2010年5月8日土曜日

営業力強化というリストラ

 ある中堅SIerの社長から、「いままでのようにお客様との信頼関係にたよっているだけでは、もはや仕事を持ってくることができません。だから、営業を増やし、こちらから積極的に仕事をとってくることができるように、組織体制を改めました。」という話しを伺いました。

 景気のいいときは、次々に仕事の依頼が来るので、「仕事を取りに行く」ということをあまり考えなくても良かったのだそうです。しかし、この不況です。お客様の新規開発が大幅に圧縮され、単金も引き下げられました。

 この会社は、まだ特殊な技術を持っていたので、なんとかこの不況期も持ちこたのですが、クラウドの普及や大手ゼネコンSIerのオフショア開発拡大の影響で、この競争力の基盤も揺らぎ始めているのです。

 このままでは、やってはいけないという危機感、それが、営業力の強化という発想に結びつくのは、当然の成り行きといえます。

 しかし、どうも、本音はそういうことではないようです。

 従来、わが国のSIerは、一部大手のゼネコンSIerが、仕事を受注し、その下請けとして多数の中小のSIerが、実際の開発や運用を受託するという構造で成り立っていました。

 従って、中小のSIerは、新人を採用すると、まずは単金を稼げるエンジニアとして育成する。そして、そろそろエンジニアでは、難しくなったシニア人材を「営業」にするというのが、普通でした。

 「営業」といっても、売り込みは必要ありません。景気がいいわけですから、仕事はあります。ですから、お客様との人間関係、トラブルやクレームへの対処、調達に関わる交渉などを確実にこなしてゆく能力が求められていたのです。

 このような能力は、むしろ、シニア人材には向いていました。彼らは、結果的に「仕事を取ってくる」という「営業」の役割を果たすことができていたのです。

 しかし、もはやそれでは仕事が取れない時代になりました。お客様との人間関係構築と営業業務に長けているだけでは、「仕事を取ってくる」という期待に応えられなくなってきたのです。

 「営業を増やした」という件の社長の発言ですが、実は、シニア・エンジニアの多くに「営業」という役職を与え、「さあ、仕事を取ってきなさい」といっているだけのことなのです。

 つまり、「営業」の現場に求められる仕事内容や役割が変わっているにもかかわらず、これに対処することなく、従来通りの考えで、エンジニアから「営業」への人材移動を前倒しにしただけのことなのです。これは、エンジニアが、ダブつていている現状に対処するための「社内リストラ」にすぎないのです。

 仕事を取ってくることが「営業」の仕事ですから、それができなければ、評価は下がります。評価が下がれば、昇給や昇進を抑制できる。また、さらに業績が下がれば、本当のリストラの対象にもできるのです。

 一方では、期待もあります。「営業」という役割を与えれば、仕事をとってくるように頑張るだろう。エンジニアのままにしておいても、仕事が増えるわけではない。営業であれば、プラスはあってもマイナスはないだろう・・・と。

 しかし、現場は、疲弊しています。「営業」をやれといわれ、今までの経験や養ってきた能力が、必ずしも活かせない「まったく新しい仕事」を任され、自分で考え、工夫しろといわれているようなものです。

 中には、この現実に適応して、成果を上げる人もいるでしょうが、多くは、そうはならないのです。

 中小SIerの経営者の多くは、自ら営業として仕事を取ってきました。ですから「営業」を知っています。そして、自分と比べて、今の「営業」を見たとき、「何でそんなことができないんだ。」と憤りを感じてしまう。できて当然と思ってしまう。

 そんなことは、自分で何とかできるはずだと思うのです。しかし、「だからあなたは、経営者になれた」のだということであり、他の多くにそれを期待してはいけないのです。

 シニアなエンジニアに「営業」を任されても、従来の能力の延長だけでは、対処し切れないのです。

 しかし、彼らも、ベテランの自負があります。簡単に弱音を吐くわけにはゆきません。しかし、一度も車を運転したことがない人に、突然、首都高を走って来いと言われるようなもので、どうすればいいのか、何から手をつければいいのか、不安がますます募ります。そして、仕事への意欲や自信を失ってゆく。結果として、メンタルで苦しんでいる人もいるようです。

 もはや、従来のように、エンジニアとしての経験と能力の延長線上に、営業は存在しないのです。

 だからといって、「営業経験がないから、いい営業にはなれない。」などと、いうつもりは、これっぽっちもありません。エンジニアとしての経験があればこそできる営業スタイルもあるのです。そうではなくて、エンジニアとして必要とされたスペシャリティとは、また異なる、営業としてのスペシャリティが、必要なのだということです。

 多くの企業は、エンジニアを稼げるプロとして育ててきました。それと同じように、営業もまたプロフェッショナルであり、スペシャリストとして認め、育ててゆくという意識を持つこと。そして、それを活かす組織や制度を作るという取組が必要なのではないかと思っています。

 件の社長のように社内リストラでシニア・エンジニアに「営業」という肩書きを与えるだけでは、営業力の強化にはなりません。

 「営業で稼ぐ」ためには、どうすればいいのか。そんな視点に立って、営業の役割や能力を定義し、エンジニア同様、プロの営業を育てる。そして、これを活かしてゆくための組織としての取り組みが、求められているのではないかと思うのです。

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