我が国のSIビジネスは、リーマン・ショックをきっかけとして、需要の大きな落ち込みを経験した。しかし、多くの経済指標が、改善される中で、SIビジネスが、同様の軌跡をたどっているという話は、寡聞である。「SI需要の回復は、景気の回復から半年から1年くらいは、遅れるものですよ。」という、楽観論も聞かれるが、果たして、本当にそうなのだろうか。
私は、この楽観論には、賛成できない。むしろ、リーマン・ショック以上の大きな構造的な変化が、新たに始まろうとしていると考えている。リーマン・ショックがもたらした第一の変化に続き、今私たちは、それ以上に大きな第二の変化に直面していると考えるべきだろう。
我が国のSI産業の構造は、コンサルティングや企画、設計といった上流工程を、限られた大手ゼネコンSIerが握り、そこで受注した開発や運用を多数の中小SIerが、下請けとして受託する構造で成り立っている。第一の変化は、この産業構造を維持したまま、その規模が、縮小するという変化であった。それが、下の図である。
この第一の変化は、「業務量の減少」と「単金相場の低下」をもたらし、生き残りが難しくなった中小のSIerは、大手ゼネコンSIerに買収されるという動きを加速した。本来ならば、景気の回復は、この産業構造を維持したままで、再び規模を拡大することになるが、3つの要因が、それに歯止めをかけているように見える。
その第一は、「ニューノーマル」である。「単金相場の低下」は、ユーザー企業にとっては、もはや既得権益になり、「この金額で同じことができるではないか」という、新たな常識が、定着してしまった。また、SIer側も、仕事を受託し続けるためには、単金を上げてほしいとは言いにくい。この暗黙の了解が、SIerの利益拡大の頭を押さえている。
第二の要因は、オフショア開発の使い勝手が向上したことにある。オフショア開発については、「まともに動かない」、「こちらの意図とは違うシステムができてしまった」などの失敗を重ね、どうすればうまくできるかのノウハウも蓄積されつつある。その結果、オフショア開発の使い勝手が向上し始めている。また、オフショア開発拠点の開発力や品質管理能力も著しく向上している。ちなみに、中国国内のCMMIレベル5の企業は、今年の3月時点で48社。日本の17社をはるかにしのいでいる。しかも、その伸び率は、前年対比65%増であり、わが国の15%を凌駕している。インドは、189社、そしてベトナムもすでに3社が、CMMIレベル5の認定を受けている。その伸び率は、日本以上であることは、言うまでもない。
さらに、中国の一流大学院卒の初任給は、年額150万円程度であり、当然英語力に問題はない。また、ベテラン・クラスである30才でも、年収は300万円程度であるから、もはや人件費という観点だけから見れば、太刀打ちできない。オフショア開発環境の整備とももに、同一スキル=同一賃金の競争は、日本国内という縛りを越えて進行し始めており、この動きが止まることはないだろう。
第三の要因は、クラウドの普及である。それも、PaaSの企業システムとしての使い勝手が、向上してきたことは、企業のシステム利用形態に大きな変化をもたらすものと考えられる。PaaSとは、ミドル・ウェアをネットを介して提供するサービスであるが、「企業システムとして使い勝手のいいPaaS」の先鞭を切ったのが、MicrosoftのWindows Azure Platformといえるだろう。なぜ、Azureかといえば、オンプレミス(企業が自社でシステムを所有し、自ら運用するシステム利用形態)とクラウドをシームレスなプラットフォームとして構築したからである。つまり、オンプレミスのWindowsサーバーで使われている.Netの開発運用が、何の変更もなく、そのままクラウド・プラットフォームで実行可能となる環境を作ったからである。つまり、企業は、今までのシステム資産やVisual Studio / .Netの開発スキルを、クラウド環境でも、そのまま継承できるわけであり、クラウド利用についての企業としての抵抗感を、大きく低減することになるだろう。
また、Java環境でも同様の動きが始まっている。そのひとつがsalesforce.comが始めた、vmforceだ。vmwareと組み、Javaの開発環境としては、多くのユーザーを抱えるSpring Frameworkを利用できるようにしたことだ。同様に、Googleも自社のPaaSサービスであるGoogle App Engineのビジネス版(Google App Engine for Business / GAE for Business)にSpring Frameworkを提供することを表明している。
こうなると、インフラの構築を伴うSIビジネスや運用サービスは、このクラウド・サービスと競合することになる。
また、第一の変化で大手ゼネコンSIerが取り込んだ中小のSIerをグループ企業として、グループ内製を優先させる動きと重なり、独立系の中小SIerの業務減少は、もはや構造的なものとなりつつある。これが、第二の変化である。
第一の変化をなんとかやり過ごし、景気の回復を待ち焦がれていた多くのSIerにとって、次に立ちふさがる第二の変化は、もはや時間の問題で解決されるものではない。ビジネスのあり方、そして、人材のあり方を問い直される大きなパラダイムの変化である。
では、どう対処すべきなのか。これについては、次回あらためて、解説させていただく。
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1 件のコメント:
御指摘の様な業界構造の変化も一要因でしょうが、旧来のコンピュータの使われ方とは異なる情報処理の手法が確立されつつあるという考え方はできないでしょうか?例えば、1万、10万件クラスのデータ処理は20年前であればそれなりのCPUパワーと処理プログラムが必要でしたが、今日ではExcelとフツーに手に入るノートパソコンでも十分に「待てる時間」での処理完了が期待出来る様になりました。
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