2013年4月19日金曜日

案件規模の縮小 どう対処すればいいのか


「最近は、案件規模が縮小し、プロジェクト期間の短い案件が増えてきました。」

SIerの方に話を訊くと、いずれも同じような話が返ってきます。このような話が増え始めたのは、リーマンショック以降のことではないでしょうか。

ITバブル崩壊以降の低迷期を脱し、何とか明るい兆しを取り戻しつつあったまさにそんなときにリーマンショックが起こりました。プロジェクトの延期や中止が相次ぎ、SIerは厳しい状況に追い込まれます。

その後、リーマンショックのほとぼりも冷め、景気も持ち直しはじめましたが、一旦財布の紐を絞めてしまった以上、そう簡単に元に戻すことはできません。特に、企業にとって本業ではないITはコストであり、リーマンショックで緊縮財政が定着した企業にとっては、例え景気が回復したからといって、すぐに拡大する空気はありません。

また、そんな時期に起こった東日本大震災によって、プロジェクトは先送りされ、SIerは再び苦境に立たされます。

このようなIT投資の不連続な凍結や先送りのため、ユーザー企業の情報システム戦略は混乱し、適切な投資のタイミングを失ってしまったとも言えます。

そこで、ユーザー企業は、戦略的見通しのないままにプロジェクトをまとめてSIerに丸投げするリスクを避け、どうしても必要な最低限の業務を選び、分割して発注することで対処しようとしました。また、このような案件の規模の小型化は競合を容易にし、案件単価を下げることにもつながりました。

冒頭の言葉の背景は、このようなことなのでしょう。

また、昨今のクラウドや新たなテクノロジーの進展が、この流れをさらに加速しはじめています。それは、次のような3つの理由からです。

1.       クラウドを利用すれば初期投資を抑制でき、資産を増やすことなく経費として処理できるから
2.       SaaSの利用実績が増え、あえて自社独自の開発やカスタマイズをしなくてもアプリケーションを利用できるようになったから
3.       アジャイル開発の普及、高速開発のためのフレームワークやツールの充実により、短期間、低コストで開発できる環境が整ってきたから

SIビジネスは、もともと効率の悪いビジネスモデルといえるかもしれません。多くのエンジニアが従事していたプロジェクトが終了すると、そのエンジニア達は、次のプロジェクトに従事させなければ、なりません。しかし、そんなに都合良く全員が従事できるプロジェクトを確実に確保できる保証はありません。そのため、どうしても数週間から数ヶ月間、何も稼げないのに給与を払い続けなくてはなりません。このような仕組みが、SIerの利益率を低迷させる原因にもなっています。

この構造的問題に加え、上記にあげた案件規模の縮小と競合、クラウドやテクノロジーの進化は、SIビジネスを益々難しいものにしています。

このあたりの変化を整理したのが、次の図です。



これまでは、お客様の要求どおりの機能と品質を確実に実現することが求められました。プロジェクトも、1年から3年といった長期のものも少なくはありませんでした。しかし、今は、案件規模は小型化し、変更変化に迅速柔軟に対応し、短期間で開発することがこれまでにも増して重視されるようになりました。

システム資産は、自社で保有することが当たり前の時代から、クラウドを利用する選択肢が優先する「クラウド・ファースト」の時代へと変わりつつあります。

開発は、個別対応を前提とし、要件をあらかじめ明確にした上でウオーターフォール方式で開発し、契約は準委任や請負が一般的でした。それが、アジャイル開発の手法や高速開発のフレームワークやツールを駆使して内製化をすすめようという機運も高まっています。また、できれば開発せずに済ませたいということでSaaSを積極的に利用しようという動きも増え始めています。

運用業務は、ユーザー企業がそれぞれ個別に所有するシステムをITベンダーから派遣されたエンジニアによって対応してきました。それが、クラウドになれば、運用業務の一部がサービスに組み込まれています。また、データセンター事業者にシステム資産を預けることも一般化し、複数企業の運用業務にまとめて対応するマネージド・サービスも普及しはじめています。

ユーザーが使うデバイス(エンド・ポイント)は、これまではPCが前提でした。PCは、比較的画面スペースに余裕があります。そのため、クライアント・アプリケーションやウエブの画面は、効率の良い機能の配置が優先されるユーザー・インターフェィス(UI)が求められました。
しかし、スマートフォンやタブレットなどのスマート・モバイル・デバイス(SMD)の普及により、新たなアプリケーションは、SMDにも対応することが求められるようになりました。SMDは、もともと個人利用を前提としたデバイスです。そんなこともあって、機能が使えるだけでではなく、美しいデザインや使うことが楽しくなり、もっと使いたいと思わせることができるインターフェイス(UX)が求められます。また、画面が小さいこともあり、機能を絞り込み、使いやすさにもこれまでに無い配慮が求められるようになりました。ならば、PCを前提にするのではなく、まずはSMDのインターフェイスを作り、PCはその後対応しようという「モバイル・ファースト」の考え方が生まれてきました。むしろこちらの方が、結果としてPCの画面もシンプルで使いやすくなります。

このような変化が生まれつつあるのです。

それでは、ITベンダーは、この変化にどう対応すればいいのでしょうか。こちらについては、次週説明させていただきます。

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