elastic Cloudの発表の時に使った言葉ですが、シスコのvblock、マイクロソフトのAzure Appliance、IBMのz Enterprise 196など、基本的には同じ動きだと言えるでしょう。 

 言い換えれば、企業内にオープン・システムをプラットフォームとしたメインフレーム=汎用機を簡単に導入、構築するビジネスととらえることができます。 

 しかし、我が国の場合、これは、ベンダーやSI事業に任せるか、大きく依存している部分でもあり、ユーザー企業が、その必要性をそれほど強くは認識していないのではないかと思うのです。 

 このように、我が国と米国のビジネス環境の違いを考えると、NISTの定義をそのまま前提にして、ビジネス・モデルを考えるのはいかがなものかと思うのです。 

 そこで、ちょっと大胆な挑戦ではありますが、我が国の実情を前提に、売る側の視点でクラウドの定義を考えてみました。いかがでしょう。 

 ■ アプリケーション・サービス・クラウド

 ■ プラットフォーム・サービス・クラウド

 ■ エンタープライズ・サービス・クラウド

 

 ■ アプリケーション・サービス・クラウド

 特定の業務に特化したアプリケーションを、インターネットやWANを介して、サービスとして提供するビジネス・モデル。プラットフォームは必要ではあるが、必ずしも自ら運営する必要はない。

 ■ プラットフォーム・サービス・クラウド

 開発や運用に関わるリソースを、仮想化や運用の自動化の技術を前提に、インターネットやWANを介して、サービスとして提供するビジネス・モデル。  

 ■ エンタープライズ・サービス・クラウド

 企業内で利用するシステムを集約し仮想化や運用の自動化の技術を前提に、効率的なシステム利用環境を構築、運営するサービスを提供するビジネス・モデル。 

 まだ、荒削りではありますが、議論のたたき台になればと願っています。 

 この話題については、11月11日(木)に開催されるクラウドコンピューティングEXPOでも、ITソリューション・ベンダーの事業戦略と関連づけて、詳しく話をさせていただこうと思っています。

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