「モバイルねぇ・・・確かに、やらなきゃいけないんですけどね、案件単価も小さいし、もうけも少ないし、なかなかできる人間もいなくてねぇ。検討はしてるんですけどね、もうちょっと世間の様子を見ながら、考えようと思ってるんですよ。」
ある中堅SIerの経営幹部からこんな話を伺いました。
「わかってないなぁ (・0・)」、のどから出かかった言葉を呑み込まざるを得ませんでした。
今を何とかしなければならない経営者にとっては、直ちに収益を期待ができないモバイルにリソースを傾けることに不安があることは理解できます。しかし、確実にマーケットが変わろうとしている現実を直視せず、これまでの常識の延長線上にビジネスが存在するという思い込み、いや、思考停止は、むしろ大きなリスクであることを理解すべきです。
「まあ、具体的な案件があれば、うちも動くんですけどね。あんまりそういう話しもないしねぇ。」
ますますもって、この方の非常識に、いらいらしてきてしまいました。
そんなことは当たり前の話しです。「モバイルだったら、うちも真剣に取り組んでいるんです。例えば・・・」と言わない事業者に、お客様が相談するはずもありません。
黙っていても、お客様から仕事を頂ける時代が終わりを告げている今になっても、「獲りに行く」遺伝子がいっこうに育っていないところに、残念ながら未来はありません。
※ このサイトは Agil Cat - in the Cloud さんにご紹介頂きました。
先日、公表されたIDCのレポート「2013年 国内IT市場の主要10項目」には、次のような記載がありました。
「2013年はマラソンに例えれば、先頭集団がペースを上げ、脱落するランナーが出始める時期にあたる。第3のプラットフォーム(小職註: モバイル・プラットフォームのこと)は、すでに市場を支配し始めている。ITベンダーは既存ビジネスとの競合があるとしても、第3のプラットフォームへの事業シフトを実行に移す必要がある」
確かに、モバイルは案件単価も小さく、それだけを見れば儲からないかもしれません。しかし、マーケットがこの方向に動き始めている以上、どう対処するかを真剣に考え施策を打つべきは論を待たないでしょう。モバイルという入り口を獲らなければ、バックエンドの開発や運用など、稼げるところも獲れないと言うことをなぜ考えないのでしょうか。
ITビジネスは、お客様の3年後に対して責任を持つ仕事です。モバイルに限らず、ITの3年後がどうなるかを説明できないSIerに、お客様は期待しません。
ITビジネスに限った話ではありませんが、これからの事業戦略を考える上で注目すべきは現在の市場規模そのものではなく、その加速度、すなわち成長率であり、トレンドメーカーたちの製品発表やM&Aなどの未来を先取りする様々な動きの活発さです。
この視点から見れば、モバイルやビッグデータ、SNS、SDNなどの市場は、市場規模こそまだまだですが、その加速度には目を見張るものがあります。そういうところで、いち早く存在感を示し、将来の市場の成長に備えることが、変化と競争の激しい業界の中で、生き残ってゆく術であることは言うまでもありません。
「そうはいいますが、簡単なことではないですよ」、そんな声も聞こえてきそうです。特に中堅中小の企業には人的、資金的な余裕がありません。その通りだと思います。だからこそ、経営者はトレンドを知り、自分たちの立ち位置を考え、最もふさわしい決断をしなければならないのです。その経営者が、トレンドを学ぶことを怠り、これまでの成功体験がそのまま使えると思考停止に陥っている。これでは、部下がかわいそうです。
人売りビジネスが「じり貧」であることは、既に体感されている方も多いはずです。例え人数的需要は維持できても利益の確保はますます難しなるでしょう。だからこそ、トレンドを見据えた方向に向かわなくてはなりません。そして、その時間的余裕は、あまりないということを肝に銘じておくべきでしょう。
IDCのレポートに限らず、年末年始にかけて、来年を予測するレポートが、これからいろいろとでてくるでしょう。しかし、それらを見るまでもなく、大きな流れは見えているのです。
ドラッカーが、次のような言葉を残しています。
「既に起こり、後戻りのないことであって、10年後、20年後に影響をもたらすことについて知ることには重大な意味がある。しかも、そのような、すでに起こった未来を明らかにし、備えることは可能である(ドラッカー「経営論」)。」
「すでに起こった未来」を知り、それに対処することが、経営者の役割であると彼は語っています。
そのためには、まず「すでに起こった未来へ」の流れ、つまりトレンドを知ることに関心を持たなくてはなりません。トレンドとは、「時流」であり、未来への道筋を示してくれる流れです。
そして、自分たちの立ち位置を定めることです。得意不得意、これまでの経験、そんな中で、自分たちの果たすべき役割について、考えることです。
そして、「すでに起こった未来」に向かう流れに自らをゆだね、その船頭として舵を取ることこそが、経営者の役割ではないでしょうか。そして、その流れにお客様を乗せることこそ、営業という仕事の大切な役割なのだと思います。
流れに乗ることを怠り、「すでに起こった未来」とは、別のところに行き着いていたと気付いても、それは後の祭りです。
今の時代の変化は、これまでの常識の延長線上だけでは、理解できないことなのかもしれません。だからこそ、お客様も迷っています。そこに道を示し、お客様を導いてゆくという役割を担うことが、自らの存在感を示す方策なのだと思います。
お客様の3年後に責任を持つ。それは、とりもなおさず、自分たちの3年後に責任を持つことでもあるのです。
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