2010年7月10日土曜日

お客様の期待を裏切ることができますか?

 先々週、先週と一日の休みもなく研修や講演が続いた。ありがたいことだが、さすがに終日の立ち仕事は、体にこたえる。しかし、講義が終わり、「大変役に立ちました」とのお言葉をいただくと、そんな疲れも、吹き飛んでしまう。そして、よぉーしと再び元気をいただくことができる。これがあるから、やめられない。そして、ますます内容に磨きをかけなければと、その日の反省を書き留めている。

 昨日もいつものように講義が終了した。アンケートを書き終えた受講者のひとりが、私の前にやってきて、「今日が金曜日なのが残念です。」という。「どうしてですか?」と尋ねると、「ここのところ元気がなかったんです。でも、講義を聞いて、すぐにでもこのやり方で、お客さまに伺いたいと思っています。だから、明日が休みなのが、残念なんです。」。

 なんとも気恥ずかしいやら、しかし、最高のお褒めの言葉である。改めて、このような仕事ができることをありがたく思っている。

 私は、研修の中で、「営業活動の目的は、お客様の感謝とともに、対価をいただくことである。」と申し上げている。 

 ものを売って、お金をいただくだけなら、ある意味たやすいことである。しかし、ありがとうという言葉とともに、お支払いをいただくことは、容易なことではない。そのために、もっとも大切なことは、「お客様の期待をどうすれば裏切ることができるか」を追及することなのだろうと思っている。

 お客様は、「ここまではやってくれて当たり前」という基本的な期待を持っている。これを満たしたとしても「当然」であり、そこに感謝は生まれない。しかし、「ここまでやってくれたらいいなぁ」という、潜在的な期待は持っているものだ。

 例えば、お客様が、あなたに見積を依頼し、いつも通り、10%程度の割引で提出すれば、「当然」と感じるだろう。しかし、お客様は、もう少し安くしてくれたらいいなぁと、口には出さないが思っている。それが、お客様の潜在的な期待である。そこで、それを慮って15%の割引で見積もりをしたなら、お客様はどう感じるたろうか?きっと、「素晴らしい」と感じてくれるだろう。この時初めて、お客様は、「感謝」という気持ちを抱くことになる。

 「感謝」とは、お客様の潜在的な期待を超えて、初めて生じる気持ちということができるだろう。しかし、残念ながら、これは長続きしない。あなたのこの頑張りによって、お客様の基本的な期待は、もはや15%の割引となってしまっている。次は、それ以上のものを提供しなければ、お客様に感謝の気持ちは生まれないだろう。この繰り返しは、いずれ破たんすることになる。

 では、どうすればいいのだろうか。「期待を裏切ること」。それしか手はないだろう。

 「期待を裏切る」というべきか、「期待を超える」と言い換えてもいいかもしれない。お客様の期待していない、しかし、その期待以上の価値をお届けすることができれば、お客様は、驚くであろうが、同時に「すごい」と感動してくれるはずである。

 しかし、これはそうたやすいことではない。これを実現するためには、お客様の表向きの期待を知るだけでは不十分なのである。

 例えば、お客様から、PC100台の見積もりを依頼された。そして、基本的な期待以上の割引金額で見積書を提出しても、結局のところ、それは、PC100台というお客様の期待の範囲にとどまっているだけである。

 しかし、なぜPC100台かを聞いたとしよう。すると、新たなサービスを立ち上げるのに電話での受付要員を100人増やさなければならないので、そのためにPC100台が必要だとわかった。つまり、PC100台は、目的ではなく、手段だったわけである。つまり、お客様は、PC100台がほしいのではない。「増加する受注に対応したい」というのが本当の目的なのである。

 ならば、PC100台ではなく、WEBでオンライン受注システムを提案するという方法もあるはずだ。そうすれば、PC100台は不要になり、固定費となる人件費も削減できる。一時的なコストはかかるかもしれないが、中長期で見れば、お客様はより大きな価値を享受できるはずである。そんな提案をしてみてはいかがだろうか。、

 お客様、そんな提案を期待していなかった。しかし、改めて聞いてみると、はるかにそちらのほうが、メリットがありそうだ。そういう提案ができたなら、お客様は、あなたに感謝し、感動してくれるにちがいない。

 もちろん、ことがこのようにうまく運ぶ保証はないが、お客様の期待の延長に答えを探すのではなく、お客様の真の目的、つまり、あるべき姿に着目すれば、もっとお客様の価値を高めることができるきっかけが見いだせるかもしれない。このような「期待の裏切り」には、きっとお客様も感謝してくれるはずだ。

 私は、営業研修でこのような話をするが、これは、単にテクニックやスキルの問題ではないと念を押している。基本は、お客様を愛する気持ちなのだと。お客様を好きになり、愛する気持ちがあれば、お客様を成功させたい、もっともっと、大きな価値を享受してほしいと願うはずである。その思いがあるからこそ、調べ、考え、お客様の期待を裏切る知恵を生み出すことができる。

 講師をしていると、ひとりひとりの気持ちや状態が手に取るようにわかる。つかれてるなぁ、つまらなそうにしているなぁ・・・そんな受講者の顔を見ながら、どう伝えようかと考える。何かを受け取って返ってほしい、役に立つ気付きを手に入れてほしいと。力及ばず果たせないことも少なくない。しかし、彼らへの愛情を失うことはない、いや、そうありたいと言い聞かせながら、言葉を考えている。それは、自分の稚拙なテクニックを超えるものであるし、彼らの期待を裏切るための、原動力でもあると信じている。

■ 研修 「営業プロフエッショナル・スキル研修」 開催します

 セクシーな提案書の作り方、お客様の満足をどうすれば管理できるか、お客様に満足を与えながら説得する方法・・・などの営業プロフェッショナルに必要な実践スキルを学びます。

 7月14日(水)・九段下にて開催いたします。

 ご興味があれば、 こちらをご覧ください。

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1 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

”そこで、それを慮って15%の割引で見積もりをしたなら、お客様はどう感じるたろうか?きっと、「素晴らしい」と感じてくれるだろう。”これは一概には云えないのではないでしょうか?今日、インターネットの普及に依って購入代金の概算は営業マンを呼ばずともオンライン見積もりや類似商品の相場、価格動向から可能になってきています。社内稟議前の上司説明などでは、この価格データを元にした説明を行わないとスピード的に厳しくなっています。よって、その想定から外れる価格が提示されたお客様側担当者は、その理由を改めて上司へ説明する時間を作らなければなりませんし、上司の側もただ安くなったから良しとすると云う簡単な判断はできませんので、改めて判断のための材料と時間を必要とすることになるため、”この数値は次回の取引まで取っておいてもらいたい。”というケースになるのではないでしょうか?(部品納入とシステム納入では考え方が異なるかもしれませんが...。)