2013年8月31日土曜日

「新規事業」という勝算なき愚行で会社をダメにする人たち

「あるIT企業の経営者に「なぜIaaS事業に取り組むのですか」と聞いたら、一瞬キョトンとした顔をされた。「それりゃ、だって顧客のニーズがそちらに移ってきているからですよ」。私はその言葉を聞いて、「ダメだ。こりゃ」と思った。その企業にとってクラウドサービスは新規事業である。顧客のニーズを理由に成功の見込みが全く無い事業に手を出す感覚が、私には理解できなかった。」

『木村岳史の極言暴論!』ITpro)にこんな話が掲載されていました。

この話を読んで、あるSI事業者の話を思い出しました。まさに同じような話で、IaaS事業をはじめるというのです。この事業の責任者に話を聞いてみると、「やらなきゃ、かっこがつかないからねぇ」という訳の分からない理由を述べられ、私もまた「ダメだ。こりゃ」と口を突いて出てしまいそうになりました。

勝算を訪ねると、「SIで開発したシステムの受け皿として、使っていただけるでしょう」とのことでしたが、それだけの理由で、うまくゆくとは思えません。親会社、グループ会社が使ってくれるだろうとも話されていましたが、IT予算の頭が押さえられている中、サービスそのものにはっきりとした魅力がないものを情実だけで使ってくれるのでしょうか。

さらに話を聞けば、IaaSとは名ばかりの仮想ホスティングであり、運用の自動化やセルフサービス・ポータルもなく、従量課金の仕組みもありません。OSSの利用はまったく前提にはなく、プロプライエタリのパッケージに高額のライセンス料金と保守料金を支払うそうです。しかも、運用については、開発したシステム毎に個別設計し対応するという話です。

コストの高さ、柔軟性やスピードの欠如など、容易に想像できます。それをIaaSだと自信を持って語られていまいました。この方は、クラウドと仮想化の区別ができていないようです。

Amazon EC2NTTコミュニケーションのCloudnIIJGIOなど、高いコストパフォーマンスと充実したサービス・メニューを提供する競合サービスと、どう差別化するかについても聞いてみました。すると、「ああいう安かろう、悪かろうのサービスではなく、お客様毎に個別にきめ細かく対応できるところが、うちのサービスの魅力なんですよ」とのこと、ますますもって、「ダメだ。こりゃ」と思ってしまいました。

IaaSに限った話ではありません。テクノロジーの本質やトレンドの本筋を見極めることなく、世間の流れに迎合した施策としか思えないようなものを、平気で「新規事業」と語る人たちが、なんと多いことか

「このままではダメになりそうだから、なんか新しいことをしなければ!」と「新規事業」を行うことが目的化し、「やることにこそ意義がある」と言わんばかりに、勝算のない「新規事業」を打ち上げているようにも見えます。

「新規事業」を本気でやろうというのではなく、漠然とした将来への不安に、何かやっとかなければまずいよなぁ、という程度の意気込みしかない取り組みも見掛けます。

担当する業務の片手間で委員会をつくり、本業が忙しくなれば、そちらが優先される。いつまで経っても、身の入った内容はまとまりません。「新規事業」という看板を掲げ、検討しているという行為を継続することが目的となっているようにしか見えない会社もあります。

SI事業の抱えている構造的疲弊は、傷口に絆創膏をはるようなやり方では対処できません。SI事業の本質的な問題に対処しなければ、いずれ事態は深刻になること、それにどう対処すべきか、といったことは、これまでにも度々このブログで紹介してきました。



「新規事業」がダメなわけではありません。ただ、それを成功させることは、並大抵のことではないのです。しかも、事業構造の転換に結びつけて考えるとなると、これは相当な覚悟が必要です。

勝算のある「新規事業」を立ち上げるには、優秀な人材を現場から引き抜き専任で「新規事業」開発に当たらせることが必要です。ここで言う「優秀」とは、必ずしも「過去の成功者」ではありません。過去の成功は未来の成功を約束するものではありません。むしろ、過去の成功体験を持つ人は、それがバイアスとなり、柔軟な発想を妨げることもあります。

年齢も様々な、「未来の成功」に向けた物語を描ける人材です。そのような取り組みは、経営トップの強い意志と事業部門の責任者の決断が欠かせません。兼任や片手間で済まされる話しではないのです。

企業内イノベーションを起こす人々・「事業創造人材」が持つ11特性とは」という記事は、そういう人材を選抜する上で参考になるかもしれません。

この記事にも書かれていますが、新規事業には、顧客が魅力的と感じられる「物語」= Social Storyとそれを収益に結びつける「物語」= Business Story がなくてはならないと書かれています。

ここからは私なりの解釈ですが・・・

前者Social Storyの肝は、「世のため、人のため」を考えることなのではないでしょうか。どんな技術を使うのか、自分たちに何ができるかを考える前に、何をすれば、生活や仕事が楽になり、便利になるのか、世の中が良くなるのかを徹底して議論し、そのあるべき姿を明確に示し、そこへ至る物語を描き出すことでしょう。

後者Business Storyの肝は、「必要な分だけの支払い」を考えることではないでしょうか。
  • 無償で顧客を捕まえ多くの機能やサービスを必要とする場合は有償にする料金設定
  • 機能やサービス・人数に応じたきめ細かな料金設定
  • ユーザー数や企業規模に応じた多段階の料金設定

などが考えられます。つまり、越えるべき料金のハードルのひとつひとつを低くし、幅広いユーザーの裾野をカバーできること。そして、ユーザーの必要を喚起しつつ、こちらから売り込むことなくユーザー自身の意志で、より高額なサービスを利用するような物語を描き出すことでしょう。

次のような行動が取れる人は、新規事業開発に向いているかもしれません。
  • 社外の活動に積極的に関わりを持ち、同業種、異業種に幅広く人脈を持っている人
  • テクノロジーやビジネスのトレンドに関心を持ち、広範な知識を持っている人
  • わかりやすい、美しい資料を手早く作ることができる人
  • 必要を感じれば、組織や立場を越えて人を集め、ミーティングを開催できる人
  • 感情的な言葉ではなく、論理的な言葉で、物事を批判できる人

志の高さ、行動力、視野の広さ、人望、説明力、巻き込み力、論理的思考力・・・そんな特質が必要になるように思います。

名ばかりの「新規事業」で無駄に資源を浪費し、「始めたからやめられない」、「売れる代物ではないのに売らざるを得ない」、「必然性がないのに既存の事業に無理して組み込む」の類は、現場を疲弊させ、ますます競争力を失わせることになります。


その当たり前を置き去りにして、「新規事業」をすることが目的化し、SI事業の構造的課題に真剣に向き合わないようでは、本末転倒です。


行動を起こすしかないのです。しかし、残された時間は、それほどないように思います。


■【ITソリューション塾・第14期】定員を増やしました!!!

ITソリューション塾・第14期】が、10月2日より開催されます。既に当初予定した定員を超えるお申し込みを頂戴いたしましたが、会場を拡げることができました。ただ、こちらもすぐに定員になることが予想されますので、早々にご意向だけでもお知らせいただければ幸いです。

ITソリューション塾・第14期】の内容


10月2日(水)から毎週水曜日18:30-20:30  全10回

今回もこれまで同様、テクノロジーやビジネスの最新トレンドを抑えつつも、
表層的なキーワードを追いかけるのではなく、トレンドが生みだされた歴史的背景や顧客価値など、
トレンドの本質を抑えることを力点に置くつもりです。

新たたテーマや改善点としては・・・

・仮想化をSDxの視点で捉え直しそのビジネス価値を整理する。
・SIビジネスに危機感が漂う中、現場価値の徹底追求と現物主義により、
 顧客満足と高い利益を実現している「アジャイル型請負開発」の実践事例の紹介。
・ストレージとデータベースのテクノロジーの大きな変化が
 ITのプラットフォームやアプリケーションの開発をどう変えるのか。
・ビッグデータの本質と新しい動きを踏まえたビジネスの可能性。
・セキュリティやガバナンスの原理原則とクラウド・ファーストに向けた取り組み。
・システム・インテグレーション崩壊とポストSI時代のビジネス戦略。

・・・など、これからの変化を先読みしつつ、
   その次の手を考えるヒントを提供したいと考えています。

ご検討ください。

■ Facebookで、是非ご意見をお聞かせください。

2013年8月24日土曜日

「営業プロセス」と「営業活動プロセス」

SFAは導入したけど、営業力の強化に結びついていません。」

こんな話を伺うことがあります。しかし、これはもっともな話で、本来SFAは、営業個々人の営業力を強化するための手段ではありません。営業管理者が、達成目標の予実や進捗状況を把握するための手段です。

確かに、SFAを利用すれば、目標予算に対する現状や見通し、進捗段階毎の案件数や数字の動きを「見える化」することで、課題の存在を顕在化させてくれます。その課題への迅速、適切な対応ができれば、営業活動の生産性や勝率は高まります。その意味においては、「営業力強化のツール」と言う説明も間違えではありません。

しかし、その役割を果たすためには、次の2つの前提がクリアされなくてはなりません。
  • 営業担当者が、案件状況が変化するたびに即座にデータを入力してくれること。
  • 進捗段階の判断に主観を交えず、客観的事実に基づいて判断できること。

 前者についてですが、「SFAは、“営業管理者”が案件の進捗段階と予実を管理するツール」でしかなければ、営業担当者とっては、「SFAは、管理者への報告手段」でしかなく、「やらされ感」を抱いてしまいます。結局、「報告のための報告」となり、月末「集計」の前に駆け込みで入力するようなことになってしまいます。これでは、SFAにタイムリーな状況把握の役割を期待することはできません。

また後者ですが、各案件が、進捗段階の境界線のどちらに位置するのかの判断を主観に頼ってしまうと、報告者ごとに判断基準のばらつきが生じ、報告の精度が落ちてしまいます。

あくまで個人的な経験によるものですが、一般的に営業担当者は、案件の進捗状況をポジティブに評価する傾向が強い気がします。実際、案件毎のやるべきこと、確認すべきことができているかどうかを個別に聞いてみると、「あとで何とかするつもりでした」、「まあ、なんとかなりますよ」、「わすれてました」といった話も多く、到底その段階の案件ではないということも少なくありません。

営業管理者が、営業担当者の報告を鵜呑みにし、そのまま集計してしまうと予実の乖離が大きくなりすぎてしまいます。そこで、営業管理者は、SFAのデータを一旦EXCELに移し替え、案件毎、あるいは、営業担当者の個別の“事情”を考慮しつつ、主観でフォーキャストを調整し、報告をまとめている場合も少なくないようです。

SFAが生まれた米国では、営業は、「会社の看板を背負った個人事業主」のような存在であり、コミッションが稼ぎの大半を占めることも珍しくありません。そのため、管理者への報告は、自分の収入に直結しており、当然の仕事であるという意識が定着しています。また、報告の精度が低ければ、営業としての資質を問われます。個人事業主としてのプロ意識とでもいうべきでしょうか、精度の高い報告が集まりやすい状況でもあります。

このようなコミッション型、個人責任型のビジネス文化を背景に、彼等の報告業務の生産性を上げるためのツールとしてSFAは普及してきました。管理者は、その結果を集計することで、組織全体の予算の達成状況や見通しを精度良く把握することが可能になっているのです。

しかし、我が国においてそのような文化はありませんでした。確かに営業目標はありますが、それは個人単位ではなく組織単位であり、数字が直接個人の収入と連動しない固定給が一般的です。

「ちゃんと報告しなければいけないことは分かってはいるんですが・・・」という意識はあっても、「ちゃんと」報告するモチベーションを生みだせない現実があるといえます。

SFAは導入したけど、営業力の強化に結びついていません。」という言葉には、このような背景があるものと、私は考えています。

「だからSFAを導入する意味はない」などと申し上げるつもりはありません。むしろ、IT市場が成熟期に入り、案件獲得がこれまでにも増して難しくなりつつある中、営業活動の生産性と勝率の向上は、これまでにも増して求められています。そのためには、案件の発掘から受注までの「営業プロセス」の進捗段階きめ細かく見える化し、タイムリーな対応を確実に行えなくてはなりません。

ところで、SFAが前提としている「営業プロセス」とは何でしょうか。私は実は、ここに問題の本質があると考えています。

一般なSFAが前提とする「営業プロセス」は、組織の目標予算を達成することを目的に進捗段階を区分した枠組みで、次の観点を把握できるように作られています。
  • どこまで達成されているのか
  • 今後どれだけ達成する必要があるのか
  • 進捗段階(パイプライン)ごとの案件数と見込数字
しかし、先にも申し上げましたが、この「営業プロセス」を営業担当者の視点でみれば、管理のための枠組みでしかなく、それを自分で入力し報告することにメリットがありません。

そこで、視点を変えて営業活動における「受注までに必要なアクション」をひとつひとつのプロセスとして定義し、それを時間軸に沿って整理してみてはどうでしょうか。つまり、「営業が受注までに行うべきアクション」を一覧にまとめたものです。これが、先週のブログで紹介した「営業活動プロセス」です。



「営業活動プロセス」は、案件を受注するためのアクション一覧表であり、次の点を把握するために作られています。
  • 行うべきアクションがどこまで実行されているか
  • 今後どのようなアクションを行う必要があるのか
  • 行うべきアクションに抜けや漏れはないか
下の図に「営業プロセス」と「営業活動プロセス」の違いを整理してみました。



つまり、「営業活動プロセス」を確認すれば、案件獲得までのアクションの抜け漏れを知ることができ、手堅く確実に営業活動をすすめてゆく手助けとなるはずです。また、今なすべきことに気付かせてくれますので、タイムリーな判断と行動を促し、勝率を高めることにも役立つはずです。

進捗段階の境界線は、「このアクションができているかできていないか」という事実に基づいて客観的に判断できますから、主観によるばらつきも排除されます。

この「営業活動プロセス」をチェックリストの形にして、案件毎にこれをチェックするような仕組みにすれば、営業担当者にとってもメリットがあります。結果として、案件ごとの営業活動の状況が高い精度で入力されますので、それを集計すれば、精度の高いフォーキャストがまとまるのではないかと考えています。

下の図は、「営業プロセス」と「営業活動プロセス」の関係を表したものです。



「営業活動プロセス」での評価した結果は、「営業プロセス」に送られ集計されます。そこで見える化された結果をみて、管理者は、必要な指示を部下に下す。部下は、再び、「営業活動プロセス」に照らし合わせながら、自分の営業活動を進め、その結果確認のためにチェックリストに入力すると、案件の進捗状況が管理者にフィードバックされる。

このようなサイクルが実現できれば、管理者にも担当者にもメリットのある仕組みができあがるのではないかと考えています。

先週もご紹介したアプリ(9月末頃・リリース予定)は、このサイクルを実現するためのものです。まだまだ、試行錯誤を進めている最中ではありますが、日本のIT営業の実情に即した仕組みにできればと、楽しみながら鋭意努力中です。

■【ITソリューション塾・第14期】ご検討中の方はお知らせください m(_ _)m

ITソリューション塾・第14期】が、10月2日より開催されます。

今回も既に多くのお申し込みを頂いており定員に近づきつつあります。
本当にありがとうございます。

さて、お申し込み頂きお断りすると言うことがないように、
もしご参加をご検討の場合は、正式のお申し込みの前に、
ご意向だけでも事前にお知らせ頂ければ幸いです。

何卒よろしく御願いいたします。

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ITソリューション塾・第14期】の内容

10月2日(水)から毎週水曜日18:30-20:30  全10回

今回もこれまで同様、テクノロジーやビジネスの最新トレンドを抑えつつも、
表層的なキーワードを追いかけるのではなく、トレンドが生みだされた歴史的背景や顧客価値など、
トレンドの本質を抑えることを力点に置くつもりです。

新たたテーマや改善点としては・・・

・仮想化をSDxの視点で捉え直しそのビジネス価値を整理する。
・SIビジネスに危機感が漂う中、現場価値の徹底追求と現物主義により、
 顧客満足と高い利益を実現している「アジャイル型請負開発」の実践事例の紹介。
・ストレージとデータベースのテクノロジーの大きな変化が
 ITのプラットフォームやアプリケーションの開発をどう変えるのか。
・ビッグデータの本質と新しい動きを踏まえたビジネスの可能性。
・セキュリティやガバナンスの原理原則とクラウド・ファーストに向けた取り組み。
・システム・インテグレーション崩壊とポストSI時代のビジネス戦略。

・・・など、これからの変化を先読みしつつ、
   その次の手を考えるヒントを提供したいと考えています。

ご検討ください。


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2013年8月17日土曜日

成功の方程式を示せない「営業プロセス」に意味はありません

「ちゃんとやってたつもりなんですが・・・」。そんな言い訳の後に「今回はダメでした」という言葉。

「おまえ、何やってたんだよ。」と上司の文句も後の祭り。
「順調だと言ってたじゃないか・・・」。

営業個人の能力や資質に問題があったのでしょうか。かれには営業のセンスがないのでしょうか。管理者である彼の上司は、そういう彼の能力や資質を見抜けず、営業活動の問題を指摘できなかった訳ですから、管理者としての資質にも問題があったのではないでしょうか。

同じようなことを同じ営業が繰り返しているとしたら、それは、彼自身の問題なのでしょうか。もし、他の部下にも同じようなことがあるならば、管理者の問題なのでしょうか。

もちろん成績優秀な営業もいるでしょう。しかし、それは彼個人のノウハウによるものであり、それを学ぼうにも、個人的な体験談や精神論として語られることが多いのではないでしょうか。気付きはあっても、じゃあ自分はどうすればいいか、に結びつかないことも多いのではないでしょうか。

営業として成果を上げ、評価されたからこそ営業管理者としての役割を任されているひとは多いはずです。部下が自分の抱える案件で相談に来たとき、「俺の若い頃はなぁ」と過去の武勇伝と教訓を伝えてはいないでしょうか。それはこの案件でも通用するのでしょうか。貴方の伝えた言葉で部下の行動は変わり、業績は伸びるのでしょうか。

私は、このような問題を個人の資質や能力と捉えることには抵抗があります。それでは、問題解決の放棄です。問題の本質は、営業活動をすすめてゆく手順、言い換えれば、「営業プロセス」にあると考えるべきです。この考えがあればこそ、改善のメカニズムが働きます。個人の資質や能力は、このプロセスをうまく使いこなす資質や能力となり、何をどう育成すればいいかを具体化しやすくなるはずです。

営業目標の達成は、営業の使命です。営業管理者は、組織全体として、目標を達成しなければなりません。

しかし、現実には、営業活動は、個々人の経験に頼っている場合が多く、結果として、それぞれの自助努力に依存しています。また、営業活動の進め方は、人によるばらつきも大きく、組織全体として安定したパフォーマンスを維持することは、容易なことではありません。

優秀な営業の暗黙知に基づく自分流の営業活動の手順は、組織として共有することは難しく、案件の進捗やリスク評価を客観的に行うことはできません。加えて、個人としての成功体験やノウハウを後進の育成に役立てる場合も、「背中を見せて育てる」といった徒弟型、体験型の伝承に頼ることになり、これもまた個人の主観や自助努力に大きく依存しています。

このような状況を改め、安定的かつ継続的に、営業活動の勝率と生産性を高めるための取り組みが必要です。そのためには、営業活動のプロセスやノウハウを「行動」として体系的に「見える化」すること、つまり、「営業活動の行動プロセス」を洗い出す必要があります。

「営業プロセス」という言葉を聞かれる方も多いのではないでしょうか。実際、検索してみると実に多くの情報が出てきます。そんな中の一例を見ると、こんな例がありました。

仮説構築⇒プレゼン⇒ネゴシエーション⇒クロージング

なるほどと思われるかもしれませんが、でも具体的に何をすればいいのでしょうか。いや、それだけではなく、何をすれば案件を獲得できるのでしょうか。

ちょっと横道にそれますが、SFAの中には、もっと粒度の細かなものもありますが、このように営業プロセスを「進捗段階」と定義しているものがあります。考えて見れば当然のことで、SFAは本来、案件の進捗段階(パイプライン)と予実を管理者が把握するための仕組みです。つまり、営業個々人が自分の営業活動の品質を高めるための道具として作られたものではありません。

SFAを導入すれば、営業力が向上する。売上が伸びる。」というキャッチフレーズをよく耳にはします。確かに、自分や部下の営業活動の進捗が見える化されることで、やるべきことや課題の存在を気付く切っ掛けを与えてくれます。その気付きに従って行動できるのであれば、この言葉にも一理はあります。しかし、「案件を獲得するためのアクション」と言った具体的な行動まで示してくれるわけではありません。結局は、個人の自助努力に期待することになってしまいます。

SFAは管理者が案件の進捗段階と予実を管理するツール」だとすると、担当営業から見れば、「SFAは管理者への報告手段」でしかありません。

自分のためではなく、報告のためのものであるとすれば、忙しい営業にとっては余計な仕事が増えるだけの話です。担当営業が自分の活動をタイムリーに正確に入力するモチベーションは生まれません。ここにこそ、よく聞く話ですが、「SFAは導入したが、うまく使われていない」原因が、あるように思っています。

私は、「営業プロセス」を「案件の進捗段階を示す表現」では不十分だと思っています。「この行動=アクションをすれば、案件が獲得できる」という手順、つまり、「案件を獲得するために行うべき行動のチェックリスト」にすればいいのではないかと考えています。

そういうものであれば、営業が自分の営業活動の品質を高めることに役立てることができます。仕事の生産性は高まり勝率も上がるのであれば、それを利用するモチベーションも生まれます。また、そのやるべきことが時間軸に沿って体系的に整理されていれば、結果として、案件の進捗を見える化することもできます。

営業管理者も自分の経験や主観だけではなく、案件獲得のために行うべき行動ができているかどうかを見極めることができます。できていなければ、なぜできていないのか、どうすればできるのかを、個々の行動毎に具体的に考え、対策を講じることができるはずです。

そんな考えを形にしようと「営業活動プロセス・チェックリスト」を作ってみました。



将棋ならば「棋譜」、囲碁ならば「定石」、武道ならば「型」と言うべきものかもしれません。

案件獲得のために行うべき基本的な行動の手順を時系列に沿って体系化したものです。もちろん、個々の案件にまつわる諸事情は異なります。全てがこの手順に当てはまるとは思いません。しかし、基本的手順を押さえた上で、個々の案件毎に適用できれば、仕事の効率は上がるでしょうし、失敗の要件を潰す参考にもなるはずです。

これを継続的に利用することは、営業のあるべき行動を体験的に学び、定着させることにもつながるでしょう。

営業管理者は、営業活動の進捗やリスク、漏れのあるなしなど、営業活動の品質や生産性にかかわる状況を客観的かつ分析的に把握することができるようになります。また、進捗を担当営業と同じ基準で評価できるため、フォーキャスティングの客観性を高めることができます。このように、組織全体としての営業活動品質を一定のレベルに底上げするためにも役立つものと考えています。

若手、後進の育成においても有効です。営業活動が、概念や仕組みのレベルまでしか示されていない場合、それを実際の「行動」に転換するには、それを指導する個人の経験的解釈や表現力によるフィルターがかかります。そのため、指導として示された「行動」には、ばらつきが生じかねません。

本チェックリストは、この「行動」を明示しているので、個人によるばらつきを少なくしてくれるはずです。特に、営業の「行動」とは何かが白紙の新入社員を指導する先輩営業や営業管理者にとって、有効なOJT指導ツールとなるはずです。

よろしければ、ご活用ください。また、近々、このチェックリストをスマホのアプリにして、無償でご提供しようと準備を進めています。こちらも自由にお試しください。そして、ご意見やご感想をお送り頂ければと願っております。


■【ITソリューション塾・第14期】日程と内容が決まりました!

開始は10月2日(水)から毎週水曜日18:30-20:30、全10回です。

今回もこれまで同様、テクノロジーやビジネスの最新トレンドを抑えつつも、表層的なキーワードを追いかけるのではなく、トレンドが生みだされた歴史的背景や顧客価値など、トレンドの本質を抑えることを力点に置くつもりです。

新たたテーマや改善点としては・・・
  • 仮想化をSDxの視点で捉え直しそのビジネス価値を整理する。
  • SIビジネスに危機感が漂う中、現場価値の徹底追求と現物主義により、顧客満足と高い利益を実現している「アジャイル型請負開発」の実践事例の紹介。
  • ストレージとデータベースのテクノロジーの大きな変化がITのプラットフォームやアプリケーションの開発をどう変えるのか。
  • ビッグデータの本質と新しい動きを踏まえたビジネスの可能性。
  • セキュリティやガバナンスの原理原則とクラウド・ファーストに向けた取り組み。
  • システム・インテグレーション崩壊とポストSI時代のビジネス戦略。
・・・など、これからの変化を先読みしつつ、その次の手を考えるヒントを提供したいと考えています。

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