2011年2月26日土曜日

競合に対処する3つの方法

 IT業界にも、やっと明るい兆しが見え始めたようです。リーマンショックをきっかけとした受注の劇的な落ち込みも、お客さまの投資意欲の回復で、あちこちで人手が足りないという声が聞こえてきます。
 
 しかし、その一方で単金を値上げすることは未だ難しく、仕事量は増えたが、売上げや利益が伴わないと言った嘆きも聞こえてきます。

 この背景には、ニューノーマル(新しい常識)の定着があるように思います。
 
 リーマンショックをきっかけに、お客さまの値引き要求に応えることで仕事をつないできたSI事業者に対し、「同じ仕事がこの単金できるなら引き続きこのままで・・・」という新しい常識が、お客さまの意識の底にはあるように思います。
 
 加えて、グループ内製を優先する大手事業者の動きです。リーマンショックをきっかけに大手事業者は、中堅中小の買収や合弁を進めました。その結果、コスト削減の手段として、グループ内製を積極的に活用し始めています。また、オフショア利用の拡大も単金の頭を押さえつけています。
 
 もうひとつ、単金を押さえている大きな要因として考えられるのは、競合の常態化です。
 
 お客さまの業績が伸び、需要が供給を上回っている時代にあっては、お客さまは、競合を避け、各社に業務を棲み分けさせることで供給の安定確保を図ってきました。しかし、需要の激減で、もはやこの構図は、成り立たなくなってしまったのです。つまり、積極的に競合させることで、業者を減らすと共にコスト削減を図っているのです。景気が回復しつつある中でも、この常識だけは、お客さまにしっかりと根付いてしまった感があります。
 
 競合は、今に始まったわけではありませんが、ITのコモディティが進む中、機器やサービスで絶対的な競合優位を打ち出すことは、従来にも増して難しくなってきました。また、クラウドの普及は、ITリソースやサービス調達のコストを引き下げる要因となり、新たな競合として、その存在感を高めつつあります。
 
 このような競合が当たり前の時代に、どうすれば、勝ち残ることができるのでしょうか。今日は、そんな競合の時代を勝ち抜くための方法を考えてみようと思います。

1.案件に関心を持つのではなく、お客さまに関心を持つ

 先日、あるSI事業者で、失注の原因を考える検討会が立ち上がりました。確実にとれると考えていた案件が、たて続けに何件も失注してしまいました。なぜそんなことになったのかを明らかにし、今後の教訓にしようということで、はじまったものでした。
 それら失注案件の受注の経緯を見ていて、ある共通点があることに気がつきました。どれも、お客さま側から、「これを御願いしたいので、提案と見積もりを御願いしたい」という要請やRFPが、案件を認識したきっかけとなっていることでした。
 
 つまり、お客さまは、依頼すべき仕事の内容や範囲を決定事項とし、依頼してきていたのです。このようなケースの場合、まず間違えなく、競合他社にも同じ話が行っているはずです。これはもう、はじめから競合前提の話しであり、結局は金額や要員手配などの諸条件での競合に競り勝たなければならない状況にあったのです。残念ながら、こちらが、内容で差別化できる余地は、極めて限られていたのです。
 
 もちろん、これだけが失注の原因と申し上げるつもりはありません。ただ、お客さまから提示された案件が起点となって始まるビジネスは、競合優位を発揮する余地は極めて限られています。当然、厳しい競合に晒されることも避けられません。
 
 このような事態を回避するためには、案件を創ることに積極的に関与することだと思います。つまり案件ではなく、お客さまの経営や業務に関心を持ち、案件作りに自ら積極的に関与することです。お客さまは、今どのような状況にあり、どのような課題を抱えているのだろうかと調べ、考えることです。
 
 なるほど、このような課題があるのならば、きっとこのようなニーズがあるあるに違いない。ならば、こんな取り組みを始めるべきではないかと、お客さまに持ちかけてみる。そうやって、お客さまの「困った」や「何とかしなくては」を解決するための方法をお客さまと一緒に考えてゆくのです。
 
 決ってしまった案件に対処するのではなく、案件を創ることそのものに関与すれば、ビジネスのイニシアティブをとることができるようになるはずです。そうなれば、競合を回避できるかもしれません。また、仮に競合となっても、常に優位な立ち位置を確保できるようになるはずです。

2.ウエットな情報で、競合優位を拡大させる

 お客さまの情報には、二つのタイプがあります。ひとつは、公開情報、または、ドライな情報と言われるもので、ネットや新聞などで、自らあるいはニュース記事などで公開されてい情報です。もうひとつは、非公開情報、または、ウエットな情報です。公にはされていない、検討途中の情報やキーパーソンの個人的意見などが、これに当たります。
 なぜ、このような情報をウエットというかというと、人間関係が、ウエットになる、つまり、気楽に個人のことなどが話せるような間柄らにならないと聞き出せない情報という意味で、そうではなくても、誰もが手に入れられるドライな情報と区別しています。

 表現を変えれば、お客さまが口を滑らせた情報や貴方に専門的な知識や見識があり、自分の意見をまとめるために相談をされるようなときに得られる情報がこれに当たります。
 
 公にされない情報は、それが事実であればと言う条件はつきますが、あまり知られたくない重要な情報である場合が多く、何らかの新しいプロジェクトの発足や戦略的な意志決定に関わるものよくあります。このような情報を競合他社に先駆けて、いち早く手に入れることができれば、先んじて有利なシナリオを描き、キーパーソンへのアプローチや提案活動を行なうことができます。
 
 そうなれば、競合他社に気付かれないうちに案件を手に入れることができるかもしれません。また、仮に競合になっても、競合が知らないお客さまの手の内が分かっていれば、こちらに有利な提案ができることになります。
 
 ウエットな情報を手に入れるためには、お客さまのキーパーソンと日頃からの信頼関係を構築しておくことが必要です。加えて、貴方が相談されるに値する知識や見識を持っていれば、ますますチャンスは広がるはずで。それ以外にもいくつかのテクニックが役に立つのですが、これについては、いずれどこかで話しをさせていだこうと思います。

3.わかりやすさやきめの細かさで勝負する

 同じ商品を複数の企業で販売していることはよくあります。ところで、この多数の選択肢の中から、お客さまは、どうやって特定の一社を選定し、発注するのでしょうか。もちろん、その要因は、決してひとつではありません。しかし、他社に比べてきめ細かく、丁寧に、わかりやすく説明してくれたり、相談に乗ってくれる会社の評価が、高くなることは間違えないと思います。
 
 競合状況にあっては、このような事態はむしろ避けられず、機能や性能、サービス内容や価格では、なかなか明確な差別化のポイントを見つけることができません。このような時に、競合優位を発揮するためには、お客さまにとって、かゆいところに手が届くように、きめ細かく、丁寧に、美しく、わかりやすい説明や資料が提供することが、有効な場合があります。
 
 内容が同等であるとすれば、このような気配りは、お客さまに親しみと安心感を与えることになります。当然、お客さまの意志決定は、こちらにとって有利な方向に働くはずです。
 
 もちろん、本来は、中身で勝負すべきであり、中身に魅力が無くて、これだけで勝負しようとしても、それは本末転倒な話しです。しかし、内容で差別化が難しいとすれば、このあたりが、勝敗の分かれ目になることもあるでしょう。
 
 以上3つの方法の中で、強いてどれかひとつだけを選べと問われれば、わたしは迷わず、最初の「案件に関心を持つのではなく、お客さまに関心を持つ」を上げさせていただきます。その理由は、このようなことは、お客さまを成功させたい、困ったを解決してあげたいという、お客さまへの愛情や思いやりがなければ、できない行為だからです。案件は、結果としてついてきます。
 
 このような取り組みは、お客さまも多いに助かるはずです。お客さまは、貴方に感謝し、信頼も深まるはずです。そうなれば、ウエットな情報も手に入りやすくなります。さらに、お客さまの目線も理解できることになれば、こちらのお仕着せではなく、お客さまに納得感を与えられるきめ細かさも演出できるようになるはずです。
 
 競合に打ち勝つというよりも競合を回避する方法と言うべきかもしれませんね。見方を変えれば、このような関係が構築できれば、お客さまから見た貴方は、単なる出入り業者ではなく、信頼し相談できるビジネス・パートナーとなっているのではないでしょうか。



 人は教えると学ばない、やれと言われるとやりたくないものです。だから教えられる研修は苦痛に違いないと思います。

 だから、偉そうなことを「教える」のではなく、営業という仕事を因数分解し、手順として時系列に改めて組み上げて、自分のスタイルと比べてみるというのはどうでしょう。そして、ひつひとつのプロセスについての実務実践の勘所を整理する。

 そんな研修を3/3(木)と3/4(水)に都内で行ないます。有償ではありますが、かなりリーゾナブルだと思いますよ(笑)。

 3/4(木)は、部下を持つリーダーやマネージメントのための追加講義で、3/3-4と続け出ていただけるとお安くなります。よろしければ、ご検討ください。

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2011年2月20日日曜日

貴方の身近にもいるガラパゴス営業たち

 この業界には、2つのタイプのガラパゴス営業が、生息している。
 
 まず、ひとつは、「過去の栄光」という島に生息するガラパゴス営業だ。
 
 このタイプの特徴は、「俺の若い頃はなぁ」、「オフィースにいる暇があったらお客さまを回ってこい」、「とにかくお客さまに食らいつけ」というような、根性論的発言をよくする。年齢は、40歳以降に多く、マネージメントも多い。
 受注するためには、お客さまとの人間関係を大切にし、信頼関係を維持することが、もっとも大切だと考えている。また、自分は、このようなことには長けていてること、また、自分がかつて担当したお客さまについては、誰よりも知っているという自負がある。
 お客さま第一、滅私奉公を信条とし、そのような自分の信条に絶対の自信をもっている。その一方で、それができない部下や若手を「最近の若い連中は・・・」と自分の基準で切り捨て、俺を見習えと言わんばかりに、自分のやり方に従わせようとする。「なぜ、それをする必要があるのですか?」と聞いても、「やれば分かる。とにかく俺の言うとおりにやれば、いいんだ!」と理由や方法を伝えることなく、確固たる信念で、部下に命令することも多い。
 
 このタイプのガラパゴス営業は、過去のある時期、このやり方で成功を収めてきた。その方法が、未だに通用すると信じている。あるいは、今の世の中や若者達の価値観の変化について行けない・・・あるいは、そういうことを学ぼうとしない。自分と違う価値観や今までのやり方でできない事態に遭遇すると、自分の信じている価値観に引きこもり、「とにかく俺の言うとおりにやれば、間違えない!」と部下に命ずる。そして、自分もそのとおり行動し、結局は失敗する。しかし、その反省もそこそこに、また同じことを繰り返す傾向がある。
 
 ここまでではなくても、「後はおまえにまかせる。一生懸命やれば、道は開ける。とにかく、頑張ってこい!」と一見理解のある励ましを与えてくれる。しかし、それ以降は我関せず。結果だけを問い、過程を見ようとはせず、とにかく「頑張れ」、「食らいつけ」、「気合いいれてやってくれ」の精神論を唱えるばかり。決して、方法論について、共に考えようという姿勢を示さない。
 
 彼は、間違いなく成功体験者であり、会社の業績にも大きく貢献した。だから今の地位にある。この栄光は賞賛に値するし、体験に裏打ちされた言葉には、勇気づけられ、感動もする。しかし、申し訳ないが、そのやり方が、未だに通用するという思い込みだけは、やめてもらいたい。
 
 グローバル化や失われた20年での景気の低迷は、それまでのような人間関係に頼る営業スタイルだけでは通用しない価値観を根付かせてしまった。景気がいいときは、仕事も潤沢にあり、お客さまも業者の住み分けを当然と考え、安心し、信頼できる営業に仕事をまかせていれば大丈夫というコンセンサスが成り立っていた。営業は、それに応えることで、確実に業績を伸ばすことができた。
 しかし、長引く景気の低迷は、このような常識を壊してしまったようだ。仕事そのものが減り、供給過多となってしまった結果、競合はもはや常態化し、単金の頭を押さえている。さらにオフショアの台頭は、ますます強い力で頭を押さえつけている。
 
 また、クラウドは、その実態の如何に関わらず、お客さまの大きな関心である。ITに詳しくない経営者でさえも、「クラウドで安くできないのか」と言う始末である。
 
 また、昨今は、コスト削減一辺倒の流れに、ひとつの変化の兆しが現れている。それは、変化や変更への柔軟性である。
 
 「Javaのエンジニアが10人欲しい」と言われれば、どうすればいいかは、容易に想像がつく。しかし、「低コストで運用でき、変化に柔軟なシステムが欲しい」と言われても、どう答えていいのか迷ってしまう。
 営業ひとりの能力で解決できるわけではなく、組織をあげて、お客さまの期待に応えてゆかなくてはならない。当然、営業の役割も変わってくることになるだろう。つまり、お客さまの課題を整理し、戦略を立て、大きな設計図を描き、人や組織の組み合わせを考えなくてはならない。そんなプロデューサーとしての営業が、求められている。もはや、一匹狼の職人営業では、仕事にならない。
 
 確かに、技術や社会環境が変わっても、人間の精神や「こころ意気」といったところには、時代を超えた「不易」があることは間違えないと思う。また、人間関係の大切さも、変わることはない。しかし、それだけでは、不十分であり、その方法論や価値観には、「流行」があることもまた真実であろう。その切り分けができないままに、「過去の栄光」という島に閉じこもっているガラパゴス営業は、少なからずいるようだ。

 かれらは、世の中の変化には、気付いている。しかし、それがどんなもので、どのようについてゆけばいいのか、その方法が分からない。だから、島の外へ飛び出すことを怖がっている。自分の生きてきた、信じてきた営業のあるべき姿を否定されることを恐れている。自分が今の自分であることの証明を失うことを恐れている。
 
 「過去の栄光」は、すばらしい勲章であると思う。また、成功や失敗の体験から得た人間としての処し方は、時代を超えて変わらないものであろう。お客さまの成功や自分の成長を喜ぶという価値観は、今の世代とも共有できるものだ。それまでも意味がないと思う必要はない。過去と大きく変わってしまったのは、方法論であり、意志決定のメカニズムである。
 
 現場の感性を信じ、自分のやり方に固執することなく、チャンスを与え続ける。時代の変化を分析的に捉え、ものごとの道理を踏まえ、彼らの話に耳を傾け共に考える。そういう役割は、このようなベテランでしか果たすことはできない。その自信を持って、島を飛び出してみてはどうだろうか。
 
 さて、もうひとつのガラパゴス営業は、比較的若い世代に多いようだ。彼らは、「自分」という島に生息し、それ以外に世界があることに関心を持たない。
 
 お客さまへ伺っても、まずは、自分の会社や製品が、如何にすばらしいか、このやり方以外に解決する方法はないと弁舌さわやかにたたみかける。そして、そんな自分の言葉に酔いしれている。
 自分たちの製品やサービスが、世の中の常識のなかで、どう位置づけられているのか、競合他社との比較において、どこに優れ、どこが劣っているかを見ようとはしない。
 自分の成績には、とても神経を使うが、お客さまには、ほとんど感心が無い。お客さまのことを知ろうとはせず、自分の論理や正論を伝えることが、自分の責務であると考えている。
 
 このようなガラパゴス営業は、自社の製品知識やその使い方には熟知している。このようなことに話題が及ぶと、直ちに語ることができる。しかし、他社と比べてどうなのか、うちの仕事にどのような役に立つのかと問われると、貝になるか、他社製品の批判やあるべき論、正論を語り出し、貴方の考えは間違っているとでも言わんばかりに講釈を始める。御説ごもっともではあるが、教養番組であり、パンフレットを読んだ方が早いと思うことも多い。
 
 このような「自分」という島に生息し、外の世界に興味を示さない、あるいは、勉強不足のガラパゴス営業には、辟易とする。そうならないためには、どうすればいいのだろうか。これについては、是非先週のブログをご覧いただきたい。

 改めて、自分に問い返せば、反省も多い。ガラパゴスな自分を外から眺められる謙虚さだけは、持ち合わせていたいと思う。


 人は教えると学ばない、やれと言われるとやりたくないものです。だから教えられる研修は苦痛に違いないと思います。

 だから、偉そうなことを「教える」のではなく、営業という仕事を因数分解し、手順として時系列に改めて組み上げて、自分のスタイルと比べてみるというのはどうでしょう。そして、ひつひとつのプロセスについての実務実践の勘所を整理する。

そんな研修を3/3(木)と3/4(水)に都内で行ないます。有償ではありますが、かなりリーゾナブルだと思いますよ(笑)。

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2011年2月11日金曜日

出入り禁止にしたい営業の3条件

 「うちの会社には、毎日のようにソリューション・ベンダーの営業の方がお越しになり、自分たちのサービスや製品を紹介してくれるんです。それはありがたいことなのですが、でも、こちらが何を必要としているか、どのようなことで困っているかなどの質問なしに、“我が社の商品は・・・”と話し始める人がほとんどです。どうすればいいでしょうか?」
 
 以前、Twitterでこんな質問を頂戴したことがあります。彼女は、ある大手企業の情報システム部門の方のようでした。このような質問を頂いて、どう答えていいのか、大いに困りました。そこで仕方なく、「ご迷惑をおかけして申し訳ありません・・・」と返信したことを覚えています。まあ、私が申し訳ないことをしたわけではないのですが、自分もこんなことをしていないだろうかという後ろめたさ、そして、すぐに答えが見いだせない未熟さに、ついついこんな返信をしてしまいました。
 
 そして、しばらくして、意を決して、次のような返信をしました。
 
 「自分たちの状況や今必要としていること、困っていることを3ページ程度の資料にまとめ、いつもそれを更新しておくというのはどうでしょう。そして、このような営業さんが来たら、“すみません!10分だけ、先に話をさせていただけませんか。まずは、うちの事情を紹介しますので。その上で、お話しいただけないでしょうか?”と言ってみてはどうでしょう。こうしておけば、常に自分たちの状況も整理しておけるし、相手にも効率よく事情を伝えられるし、一石二鳥ですよ。」
 
 これは、どう考えてもおかしなはなしです。そうは思いませんか?なんとも納得がゆきません。わたしなら、このような営業さんは、即座に出入り禁止・・・まあ、そこまではいかなくても、初回は大人の対応でつきあって、次回からはお断りとしたいところですね。
 
 いったいどこが悪いんですか・・・と首をかしげているようでは、情けない話です・・・ということで、「私なら、こんな営業は、出入り禁止だ!」の条件を考えてみました。
 
1.自分のことばかり話して、こちらのことをいっこうに引き出そうとしない営業

 お客さまは、貴方の会社や貴方の会社の商品やサービスに興味があるわけではありません。自分の「困った」を解決して欲しい、「こんなことをやりたい」を助けて欲しいのです。商品やサービスは手段に過ぎません。それを理解せず、あるいは、こちらの勝手な思い込みで、自分たちのできることばかりを説明し、お客さまの事情もお構いなしに「いかがでしょうか?」と聞かれても、応えようがありません。
 
 また、お客さま自身が、自分の「困った」に気付いていないこともよくある話です。現状が整理できていない、あるいは、潜在的な課題に気付いていないこともあります。また、新しい法律や制度の改正、トレンドの変化が、お客さまの業種業態、業務にどのような変化を求めてくるのかを理解できていない場合もあるでしょう。そのことに気付かせてもあげず、自分達の自慢話をしても、相手にはなんのことやら分かりません。
 
 どちらにしても、お客さまが必要性を感じ、自分の課題を解決したいという意欲を持たなければ、どんなすばらしいものであっても、「余計なお世話」であることに代わりがありません。お客さまにどのような課題があり、何を期待しているかを引き出し、それに応えてこそ、お互いの利害は一致します。
 
 唐突に、しかもたっぷりと時間をかけて自己紹介をし、如何に自分はすばらしいかを蕩々と語り、「私は、貴方とおつきあいしたい、いやおつきあいすべきです。そうすれば、あなたは幸せになりますよ。」とたたみかける人と、私は、おつきあいしたいとは思いません。
 
 ちゃんとこちらの話を聞いてくれる、いや、もう一歩踏み込んで、こちらの状況を引き出し、自分に代って整理整頓し、ならば、こういうやり方ではいかがでしょうと選択肢を示してくれる。ありがたいですね、このような存在は・・・そういう相手の話は、真剣に聞き入ってしまいます。
 
 それができない営業は、自分にとって役に立たない存在です。時間の無駄ですから、出入り禁止にさせていだきます。

2.機能や性能のはなしばかりして、思想や目的を語らない営業

 製品やサービスは、その前提となる業務プロセスがあって、そこに生ずる課題の解決や、今までできなかったことをできるようにしようと開発されたものです。当然、そこには、何らかの想定されるプロセス・モデルがあり、目的や思想があるはずです。
 
 そのプロセス・モデルや思想、目的が、お客さまのそれと一致している、あるいは、近いものでなければ、それを使っても、なかなか効果を上げることはできないはずです。そのことに関心を示すことなく、我が商品は、他社にはない優れた機能や性能を持っていると語られても、「それで、いったいうちにとっては、どれほどの役に立つの?」と、考え込んでしまいます。
 
 例えばパッケージ・ソフトウェアの場合、そこのあたりを曖昧なままに、システムを導入する。当然、ギャップがありますから、そこを埋めようと、カスタマイズで何とかその場はつじつまを合わせて、使ってもらう。しかし、そもそもの思想や目的、プロセス・モデルが違うわけですから、使い込めば使い込むほどに、あるいはパッケージのバージョンアップが進むほどに、そのギャップは拡大し、カスタマイズもどんどん増えてゆきます。そのうちもはやカスタマイズもできないほどに開きが出てしまう。そういう塩漬けシステムを世間ではよく見かけます。
 
 プロセス・モデルや思想、目的を正しく理解すれば、それに業務を合わせることもできない話ではありません。あるいは、その範囲でシステムを使おうとするはずです。
 
 お客さまは、何でもできる、世界最高、最も安い・・・を求めているわけではありません。自分の業務の課題を解決できるかどうかです。これに応えるためには、機能や性能を訴えるのではなく、目的や思想を語り、お客さまの業務プロセスとの親和性を探る必要があります。そこに合意できない製品は、どんなに優れたものでも、余計なお世話なのです。
 
 自分の商品やサービスの前提となるプロセス・モデルや思想、目的を熟知せず、ただ、表面的な機能や性能しか語れない営業の口車に乗ると、将来大きな不幸に遭遇するかもしれません。こんなやっかいな存在は、出入り禁止にさせていだきます。

3.すぐに自分たちの製品やサービスについて説明したがる営業

 こちらの話しを聞いてくれる、あるいは、質問もしてくれる。なかなか良さそう・・・と思っていると「ならば、こういう商品は、いかがでしょうか。」とすぐに切り出す営業がいます。ちょっと待ってくださいよと申し上げたい。そんなに簡単に、結論を出せるのでしょうか。これはもう、いい人と思わせるためのパフォーマンスとしての質問であり、本当は、そんなことはどうでも良くて、答えを最初から決めているとしか思えません。こう言う営業は、自分の成績しか頭にないのです。
 
 まともな営業ならば、「なるほど、そういうことでお困りなんですね。確かに、うちの商品は使えるかもしれませんが、ちょっと考えさせてください。今日聞かせて頂いたことを整理し、どう対処すればいいか、検討してみます。一週間ほどお時間を頂きたいのですが、いかがでしょう?」と言うでしょう。もし、その必要はないとお客さまが、おっしゃるのならば、もはや相手に関心はなく、他を当たるべきなのです。
 
 拙速に「ならば、この商品はいかがでしょう」と問いかけても、相手にその気がなければ、その説明をする営業にとっても、話を聞くお客さまにとっても時間の無駄です。
 
 ノルマ達成のプレッシャーを抱え、少しでも多くの成約をとりたい気持ちはわからなくもありません。しかし、そう簡単に、答えが出るようなものではないはずです。その場限りで、売ればあとのおつきあいがないような商品なら、そんな悠長なことはいってられないと言うかもしれません。しかし、末永くおつきあいしてゆくお客さまに、これではあまりにも手前勝手というものでしょう。
 
 自分の幸せにしか関心がない。こちらのことなど、お構いなしに、売りつけようとする態度。こんな営業とおつきあいして、幸せになれるはずがありません。こんな手前勝手な営業さんは、出入り禁止にさせていだきます。

 もちろんこれ以外にもいろいろあります。例えば、身なりがみすぼらしく髪の毛がぼさぼさな営業、話していることに中身がないのにやたら元気がいい営業、なんでもうちが一番だと他社をさげすむ営業・・・まあ、きりがありません。

 ただ、この人達に共通していることは、明らかに想像力の欠如です。相手がどういう状況にあるのか、どうしてくれたらうれしいのか、相手は気持ち悪いと思わないだろうか、相手のプライドを傷つけてはいないだろうか・・・デリカシーのない人、KYな人に共通に見られる特徴は、こういうことへの想像力の欠如です。思いやりや愛情の欠如と言い換えてもいいかもしれません。
 
 もちろん、ひとはいつもこの通りうまくできるとは限りません。感情の高ぶり、予期せぬ反応への困惑、こちらの手札や準備の不足など、完璧などありません。ただ、お客さまに喜んでもらいたい、お客さまの成功をお手伝いしたいという意欲と愛情があれば、多少の失敗は、理解してもらえるものです。
 
 挨拶もそこそこに、“我が社の商品は・・・”と語り出す人に、このような愛情を期待することはできません。即刻ご退場いただくのが、御社のため、いや自分のためというものです。


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2011年2月6日日曜日

「汚い提案書」を平然と提出できる残念な人たち

 ある自治体の新庁舎建設に関連し、LANシステムの提案コンペがあり、私は、その審査のお手伝いをさせていだくことになりました。
 
 各社、それぞれに自信作を出してくるものと期待したのですが、「なんだ、これは?」と思うものも少なからず混じっていたのです。中には、システム構成図と見積書に表紙をつけただけというものもありました。「貴方の強みはなんですか?どこが他社と違うのですか?貴方の会社を選ぶ理由はどこにあるのですか?」そんなメッセージは、どこにも見当たりません。
 
 そして、意外と多かったのが、「汚い提案書」です。文字のサイズやフォントの不統一。ぐちゃぐちゃと描かれたシステム構成図。ページ毎に異なるレイアウトや相手の思考過程を無視した資料の順序。せっかく、まともそう(?ボリュームだけは・・・)な内容なのに、相手にわかりやすく伝えようという配慮をまったく欠いています。いろいろと資料を作ったので、もったいないとでも思ったのでしょうか、とにかく、ありとあらゆる資料を詰め込んだというようなものもありました。
 
 公共施設のコンペですから、内容をしっかりと理解し、評価しなければならないとは分かっているのですが、これはもう実にストレス以外の何者でもありません。
 
 結局、最後に残った3社で、最終選考となりました。さすがに、ここまでくると、内容的には各社甲乙つけ難しです。システム構成や金額、構築の手順も大差はありません。結局最後に判断の基準としたのは、提案書そのものの「美しさ」でした。こんなことを書くと、「それは違うだろう。中身じゃないの?」とおっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、だから「美しさ」なのです。
 
 「美しさ」とは、決して装飾やイラストなどの技巧ではありません。もっと本質的なものなのです。
 
 「美しさ」というものは、「綺麗」であることだけでは、成り立ちません。「存在感」がなくては、人は美しいとは感じないものです。つまり、中身に魅力がないものは、美しくないのです。もう一つ大切な要素は、相手への気遣いです。どうやったら、相手にストレスを与えず、伝えたい本質を即座に分かってもらえるだろうか。そんなことを追求してゆくと、結果として美しくなってしまうのです。
 
 「美しさ」とは、内容の存在感と相手への気遣いを追求した結果です。そういうことを追求できる提案者は、きっといい仕事をしてくれるだろうと思うのは、そんなに間違ったことではないと思っています。

 会社の力量とは、決して技術力だけではありません。ビジネスは、常に相手があって初めて成り立つわけで、意思疎通を図る力も、大切な能力です。それができない相手と仕事をしても、うまく仕事が進むとは思えません。
 
 まだ整理はついていない、しかし、とにかく、今の気持や状況を伝えたい。そんな相手の話に耳を傾け、これをバラバラに要素分解して、改めて考えてみる。そこにどんなつながりがあり、何が重要で、何が枝葉末節なのかと。そして、その要素を再び自分なりの解釈で組み立て直す。このような論理的思考力が、まずは必要です。
 
 しかし、これだけでは不十分です。そうやって組み立て直した思考の産物を、相手にわかりやすく伝える工夫をしなければなりません。どんなに自分が分かったつもりになっていても、相手に分からせる力がなければ、円滑な意思疎通を図ることはできません。
 
 ある写真のノウハウ本にこんな一節がありました。
 
 「はじめのうちは、前から後ろまで全部きれいに写っている写真がいいだろうと思ってしまいます(このような写真は)ピンボケにならない代わりに -中略- ごちゃごちゃしてしまうのです。見る人がどこを見ていいのか分かりません。「ピントを合わせる」という言葉がありますが、ピントをあわせるところがまさに見てほしいところなのです。写真を見たとき、誰もがピントが合っているところに目を向けます。だからそれだけにピントが合っていて、他のところが全部ぼけていれば、そこがすごく強調されます。(「デジタル一眼上達の極意・米本昌英 著/P19-20」)」
 
 「表現とは、捨てることである」という先達の言葉にもあるとおり、相手の言ったことの本質や核心をうまく際立たせなければ、伝えたいことも伝えられません。「ところで、要点はなんなの?」と聞き返されるだけの話です。これでは、ビジネスの効率は上がりません。
 
 本質、あるいは、骨格というものだけを残し、あとはぼかす、あるいは捨て去ってしまってこそ、伝えたいところだけを浮き彫りにすることができます。それができれば、相手はストレスを感じることなくスッと理解できるのです。
 
 ものごとを分析的にとらえ、要素分解したものを論理的に再構成する。そんなものごとの考え方を「ロジカル・シンキング(Logical Thinking)」ということは、既にご存じの方も多いと思います。ロジックツリーやフレームワークは、そんな思考のための道具です。
 
 しかし、これだけでは不十分です。たとえ物事を整然と整理できても、ではいったい、どれが核心であり、自分は何を伝えたいのかをはっきりさせる必要があります。つまり、論理的に整理したものの中から、核心となるものを際立たせなければ、相手にうまく伝えることはできません。そこで、出番となるのが「美しさ」です。
 
 「美しさ」は相手を気持ちよくさせてくれます。そして、心に訴えかけ、ものごとを理解しようとする心の扉を開いてくれるのです。全部ではなく、伝えたい内容の骨格や本質にのみピントを合わせ、それのみを浮かび上がらせる。それは、論理的な思考だけでは無理なのです。ビジュアルにものごとを考え、表現する力が必要になります。
 
 ロジカル・シンキングで整理したもの。その構造を支えている骨格を、言葉による説明ではなく、今度は、視覚的表現を借りてレントゲン写真のように描き出す。周りを覆っている肉や皮膚そぎ落とし、伝えたいことの本質を浮かび上がらせる。そうやって描かれた絵や図表は、感性の力を助け、優しく、抵抗なく、もとの論理構造を相手の脳の中に送り届けてくれるのです。
 
 このようなものごとの考え方を普及させようと取り組んでいる友人がいます。その友人こと櫻田さんは、これを「ビジュアル・シンキング(Visual Thinking)」と名付け、その普及に命をかけています(笑)。是非、彼のサイトを見てあげてください。その追求は、半端じゃありません。
 
 私たちは、ビジネスの現場にあって、「ロジカル・シンキング」を求められています。しかし、このような左脳の働きだけではなく、論理を相手に優しく、わかりやすく伝える「ビジュアル・シンキング」もまた、大切なビジネスの道具になるのではないかと思うのです。これは、きっと右脳の力なのかもしれません。
 
 人は、相手の話を聞き、考え、整理し、表現し、伝える。コミュニケーションはこのプロセスの繰り返しです。なるほど、人間とは、やはりうまくできているんですね。こうやって、右脳と左脳が、支え合ってい、ひとつの役割を果たしているのかもしれません。
 
■おまけ■ 櫻田流とは、異なる流儀ですが、私なりのビジュアル・シンキングに挑戦してみました。タイトルは、「これ一枚で分かるBI(ビジネス・インテリジェンス)」。さて、いかがでしょうか?


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 Facebookを使い始めて、まだ間がありませんが、ブログやツイッターとは、また違う可能性を感じ始めています。実名参加、蓄積される情報、ソーシャルグラムによる興味や関心の連鎖など、自分の発言に対する責任の所在が明らかとなり、その質と信頼が担保されることが期待されます。
 
 そんな可能性に期待して、ブログへのご意見をこのファンページで共有し、皆様との議論を深められればと願っています。
 
 このファンページへの参加は、とても簡単です。ここクリックいだき、ファンページに移動、そして、「いいね!」をクリックするだけです。もちろん、Facebookへの登録は必要ですが、これはとても簡単です。是非お試しください。