2012年9月29日土曜日

日本IBM・営業組織再編の深層と課題


 日本アイ・ビー・エムは、新社長を迎え、71日付けで営業体制を大きく変更した。それがどういうものであったかは、多くのメディアが紹介しているので、そちらをご覧いだきたい。

ポイントをかいつまんで解説すれば以下のようになる。
  • 案件開拓を担当する営業部隊をIBMにとって売上が大きくグローバルな超大手企業約150社を担当するIndustryと、それ以外のお客様を担当するEnterpriseに二分する。これにともない、これまで大企業を担当していた営業約200人をEnterpriseに異動する。
  • Industryは、製造・金融・公共・流通・通信メディアの5業種に分割する。
  • Enterpriseは、東北(仙台)・中部(名古屋)・関西(大阪)・西日本(福岡)と首都圏に分割する。
  • 営業は「お客様の業界における地位を向上させること」をミッションとする。このミッションを遂行するためIndustry営業はEnterpriseのお客様の地位向上に対しても責任を負う。
  • Enterpriseは、地域割りの組織ではあるが、それぞれの地域に業種を担当する営業を配置する。つまり、地域と業種のマトリックス組織となる。かれらはそれぞれの業種を担当するIndustryと連携し営業活動を展開する。


 ここでは、このような営業体制変更の背景にある思想や戦略について考えることにする。

IBMは世界的な戦略として、「顧客とのConnectionを強化することで、競合優位を確立する」ことを考えているようだ。

IBM2004年から2年に一度発表している「IBM CEO Study」というレポートがある。これは、全世界のCEOの意識調査を行い今後の企業戦略や情報システム活用の方向性を示そうというレポートだ。日米のCEOIT戦略思想の違いやグローバリゼーションのもたらすものを示唆してくれる実に興味深い内容になっている。

今年の5月に発表された最新版ではサブタイトルには「Leading Through Connections」と書かれている。

その意味するところは、"深い「つながり」が競争力の源泉となる"となるのだろう。

IBMの新CEOである Virginia Rometty氏は、多くのスピーチでConnectionConnectivityという言葉を使っているようだが、まさにここに今回の営業組織改編の背景がある。

つまり、お客様により深くConnectするためには、お客様の業種ごとのニーズや課題、業務が理解できなくてはならない。お客様の業務課題に深く入り込んで提案できる営業体制を築き、これを顧客拡大につなげてゆこうというものである。そして、それぞれの業種内でのお客様の地位向上を支援してゆこうという考えだ。

そのために、案件開拓を担当する営業には、自分のスキルを見直し、各産業分野でのプロフェッショナルを目指すことが強く求められている。

また、お客様の課題やニーズに対処する手段としても、様々な施策を打ち出しているが、そのひとつが、アプリケーションに関わるソフトウェアやサービス企業の買収だ。

営業は、お客様の業務や経営に深い理解を持ち、その課題を解決するために業種毎の課題に深く関わる提案力が求められる。そして、その解決策として、それぞれの業種で必要とされるアプリケーション・パッケージやサービスを提供してゆこうというシナリオなのだろう。

ただ、このようなお客様へのアプローチを営業個人の能力に依存していては限界がある。そこで、お客様とのConnectionだけではなく、社内のグローバルなリソースともConnectし、そのリソースを活用してお客様の価値を高めてゆくことが求められている。

ところで、今回の組織変更を理解する上で、押さえておきたい言葉が、Opportunity (販売機会、需要の見通し)である。Opportunityのあるところにダイナミックにリソースをシフトするということだ。

日本の企業では、お客様の売上や社員数という固定的区分によってリソースの配分を行っている。しかし、IBMの場合は、どれだけのOpportunityが見込めるかによって、リソースを配分する。規模の大きなお客様であってもOpportunityが期待できなければリソースの配分は少ない。

ビジネス合理的に考えれば、きわめて常識的とも言える。しかし、伝統的に我が国の市場は、継続的な人のつながりがビジネスにつながっている。これを踏まえて国産メーカーは営業体制を組んでいる。

今回の組織変更で地域と業種がマトリックス組織となるのは、Opportunityが変われば、「地域」あるいは「業種」内で、縦横にダイナミックに異動させることができるようにするためであろう。人のしがらみを排し、Opportunityという数字で組織を適合させるという考え方は、ますます日本アイ・ビー・エムに浸透してゆくことになるのだろう。

ところで、新社長のMartin jetter氏は、2015年に売上高を1兆円に戻すと宣言している。2011年度の売上は、8681億円であるから、3年で1400億円の増収を狙う。

ただ、Industryの超大手はIBMが既に大きなシェアを持っているところでもあり、ここで売上を大きく上乗せすることは難しいと考えられる。そうなると、この売上増は、Enterprise営業300人が背負うことになる。単純計算すれば、一人5億円の増収を期待されることとなる。それを主に国産メーカーが大きなシェアを持つホワイト・スペースの取り込みやEnterpriseに属する既存大手企業内のシェアを拡大することによって実現しなければならない。これは相当に大きなチャレンジとなるだろう。

SMB(小規模な企業)については、営業効率の観点から、これまで同様パートナー企業にゆだねることになるのではないか。

限られた直販営業でこのチャレンジに挑むためには高い生産性が求められる。そうなると、営業効率の悪いSMBに時間を割くことはできないだろう。結果として、直販営業は、大手既存顧客のシェア拡大と国産メーカーの顧客に入り込む役割を担い、SMBはパートナーが担うことになるだろう。

パートナー施策については、まだなんとも読めない。今回の組織移動で、パートナー事業を担当する組織の大きな変更はなかった。ただ、400万社とも言われるSMBでの売上増大を狙わなければ、大幅な業績拡大は難しい。ただ、ここは国産メーカーが大きなシェアを持ちIBMがこれまでにも切り崩せなかった領域だ。そのためには、パートナーの力に頼る以外にないだろう。

しかし、日本のパートナーは、IBMの製品のシェアが高い欧米や新興国に比べ、相対的に販売力が弱い。特に地方の地場パートナー、あるいは、ユーザー企業の子会社には顕著である。これは、

  • 中堅中小企業における国産メーカーの圧倒的シェア
  • 一定の収益基盤が保証されていること
  • 地域での棲み分けが安定的にできあがっていること

などが背景にあり、他社とのシェア争いは起こりにくい状況があるからだ。

この構造を短期間で根本的に変えることは相当な困難を伴う。果たして、どういう施策を打ち出してくるか、興味深いところだ。

IBM CEO Studyにみる経営者の意識、プロダクトのコモディティ化とサービス志向の動きは、これまで以上に業務や経営という視点でお客様と深くつながることができなければ、競合優位を築くことが難しい時代になりつつある。この意味において、IBMの狙いと組織の変更は、的を射たもののように見える。

ConnectivityOpportunityなど、今回の組織変更は、ビジネス合理性をしっかりと貫いたものである。グローバル企業とはこういうものかと思わせるものがある。

ただ、その一方で、営業の現場は、これまで以上に業種についての高いスペシャリティを求められることになる。ということは、それに適応できない営業、例えば、従来的なスタイルでキャリアを積んできたベテラン営業にとっては大きな負担となるかもしれない。また、数字やルールにきつく縛り付けられることになるだろう。結果として、営業現場の士気を損なうことになりかねない。

また、未だグローバルになじまない我が国の顧客企業がこれをどう捉えるかも気がかりだ。既に大きなOpportunityがある大企業は別として、国産メーカーが大きなシェアを持つ中堅中小のエリアとなると、固定的、継続的な営業活動は容易ではないため、お客様への浸透は、相当に困難を伴うであろう。パートナー企業がそこをどう補うかということになるのだろうが、その施策はこれからのようだ。

どちらにしても、これは大きなチャレンジである。そして、日本IBMの新社長は、これまでの常識、否、しがらみを排して、これを徹底して遂行するだろう。

グローバル化に迫られる日本企業、その一歩先を行くIBMの営業戦略。そのようにも見えるが、そのギャップを本当に埋められるのだろうか。正しい筋道にもみえるが、これは容易なことではないだろう。


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2012年9月22日土曜日

営業の楽しみ方

「お客様に怒られてしまって、いまその対応で本当に苦労しています・・・」

今年三年目になる営業が、暗い顔で、そんな話しをしてくれた。

「それはよかった。それだけ期待されているということなんだろうね」。彼は、えっ、という顔をし、私は、にやりと笑った。

振り返れば、私も何度かお客様に「出入り禁止」を言い渡されたことがある。そして、そのたびに「出入り禁止の斎藤です・・・」と菓子折を持って、頭を下げにいった。そうすると大概の場合は、ぐりぐりと嫌みを言われ、時には感情を爆発させ怒鳴られる。そして、まずは怒りの矛先を納めてくれる。第一ラウンド終了と言ったところだ。

配慮が足りなかったこと、準備不足のまますすめてしまったこと、相手の期待を読み誤ったこと・・・理由は様々だが、よかれと思ってやったことである。何をそこまで言わなくても、という思いもあるが、失敗は失敗である。まずは、その非を認めることが先決だ。それをしっかりと、そして素直に受け止めることからはじめなくてはならない。

しかし、見方を変えれば、これはチャンスだ。お客様の意図ははっきり分かった。何をすれば納得いただけるかが明確になった。もし、しっかりとその期待に応えることができれば、相手の信頼はこれまで以上に高まる。「よぉ~し、いっちょ、頑張ってみるか・・・」、第二ラウンドの開始である(笑)。

そうやって、「出入り禁止」という事態を何度も乗り切ってきたことことが思い出される。

まあ、今思えば、本当に期待されていたかどうかは分からないが、こちらの勝手な思い込みで、なんとかその期待に応えようと思ったことだけは確かだ。だから、ここは一番、なんとか挽回してやろうと必死に食らいついた。そして、お客様が、結果として、「ありがとう。助かったよ。」と言われたときのうれしさは今でも忘れられない。

よく考えてみれば、こちらが失敗しておいて、「ありがとう」もおかしな話しだが、人というのはそういうものである。そんなお客様とのや取りから、責任の重さや人の優しさなど、多くのことを学んできたように思う。

営業という仕事のおもしろさは、こういうアクシデントに遭遇できることかもしれない。決まった手順を繰り返すだけではなく、予期せぬ出来事が頻発する。その時々で対策を考え、事態に対処してゆく。これは相当高度なスキルが求められる。

「臨機応変」。世界最強の軍隊と言われるアメリカ海兵隊の標語にもなっている。戦闘には不確実性や予期しない事態がつきまとう。海兵隊は、敵前に最初に乗り込む部隊であるから、ますますこのようなことは多い。そのため目標だけが示され現場に権限委譲し、臨機応変に対応することが求められる。

営業は、「人」を相手にする仕事だ。突き詰めれば、「心」を相手にしているとも言える。その心をしっかりと掴み、こちらの想いを受け入れてもらう仕事でもある。しかし、心は時に移ろいやすい。組織の軋轢、上司の反応、競合からのカウンター・フロポーズ、新しい技術やサービスの出現、親しい人や信頼している人からの助言、時には家庭の事情も影響を及ぼすことがある。このような複雑な要素全てに対処することはできないにしろ、そういうものであることに理解を示し、最善を尽くすこと。それが、営業という仕事に求められている。

マニュアルには書かれていないひとつひとつの異なる戦場において、目標を達成するために、まさに「臨機応変」に対処しなくてはならない。これには幅広い知識と、なんといっても場数がものを言う。

では、営業にとっての目標とは何か。先週のブログでも触れたが、「お客様の価値を最優先に、自分たちの数値目標を達成すること」である。なんと難しい目標だろうか。

お客様は何を求めているのだろう。そんなとき、「何が必要ですか?」とお客様に質問しているようでは何とも情けない。

お客様の業務のこと、経営のこと、経済のこと、業界のことから、きっとこういうことになっているはずだと仮説を立てて「こういうことでお困りなのではありませんか?」と質問してみる。そして、お客様をドキっとさせる。これこそ、営業という仕事の醍醐味だ。ITの言葉はそのあとでいい。

そうやって切っ掛けを掴んでも、最終的な意志決定には、様々な人が係わり、思惑が錯綜する。これは、まるで幼稚園の園庭で走り回っている子供たちを整列させるに等しい困難がつきまとう。目の前にある砂山やオモチャを振り切って、こちらに注目させる何かが必要だ。それは、ものであり、言葉であり、パフォーマンスである。最高のエンターテナーでなければ、かれらを振り向かせることはできないだろう。営業はこれができなくてはならない。

例え受注しても、成功が保証されているわけではない。まるで、夫婦のようだ。失敗者だからこそ自信を持って語れるが(笑)、契約という関係に満足し、継続して相手が幸せになるための努力を怠っては、決してうまく行かない。トラブルのないデリバリーなどない。大切なことは、トラブルにどれだけ適切に迅速に対処するかである。その真摯な態度と行動力が、相手との関係をこれまで以上に親密にしてくれる。これはもう天地不変の法則のようなものである。

こう考えてみると、営業という仕事は、実に大変な仕事だ。いろいろと勉強すべきことは多いし、マメでなくてはつとまらない。言葉や人との接し方についても人一倍気を遣う。それでもって、数字は確実に達成しなければならないというプレッシャーも背負っている。

ところで、もし、これに対処できるようになったとしたらどうだろう。営業としてもそうだが、人として大きく成長できるのではないだろうか。厳しいからこそ成長のペースも速い。そして、実に幅広く成長を求められる。そういうチャンスが与えられている。しかも、給料までもらってである。

「楽しむ」とは、成長を実感できることであろう。できなかったことができるようになる。自分のやったことで相手が喜んでくれる。失敗したことでこれまで気付かなかったことを知ることができる。成長の喜びとはそういうものだ。

だから、営業という仕事は、本当に楽しい。

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2012年9月15日土曜日

「営業らしさ」とは何か

部長「営業なら、営業らしくしなさい (`Д´)
部下「・・・ (ノдヽ)

よほど腹の据えかねることでもあったのでしょう。部下である若手の営業も、怒られても仕方がない、という顔をしていました。

しかし、よく考えてみると、「営業らしい」とはどういうことなのでしょうか。分からないわけでもありませんが、ちゃんと考えてみたことがありません・・・ということで、今日はそのあたりを考えてみました。

私にとっての「営業らしさ」とは、次の3つの条件を備えていることだろうと思います。
  1. お客様の価値を最優先できること
  2. 数字に対する強い執着を持てること
  3. 好奇心が強く勉強することを怠らないこと
1.お客様の価値を最優先できること
営業は、お客様の代弁者として、社内外の調整役になるべきです。お客様の課題を解決する担当プロデューサーといったところでしょうか。

営業の仕事は、お客様に満足を提供し、その対価を得ることです。サービスやモノは、そんなお客様の満足を引き出す手段の一部であり、お金を頂くための方便に過ぎません。

お客様が、自分の課題が解決されることに対して満足を感じ、そのことに感謝し、その感謝の対価を私達はいだくわけです。そう考えれば、お客様が何に困り、何を必要としているかを、お客様の立場で想像できなくてはなりません。

そして、そのことをとことんお客様と話し合い、どうなれば満足できるのかをお客様と合意する。そして、そのために全力を尽くすことができるかどうかが、営業の力量です。

最善尽くしても、全てがうまく行くとは限りません。しかし、「お客様に対して、最善を尽くしているか」をいつも自問してみるべきです。そして、それがイエスであれば、その姿はお客様にも伝わり、貴方への信頼は確かなものになるはずです。

売る側の利益を優先し、伝えるべきことを伝えず、お客様に「しかたがない」と思わせ、なんとか合意を取り付ける・・・いずれは分かる話です。それが分かったときには、お客様からの信頼は喪失し、「次のタイミングで、他社に換えてやる!」という決心を持たせてしまうことになるでしょう。

営業という仕事は、ここが一番難しいところです。しかし、それができれば、もうお客様は貴方でなければ話しを聞いてくれなくなるでしょう。つまり、これは、結果として、お客様の囲い込みであり、競合の排除です。営業冥利に尽きるとは、こういうことではないかとも思います。

2.数字に対する強い執着を持てること
営業目標の達成に絶対的な執念を持ち、その達成に向けて知恵を絞り、行動することです。

これは、前段の話しと矛盾することではありません。お客様の「困った」は、たくさんあります。それをできるだけたくさん掘り起こし、お客様が満足を得られるネタをたくさん持つことができれば、目標の達成に近づくことができます。こちらの利益を優先し、お客様をだましてまで数字を達成すべし、ということではありません。

これはいけると提案してもうまく行かないことはよくあります。そうすると、「タイミングじゃなかった」、「お客様の業績が厳しくて」、「景気がよくないから」・・・様々な言い訳を口にする人がいます。だから、何だというのでしょうか。「タイミングがいいものは何か」、「厳しい業績を改善できる手段は何か」、「景気に左右されないニーズとは何か」・・・を考えればいいのです。そして、なんとしてでも数字のつじつまを合わせる。その執念を持つことができなければ、営業とは言えないでしょう。

現役の頃、「営業の人格は数字だ」と上司から何度も聞かされました。まったく、その通りだと思います。どんなに人間的に良い人であり、知識もあって話がうまくても、数字を上げられなければ、営業ではありません。その自覚こそが、営業であることの存在意義だといっても過言ではないと思っています。

3.好奇心が強く勉強することを怠らないこと
お客様に「なるほど」と思わせる知恵や知識を持ち、お客様をリードできることです。

全ての分野にわたり、お客様をリードすべきだと言っているのではありません。せめて、担当するお客様の会社のこと、業界や業務のこと、自分たちの仕事に関わる技術や動向などは、お客様と対等に会話し、アドバイスできなくてはなりません。それができないようであれば、貴方は、見積書や注文書を運び、モノの調達に奔走する労働力の単なる代替としての存在でしかないのです。それを営業というのなら、なんと寂しいことでしょうか。

お客様の価値を高め、お客様の感謝を引き出すとは、お客様の3年後、5年後に責任を持った提案ができなくてはなりません。そのためには、技術のトレンドを理解し、社会や経済、お客様の業界や業務の課題や動向を理解することが、必要です。

もちろん、絶対の正解はありません。だからこそ、貪欲に勉強し、何が正解を追い続ける態度が必要なのです。そうすれば、自ずとその時々の最適解を見つけることができるはずです。

勉強することに興味が持てないのであれば、営業は務まりません。はやく別の仕事を探すべきです。

かつては、お客様と呑んで、ゴルフして、「よろしく」と頭を下げることが、大切だった時代があります。しかし、景気の低迷と価値観の変化は、そのようなスタイルでは仕事を取ることができなくなりました。

「オフィスで椅子を暖めている暇があったら、靴の底減らしてお客さん回って、しごとのひとつでも拾ってこい・・・」などと、未だに豪語するマネージャーがいたら、時代遅れも甚だしい。

確かに、お客様に足繁く通うことは、大切なことかもしれません。しかし、それだけで仕事がとれる時代ではないのです。また、案件単価も小さくなり、営業には高い生産性が求められます。そのためには、戦略が必要であり、行動計画を組み立てなくてはなりません。時には、オフィスでじっくりと作戦を練ることも必要なのです。

勉強とは、本や新聞を読むこと、研修を受けることだけではありません。日々、耳にする言葉の意味に興味を持ち検索してみることも勉強です。お客様にいろいろ質問して、業務のこと、業界のことについて、教えていだくことも勉強です。お客様の工場の現場に一日張り付いて、仕事を見せていだくことも勉強です。

「なんだろう?」、「なぜだろう?」、「どのようにすればいいのだろう?」とさまざまな物事に好奇心を持つことが、勉強の起点です。

そういう意識を持ち続け、勉強することは、容易ではありません。ただ、それが、営業としてプロになるための道であり、そうなりたいと思うならば、やるしかないのです。

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こんなことを書くと、「理想論としては分かるが、現実はそんな簡単じゃありませんよ」と反論する方もいらっしゃると思います。

そのとおり、これは「理想論」です。しかし、「理想論」を示さずして、なにを目指せばいいのでしょうか。営業は、この理想を目指すべきだと私は思っています。

人当たりがいい、話がうまい、資料がキレイ・・・たしかに、営業にとって大切な能力であることは確かです。しかし、そのことが、営業らしさの本質ではありません。

お客様の価値を最優先に考え、自分の営業目標達成に執着する。このふたつの課題を同時に解決するには知恵と工夫が必要です。そのために勉強は欠かせません。

まだまだ未熟な営業であっても、そういう理想にむけて努力している姿を見ると、私は「営業らしいなぁ」と思えてくるのです。

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2012年9月8日土曜日

なぜ、クラウドにコスト削減を期待できないのか

「クラウドは必ずしもコスト削減に有効とは言えないようです。」

昨日行われたセミナーでITRの甲元さんが、このような話しをされていました。

「クラウド=コスト削減」への期待は、今でも高いものがあります。しかし、私も、あるユーザー企業の情報システム戦略策定に係わりながら、「クラウドでコスト削減は難しい」という現実に向き合っています。

なぜ、クラウドはコスト削減をもたらさないのでしょうか。改めて考えてみると、そこには、日米のビジネス文化やIT戦略思想の違いがあるようです。

まず、ビジネス文化の違いですが、それは、人件費を変動費とみるか固定費とみるかの違いです。

クラウドが目指しているものは、無人コンピューティング環境の実現です。これは、運用するサービス・プロバイダーも、利用するユーザーも、徹底して人手の介在を排し、人件費の削減を追求しようという方向です。

システム運用においては、ルーチン化された業務を自動化することに加え、これはまでは経験を積んだエンジニアでなければできなかった個々の業務に最適化されたシステム構成や安定稼働のための運用ノウハウなど、暗黙知に属する部分までパターンとして標準化し、ソフトウエアで行ってしまう自律化の取り組みも進んでいます。

このような取り組みによって、運用者も利用者も、共にシステムに関わる人員を削減することが可能になります。

このような状況になれば、米国では、人員を解雇するでしょう。しかし、日本では、簡単にはできません。ここに大きな違いがあります。

また、日本の場合、人件費は固定費ですから、社員がどのような仕事に時間を使っていてもキャッシュアウトは同じです。従って、情報システム部門に属さないユーザー部門のITに関わる様々な作業負担、例えばPCのバージョン・アップ、トラブル対応、セキュリティ対応などは、埋没コストとして数字には表れてきません。つまり、仮にそれらの業務がクラウドによって削減できたとしても、経営的目線で見れば、コスト削減効果には見えないわけです。これもまた、クラウドのコスト削減効果を引き出しにくくしている理由となっています。

コスト削減の大きな要素は、人件費にあります。それができないとなると、たとえテクノロジーが進化し一層の無人化が可能になったとしても、そのメリットを享受することはできません。

長期的に見れば、日本もまた、この変化の流れを受け入れることにはなるのでしょう。しかし、テクノロジーの進化はそれ以上に速く、その価値を享受することができないままに、世界の常識から取り残されてゆくことも危惧されます。

グローバル化は日本の産業基盤を海外に移す動きでもあります。ならば、情報システム基盤も海外に移すことは、何も特別なことではないはずです。それが、情報システムのコストパフォーマンスを向上させることになるのであれば、情報システム部門の事情はともかくとして、経営的に見れば、ためらう余地はありません。

次にIT戦略思想の違いについですが、これは、ITをコスト削減や生産性向上の手段として捉えるか、収益や事業の拡大の手段として捉えるかの違いと言えます。

以前、このブログでも紹介させていただきましたが、米国におけるCIOは経営のトップラインの1人として、専任のITスペシャリストとして経営戦略を実行する役割を担っています。かれは、経営に関わる重点施策を実現する上でITだけではなく、組織や事業に関わる権限を持ち、トップダウンでITと経営の融合を推進する立場にあります。

その一方で、日本のCIOの多くは、兼任・兼務が多いことに加え、ITの専門家は少なく、実質的には配下の情報システム部門にITに関わる業務は任せているのが実情です。また、ITは、ボトムアップで現場ニーズに応える手段であり、経営戦略的視点は反映されにくい構造になっています。

クラウドの価値は、スピード、アジリティ、スケールです。オンプレミスに比べ圧倒的に速いシステム導入・構築時間、変化に柔軟・俊敏に対応できること、そして、需要の変動に対してダイナミックに、しかも大規模にプロビジョニングできることです。

グローバル化の進展、ビジネス・ライフサイクルの短命化、顧客志向の多様化など、ビジネス環境が大きな変革を求めている時代です。経営戦略的視点に立てば、クラウドはきわめて有効な手段となります。

これは、コスト削減の価値ではなく、収益の拡大であり経営環境の変化への迅速な対応という企業の存続に関わる価値と言えるでしょう。ここにクラウドの可能性を見出すことができるかどうかです。

欧米の動きを見る限り、クラウドへの期待は、コスト削減から経営戦略実現へとシフトし始めています。

改めて、クラウドの価値を見直すべき時期なのかもしれません。日本のビジネス文化を変えることが容易ではない以上、コスト削減を期待しても限界があります。むしろ、クラウドの持つスピード、アジリティ、スケールに価値を見出し、経営戦略実現の武器として、クラウドを位置付ける発想が必要なのかもしれません。



 9/19 () 18:00から開催します。
・他社はIT活用をどう考えているのか?
・これからのIT活用はどのようにすすめてゆけばいいのか?
ITベンダーやSIerとの関係はこのままでいいのだろうか?
メーカーやベンダーの紐付きではなく、 ユーザー同士で率直に意見交換し合う場というのはなかなかありません。

今回は、限られた人数での開催です。ぜひ、早々のお申し込みを御願いいたします。

なお、ここでの議論は、11月にITベンダーやSIerの皆さんを交えた100人規模での開催を予定している「これからのITを変える大会議」のインプットとして、活用させていだきます。

利用する側と提供する側が、お互いの垣根を越えて率直に話し合うというイベント。7/5にその第一回目を開催し100名を越えるご参加を頂きました。その第二弾を予定しています。

これまでにない試みです。ぜひ積極的なご参加をお待ちしております。

対象 ユーザー企業 情報システム関連の仕事をされている方
*** 情報システム子会社でユーザーの立場でご参加の皆さんもどうぞご参加ください。

SIerITベンダーの皆さんは、ぜひお客様にご紹介ください。



■ 第11期・ITソリューション塾 を開講します ■

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2012年9月1日土曜日

どんな営業になればいいんだ

オープン化の時代を迎え、プラットフォームのコモディティ化が進んでいる。テクノロジーは、コンシュマライゼーションの流れの中で多様化し、その進化は加速している。PC中心の時代も終焉を迎え、インターネットは人々の行動と密着し、膨大なデータが行き交うようになった。

ITを取り巻く環境は、変化のスピードを速めたというような単純なものではない。人々の生活や価値観、仕事や経営のあり方を巻き込んだパラダイムの転換であり、あたらしい情報社会が出現しようとしている。

このような変化の中で、IT営業もまた、これまでのままでいいはずがない。お客さまのITへの期待は変わり、意志決定の基準はこれまでとは違ったものになっている。その変化をこれまでの延長と捉え、過去の経験と実績を頼りに力業で乗り切ることなど、もはやできない時代になっている。

どんな時代になろうとも、お客さまとの信頼関係は営業活動の基本だ。しかし、この変化の中で、その信頼関係の意味が変わろうとしている。

これまでの常識を置き換えてしまう様々なテクノロジーが世の中に出現している。クラウド、ビッグデータ、HTML5・・・大きなイノベーションであり、それは既存の常識に対する創造的破壊をもたらしている。そんな世の中の常識を理解し、お客さまのこれからの「あるべき姿」に対して、よき相談相手になっているだろうか。

これまで同様、お客さまのご要望に応え、QCDを誠実に守っているだけで、お客さまの満足を得られる時代ではない。

お客さまは、これまでの資産とテクノロジーの常識に縛られている。しかし、その一方で、TCOの増大、急激な経営環境の変化、グローバル対応などの大きなプレッシャーがかかっている。それに応えられない情報システム部門は、その存在意義を問われている。

「このままではいけない、何とかしなければ」・・・その危機感は日ましに増大している。お客さまは、その答えを模索している。

あなたは、そんなお客さまに答えを示せるだろうか。自分たちにできること、自社の製品やサービスのことだけを語っているだけで、お客さまに満足して頂くことなどできるはずがない。

「そんなことを言っても、うちにはそんなお客さまのニーズを満たせるようなサービスも製品もないんですよ」

もし、そういう言い訳しかできないならば、営業失格だ。お客様は、あなたにできるかどうかを聞きたいのではない。課題を解決するにはどうすればいいかを聞いているのだ。それは、自分たちができるかどうかの問題ではない。

自社の製品やサービスに関わらず、お客さまの良き相談相手になれるかどうかである。その上で、自分たちにできることできないことを語ればいい。

「しかし、そんなことを学ぶ機会を会社は与えてくれないし、忙しくてそんな時間はありませんよ」

電車の中でゲームをしたり漫画を読む暇があったら、本を読めばいい。就業時間の1時間前に出社してニュースサイトやIT系のメディアを調べることだってできるはずだ。本や雑誌は、いくらでも手に入る。

「できない」ではなく「したくない」という言い訳。勉強することに興味を持てないのなら、これからのIT営業は務まらない。

これまでに変化のない時代はなかった。だから、それに対処することが人生であり、成長であると言える。

IT営業もまた常に変化への対処を求められてきた。それは、お客様のご要望に誠実に応える営業から、世の中の常識を理解し、多様化する選択肢の中から最適な解決策を示すことができる良き相談相手として営業への変化である。

「そんなことは昔から何も変わっちゃいない」

そういう方もいらっしゃるだろう。しかし、これまでは、そうじゃなくても何とか営業は務まった。それだけ世の中に需要があったからだ。しかし、今はそうはいかない。ITはもはや成長産業ではなく成熟産業だ。そして、プレーヤー過剰の時代を迎え、競争に打ち勝つ力が求められている。これまで以上に営業の真価が問われている。営業という商品の価値が、勝敗を決する時代になろうとしている。

その備えができているだろうか。

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